アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

2024年 冬アニメランキング[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の内容に部分的に言及しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

早くも桜の咲き誇る季節となり,2024年冬アニメもすべての作品が放送を終了した。今回の記事では,恒例通り2024年冬アニメの中から,当ブログが特にクオリティが高いと判断した6作品をランキング形式で振り返ってみたい。コメントの後には,作品視聴時のTweetをいくつか掲載してある。なお,この記事は「一定の水準を満たした作品を挙げる」ことを主旨としているので,ピックアップ数は毎回異なることをお断りしておく。また,「中間評価」の記事ではピックアップしたものの,最終話までの仕上がりから判断して,残念ながらランキングから除外した作品があることも付記しておく。

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6位:『姫様“拷問”の時間です』

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【コメント】
徹底して優しく楽しい世界を描き,“拷問”という血腥い言葉との異化効果を狙った本作。この作品の持ち味をアニメーションに落とし込むにあたって,金森陽子監督の柔らかいセンスは最適解だったと言えるだろう。とても初監督作品とは思えないほど的確なディレクションである。作画や芝居も細やかで,毎話数,技術的に相当に高度な技を披露していた作品である。第2期の制作も決定している。今後も期待しよう。

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5位:『薬屋のひとりごと』

kusuriyanohitorigoto.jp

【コメント】
2023年秋クールのランキングで6位としてピックアップした作品。第2クールもそのクオリティは変わらず,羅漢というミステリアスなキャラクターが深掘りされたことにより,猫猫をめぐる物語もさらに深みを増した。猫猫のクルクルと変わる表情作画も遊びがあって面白く,画作りの面でキャラを立たせることに成功した作品である。第2期の制作も決定している。今後も応援していこう。

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4位:『僕の心のヤバイやつ 第2期』

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【コメント】
2023年春クールのランキングで9位としてピックアップした作品。“夢と現”の境界が曖昧になってしまうような中学生の危うい恋心。それを飽和状態ギリギリの撮影処理で煌びやかに表現したアニメーション。作画面での不安定さはやや見られたものの,それを忘れさせるほどの物語性と演出術の高さが光っていた。主演の堀江瞬羊宮妃那の演技もたいへん素晴らしかった。続編を期待したい作品の一つだ。

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3位:『アンデッドアンラック』

undead-unluck.net

【コメント】
2023年秋クールのランキングで7位としてピックアップした作品。第1クールから続くスタイリッシュな演出に,第2クールでは世界の成り立ちに関する“解答”の提示,および新たなキャラクター・安野雲の登場により,物語は一気に加速。最終話に向け非常に緊迫感のある展開を見せた。“ジャンプコミック”としてのエキサイティングな物語性を優れた演出技術でアニメーションに落とし込んだ傑作である。現時点では続編の報は出ていないが,是非とも期待したい。

 

2位:『ダンジョン飯』

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【コメント】
「2024年 冬アニメは何を観る?」の記事でイチオシとしてピックアップした作品。“生真面目な”作画と“遊んだ”作画とのバランスがとてもよい。特に五十嵐海菅野一期の作画はTRIGGERらしいスパイスとして効いており,アニメーションとしての楽しさを作品に加味している。また,この作品に内在する柔らかい日常性とシビアな冒険譚のコントラストがしっかりアニメーションに落とし込まれている点も評価に値する。熊谷健太郎千本木彩花を始めとするキャストも非常にバランスがよい。TRIGGER初のマンガ原作アニメということで,当初は多少の不安があったが,蓋を開けてみればまったく杞憂だった。今後TRIGGERには,MAPPAやWIT STUDIO等と並ぶ“高品質制作会社”として活躍してもらいたいとすら思う。

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1位:『葬送のフリーレン』

「#27 人間の時代」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

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【コメント】
2023年秋クールのランキングでも1位としてピックアップした作品だ。作品の底に流れる〈実在〉〈日常性〉といったテーマを丁寧に拾いつつ,的確な作画でアニメーションの中に落とし込むことに成功している。“日常系”ジャンルは日本のサブカル風土の中で育まれてきた系譜だが,とりわけアニメーションにおいては,キャラが日常世界の中にしっかりと定位し,丁寧な芝居をするという形で進化してきたように思う。『フリーレン』はファンタジーを世界観の基底に置きながら,そうした意味での〈日常性〉をごく自然な形で取り入れた作品だ。ある意味で,日本の“日常系ジャンル”の1つの進化系と言えるかもしれない。きわめて評価の高い作品なだけに,間違いなく続編が制作されるだろう。長く楽しみたい作品である。

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● その他の鑑賞済み作品(50音順)
『異修羅』『うる星やつら』『俺だけレベルアップな件』『休日のわるものさん』『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』『ぶっちぎり?!』『魔法少女にあこがれて』『メタリックルージュ』『勇気爆発バーンブレイバーン』

 

以上,当ブログが注目した2024年冬アニメ6作品を紹介した。

今回ランクインしたのはすべて非オリジナルアニメで,かつ続編や連続作品が多くなった。最近はランクインするオリジナル作品が少なく寂しい限りだが,これもオリジナル制作の背景に諸々の困難があるからだろう。もっぱら予算の都合からだろうが,十分な話数が確保できないというのも理由の1つかもしれない。言い換えれば,12話や13話でまとめきれず,最終話近辺で不自然に駆け足になる作品が目立つ。話数と脚本構成のバランスがとれた優秀なオリジナルアニメが誕生することを心から願う。

 

2024年春アニメのおすすめに関しては以下の記事を参照頂きたい。

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TVアニメ『葬送のフリーレン』(2023年秋-2024年冬)レビュー[考察・感想]:箱庭の中へ

*このレビューはネタバレを含みます。必ず作品本編をご覧になってからこの記事をお読みください。

『葬送のフリーレン』公式Twitterより引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

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2023年秋から2024年冬にかけて放送された山田鐘人原作・アベツカサ作画/斎藤圭一郎監督『葬送のフリーレン』(以下『フリーレン』)は,美麗な作画と繊細な演出によって,近年のファンタジー系アニメの中でも群を抜いて高いクオリティを示した。表面的なルックのよさという水準を超え,作品の思想とアニメーションの技法を美しく共鳴させることに成功した,稀に見る傑作である。

 

あらすじ

人類最大の敵・魔王を討伐したフリーレンヒンメルハイターアイゼンの「勇者一行」。やがて時は経ち,長命のエルフであるフリーレンは勇者ヒンメルの死に接する。彼を知ろうとしなかったことに大きな後悔を抱いたフリーレンは,「人間を知るための旅」に出る決意をする。

 

「小川に浮かぶフリーレン」

「#01 冒険の終わり」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

これは「#01 冒険の終わり」Aパート,勇者一行と別れたフリーレンが50年の歳月を過ごす様子を点描したシーンの1カットだ。原作には存在しないアニメオリジナルの画だが,この作品の画作りの方向性を定めることになった重要なカットである。

斎藤圭一郎監督と伏原あかね撮影監督によると,PV内でも使用されたこのカットの制作において,作品の世界観と撮影処理の「落としどころ」が模索されることになった。*1 結果,アニメの水表現でよく使われる「波ガラス」*2 のような,ギラギラとした撮影処理を施さない画作りに決まったという。これを踏まえ,色彩設計の大野春恵も,撮影処理が乗らないことを前提とした色彩設計を行うことになった。

斎藤監督は色彩設計と撮影処理の擦り合わせに関してこう述べている。

処理に関してもそうなんですけど,あんまりボヤッとさせたくないっていうか,瑞々しさみたいなのが出るといいなと思っていて。でもシックにまとめると彩度が低くなってしまったりというのがありがちなんですけど,彩度があまり低くなりすぎず,かつ撮影処理的にあまりギラギラさせないという方向性で大野さんに上品にまとめていただいた。 *3

要するに,処理に頼らず「画の力」を信じるということだ。作画と美術の“素材”の力を信じ,あくまでも細部の繊細な撮影処理に留める。伏原の粋な表現を借りれば,処理が「薄化粧」でも「もとの素材が別嬪さんやったらよくなる」。*4 これが本作の画作りの基本方針として斎藤監督らが至った結論だった。

アニメ『フリーレン』は,この「小川に浮かぶフリーレン」を1つのレファレンス・ポイントとし,作画そのものの存在感を前面に押し出した画作りがなされていくことになる。そして本作の水底に流れるテーマに鑑みた時,この方針は大きな意味を持つことになる。

 

実在

少し先の話数に飛んで,ここで「#07 おとぎ話のようなもの」の2つのシーンを思い出そう。

アバンの回想シーンで,アイゼンは大魔法使いフランメを「おとぎ話のようなものだ」と言う。それに対しフリーレンは「おとぎ話か。そうだね。それだけの年月が経った。あの人の顔を覚えているのはたぶん私だけだ…」と答える。ここでまず「おとぎ話」というキャラクター存在の〈仮構性〉が定立される。

これに対して反定立を成すのが,Aパートで示されるもう1つの回想シーンだ。フリーレンに自分の像を頻繁に建てていることを疑問に思われたヒンメルは,「君が未来で一人ぼっちにならないようにするため」と説明した後,こう言い添える。

おとぎ話じゃない。僕達は確かに実在したんだ。

ヒンメルが口にしたこの「実在」という言葉は,フリーレンというキャラクターにとっても,『フリーレン』という作品にとっても,決定的な意味を持つ言葉だ。ヒンメル亡き後,彼らとの旅は「おとぎ話」という〈仮構性〉ではなく,紛れもない〈実在〉としてフリーレンの記憶の中に都度呼び込まれることになる。それはどれだけ年月を経ようとも,“今ここ”にいるフリーレンの中で,はっきりとした輪郭を保ちながら現前してくる〈実在〉である。フリーレンはヒンメルたちの過去の「実在」をフェルンやシュタルクの現在の「実在」に重ね合わせることによって,「人を知る」という目的を漸進的に叶えていく。

「#01」に戻って,この作品における回想シーンの扱い方を見てみよう。Bパートのヒンメルの葬儀シーンには,フリーレンによる回想がフラッシュバックのように挿入される場面がある。

「#01 冒険の終わり」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

上図左は地のカット,中と右は回想カットである。この回想では,画面の周辺にボカシを入れるなど,回想に入ったことを記号的に示す処理がなされている。止め絵ということもあり,誇張された歴史画のような趣すら感じられる。

ところが,フリーレンが「人間を知るための旅」に出て以降のほとんどの回想シーンでは,こうした処理は施されていない。地のシーンと同様,撮影処理も「薄化粧」である。

「#02 別に魔法じゃなくたって…」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

上図は「#02 別に魔法じゃなくたって…」Bパートから引用したカットだ。先ほどと同様,左は地のカット,中と右は回想カットである。ここでは回想に入ったことを示す記号は見られず,地のシーンと回想シーンとがほぼシームレスに連続している。 *5 キャラクターは止め絵ではなく,地のシーンと同様に生き生きとした芝居をしている。実はマンガ原作ではトーンを用いたり,コマ枠を黒くしたりなど,比較的わかりやすい“回想記号”が用いられているのだが,アニメではその類の符牒をまったく使っていない。

撮影効果を抑えることで,作画と芝居そのものに視聴者のフォーカスを合わせ,そこにキャラクターの実像を浮かび上がらせる。それは,ヒンメルたちの「実在」を“回想”というソフトフォーカスで希薄にする(斎藤監督曰く「ボヤッと」させる)のではなく,フリーレンにとっての“今ここ”で価値を持つ存在として「瑞々しく」現前させるということと正確に対応しているように思える。それこそが,本作の描こうとした「実在」のあり方なのかもしれない。*6

この過去の「実在」の現前は,その後いくつかの話数においてフリーレン以外の物語のモチーフとしてリフレインされ,そのメッセージ性を補強されていく。

「#16 長寿友達」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

「#16 長寿友達」では,ザインの「写真」=実在の現前*7 とフォル爺の「愛する妻の忘却」が対置され,エピソード最後では「夢の中での想起」=現前が暗示される。

「#25 致命的な隙」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

「#25 致命的な隙」Bパートでは,「フリーレンの回想としてのゼーリエの回想としてのフランメ」がAR(拡張現実)画像のように情景内に現前する。

「#26 魔法の高み」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

「#26 魔法の高み」Aパートでは,ユーベルの幼少時代の「切れるイメージ」の現前が鋏の鏡面を用いたトリックで巧に表現されている。

これらのエピソードで示されているのは,単なる過去の回想というより,過去が今ここにおいて意味を持つという意味での〈現前〉である。それはアニメーションと物語の両方のレベルにおいて美しく形を成し,ヒンメルの「実在」という想い,フリーレンの「人間を知る」という願いと共鳴していくことになる。

しかし,人が他者の中に現前するためには,必ずしも大きな偉業を成し遂げる必要はない。このことは本作のテーマにとって最も重要な点だ。「#22 次からは敵同士」には,フリーレンとヒンメルの回想シーンが挿入されている。フリーレンがヒンメルに「なんで人助けをするの?」と問う。

「#22 次からは敵同士」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会
ヒンメル:誰かに少しでも自分のことを覚えていてもらいたいのかもしれない。生きているということは誰かに知ってもらって覚えていてもらうことだ。
フリーレン:…覚えていてもらうためにはどうすればいいんだろう?
ヒンメル:ほんの少しでいい。誰かの人生を変えてあげればいい。きっとそれだけで十分なんだ。

自己の「実在」が他者の中に現前するためには,必ずしも世界を救済する必要はない。むしろそれを可能にするのは,「ほんの少しだけ誰かの人生を変える」という程度の日常的なミニマリズムなのだ。フリーレンの決して機敏とは言えない心の琴線は,この勇者ヒンメルの慎ましやかな思想に確かに反応したのである。

 

浮揚/定位

『フリーレン』という作品のもう1つの特徴は,アクションと日常の卓越したバランスだ。

左「#06 村の英雄」/中・右「#09 断頭台のアウラ」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

アクションシーンでは,フリーレン,フェルン,魔族らの魔法による飛行や,シュタルクらの膂力による跳躍など,ファンタジー作品らしい浮揚運動が強調された作画が披露される。キャラクターは物理法則を無視して縦横無尽に宙を舞い,強力な力で敵や周囲の事物を破壊する。岩澤亨のスタイリッシュなアクション作画が随所で場面を盛り上げる。

一方で,本作ではアクションシーンの前後に必ずと言っていいほど日常シーンが描かれている。キャラクターは地に足を付け,重力に従って行動し,建物や調度品など周囲の環境に合わせて行動する。彼らはいわば〈世界内存在〉として日常世界の中に穏やかに定位する。

もちろん,こうしたアクションと日常の交代は,それ自体としては目新しいものではない。しかし『フリーレン』で特筆すべきは,それが作画そのものの「実在」感に基づいて,この上なく丁寧に作られている点である。とりわけ,日常における〈世界内存在〉的な振る舞いを具に描いたことこそが,本作アニメ化の最大の功績と言っても過言ではない。

ここで優れた日常芝居のシーン の例を2つ観てみよう。

1つは「#05 死者の幻影」Aパート,ヴィレ地方の村の宿の1カットだ。

「#05 死者の幻影」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

フリーレンが部屋の扉を開ける際,落ちそうになる荷物を支え直してから中に入る。物語の進行上はまったく不要な芝居だが,実に丁寧に描写されている(もちろんマンガ原作にはこの描写はない)。種﨑の呼吸の芝居もとてもいい。

もう1つは「#06 村の英雄」Bパート,バーでフェルンがシュタルクの隣に着座するカットだ。

「#06 村の英雄」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

椅子を引き,外衣を押さえながら着座し,椅子を前に引く。当たり前のように見える動作の中に,フェルンの几帳面さや慎重さといった内面が伺えるいいカットだ。

日常風景だからいいというわけではない。作画がリアルだからいいというわけでもない。まして使用枚数が多いからいいというわけでも決してない。これらのシーンが卓越しているのは,キャラ(クター)が椅子,扉,荷物といった日常の用具と共演し,それらに作用すると同時に作用される様が丁寧に描かれているからである。そして重力を無視した戦闘アクションの〈浮揚〉感が前後に描かれているからこそ,それとの差異において,重力に従った日常の〈定位〉感が際立つのだ。

こうしたアクション=〈浮揚〉と日常=〈定位〉の交代は,「一級魔法使い試験編」で特に顕著である。

左「#19 入念な計画」/中・右「#26 魔法の高み」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

試験の最中,フリーレンらを含む受験者たちは互いに鎬を削り合う“敵”として相対する。彼ら/彼女らは魔法の力で浮揚し,破壊し,傷つける。

「#22  次からは敵同士」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

しかし一度試験が終了すると,彼ら/彼女らは日常風景の中にごく自然に定位し,日常的な営みを見せる。特に「#22 次からは敵同士」では,つい先程までライバル同士だった受験者たちが一つ屋根の下で食事をし,女子会さながらの朗らかなトークに興じる様子が微笑ましい。実に本作らしい,ミニマルな日常風景の描写である。

ちなみにこうした日常シーンの描写では,〈重力〉という要素が重要な役割を演じる。アクションシーンでは魔法や超人的な膂力によって見えなくされていた万有引力の法則が,日常芝居ではむしろ世界内存在的な芝居に作用する因子として顕在化する。いくつか例を観てみよう。

「#12 本物の勇者」Bパートにおけるフリーレンの日常芝居はとても面白い。フェルンにシュタルクへの誕生日プレゼントのことを問われたフリーレンは,旅行鞄の中にしまった「服だけ溶かす薬」を自慢する。

「#12 本物の勇者」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

ベッドから軽やかにジャンプして鞄の前に着地したフリーレンは,悪戯っぽい笑みを浮かべながら鞄を漁り,薬を取り出す。魔法による飛行時とは違い,フリーレンの身体は万有引力の作用の元で芝居をしている。単にリアルというよりは,フリーレンの“猫成分”を強調したコミカルさがある点もいい。

「#14 若者の特権」Aパートでは,機嫌を損ねたフェルンの隣に座るフリーレン,ザインの落とすタバコ,屋根瓦を滑り降りるフリーレンなどの芝居に〈重力〉の作用が感じられる。

「#14 若者の特権」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

この話数のBパートでは,鳥型の魔物に襲われて落下する馬車や,崖の上から落下するアイゼンなども描かれている。まるでそれがメインテーマなのかと思わせるほど,〈重力〉という要素の存在感が大きい話数である。

故・大塚康生が1956年の日動*8 入社の際,「少年が槌をふりあげて杭を打つ」演技を描く試験を受けたというのは有名なエピソードだ。

大塚康生『作画汗まみれ 改訂最新版』,文春ジブリ文庫,2013年。左:p.25,右:p.19より引用。

日本のアニメは(そしてもちろん世界のアニメも)その黎明期から常に〈重力〉という下方向の力の表現と格闘してきた。〈重力〉に則った日常芝居を作画するにせよ,〈重力〉に抗う架空の力を描くにせよ,〈重力〉をまったく意識することなくアニメーションを作ることは,不可能とまでは言わずとも,極めて困難だ。『フリーレン』というアニメは,魔法による〈浮揚〉の非日常性を描くことによって,逆照射的に〈重力〉の日常性を際立たせているようにも思える。〈浮揚〉=アクションがスタイリッシュに描かれているからこそ,それとの対比で〈重力〉=日常芝居の素朴な繊細さが際立ち,日常芝居が際立つからこそ,キャクターたちの「実在」が克明に浮き上がってくる。換言すれば,〈重力〉という下方向の力がこの世界の日常の営みを支えているのだ。

〈重力〉とは少し違うが,「#06 村の英雄」Bパートには面白いシーンがある。北方の関所の城壁で,アイゼンとの思い出を語るシュタルクのシーンである。

「#06 村の英雄」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

普段はあまり多くを語らないアイゼンだが,ここでは勇者一行との旅の思い出を饒舌に語る。それを聞いて大はしゃぎする幼い日のシュタルク。彼の肩には,親密な重石のようにアイゼンの手が乗せられている。アイゼンの重心の低い優しさが,ふわふわと浮遊しそうなシュタルクを地に繋ぎ止めようとしているかのように見える。勇者一行の旅が「おとぎ話」ではなく,確かに「実在」していたことをノンバーバルに伝えようとしているようにも見える。さりげなく挿入されたシーンだが,本作の本質をよく表した画である。

さて,このように描かれる〈日常への定位〉は,フリーレンというキャラクターにとってどんな意味を持つだろうか。彼女の師匠,フランメの言葉がヒントになるかもしれない。

「#21 魔法の世界」Aパートでは,フリーレンがゼーリエに初めて拝謁する様子が回想シーンとして描かれる。フリーレンの途方もない強さを一目で見抜いたゼーリエは,「望む魔法」を授けることを提案する。しかしフリーレンはその申し出を「魔法は探し求めている時が一番楽しいんだよ」と言って断る。

ゼーリエ:フランメ,やはり駄目だこの子は。野心が足りん。燃え滾るような野心が。
フランメ:師匠。この子はいつか魔王を倒すよ。きっとこういう魔法使いが平和な時代を切り開くんだ。
ゼーリエ:私には無理だとでも?
フランメ:戦いを追い求めるあなたには魔王を殺せない。私達じゃ無理なんだよ。だってさ師匠,平和な時代に生きる自分の姿が想像できねぇだろう?フリーレンは平和な時代の魔法使いだ。

フリーレンは卓越した魔法使いであり,魔王討伐の立役者だが,同時に「平和な時代の魔法使い」でもある。だからこそ彼女の物語は魔王討伐後から始まるのであり,だからこそ彼女の柔らかいキャラは日常芝居の中で活きるのである。彼女の身体は,「野心」の名の下に戦闘魔法の開発・習得に明け暮れるのではなく,常に日常の営みの中に定位している。たとえそれがどれほど「くだらない」日常だとしても。そのことを師匠フランメの慧眼は見抜いていたということになる。

 

「くだらない」という価値

フリーレンの中に〈実在〉として現前する「勇者一行」の姿は,聖人君子でも崇高な英雄でもない。それは勇者の剣を抜けなかった心優しいナルシストであり,酒を食らってばかりいる愉快な生臭坊主であり,敵を前に震えを隠せない強き臆病者である。そんな矮小な身の丈の彼らの世界内には,「くだらない」という価値が無数に散りばめられている。

「#06 村の英雄」Aパート,シュタルクが紅鏡竜を倒した後,フリーレンは巣の中にある宝を漁り始める。その様子を見たシュタルクは「本当にくだらねぇな。こんな物に夢中になれるのか。[…]師匠はお前のせいで勇者一行の冒険がくだらない旅になったって言ってたぜ」と腐す。フリーレンの奇異な行動にさぞかし不満なのかと思いきや,彼は直後にこう言い添える。

くだらなくてとても楽しい旅だったってよ。

フリーレンの蒐集する魔法は基本的に「くだらない」。しかし『フリーレン』という作品を評価する人であれば誰もが感じるように,くだらない魔法だからこそ,この作品の日常が愉快に彩られる。「◯◯する魔法」が登場する度に,キャラたちの日常的な「実在」が活き活きと輝く。

左「#06 村の英雄」/中「#05 死者の幻影」/右「#28 また会ったときに恥ずかしいからね」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

上記のシーンの後には「かき氷を出す魔法」の回想シーンが挿入される。シャリシャリのかき氷にはしゃぐフリーレンとハイターに,アイゼンは「くだらん。こんなことをしていていいのか?」と憤慨する。それを諭し宥めるようにヒンメルがこう言う。

僕はね,終わった後にくだらなかったって笑い飛ばせるような楽しい旅がしたいんだ。

これから魔王を倒しに行く勇者とは到底思えない台詞だが,彼の言葉には「終わった後」への明るい希望が滲み出ている。思えば,「#01 冒険の終わり」冒頭の彼の台詞は「帰ったら仕事探さないとな…」だった。
「#27 人間の時代」Bパートでは,「一級魔法使い試験」の第三次試験で,ゼーリエがフリーレンを試すシーンが描かれる。
ゼーリエに「好きな魔法を言ってみろ」と言われたフリーレンは,「花畑を出す魔法」と答える。それをゼーリエは「フランメから教わった魔法か。実にくだらない。不合格だ」と一蹴する。この後,フリーレンはヒンメルとの最初の出会いのエピソードを想起する。
「#27 人間の時代」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

ヒンメルは勇者パーティを結成するはるか以前,まだ幼少の頃にフリーレンと出会っていた。森の中で迷い孤独に震えるヒンメルに,フリーレンは何も言わずに「花畑を出す魔法」を使ってやる。この時の優しく誇らしげに花畑を見やるフリーレンの表情が印象的だ。そしてこの出来事が,その後ヒンメルがフリーレンを勇者一行に勧誘したきっかけとなる。

綺麗だと思ったんだ。生まれて初めて魔法が綺麗だと思った。

「魔法が“強い”と思った」という認識ではなく,「魔法が“綺麗だ”と思った」という感情。綺麗な魔法を使える人に冒険の仲間になってもらいたいという想い。これこそがヒンメルとフリーレンを結ぶ力となる。

フリーレンと同様,間違いなくヒンメルも「平和な時代の勇者」なのだ。そしてフリーレンと共にかき氷ではしゃぐハイターも「平和な時代の僧侶」であり,フリーレンとの旅を「楽しかった」と述懐するアイゼンも「平和な時代の戦士」 なのだ。『ドラクエ』に興じる小学生のようにダンジョン攻略を楽しめる彼らだからこそ,冒険を日常として楽しめる彼らだからこそ,平和な世界をリアルにイメージし,それを実現することができたのかもしれない。そう,本当の魔法は「イメージの世界」なのだ。

『フリーレン』において,「花畑を出す魔法」は「くだらない」価値の象徴だ。しかしくだらないにもかかわらず,あるいはくだらないからこそ,この魔法は人と人との想いを繋ぐ間主観的な力を持っている。事実,ゼーリエの庭園の花畑は「花畑を出す魔法」で作られたものだ。

「#02 別に魔法じゃなくたって…」Bパート,フリーレンは「花畑を出す魔法」を使ってヒンメルの銅像の周りを彼の故郷の花「蒼月草」で満たしてやろうとする。蒼月草はすでに絶滅しているとされているが,フリーレンは諦めずに丹念に捜索する。やがて彼女は廃墟となった塔の上で蒼月草の群生を発見する。

「#02 別に魔法じゃなくたって…」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

花弁を優しく撫でるフリーレンの手が細やかなアニメーションで描かれている。その手の芝居には,ヒンメルとの「くだらない」思い出を慈しむフリーレンの想いが溢れているようだ。ゾルトラークで多くの魔物を「葬送」してきたのと同じ手とは思えないほど,優しい慈愛に満ちた手である。ひょっとすると「花畑を出す魔法」には,対象となる花の生体データだけでなく,その花にまつわる想いの現前が必要なのかもしれない。そんなことを思わせる美しいカットである。

 

箱庭の中へ

言うまでもないことだが,この作品における「葬送」という言葉には2つの意味がある。

一つは,リュグナーの言うようにフリーレンが「歴史上で最も多くの魔族を葬り去った」という意味だ。もう一つは,彼女がこれまでの長い年月の中で,数多くの人々を弔ってきたという意味である。

エルフの永遠に近い寿命から見れば,人間世界の営みは早回しにされたおもちゃ箱のように見えることだろう。箱庭の中を覗き込むような視点と言ってもいいかもしれない。彼女の悠久の時を尺度にした時,人間の生は相対的に短く矮小で儚く見える。しかし短く矮小で儚いからこそ,そこで紡がれるガラクタのようにくだらない生の営みがかけがえのないものに見えてくる。そしてこの作品の主人公がフリーレンであるが故に,我々視聴者の時間感覚は自然,フリーレンの時間感覚に調律されることになる。いくつかの場面で,時間経過を点描するシーンが描かれるが,これもフリーレンの時間感覚を縮約したものと見ることもできるだろう。

左「#01 冒険の終わり」/中「#02 別に魔法じゃなくたって…」/右「#11 北川諸国の冬」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

本作において,フリーレンはこの物語の時間的尺度であり,世界観・価値観の尺度でもあるのだ。一言で言えば,彼女は“キャラクター”であると同時に“設定”でもある。

しかしフリーレンは,人間世界という箱庭を外側から眺めているだけではない。彼女は箱庭の中へと降り立ち,人々の「くだらない」営みの只中へと定位する。

「#04 魂の眠る地」Aパート,フリーレンとフェルンは「新年祭の日の出」を見に出かける。

「#04 魂の眠る地」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

フリーレン自身は特に日の出に興味はない。しかし帰ろうとしたその刹那,フェルンの輝くような笑顔が彼女の目に映る。

フェルン:フリーレン様,とても綺麗ですね。
フリーレン:そうかな。ただの日の出だよ。
フェルン:でもフリーレン様,少し楽しそうです。
フリーレン:それはフェルンが笑っていたから…

この時フリーレンは,自分がフェルンの喜ぶ姿を見て喜んでいることに気づく。彼女はいわば〈喜びの間主観性〉の中に身を置いている。人は他者の喜びを喜ぶことができる。これは「人を知るための旅」の途上にあるフリーレンにとって,一つの小さな発見である。

このシーンに対応するのが,「一級魔法使い試験編」の第二次試験である。

「#23 迷宮攻略」 Bパート,「零落の王墓」内でゼンゼに「何故君は魔法の探究を続けているんだ?」と問われたフェルンはこう答える。

フリーレン様楽しそうでしょう?[…]私が初めてダンジョンに潜ったときも,フリーレン様はガラクタみたいな魔導具を集めて楽しそうに笑っていました。釣られて笑ってしまったんです。きっと私はそんなフリーレン様の姿が好きだから,一緒に魔法を追い求めているんだと思います。

これに対する“返歌”となるのが,続く「#24 完璧な複製体」Aパートのアニメオリジナルのシーンだ。隠し通路の奥でフリーレン,フェルン,ゼンゼが「統一王朝時代の壁画」を発見する。

「#24 完璧な複製体」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

 

壁画を見て感動するフェルン。それを見て微笑むフリーレン。「新年祭の日の出」の場面と同様,他者の喜びを喜ぶフリーレンの様子が繊細な表情芝居によって表現されている。

エルフであるフリーレンは,時間感覚も価値観も人間のそれとは異なるものを持っているはずだ。しかし彼女は勇者一行との旅において,そしてフェルンやシュタルクたちとの旅において,自らの琴線を人間のそれに合わせて調弦し,共に喜び共に笑い合う関係性を築きつつある。フリーレンにとっての「人を知る」とは,そうした豊かな心のアンサンブルを編成するということなのだろう。ガラクタを見て喜んでしまうような,ミニマルだがポジティブな感情によって「平和な時代」を彩ることなのだろう。*9

最後に,対照的なフリーレンの後ろ姿を捉えた2つのカットを見ながら,この記事を締めくくるとしよう。

「#01 冒険の終わり」Bパート,ハイターとアイゼンに別れを告げたフリーレンが「人間を知るための旅」に出る際のカットだ。

「#01 冒険の終わり」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

低い位置に置かれたカメラが,馬車ナメで一人旅に出るフリーレンの後ろ姿を捉える。カメラがゆっくりとクレーンアップすると,遠景の丘が眼前に広がる。

このカットは「密着引き」と呼ばれる方法で作られている。密着引き(密着マルチなどとも)とは,複数のセルを異なる速度でスライドさせて立体感を出す方法だ。*10 斎藤監督はこのカットのワークに関し,「BGを密着で引くだけで感動してしまう。止め絵がダイナミックに引かれるだけで心が動く瞬間がある」と言っている。*11 確かに,壮大な自然とフリーレンの小さな人影との対比が得も言われぬ感情を掻き立てる優れたカットである。

もう1つは「#28 また会ったときに恥ずかしいからね」(最終話)のラストカットだ。

「#28 また会ったときに恥ずかしいからね」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

巨大な橋の上を歩くフリーレン,フェルン,シュタルクをフカンで捉えたカメラがクレーンアップし,やがて彼らの目の前に広がる大自然をフレームに収める。ここでは密着引きのような技巧は用いられていない。「#01」のワークと比べるとはるかにシンプルだが,シンプルであるが故に,ある種の感情をストレートに伝えているようにも思える。

カメラがクレーンアップしたことにより,彼らの姿は豆粒のように小さくなっていく。まるで箱庭の中の人形のように。しかしその中には,フリーレン自身の姿もあるのだ。「#01」のカットとは違い,フリーレンはもはや1人ではない。彼女はフェルンとシュタルクという旅の道連れを得て,箱庭という間主観的な関係性の中に身を置きながら,「人を知るための旅」を続けていくのだ。

このラストカットにおける〈感情〉の正体は何だろうか。おそらくそれは,別離の寂寥感のような大きな感情のうねりではないだろう。それよりももっとミニマルで,日常的で,「くだらない」感情に近いのかもしれない。

だから最後にフリーレンは,ヒンメルの思い出と共にこう言うのだ。

また会った時に恥ずかしいからね。

 

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:山田鐘人(原作)・アベツカサ(作画)/監督:斎藤圭一郎/シリーズ構成:鈴木智尋/キャラクターデザイン・総作画監督:長澤礼子/音楽:Evan Call/コンセプトアート:吉岡誠子/魔物デザイン:原科大樹/アクションディレクター:岩澤亨/デザインワークス:簑島綾香山﨑絵美とだま。長坂慶太亀澤蘭松村佳子高瀬丸/美術監督:高木佐和子/美術設定:杉山晋史/色彩設計:大野春恵3DCGディレクター:廣住茂徳/撮影監督:伏原あかね/編集:木村佳史子/音響監督:はたしょう二/アニメーション制作:マッドハウス

【キャスト】
フリーレン:
種﨑敦美/フェルン:市ノ瀬加那/シュタルク:小林千晃/ヒンメル:岡本信彦/ハイター:東地宏樹/アイゼン:上田燿司

 

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作品評価

キャラ

モーション 美術・彩色 音響
5.0 5.0

5.0

5.0
CV ドラマ メッセージ 独自性

5.0

4.5 4.0 4.0
普遍性 考察 平均
4.5 5.0 4.7
・各項目は5点満点で0.5点刻みの配点。
・各項目の詳細についてはこちらを参照。

 

商品情報

【Blu-ray】

 

【原作マンガ】

 

 

*1:『葬送のフリーレン』Blu-ray Vol.1 映像特典の第1話オーディオコメンタリより。

*2:「波ガラス」とは,ソフトウェアを用いて水の屈折による歪みを再現する方法。フィルム撮影の時代には,歪んだガラスをレンズの前に置いて撮影したことからこう呼ばれる。

*3:第1話オーディオコメンタリより。

*4:「薄化粧」は伏原独自の表現。ちなみに彼女が撮影を手がけた『Sonny Boy』Blu-rayの特典映像でも同じ表現をしている。

*5:地のカットと回想のカットをオーバーラップさせている個所はあるが,それは地のカット同士の繋ぎでもなされている処理である。

*6:もちろん撮影処理をまったく施していないわけではなく,キャラクターと背景とを馴染ませるなどの基本的な処理はなされている。また斎藤監督によれば「画面のノイジーな質感や若干入っている色収差など伏原さんの味が繊細に出ている」とのことである。

*7:ザイン(Sein)=存在というネーミングの妙がここで光る。

*8:日本動画映画株式会社。後に東映に吸収される。

*9:この点において,フリーレンの「人を知る」は後に登場する魔族マハトの「人を知る」とまったく異なる。マハトは「悪意」や「罪悪感」という負の感情で人を知ろうとするが故に,間主観的な関係を築くことができず,人を傷つけることしかできない。

*10:フィルム時代には相互に密着させたセルを引いたことからこう呼ばれている。

*11:第1話オーディオコメンタリより。

2024年 春アニメは何を観る?来期おすすめアニメの紹介 ~2024年 冬アニメを振返りながら~

『終末トレインどこへいく?』公式HPより引用 ©︎apogeego/「終末トレインどこへいく?」製作委員会

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2024年 冬アニメ振返り

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今クールの作品で特に注目したいのは,『アンデッドアンラック』『薬屋のひとりごと』『葬送のフリーレン』『ダンジョン飯』『僕の心のヤバイやつ 第2期』の5作品だ。

戸塚慶文原作/八瀬祐樹監督『アンデッドアンラック』は「2023年 秋アニメランキング」でも7位としてピックアップした作品である。第2クールでは世界の成り立ちに関する“解答”が開示された他,新たなキャラクター・安野雲が加わったことにより,物語が急展開を迎えている。スタイリッシュな演出も健在で,アニメーションの面でも優れた秀作だ。

日向夏原作/長沼範裕監督『薬屋のひとりごと』は「2023年 秋アニメランキング」で6位としてピックアップしている。第2クールでは猫猫と羅漢の関係が明かされ,猫猫のキャラクターの輪郭がいっそう明確になりつつある。多数の登場人物と複雑な人間関係を扱いながらも,キャラ(クター)の魅力を的確に伝えた良作である。

山田鐘人(原案),アベツカサ(作画)原作/斎藤圭一郎監督『葬送のフリーレン』は「2023年 秋アニメランキング」で1位としてピックアップした作品だ。基本的には日常芝居が魅力の本作だが,第2クールの「#26 魔法の高み」では迫力あるアクションや緊迫感に満ちた〈対峙〉のシーンが盛り込まれ,最終話を目前にして大きな山場を見せた。アニメーションの質において,他の追随を許さない傑作と言えるだろう。

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以上の3作品は2023年秋からの連続2クール作品である。

九井諒子原作/宮島善博監督『ダンジョン飯』は「2024年 冬アニメは何を観る?」の記事でイチオシ作品として挙げた。随所に“TRIGGERらしさ”を盛り込み,アニメーションとしての楽しさを伝えた秀作だ。各話演出担当や原画担当の個性を前面に押し出した演出方針も面白く,各話ごとの“味変”が楽しめる作品になっている。

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桜井のりお原作/赤城博昭監督『僕の心のヤバイやつ 第2期』は,第1期を「2023年 春アニメランキング」で9位として挙げた。牛尾憲輔の劇伴や撮影効果などによって,主人公たちの心理や感情を彩り豊かに伝えた秀作である。第2期では荒木哲郎によるOPアニメーションも話題となった。

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この他,「レベルアップ」というゲーム的要素をうまくキャラクター成分に取り込んだ『俺だけレベルアップな件』,テンポ感のよいギャグと丁寧な日常芝居が光る『姫様“拷問”の時間です』,美麗なキャラ作画と美術が目を引く『ぶっちぎり?!』なども面白い。

2024年冬アニメの最終的なランキングは,全作品の最終話放送終了後に掲載する予定である。

 

では今回も2024年春アニメのラインナップの中から,五十音順に注目作をピックアップしていこう。各作品タイトルの下に最新PVなどのリンクを貼ってあるので,ぜひご覧になりながら本記事をお読みいただきたい。なお,オリジナルアニメ(マンガ,ラノベ,ゲーム等の原作がない作品)のタイトルの末尾には「(オリジナル)」と付記してある。

 

①『アストロノオト』(オリジナル)


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『アストロノオト』公式Twitter

【スタッフ】
総監督:高松信司/監督:春日森春木/シリーズ構成:うえのきみこ/キャラクターデザイン原案:窪之内英策/キャラクターデザイン・総作画監督:あおきまほ/メカデザイン:小澤和則小原渉平/プロップデザイン:丹羽恭利川本和隆/美術監督:春日礼児(スタジオじゃっく)/色彩設定:村口冬仁(ロケットビジョン)/撮影監督:千葉洋之(アニメフィルム)CGIディレクター:菊地等/オフライン編集:白石あかね(瀬山編集室)/音楽:宗本康兵/音楽制作:ランティス/アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム

【キャスト】
豪徳寺ミラ:内田真礼/宮坂拓己:斉藤壮馬/若林蓮:釘宮理恵/若林富裕:杉田智和/山下正吉:三木眞一郎/松原照子:降幡愛/上町葵:小倉唯/ナオスケ:諏訪部順一/ショーイン・ジンジャー:福山潤

【コメント】
就職先のアパートで一目惚れした大家の女性が,実は宇宙人だったという物語。『うる星やつら』×『めぞん一刻』のような趣の“SFラブコメ”だが,「最終話で,全部いただきます。」という謳い文句からは,脚本上の大きな仕掛けが期待できる(公式HPには「物語は壮大なミステリーへと飛躍する」という文句もある)。一見マンガ原作のような雰囲気だが,完全オリジナルアニメである。

総監督は『銀魂』(2006-2010年)『ちみも』(2022年)の高松信司が務める。『ちみも』『ダンジョン飯』(2024年)などコメディ作品に定評のあるうえのきみこが脚本を担当するのも注目だ。

 

②『WIND BREAKER』


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『WIND BREAKER』公式Twitter

【スタッフ】
原作:にいさとる/監督:赤井俊文/シリーズ構成:瀬古浩司/キャラクターデザイン・総作画監督:川上大志/アクションディレクター:浅賀和行/プロップデザイン:羽土真衣子/美術設定・美術監督:守安靖尚/色彩設計:横田明日香/撮影監督:長瀬由起子3Dディレクター:渡邉啓太(サブリメイション)/編集:三嶋章紀/音楽:高橋諒/音響監督:明田川仁/制作:CloverWorks

【キャスト】
桜遥:内田雄馬/楡井秋彦:千葉翔也/杉下京太郎:内山昂輝/蘇枋隼飛:島﨑信長/梅宮一:中村悠一/柊登馬:鈴木崚汰/柘浦大河:河西健吾/桐生三輝:豊永利行/橘ことは:長谷川育美

【コメント】
原作はにいさとるの同名マンガ。すでに評価が定まっている作品であることに加え,監督が『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』(2019年)などの赤井俊文,シリーズ構成が『モブサイコ100』(第1期:2016年,第2期:2019年,第3期:2022年)などの瀬古浩司,キャラデザが『明日ちゃんのセーラー服』(2022年)などの川上大志,制作が赤井と川上が所属するCloverWorksと,座組も文句なしである。

 

③『狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF』


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『狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF』公式Twitter 

【スタッフ】
原作:支倉凍砂/キャラクター原案:文倉十/総監督:高橋丈夫/監督:さんぺい聖/キャラクターデザイン:羽田浩二/色彩設計:小山知子/美術設定:青木薫天田俊貴小畑嶺二/美術監督:井上一宏/撮影監督:林幸司/編集:丹彩子/音響監督:吉田知弘/音楽:Kevin Penkin/プロデュース:ENISHIYA/アニメーション制作:パッショーネ

【キャスト】
クラフト・ロレンス:福山潤/ホロ:小清水亜美/ノーラ・アレント:中原麻衣/ゼーレン:浪川大輔/リヒテン・マールハイト:大塚芳忠/ハンス・レメリオ:郷田ほづみ

【コメント】
原作は支倉凍砂のマンガ『狼と香辛料』。すでに2008年と2009年にアニメ化されているが,今回は続編ではなく再アニメ化(リメイク)である。旧作の監督・高橋丈夫は新作では総監督を務め,クラフト・ロレンス役の福山潤とホロ役の小清水亜美も続投する。しかしそれ以外は,キャラクターデザインをはじめ作風が大きく変わることが予想される。最新の技術で蘇る『狼と香辛料』を期待しよう。

 

④『怪獣8号』


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 『怪獣8号』公式Twitter

【スタッフ】
原作:松本直也/監督:宮繁之神谷友美/シリーズ構成・脚本:大河内一楼/キャラクターデザイン・総作画監督:西尾鉄也/怪獣デザイン:前田真宏/美術監督:木村真二/色彩設計:広瀬いづみ3D監督:松本勝/撮影監督:荒井栄児/編集:肥田文/音響監督:郷文裕貴/音楽:坂東祐大/怪獣デザイン&ワークス:スタジオカラー/アニメーション制作:Production I.G

【キャスト】
日比野カフカ/怪獣8号:福西勝也/亜白ミナ:瀬戸麻沙美/市川レノ:加藤渉/四ノ宮キコル:ファイルーズあい/保科宗四郎:河西健吾/古橋伊春:新祐樹/出雲ハルイチ:河本啓佑/神楽木葵:武内駿輔/小此木このみ:千本木彩花

【コメント】
原作は松本直也の同名マンガ。こちらも人気のマンガ原作のアニメ化とあって,すでに一定の評価は予想できるが,PVからを見ると,作画的にもかなり面白いものが期待できそうだ。

監督は『鬼平』(2017年)などの宮繁之と『鹿楓堂よついろ日和』(2017年)などの神谷友美,シリーズ構成は『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(2022-2023年)などの大河内一楼,キャラクターデザインは『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』(2004-2005年)などの西尾鉄也,怪獣デザインは『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-1996年)や『SSSS.GRIDMAN』(2018年)などの前田真宏,制作はProduction I.G。座組からして期待感が高まる。

 

⑤『鬼滅の刃 柱稽古編』


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『鬼滅の刃』公式Twitter

【スタッフ】
原作:吾峠呼世晴/監督:外崎春雄/キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃/脚本制作:ufotable/サブキャラクターデザイン:佐藤美幸梶山庸子菊池美花/プロップデザイン:小山将治/美術監督:矢中勝樺澤侑里/美術監修:衛藤功二/撮影監督:寺尾優一/3D監督:西脇一樹/色彩設計:大前祐子/編集:神野学/音楽:梶浦由記椎名豪/アニメーション制作:ufotable

【キャスト】
竈門炭治郎:花江夏樹/竈門禰豆子:鬼頭明里/我妻善逸:下野紘/嘴平伊之助:松岡禎丞/冨岡義勇:櫻井孝宏/宇髄天元:小西克幸/時透無一郎:河西健吾/胡蝶しのぶ:早見沙織/甘露寺蜜璃:花澤香菜/伊黒小芭内:鈴村健一/不死川実弥:関智一/悲鳴嶼行冥:杉田智和

【コメント】
毎度のことだが,この作品については多くを語る必要はないだろう。「刀鍛冶の里編」が終了した時点で,原作単行本23巻中15巻の1/3ほどまで到達。禰豆子が太陽を克服したことにより,物語はいよいよ最終決戦に向けて徐々に加速していく。引き続き,稀代の制作集団・ufotableのお手並み拝見と行こう。

 

⑥『この素晴らしい世界に祝福を!3


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『この素晴らしい世界に祝福を!』公式Twitter

【スタッフ】
原作:暁なつめ/原作イラスト:三嶋くろね/総監督:金崎貴臣/監督:安部祐二郎/シリーズ構成:上江洲誠/キャラクターデザイン:菊田幸一/色彩設計:吉田沙織/美術設定:友野加世子/美術監督:丸山由紀子山梨絵里/美術:アトリエムサ/撮影監督:衛藤直毅/撮影:EXPLOSION3D監督:今垣佳奈/編集:木村佳史子/音響監督:岩浪美和/音響効果:小山恭正/録音:山口貴之/音響制作:HALF HP STUDIO/音楽:甲田雅人/音楽制作:日本コロムビア/アニメーション制作:ドライブ

【キャスト】
カズマ:福島潤/アクア:雨宮天/めぐみん:高橋李依/ダクネス:茅野愛衣/ルナ:原紗友里/荒くれ者:稲田徹/クリス:諏訪彩花/ウィズ:堀江由衣/バニル:西田雅一/ゆんゆん:豊崎愛生/ミツルギ:江口拓也/アイリス:高尾奏音/クレア:矢作紗友里/レイン:上田麗奈

【コメント】
この作品も当ブログの読者であれば説明不要だろう。第3期では監督が金崎孝臣から安部佑二郎へ,制作がスタジオディーンからドライブに交代しているが,キャラクターデザインの菊田幸一などは続投,金崎も総監督として参加する。また第3期の座組はすでにスピンオフ作品の『この素晴らしい世界に爆焔を!』(2023年)で披露されている。これまでのファンも違和感なく楽しめるだろう。

 

⑦『SAND LAND: THE SERIES』


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『SAND LAND』公式Twitter

【スタッフ】
原作・ストーリー原案・キャラクターデザイン:鳥山明/監督:横嶋俊久/ディレクションアドバイザー:神志那弘志/シリーズ構成:森ハヤシ/アニメーションキャラクターデザイン:菅野利之/メカニカルデザイン:山根公利帆足タケヒコCGディレクター:重川尚之/美術監督:金子雄司/色彩設計:安部なぎさ/撮影監督:川下裕樹/編集:徳田俊/音響監督:岩浪美和/録音調整:山口貴之/音響効果:小山恭正/音楽:菅野祐悟/アニメーション制作:サンライズANIMA神風動画

【キャスト】
ベルゼブブ:田村睦心/ラオ:山路和弘/シーフ:チョー/アレ:鶴岡聡/ゼウ:飛田展男/スイマーズ・パパ:杉田智和/サタン:大塚明夫/アン:小松未可子/ムニエル:村瀬歩/ブレッド:玄田哲章

【コメント】
原作は鳥山明のマンガ『SAND LAND』。2023年に劇場公開されたものに未公開カットなどを加えて「悪魔の王子編」として再構築,続編の「天使の勇者編」と合わせて前13話で放送される。先日他界したばかりの鳥山の作品ということをおいても,純粋に3Dアニメーションとして優れた作品である。田村睦心山路和弘チョーの演技も冴えわたっている。この放送を機に本作が再評価されることを願いたい。

ディズニープラスにて以下のスケジュールで配信予定。
3/20(水・祝)より「悪魔の王子編」第1〜7話を配信
3/27(水)より第8話以降を1話ずつ配信

 

⑧『終末トレインどこへいく?』(オリジナル)


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『終末トレインどこへいく?』公式Twitter

【スタッフ】
監督:水島努/演出チーフ:菅沼芙実彦/シリーズ構成:横手美智子/キャラクターデザイン・総作画監督:西田亜沙子/キャラクターデザイン原案:namo/美術監督:野村正信堀越由美/色彩設計:小山知子/撮影監督:田沢二郎/編集:後藤正浩/音響効果:小山恭正/録音調整:山口貴之/音響監督:水島努/音楽:辻林美穂/音楽制作:フライングドッグ/アニメーション制作:EMTスクエアード

【キャスト】
千倉静留:安済知佳/星撫子:和氣あず未/久賀玲実:久遠エリサ/東雲晶:木野日菜/中富葉香:東山奈央/善治郎:興津和幸

【コメント】
舞台はある大異変が起こった田舎町。行方不明になった友人を探すべく,主人公たちが電車に乗って捜索の旅に出るという物語だ。タイトルからもわかる通り,「電車」が一つのモチーフになっているようで,PVからはかなりリアルな作画が伺える。『ラブライブ!』(2013年)の西田亜沙子が手がけるキャラクターデザインも美麗。『映像研には手を出すな!』(2020年)の美峰・野村正信による美術もたいへん見応えがある。

そして何より,『ガールズ&パンツァー』(2012年)『SHIROBAKO』(2014-2015年)の水島努監督オリジナルアニメとあって,自ずと期待は高まるというもの。シリーズ構成は同じく『SHIROBAKO』の横手美智子。頼もしい布陣である。

 

⑨『戦隊大失格』


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『戦隊大失格』公式Twitter

【スタッフ】
原作:春場ねぎ/監督:さとうけいいち/シリーズ構成:大知慶一郎/キャラクターデザイン:古関果歩子/アニメーションスーパーバイザー:羽山賢二/音楽:池頼広/色彩設計:近藤直登/美術監督:権瓶岳斗(グーフィー)3DCGディレクター:千葉高雪(A-worth),竹内晋作(サブリメイション)/撮影監督:久保田淳/アニメーション制作:Yostar Pictures

【キャスト】
戦闘員D(青年D):小林裕介/桜間日々輝:梶田大嗣/錫切夢子:矢野優美華/レッドキーパー:中村悠一/ブルーキーパー:井上剛/イエローキーパー:小野賢章/グリーンキーパー:鳥海浩輔/ピンクキーパー:MAO/朱鷺田隼:吉野裕行/藍染小町:長江里加/翡翠かのん:和氣あず未/撫子益荒男:立木文彦/獅音海:小野友樹/浦部永玄:山下誠一郎/雪野アンジェリカ:鬼頭明里/石川宗次郎:濱野大輝/明林恋蓮:黒沢ともよ/薄久保天使:三上枝織/来栖大和:逢坂良太/七宝司:清水優譲/小熊蘭丸:野津山幸/戦闘員XX:羊宮妃那

【コメント】
原作は春場ねぎの同名マンガ。ヒーローvs怪人の戦いが実は茶番だったという,戦隊ヒーローものを換骨奪胎した設定が面白い(ついこの間まで五つ子美少女ハーレムラブコメを描いていた漫画家とは思えない)。『TIGER & BUNNY』(2011年)監督の他,「スーパー戦隊シリーズ」のキャラクターデザインを手がけた経歴のあるさとうけいいちが監督を務める。まさしく適材適所である。PVを観るに,作画面でもなかなか面白いものが期待できそうだ。

 

⑩『響け!ユーフォニアム 3』


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『響け!ユーフォニアム』公式Twitter

【スタッフ】
原作:武田綾乃/監督:石原立也/副監督:小川太一/シリーズ構成:花田十輝/キャラクターデザイン:池田晶子池田和美/総作画監督:池田和美/楽器設定:髙橋博行/楽器作画監督:太田稔/美術監督:篠原睦雄/3D美術:鵜ノ口穣二/色彩設計:竹田明代/撮影監督:髙尾一也/3D監督:冨板紀宏/音響監督:鶴岡陽太/音楽:松田彬人/音楽制作:ランティスハートカンパニー/音楽協力:洗足学園音楽大学/演奏協力:プログレッシブ!ウインド・オーケストラ/吹奏楽監修:大和田雅洋/アニメーション制作:京都アニメーション

【キャスト】
黄前久美子:黒沢ともよ/加藤葉月:朝井彩加/川島緑輝:豊田萌絵/高坂麗奈:安済知佳/黒江真由:戸松遥/塚本秀一:石谷春貴/釜屋つばめ:大橋彩香/久石奏:雨宮天/鈴木美玲:七瀬彩夏/鈴木さつき:久野美咲/月永求:土屋神葉/剣崎梨々花:杉浦しおり/釜屋すずめ:夏川椎菜/上石弥生:松田彩音/針谷佳穂:寺澤百花/義井沙里:陶山恵実里/滝昇:櫻井孝宏

【コメント】
言わずと知れた京都アニメーション制作ビッグタイトルの続編である。そしていよいよ「久美子3年生編」に突入する。キャラクターデザインが池田晶子から池田和美に交代したことや,山田尚子の不在により,それなりの作風変化が予想されるだろう(『アンサンブルコンテスト』(2023年)を観る限りそのように判断できる)。しかし『ユーフォ』は,第1期から作画や演出の方針が少なからず変化している作品だ。変化の中に“違和”を見るか“進化”を見るかは人ぞれぞれだろうが,個人的には,苦難を乗り越えて飛躍したスタッフの技術の“深化”を期待したい。

 

⑪『無職転生Ⅱ ~異世界行ったら本気だす〜 第2クール』


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『無職転生Ⅱ 〜異世界行ったら本気出す〜』公式Twitter

【スタッフ】
原作:理不尽な孫の手/キャラクター原案:シロタカ/原作企画:フロンティアワークス/監督:渋谷亮介/シリーズ構成:大野敏哉/キャラクターデザイン:嶋田真恵齊藤佳子/総作画監督:世良コータ五十子忍孫弘志/美術監督:三宅昌和/色彩設計:土居真紀子/撮影監督:頓所信二/編集:三嶋章紀/音響監督:明田川仁/音楽:藤澤慶昌/プロデュース:EGG FIRM/制作:スタジオバインド

【キャスト】
ルーデウス・グレイラット:内山夕実/前世の男:杉田智和/シルフィエット:茅野愛衣/ノルン・グレイラット:会沢紗弥/アイシャ・グレイラット:高田憂希/アリエル・アネモイ・アスラ:上田麗奈/ルーク・ノトス・グレイラット:興津和幸/エリナリーゼ・ドラゴンロード:田中理恵/ナナホシ/サイレント・セブンスター:若山詩音/ザノバ・シーローン:鶴岡聡/クリフ・グリモル:逢坂良太/ジュリエット:諸星すみれ/リニアーナ・デドルディア:ファイルーズあい/プルセナ・アドルディア:田中美海/バーディガーディ:楠大典

【コメント】
異世界転生ジャンルの嚆矢,『無職転生』の続編。これも多くを語るまでもないだろう。待ちに待ったルディとシルフィの“再会”後の物語である。正直に言えば,第1クールで監督交代による懸念が多少はあったのだが,全体としてうまくまとめられていたと思う。第2クールではさらに進化していることを願う。

 

⑫『ゆるキャン△ SEASON3』


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 『ゆるキャン△』公式Twitter

【スタッフ】
原作:あfろ/監督:登坂晋/シリーズ構成:ピエール杉浦/キャラクターデザイン:橋本尚典/プロップデザイン:豊田暁子興津香織/メカデザイン:稲田航/色彩設計:長谷川美穂(緋和)/美術監督:権瓶岳斗(グーフィー)/背景美術:Creative Freaks/撮影監督:小川克人(チップチューン)CGディレクター:広沢範光(オーラスタジオ)/スーパーバイザー/モニターグラフィックス:生原雄次/オフライン編集:神宮司由美/音楽:立山秋航/音楽制作:MAGES./音響監督:高寺たけし/音響制作:HALF HP STUDIO/アニメーション制作:エイトビット

【キャスト】
各務原なでしこ:花守ゆみり/志摩リン:東山奈央/大垣千明:原紗友里/犬山あおい:豊崎愛生/斉藤恵那:高橋李依/土岐綾乃:黒沢ともよ/鳥羽美波:伊藤静/各務原桜:井上麻里奈/犬山あかり:松田利冴/ナレーション:大塚明夫

【コメント】
これもビッグタイトルの続編だが,最大のポイントは制作会社・監督・キャラクターデザインを始め,制作の布陣が大きく変わることだ。しかも「原作漫画のテイストを取り入れ」(公式HPの登坂晋監督コメントより)るという方針のもと,キャラクターデザインを旧来のものから変更しており,この点で先述の『この素晴らしい世界に祝福を!』などとはまったく事情を異にする。この手の作品で最大の目玉となるキャラデザを変更したことが,これまでのファンにどう評価されるか,また原作勢とアニメ勢で評価が変わるのか。賛否を覚悟で敢えて変更に挑んだ制作陣のお手並み拝見といこう。

第1・2期→第3期の主な交代は以下の通り。

監督:京極義昭→登坂晋
シリーズ構成:田中仁→ピエール杉浦
キャラクターデザイン:佐々木睦美→橋本尚典
美術監督:海野よしみ→権瓶岳斗
制作:C-Station→エイトビット

 

⑬『夜のクラゲは泳げない』(オリジナル)


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『夜のクラゲは泳げない』公式Twitter

【スタッフ】
原作:JELEE/監督:竹下良平/シリーズ構成・脚本:屋久ユウキ/キャラクター原案:popman3580/キャラクターデザイン:谷口淳一郎/サブキャラクターデザイン:中島千明朱里/衣装デザイン:葛原詩乃長澤翔子/プロップデザイン:服部未夢/総作画監督:谷口淳一郎豊田暁子鈴木明日香/メインアニメーター:太田慎之介Saurabh Singh中尾和麻/劇中イラスト原案:はむねずこ/美術監督:金子雄司/美術設定:平澤晃弘/色彩設計:石黒けい/撮影監督:桒野貴文/編集:木村佳史子/音響監督:木村絵理子/音楽:横山克/音楽制作:キングレコード/アニメーション制作:動画工房

【キャスト】
光月まひる:伊藤美来/山ノ内花音:高橋李依/渡瀬キウイ:富田美憂/高梨・キム・アヌーク・めい:島袋美由利/みー子:上坂すみれ/瀬藤メロ:岡咲美保/柳桃子:首藤志奈/鈴村あかり:天城サリー

【コメント】
渋谷を舞台にしたガールズ青春群像劇系オリジナルアニメ。PVからはかなり美麗な作画が伺える。特に「クラゲの輝き」が一つのモチーフとなっているだけあって,キツめの撮影効果による美しい光表現が目を引く。

監督は『エロマンガ先生』(2017年)の竹下良平,キャラクター原案は人気イラストレーターのpopman3580,キャラクターデザインは『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』(2020-2022年)などの谷口淳一郎。ルック面でのクオリティは保証されていると言っていいだろう。

 

2024年春アニメのイチオシは…

2024年春アニメの期待作として,今回は13作品をピックアップした。

今回のイチオシ作品として水島努監督『終末トレインどこへいく?』を挙げよう。今クールは続編の中に期待作が多いのだが,ここは一つ水島監督のオリジナルアニメに賭けてみたいと思う。

次点として,石原立也監督『響け!ユーフォニアム3』登坂晋監督『ゆるキャン△SEASON3』外崎春雄監督『鬼滅の刃 柱稽古編』春日森春木監督『アストロノオト』にも注目したい。特に『ユーフォ』『ゆるキャン』などは,スタッフ陣交代による変化を仔細に確認しておきたいところだ。

以上,2024年春アニメ視聴の参考にして頂ければ幸いである。

 

TVアニメ『葬送のフリーレン』(2024年冬)第26話の演出について[考察・感想]

この記事は『葬送のフリーレン「#26 魔法の高み」のネタバレを含みます。

「#26 魔法の高み」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

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山田鐘人原作・アベツカサ作画/斎藤圭一郎監督『葬送のフリーレン』(以下『フリーレン』)各話レビューの第3弾として,今回は「#26 魔法の高み」を見ていこう。絵コンテ担当は斎藤圭一郎監督,原科大樹岩沢亨,演出担当は『天国大魔境』(2023年)監督の森大貴である。戦闘シーンを中心に,〈対峙〉 の緊迫感を巧みに表現した話数である。

 

フリーレン vs コピーレン:力の応酬

これまでの記事でも強調してきたが,『フリーレン』というアニメの魅力は日常芝居にある。魔王が倒された後の世界の人々の営みを,美しい作画と美術,繊細な所作,的確な音響によって表現したことこそが,本作のアニメ班の最大の功績だろう。

一方で,そうした日常性とコントラストを成すように,要所で魔族や魔物の残党との戦闘シーンが挿入される点も注目に値する。とりわけ「#26 魔法の高み」では,「一級魔法使いの試験」という設定を忘れさせるほど苛烈なアクションが描かれている。

最もスペクタクルな見所としては、やはりフリーレンvsコピーレン戦での魔法の応酬だろう。

「#26 魔法の高み」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

Aパート冒頭,コピーレンがブラックホールのようなものを放つシーン。周囲の物体を取り込んだ後,超新星のように大爆発を引き起こす。猛烈な爆風にフリーレンの髪が激しくたなびくが,その後ろの表情はあくまでも冷静だ。冷ややかな表情のカット(上図右下)が非常に印象的である。

このシーンは原作にはない完全アニメオリジナルだが,アニメ班の本気の遊び心を感じさせる。ブラックホールの辺りの作画を担当したのは,『呪術廻戦 渋谷事変』(2023年)の神回「#41 霹靂-弐-」にも作画として参加していたVercreekである。緻密かつダイナミックな作画を得意とするアニメーターだ。今後の活躍も楽しみである。

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Bパート後半,激しさを増すフリーレンとコピーレンの攻防。赤と青で表された「ヴォルザンベル」,夢の世界のように彩り豊かな魔力の衝突,白で縁取られた「黒いゾルトラーク」*1 など,色彩解釈の自由度が高く非常に面白い

「#26 魔法の高み」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

ヴォルザンベルは遠藤正明,黒いゾルトラークは西田達三の担当であることが公式Twitterと制作進行の中目貴史のTwitterで明らかにされている。遠藤は『風の谷のナウシカ』(1984年)『天空の城ラピュタ』(1986年)『オネアミスの翼』(1987年)『もののけ姫』(1997年)『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021』(2022年)など,数多くの作品で原画やエフェクトを担当している。西田も『サマーウォーズ』(2009年)『かぐや姫の物語』(2013年)『バケモノの子』(2015年)などの多くの名作で作画や作監を担当した経歴を持つ。共にフリーレンとコピーレン,エゴとアルターエゴとの〈対峙〉を高い熱量で描き,この話数のクオリティに大きく貢献している。

 

ユーベル vs ゼンゼ:“切る”というイメージ

〈対峙〉ということで言えば,ユーベルとゼンゼの過去の対話シーンの演出も優れていた。

「#26 魔法の高み」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

ユーベルが机の上の鋏を手にして目の前にかざし,ゼンゼの頭を切るかのよう刃を閉じる。鋏には現在のユーベルの姿が映る。ところが布を裁断する姉の回想を挟んだ後のカットでは,鋏に不敵な笑みを浮かべた幼少時代のユーベルが映っている。“切る”というイメージにまつわる過去の体験を今ここに現前させつつ,格上の一級魔術師に対してすでに勝利を確信しているかのような笑みである。ユーベルが鋏を弄ぶ所作や,姉が手で布を払う所作など,細部の描写も極めて丁寧に作画されている。鋏のSEもとてもいい。冷たい金属音がユーベルの刃のように冷たい強さを補強するかのように鳴り響く。かつこのシーンは〈過去の現前〉という点において,しばしば挿入されるフリーレンの回想シーンとも相似を成している。『フリーレン』という作品のコアメッセージとマッチした優れたシーンだ。

このシーンもほぼすべてアニメオリジナルだ。公式Twitterによると,神取万由子が原画を担当している。

「#26 魔法の高み」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

ユーベル頭上からのフカンカットでは,極端なパースで2人の作画に大小の差をつけ,ユーベル=勝者,ゼンゼ=敗者という構図を明確に示している。この後に続く「もしかしたら私はあの時点でもう負けていたのかもしれない」というゼンゼのセリフを画で先取りしているかのようなカットだ。

「#26 魔法の高み」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

さらに,原作ではおまけマンガとして書かれていた「髪の手入れ?地獄だよ。考えたくもない」というゼンゼのセリフを本編シーンに“昇格”させ,かつ「切ったらいいのに」というユーベルのアニオリセリフを追加している。ユーベルの中の“切る”というイメージの圧倒的な強さを的確に要約したシーンだ。

 

フェルン vs コピーレン:目と“心”

次にフェルンvsコピーレンの〈対峙〉を見てみよう。コピーレンが「あれ」を放つ直前のシーンである。

「#26 魔法の高み」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

隙を突いてゾルトラークを連発したフェルンは,コピーレンに致命傷を負わせることに成功する。手負のコピーレンにとどめを刺そうとするフェルン。この際のカメラワークが巧みだ。

「#26 魔法の高み」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

カメラはフェルンの横顔を捉える。彼女がとどめを刺そうする決意する刹那,カメラはぐっとポン寄りしてその目の表情を仔細に捉える。その直後のコピーレンのカットでもほぼ同様のカメラワークがリフレインされる。コピーレンの表情を正面から捉えたカメラが,ぐっと寄っていって“憎悪”に満ちた目をアップで大写しにする。作画そのものだけでなく,カメラワークによって目の表情と心の動き(コピーレンに心はないのだが)を表現し,かつ小気味のよいリズムも生み出している。シンプルに見えるが,緊迫感のある極めて優れた演出だ。個人的には本話数で最も評価したいシーンである。

「#26 魔法の高み」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

この後,コピーレンはフェルンをして「魔法の高み」と言わしめる謎の攻撃を放つ。「あれを見せるほど追い詰められたのは80年振りかな」というフリーレンのセリフから,これが魔王戦で使われたものであることがわかる。コピーレンとフェルンの間で,かつての魔王戦に匹敵する〈対峙〉が再演されていたことになる。

 

フリーレン vs フェルン:勝機

最後に,フリーレンとフェルンの〈対峙〉を見てみよう。先ほどのコピーレンの「あれ」の少し前に挿入される対話のシーンである。

「#26 魔法の高み」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

フリーレンを気遣うフェルンの表情や,優しく肩を叩くフリーレンの手の所作などが丁寧に描写されている。フェルンの目線,肩に置かれた手,わずかに揺れるカメラなどから,フリーレンの主観カットであることが示される。対話の中で他者の表情を〈見る〉という行為が作画によって強調されている。ちなみにこの辺りのカットにひらおかえみが参加していることが,本人のTwitterアカウントにより明らかにされている。

「#26 魔法の高み」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

「だって“私”はフェルンのことをなめているから」のカットでフェルンの主観視点(ここでもカメラはわずかに揺れている)に切り替わった後,カメラはフェルンの口元を写す。目の表情を捉えず,口元の芝居だけでフェルンの心理を描写しているのも効果的だ。

「#26 魔法の高み」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

この後,フリーレンとフェルンが黒地の両端に配された客観視点のカットが挿入される。2人はわずかに微笑んでいる。2人の間の信頼と緊張感と絶妙な距離感が同時に示された,非常に優れた構図だ。

思えばこの話数のアバンは,ゼンゼの「お前を殺す者がいるとすれば,それは魔王か,人間の魔法使いだ」というセリフから始まっていた。コピーレンという存在を媒介に,エルフと人間の〈対峙〉というーおそらく実際にはあり得ないであろうー可能性を示す。これがこの話数のライトモチーフだったことがわかる。

 

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Twitterアカウントなど

【スタッフ】
原作:山田鐘人(原作)・アベツカサ(作画)/監督:斎藤圭一郎/シリーズ構成:鈴木智尋/キャラクターデザイン・総作画監督:長澤礼子/音楽:Evan Call/コンセプトアート:吉岡誠子/魔物デザイン:原科大樹/アクションディレクター:岩澤亨/デザインワークス:簑島綾香山﨑絵美とだま。長坂慶太亀澤蘭松村佳子高瀬丸/美術監督:高木佐和子/美術設定:杉山晋史/色彩設計:大野春恵3DCGディレクター:廣住茂徳/撮影監督:伏原あかね/編集:木村佳史子/音響監督:はたしょう二/アニメーション制作:マッドハウス

【キャスト】
フリーレン:
種﨑敦美/フェルン:市ノ瀬加那/シュタルク:小林千晃/ヒンメル:岡本信彦/ハイター:東地宏樹/アイゼン:上田燿司

【「#26 魔法の高み」スタッフ】
脚本:
鈴木智尋/絵コンテ:斎藤圭一郎原科大樹岩澤亨/演出:森大貴/総作画監督:長澤礼子/総作画監督補佐:藤中友里作画監督:廣江啓輔瀬口泉新井博慧八重樫優翼/アクション作画監督:岩澤亨

原画:阿部純子神取万由子亀澤蘭小橋弘侑西田達三廣江啓輔八重樫優翼山﨑絵美山脇僚太遠藤正明大橋実木曽勇太銀杏豆太郎渡邊啓一郎?),久保まさひこ三宮哲太湿気った皆絵馬前並武志?),下谷早苗橋本治奈ひらおかえみ平田有加松田隼人丸山修二芳山優AdityaMahmoudMichael SungSaucelotSaurabh SinghshipVercreek飛鴻動畫枼瀚文哈魯OUTLINEあいう

 

この他,この話数に携わったすべての制作スタッフに惜しみない拍手を。

 

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【原作マンガ】

 

 

*1:「黒いゾルトラーク」については,原作コミック9巻に一級魔法使いのレルネンが使用する描写があるが,その詳細についてはわかっていない。

TVアニメ『ダンジョン飯』(2024年冬)第7話・第8話の演出について[考察・感想]

*この記事は『ダンジョン飯』第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」と第8話「木苺/焼き肉」のネタバレを含みます。

第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」第8話「木苺/焼き肉」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

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九井諒子原作/宮島善博監督『ダンジョン飯』各話レビュー第2弾として,今回は宮島善博監督が絵コンテ,中野広大が演出を手がけた第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」,および米森雄紀が絵コンテ,下平佑一が演出を手がけた第8話「木苺/焼き肉」を取り上げてみよう。この2つの話数では,作画面でも物語面でも随所に巧みな対比表現が用いられ,作品に深みと広がりが生まれていることがわかる。

 

対比Ⅰ

物語はいかに〈対比〉構造を効果的に使うかが重要だ。キャラ造形,画作り,色彩,音響,いずれの要素においても,的確なコントラスト表現は物語に緩急を生み出し,作品にメリハリを付ける。

第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

上の画像は第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」でマルシルが見せたご満悦の笑顔だ。マルシル特有の丸みを帯びた“エルフ耳”を始め,輪郭,細めた目と口元のライン,少し下がった眉など,一つひとつの描線が柔らかく魅力的に描かれている。しかしその背後には,ライオスが料理に忍ばせた魚人の卵を食したというグロテスクな事実がある。だからこそ,このとびっきりの2次元の笑顔に独特の奥行きが生まれる。

第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

その後のマルシルの挙動も面白い。ごちそうを思い浮かべながらイカ・タコの美味を嬉々として語ったかと思えば,足下のクラーケンの死体が“ごちそう”であることを気付かされ自らの失言を悔やむ。クラーケンの寄生虫を食わされる運命に泣嘆したかと思えば,その調理の匂いに文字通り垂涎する。クルクルと変わるマルシルの表情が楽しい。言うまでもないことだが,マルシルの“キモい”と“美味しい”の間の反復横跳びこそがこの作品の最大の魅力の1つである。

第7話は,このマルシルを中心に,キャラの魅力を的確に引き出した“うまい”作画が特徴だ。全体的に柔らかめの主線で描かれており,『ダンジョン飯』という作品の特色をよく表した作画だと言える。

第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

それだけに,“モブキャラ”の魚人が目一杯不気味に描かれているのがまた面白い。人間に近いから不気味なのか,魚に近いから不気味なのか。その境界の曖昧さがうまく画に落とし込まれており,ライオスとチルチャックの「魚人問答」にも説得力が生まれている。

 

対比Ⅱ

第8話「木苺/焼き肉」Aパートでは,マルシルの魔法学校時代の回想が語られる。

第8話「木苺/焼き肉」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

初々しい生徒たちによる長閑な学校生活。第7話に続き描画の印象は柔らかい。この辺り,さすが『リトルウィッチアカデミア』(TVアニメ:2017年)のTRIGGERという画捌きだ。ちなみに監督の宮島善博,副監督の佐竹秀幸,シリーズ構成のうえのきみこ,キャラクターデザインの竹田直樹,モンスターデザインの金子雄人らを含め,多くのスタッフが『リトルウィッチアカデミア』にも参加している。

この魔法学校の回想でもっとも注目すべきは,マルシルとファリンの描写である。

第8話「木苺/焼き肉」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

“いい感じの棒”を振り回し,バッタを追いかけ,木苺を頬張るファリンの“奇行”に,「学校はじまって以来の才女」マルシルは戸惑いの表情を見せる。〈マルシル=才女/ファリン=自然児〉というキャラの〈対比〉がここに生まれている。天真爛漫なファリンの所作が丁寧にアニメートされており,キャラの魅力を的確に伝えている。

第8話「木苺/焼き肉」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

ファリンがフードから手紙を出すカット。ポージングや所作芝居などが,ファリンの“ふしぎちゃん”要素をうまく表現している。原作にはないカットだが,ファリンのキャラを的確に要約した優れたカットだ。

第8話「木苺/焼き肉」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

突然現れたスライムを魔法で焼き払おうとするマルシル。ダンジョンの生態系においてスライムの存在が必須であることを知るファリンは,マルシルを必死に止めようとする。〈マルシル=座学/ファリン=実地〉という〈対比〉が生まれる。ちなみにこの対比は〈マルシル/センシ〉という〈対比〉にも対応する。この世界におけるダンジョンの秘密にも深く関わるキャラ配置であると言える。

第8話「木苺/焼き肉」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

ファリンがくれた木苺をほおばるマルシル。自分の勉強不足を素直に認め,自分にないものを持つファリンに惹かれていく様子は,マルシルというキャラの爽やかな柔軟性を感じさせる。木苺を食べた時の小さな「おいしい」は,本作におけるマルシルの「おいしい」の原点なのかもしれない。ここで登場したダンジョンを含め,『ダンジョン飯』という作品の“ミニチュア”のようなシークエンスである。

第8話Bパートでは,ウンディーネ登場以降の作画が特に目を引く。

第8話「木苺/焼き肉」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

第7話から第8話Aパートまで続いた柔らかい描線から,シビアな描線へと俄かに一変する。特にウンディーネと戦うマルシルの作画は,これまでと比べて顔の造作やプロポーションにも大きな違いが見られる。本記事冒頭の満面の笑みのマルシルと比べれば,その違いが明らかだろう。魔力を帯びた水からの光によって影が濃く出た表情も,シーンの深刻さにマッチしている。

AパートとBパートの間で作画の〈対比〉が生まれ,話数全体の中で大きなメリハリがついている。こうした作画の変化を嫌う向きもあるため,それなりにリスクのある演出ではあるが,考えてみれば同じ作品でキャラの相貌が変化するというのはアニメならではの技法なのだ。“味変”ならぬ“作変”を楽しむのもアニメの醍醐味と言っていい。

第8話「木苺/焼き肉」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

ちなみに上の画像左(ウンディーネに魔法を放つマルシル)は第3話「動く鎧」で絵コンテを手がけた菅野一期の原画,右(ウンディーネから逃げるライオス一行)は当ブログでも常連となった五十嵐海の原画だ。菅野の描線が戦闘のシビアさを伝え,五十嵐がそれをダイナミックに崩す。2人のコンビネーションが活きている。

 

作画の統一感を狙った第7話と,Bパートで統一からの逸脱を狙った第8話。この2つの話数自体が相互に〈対比〉の関係になっているとも言える。こうした話数間の連携も面白い。『ダンジョン飯』はTRIGGERの豊富な技の手数を楽しめる作品でもあるのだ。

この素晴らしい話数に参加されたすべての制作者に拍手を。

 

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Twitterアカウントなど

【スタッフ】
原作:九井諒子/監督:宮島善博/シリーズ構成:うえのきみこ/キャラクターデザイン:竹田直樹/モンスターデザイン:金子雄人/コンセプトアート:嶋田清香/料理デザイン:もみじ真魚/副監督:佐竹秀幸/美術監督:西口早智子錦見佑亮(インスパイア―ド)/美術監修:増山修(インスパイア―ド)/色彩設計:武田仁基/撮影監督:志良堂勝規(グラフィニカ)/編集:吉武将人/音楽:光田康典/音楽制作:KADOKAWA/音響監督:吉田光平/音響効果:小山健二(サウンドボックス)/録音調整:八巻大樹(クラングクラン)/アニメーションプロデューサー:志太駿介/アニメーション制作:TRIGGER

【キャスト】
ライオス:
熊谷健太郎/マルシル:千本木彩花/チルチャック:泊明日菜/センシ:中博史/ファリン:早見沙織/ナマリ:三木晶/シュロー:川田紳司/カブルー:加藤渉/リンシャ:高橋李依/ミックベル:富田美憂/クロ:奈良徹/ホルム:広瀬裕也/ダイア:河村螢/シスル:小林ゆう

 

【第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」スタッフ】
脚本
佐藤裕/絵コンテ:宮島善博/絵コンテ協力:佐竹秀幸竹田直樹清田千萌大井翔演出:中野広大/総作画監督:竹田直樹/作画監督:芳垣祐介,半田修平,竹田直樹/作画監督補佐:波賀野義文千葉一希/モンスター作画監督:金子雄人

原画:米田温曾品喬蔣平翊長谷川哲也折原貴志芳垣祐介三木達也渡部由紀子中務泰山千田崇史森美咲黄志龍大谷彩絵宇田早輝子頼志青堀尾鉱土肥志文齋藤拓矢林可爲児玉莉乃蔡孟書翁靖翔范言新岩崎洋子はるき真野佳孝佐竹秀幸関みなみ大成麻子仁井宏隆山口杏奈氷室陽小林優子伊藤公景すしお山口美衣大井翔川窪達郎丹羽弘美

【第8話「木苺/焼き肉」スタッフ】
脚本
樋口七海/絵コンテ:米森雄紀演出:下平佑一/総作画監督:竹田直樹/作画監督:郡安俊兵佐藤皓宏/モンスター作画監督:金子雄人

原画:荒井洋紀波賀野義文郡安俊兵ベラスNogya岩崎洋子菅野一期五十嵐海林可爲横山麻華川窪達郎佐藤皓宏はるき安部葵山口美衣岩渕いづみ大井翔森美咲鄭佳湄

 

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2024年 冬アニメ 中間評価[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の現時点までの話数の内容に言及しています。未見の作品を先入観のない状態で鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

 

ついこの間,年が明けたばかりだと思っていたのだが,気づけば2月も終わろうとしている。2024年冬アニメもほとんどの作品がクール半ばまでの放送を終えた。ここで当ブログ独自の観点から注目の作品を振り返っておこう。これまで通り五十音順に(ランキングではないことに注意)注目作品をいくつか取り上げる。

なお「2024年 冬アニメは何を観る?」の記事でピックアップした作品は,タイトルをにしてある(2クール連続放送の作品に関しては,前クールの「何を観る?」でピックアップしたものは水色にしてある)。

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1. 『アンデッドアンラック』

undead-unluck.net

【コメント】
この世界の成り立ちの“解答編”となった「#18 Cry For The Moon」以降,物語は俄かに加速し,面白さがいや増している。そして前クールから続いて,スタイリッシュな画作りと小気味の良い演出が光る。本作はアニメ化されることによって,「アクション」という枠に収まらないユニークな“剰余価値”を得ていると言ってよいだろう。前クールと同じく,紺野大樹が手がけたEDアニメーションも注目に値する。

 

2. 『薬屋のひとりごと』

kusuriyanohitorigoto.jp

【コメント】
主人公・猫猫のキャラが前クール以上に魅力的に描かれている。基本は“地味でマイペースな秀才”だが,時にコケティッシュな美少女ぶり,時に壬氏をもたじろがせるほどの凄みを見せる。この多面的な猫猫のキャラを,繊細なアニメーション悠木碧の演技華美な色彩などで表現したことが,本作のアニメ化における最大の評価ポイントと言えるだろう。物語はキーパーソン・羅漢の登場と「#19 偶然か必然か」における衝撃的な展開を迎え,新たな様相を呈している。

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3. 『葬送のフリーレン』

frieren-anime.jp

【コメント】
ファンタジー世界を仮構しながらも,「がらくた」「くだらない」「実在」という〈日常的リアリズム〉をライトモチーフにした本作。撮影監督・伏原あかねによって「薄化粧」に施された撮影処理は,この〈日常的リアリズム〉を確かなビジュアルとして成り立たせている。“引き算”も“計算”のつ1つであるということを改めて実感させられる。また,前クールからすべての話数で作画・色彩・芝居などのクオリティが維持されており,それだけでも十分評価に値する作品と言える。

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4. 『ダンジョン飯』

delicious-in-dungeon.com

【コメント】
「2024年 冬アニメは何を観る?」の記事でイチオシとして挙げた作品。原作の持ち味をキープしつつ,随所で“TRIGGERらしさ”を出すという,多くのアニメファンの期待に応えた秀作だ。第3話「動く鎧」のようにTRIGGERの持ち味を全面に押し出した話数から,第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」のようにキャラの魅力をしっかりと伝えた話数など,演出の手数が多いのも見どころだ。原作ファンからコアなアニメファンまで幅広く楽しめる作品に仕上がっている。

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5.『姫様“拷問”の時間です』

himesama-goumon.com

【コメント】
「何を観る?」では挙げなかったが,「EPISODE #01」がとてもよかったため視聴開始。“ゆるい(というよりむしろ“優しい”)拷問の日々”という敢えてのマンネリと,姫様vs魔王軍という対立構図を用いながら誰一人“悪者”がいないという優しい世界観が面白い。アニメーションとしても見どころが多い。金森陽子監督のディレクションによって原作よりも柔らかい印象に仕上がっていると感じられるが,この点も原作の持ち味を活かす結果になっている。

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6. 『ぶっちぎり?!』(オリジナル)

bucchigiri.jp

【コメント】
今期のオリジナルアニメの期待株。一切隙のない美麗なキャラ作画,細密な美術,ヴィヴィッドな色彩といったビジュアル面での作り込みに加え,ヤンキーもの×「千夜一夜」のモチーフという取り合わせが面白い。前作『SK∞』(2021年)と並んで,内海紘子監督の独創性が発揮された快作だ。内海の個性が見えてきたところで,幾原邦彦監督などと同様,彼女には今後も質の高いオリジナル・アニメを作り続けてもらいたいと思う。

 

7. 『僕の心のヤバイやつ』

bokuyaba-anime.com

【コメント】
ラブコメ設定をベースに中学生の心の機微を巧みに描いた秀作。特に牛尾憲輔の劇伴きつめに効かせた撮影処理と色彩設計堀江瞬と羊宮妃那の演技によって,市川と山田の心理を極めて解像度の高い描写で描き出すことに成功している。また,荒木哲郎の手がけた第2クールOPアニメーションのクオリティも高く,本作の世界観に大きく貢献している。『からかい上手の高木さん』(2018年-)などと並び,“中学生ラブコメ”の代表作となるポテンシャルを秘める。

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以上,「アニ録ブログ」が注目する2024年冬アニメ7作品を挙げた。

『アンデッドアンラック』『薬屋のひとりごと』『葬送のフリーレン』『僕の心のヤバイやつ』といった続きもののクオリティが目だったクールだが,そんな中『ぶっちぎり?!』のようなオリジナルアニメが健闘しているのが注目に値する。クール後半の話数にも期待したい。

最終的なランキング記事は,全作品の放映終了後に掲載する予定である。

 

2024年 冬アニメOP・EDランキング[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の内容に部分的に言及しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

『僕の心のヤバイやつ』第2クールOPアニメーションより引用 ©︎桜井のりお(秋田書店)/僕ヤバ製作委員会

今回の記事では,現在放送中の2024年冬アニメの中から優れたOP・EDを紹介しよう。タイトルの下にノンクレジットの映像を引用してあるので,ご覧になりながら記事をお読みいただければ幸いである。なお,通常のランキング記事と同様,一定の水準に達した作品を取り上げるため,ピックアップ数は毎回異なることをお断りしておく。

 

6位:『アンデッドアンラック』第2クールED


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【コメント】
第1クールED に続き,OPEDの名手・紺野大樹がアニメーションを担当している。女郎蜘蛛,吊り橋のかかる渓谷,そこに佇む風子。季節は陽光豊かな夏のようだが,まもなく早送りのように秋へと移り変わる。ヴィクトルとジュイスが雪の降り頻る白の世界で寄り添う一方で,アンディと風子は彩り豊かな秋の山中を長閑に散策する。イメージの連鎖は暗示的だ。紺野の独創的な感性と描写力が光る。

『アンデッドアンラック』第2クールEDアニメーションより引用 ©︎戸塚慶文/集英社・アンデッドアンラック製作委員会

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出・作画・背景・仕上げ:紺野大樹

【主題歌】OKAMOTO'S「この愛に敵うもんはない」
作詞:オカモトショウ作曲:オカモトショウ,オカモトコウキ/編曲:OKAMOTO'S

 

5位:『薬屋のひとりごと』 第2クールOP


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【コメント】
アニメーション担当は『四月は君の嘘』(2014-2015年)『サイダーのように言葉が湧き上がる』(2021年)などのイシグロキョウヘイ。猫猫の裏面としての“妖艶”を強調した第1クールOPとは打って変わって,第2クールOPでは後宮の穏やかな日常をメインに映し出している。特に前半の仕掛け絵本風の構図で切り取った日常風景が面白い。主題歌「アンビバレント」を歌うUruの柔らかい歌声もこの描写によく合っている。一方,第2クールの“裏のキーパーソン”である羅漢花の枯死のイメージと重ね合わせるなど,物語の仄暗い裏面も盛り込みつつ,陰と陽のコントラストを生み出している点も評価に値する。

『薬屋のひとりごと』第2クールOPアニメーションより引用 ©︎日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:イシグロキョウヘイ/作画監督:中谷友紀子

【主題歌】Uru「アンビバレント」
作詞:Uru /作曲:YAS編曲:田上隼人

 

4位:『ぶっちぎり?!』ED


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【コメント】
“オリジナル・アニメ” の名に違わず独創性に富んだ『ぶっちぎり?!』。キャラ名などから分かる通り,この作品は『千夜一夜物語』をモチーフとしているが,EDではその要素をキャラの服装や美術によってヴィヴィッドにビジュアル化しつつ,本編に劣らずとてもユニークな画作りを行っている。極度のブラコン・まほろをメインキャラに,彼女に言い寄る男たちが袖にされていくというストーリー仕立てで,まほろのコケティッシュな魅力が全面に押し出されている。兄・摩利人のいないカットではほぼ無表情というキャラ付けもいい。甲田まひる「らぶじゅてーむ」とのマッチングも絶妙。中毒性の高い楽曲が本作のスパイスとして効いている。

『ぶっちぎり?!』EDアニメーションより引用 ©︎「ぶっちぎり?!」製作委員会

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ:内海紘子演出:鴨居知世/キャラクターデザイン・総作画監督:ちゃまこう/作画監督:堀江由美

【主題歌】甲田まひる「らぶじゅてーむ」
作詞:甲田まひる/作曲:甲田まひる野村陽一郎 /編曲: 野村陽一郎

 

3位:『葬送のフリーレン』第2クールOP


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【コメント】
第1クールOPと同様,本編に登場するキャラクターを紹介していくというスタイルのアニメーション。上品だが豊かな色で彩られた景色やキャラクターが次々と現れては消えていく。単なる人物紹介を超えたアート性を持った画作りだ。

『葬送のフリーレン』第2クールOPアニメーションより引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

そして今回のOPで何と言っても魅力的なのは,ヨルシカの主題歌「晴る」のアソシエーションだ。「ハル」の音で「春」を,そしてヒンメル(Himmel:天空)ハイター(Heiter:快晴の)といったキャラ名を連想させつつ,本作の基調色である“スカイブルー”と共鳴する。楽曲もそれらのイメージと絶妙にマッチした清爽感がある。

『葬送のフリーレン』第2クールOPアニメーションより引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

気を衒わない優等生的な作りではあるが,それでいて“作品として伝えたいこと”を譲歩せずにしっかりと表現した優れたOPである。

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:斎藤圭一郎/総作画監督:長澤礼子/作画監督:瀬口泉

【主題歌】ヨルシカ「晴る」
作詞・作曲・編曲:n-buna

 

2位:『葬送のフリーレン』第2クールED


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【コメント】
誰かの墓標の前で独り横たわるフリーレン。幼いフェルンも同じように独り森の中に佇む。彼女の赤いリボンが宙に舞い,同じように赤いフリーレンの耳飾りが雫のように落下しながらフリーレンの身体を導く。赤い雫は赤いリボンに囲まれた“眼”の中に落ち,やがてそれはフリーレンがフェルンに贈った蝶の髪飾りに変化する。髪飾りから蝶が舞い飛び,森の中を彷徨う。フリーレンも同じように森の中を彷徨う。

『葬送のフリーレン』第2クールEDアニメーションより引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

やがてフリーレンは蒼月草と思しき花にとまる蝶を目にする。俄かに蝶は少女へと変わり,フリーレンと手を取り合う。少女はフェルンのようにも見えるし,天から舞い降りた天使か女神のようにも見える。

『葬送のフリーレン』第2クールEDアニメーションより引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

ラストカット。花畑に横になるフリーレン。しかし彼女はもはや独りではない。おそらく彼女の目には空が半分しか写っていないだろうが,おそらく彼女はそのことにとても満足しているはずだ。

『葬送のフリーレン』第2クールEDアニメーションより引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

フリーレンとフェルンの出会いを柔らかいタッチの絵と人形のコマ撮りによって描いた美しいアニメーションだ。これを手がけたのは村松怜那。彼女はTwitterでこのようにコメントしている。

寂しさを一切言葉や態度に出さないフリーレンの1000年の孤独を表現するのは無謀ですがその巨大な孤独の穴に,小さな煌めきを投げ込むような作品になっていたら嬉しいです。

フリーレンの悠久の孤独に煌めく火を灯したフェルン。二人の心情を豊かなイメージで表現した優れたアニメーションだ。

【アニメーションスタッフ】
ディレクター:村松怜那/作画・着色:鵜飼ゆめ/造形:秋葉尚子小田普音佐藤華音当真一茂(UchuPeople)

【主題歌】milet「Anytime Anywhere」
作詞:milet作曲:milet野村陽一郎中村泰輔/編曲:Evan Call

 

1位:『僕の心のヤバイやつ 第2期』OP


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【コメント】
今期のアニメを観ている人たちの間では満場一致でこの作品だろう,と思わせるほどの圧倒的なクオリティだ。

とにかく山田の可愛さ,市川の初々しさがいい。“綺麗な山田”をつい盗み見てしまう市川。その山田を文字通り美麗な作画でまとめているのも見事としか言いようがない。視聴者を市川と同じ目線にぐっと引き込む作画力だ。

『僕の心のヤバイやつ』第2クールOPアニメーションより引用 ©︎桜井のりお(秋田書店)/僕ヤバ製作委員会

しかし単に“山田が可愛い”だけでは済まないのがこのOPが優れる所以だ。

まず注目すべきは圧倒的な量の色彩だろう。多くのカットで彩度と明度の高い花々の色を取り入れ,二人の恋の多幸感を演出している。特に後半,山田と市川が公園で出会うシーンでは,ほとんど“桃源郷”かと思うほどにヴィヴィッドな色が飽和する。

『僕の心のヤバイやつ』第2クールOPアニメーションより引用 ©︎桜井のりお(秋田書店)/僕ヤバ製作委員会

その一方で,電線,自転車,自動販売機など,二人の目に映る都市のリアルな事物をさりげなく挿入し,コントラストを構成してくるところなども心憎い。情報量は多いが,引くところは引く。押し付けがましさがない。

『僕の心のヤバイやつ』第2クールOPアニメーションより引用 ©︎桜井のりお(秋田書店)/僕ヤバ製作委員会

この優れたアニメーションを手がけたのは,あの荒木哲郎だ。荒木と言えば,『甲鉄城のカバネリ』(2016年),WIT STUDIO時代の『進撃の巨人』(2013年の第1期から2018年の第3期まで),『バブル』(2022年)などの監督として知られる。ラブコメのイメージがあまりない作家だが,このOPアニメーションで手数の多さを見せつけたと言えるだろう。

『僕ヤバ』のOPに戻ろう。後半,市川の言葉で舞い上がった山田が,文字通り宙に舞い上がって疾走するシーンがある。

『僕の心のヤバイやつ』第2クールOPアニメーションより引用 ©︎桜井のりお(秋田書店)/僕ヤバ製作委員会

それまで“可愛らしさ”という静的・平面的なフレームで捉えていたヒロイン・山田を敢えて背後から追い,飛躍・疾走・前進という立体感と奥行きのあるフレームで捉える。この辺り,さすが“『進撃』の立体機動アニメーションを産んだ男”という印象を抱かざるを得ない。円形のステージで踊る二人の周りをカメラが回り込んで写していくカットも面白い。

『僕の心のヤバイやつ』第2クールOPアニメーションより引用 ©︎桜井のりお(秋田書店)/僕ヤバ製作委員会

『僕の心のヤバイやつ』第2クールは,このOPのイメージの貢献度が極めて高いと言える。OP・EDアニメーションの意義を改めて感じさせる傑作だ。

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:荒木哲郎/総作画監督:勝又聖人瀬川健寿/作画監督:田中紀衣

【主題歌】あたらよ「僕は…」
作詞:ひとみ作曲:ひとみ/編曲:まーしー

 

以上,当ブログが注目した2024年冬アニメOP・ED6作品を挙げた。冬アニメも折り返し地点に差しかかっているが,今後の鑑賞の参考にしていただければ幸いである。

 

 

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『葬送のフリーレン』フリーレン〈キャラ(クター)〉考察

*この記事はネタバレを含みます。

『葬送のフリーレン』公式HPより引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

伝統的なファンタジーの舞台設定を用いつつ,穏やかな日常風景と細やかな心の機微を描く『葬送のフリーレン』。その独特な世界観を解釈するに当たって,主人公フリーレンのキャラ(クター)理解は不可欠である。今回の記事では,フリーレンの〈猫〉〈ずぼら〉〈オタク〉〈時間感覚〉といった成分に注目しつつ,このキャラ(クター)のユニークネスを分析したいと思う。

なお,本記事における〈キャラ〉〈キャラクター〉という用語に関しては,以下の記事を参照頂きたい。

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〈キャラ〉としてのフリーレン

〈エルフ〉成分

〈キャラ〉としてのフリーレンは思いのほか多義的である。その基底を成しているのは言うまでもなく“エルフ”の造形だが,そこに様々な成分が加わることにより,豊かで魅力的なキャラに仕上がっている。

ちなみに歴史的に見ると,エルフのイメージは必ずしも一様ではない。その最古の記述は北欧神話に見られるが,そこではある種のアニミズム的な神霊として理解されていたようだ。その後,ヨーロッパ各地に伝承が伝播していく中で,エルフは多様な姿でイメージされるようになり,イングランドの民間伝承などでは妖精と同一視されることもある。

現代のファンタジー作品における“固有種”としてのエルフイメージを確立したのは,J・R・R・トールキン『指輪物語』(1954-1955)と言われている。“美しく聡明で,人類よりも優れた長命の種族”として描かれるエルフは,今日一般的に抱かれるイメージにかなり近いと言える。

さらにフリーレンのトレードマークでもある“長く尖った耳”に関しては,『ロードス島戦記』(1988-1993年)のイラストとして出渕裕がデザインしたディードリットが嚆矢とされている。*1

左:『新装版 ロードス島戦記 灰色の魔女』カバーイラスト ©︎1988, 2013 Ryo Mizuno, Yutaka Izubuchi, Group SNE/右:「#01 冒険の終わり」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

この〈エルフ耳〉に加え,〈白髪〉〈色白〉〈魔法使い〉〈長寿〉など,フリーレンを構成している要素の多くが主に現代日本のファンタジーの想像力の中で徐々に定着していったものだ。その意味で,フリーレンの基本的な造形は典型的なエルフ成分で出来上がっていると言ってよい。これによりフリーレンの特徴が読者・視聴者に瞬時に伝達されるため,主人公キャラへの“導入”としてうまく機能していると言える。

 

〈猫〉成分

一方,フリーレンのキャラに〈猫〉要素が加味されている点も見逃せない。トールキン・エルフの〈長身〉や出渕・エルフの〈痩身〉といったイメージと異なり,フリーレンは他のキャラと比べて低身長で,ややふんわりとした体型で描かれている。

左:原作『葬送のフリーレン①』,p.15,小学館,2020年 ©︎Kanehito Yamada 2020 Tsukasa Abe/右:原作『葬送のフリーレン⑦』,p.161,小学館,2022年 ©︎Kanehito Yamada 2022 Tsukasa Abe

ちなみに当初,原作では比較的キリッとしたデザインで描かれていたが,巻数が進むにつれ顔の輪郭や眼の造形が丸みを帯び,全体的にふわっとした猫風味の印象に変わっている。アニメのフリーレンは後者のデザインに基づいていると推測される。

“二次元美少女”は猫の顔を元にしていると言われるほど,現代の少女キャラ造形と猫のイメージの親和性は高い。他の動物と異なり,猫の両目は前を向いており,頭部が丸く額が大きい。これらの特徴が人間の赤ん坊と類似していることが,人間が猫に特別な愛着を抱くようになった原因だと指摘する説もある(同じことはパンダのような動物にも当てはまる)。 *2 猫の造形をどこまで意識しているかは描き手によるだろうが,二次元描写の歴史において模倣と引用が繰り返される中で,猫そのもの,あるいは少なくとも猫的な愛らしさというものが文化的無意識の中に蓄積していったことは間違いないだろう。

一方,アニメ『フリーレン』では,意識的にフリーレンを〈猫〉的に描ている描写もある。

「#12 本物の勇者」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

「#12 本物の勇者」でフリーレンがフェルンに「服だけ溶かす薬」を自慢するシーン。フリーレンがベッドから飛び降り,“がらくた”の詰まった鞄から薬をとりだす。手や顔の表情や動作は,明らかに猫の軽やかな愛らしさを意識的に取り入れている。

フリーレンはどの人類種よりも年齢を重ねているため,フェルンやシュタルクに対し「お姉さん」的な振る舞い方をしようとする(場合によってはシュタルクに「クソババァ」と言われてしまう)のだが,上記のような〈猫〉的な少女性のために,マスコット的なイメージが常に付きまとってしまう。〈長寿〉という設定と〈猫〉性の按配が絶妙だ。この辺りのキャラ特性は,グッドスマイルカンパニーの「ねんどろいど」シリーズなどとも相性がいい。今後の話数進行に伴い,様々な形でグッズ化が展開されていくと予想される。

 

〈ずぼら〉成分

また〈ずぼら〉というキャラ成分も面白い。特にフェルンとの関係においてそれがはっきりと現れている。フリーレンはフェルンに対し“育ての親”および“魔法の師匠”という立場である一方,そのずぼらな性格のため,母娘関係が逆転する場面が多い。戦闘では常に冷静で他の追随を許さない圧倒的な力を見せつけるが,日常風景ではフェルンにだらしのない生活を嗜められることが多い(そしてそれがフェルンというキャラの構成にも一役買っている)。

「#04 魂の眠る地」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

トールキンの『指輪物語』では人類よりも優れた種族として描かれていたエルフが,今や〈ずぼら〉な〈猫〉少女としてアニメ作品の中に顕現し,他の人物との関係性の中で豊かなキャラとしてその魅力を放っている。キャラ表象の歴史の中でもたいへん興味深い事象と言えるだろう。

 

〈オタク〉成分

フリーレンは魔法を集めるのが趣味である。というより〈魔法オタク〉である。「魔法」と名のつくものなら何でも興味を持ち,たびたびフェルンたちを呆れさせる。周囲のことに無頓着な収集癖キャラというのは,現代のオタク像にとても近い。エルフという架空の存在でありながら,僕らにとって身近でリアルな実像を持った存在としてこちらに迫ってくる感がある。この“近さ”もフリーレンというキャラの魅力だ。

左:「#01 冒険の終わり」/中・右:「#06 村の英雄」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

こうしたフリーレンのオタク的収集癖は,アイゼンに「くだらん」と一蹴されてしまう。しかし後述するように,この〈くだらなさ〉がフリーレンのキャラクターをも構成し,かつ物語のテーマとも深いつながりを持つのである。

 

種﨑敦美の成分

こうした多層的なフリーレンのキャラにさらに命を吹き込んだのが,種﨑敦美である。種﨑は非常に多彩な声優だ。『SPY×FAMILY』では,喜怒哀楽をわかりやすく表出するアーニャというキャラを演じている。アーニャは「人の心を読む」という特殊能力を持っているが故に,そのキャラ構成において「心」は当然理解可能なものとして設定されている。一方,人の感情に無頓着なフリーレンは,「心を読む」ことが苦手だ。当然,自分の感情を表に出すこともあまりない。その意味でアーニャとフリーレンは対極にあるキャラである。そのキャラの両極を種﨑は見事に演じ分けている。

フリーレンは人の感情に無頓着だとは言え,冷酷で無感動なわけではない。特にヒンメルの死後は,人の心を理解しようと様々な人と関わり合い理解しようとする。種﨑は比較的地声に近いと思われるピッチで抑揚を抑え,“マイペース”なフリーレンをキープしつつ,彼女の心の機微や変化を演じている。これには相当のキャラ理解と表現技術が必要だろう。フリーレンというキャラ造形において,種﨑の貢献度は極めて高い。フリーレンが彼女の代表作となることは間違いないだろう。

 

〈キャラクター〉としてのフリーレン

メトロノーム

本作は放送当初から「ゆっくりとした時間が流れている」という感想が散見されたが,それはフリーレンの内的時間感覚と無関係ではない。フリーレンは人類種よりもはるかに長命であるため,日頃の時間感覚も人類よりゆったりとしている。アニメでは,余白を豊富に使った構図やEvan Callの穏やかな劇伴などによって, 彼女の壮大で穏やかな悠久の時を表現している。

左:「#02 別に魔法じゃなくたって…」/中:「#16 長寿友達」/右:エンディングアニメーションより引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

また,しばしば挿入されるゆっくりとした歩行のシーンも特徴的だ。冒険者パーティというより,まるでピクニックに出かける家族のように見えることも多い。ゆったりとした歩行シーンはエンディングアニメーションにも用いられている。それは作品全体の時間リズムを規定し,フリーレンの内的時間と同期しているように思える。

フリーレンはかつてヒンメルの誘いに応じ,人類種とのパーティを組む決意をした。ヒンメルの死後も,ハイターやアイゼンの求めに応じてフェルンやシュタルクらと旅を共にする。ここで〈エルフの時間〉と〈人類の時間〉が触れ合う。決定的に重要なのは,フリーレンを主人公に据えたことにより,人類のパーティの中に長命のフリーレンが例外的に存在しているというよりは,長命のフリーレンの目線で短命な人類を見るという構成になっている点だ。フリーレンは一人のキャラクターであると同時に,この作品の舞台設定の尺度にもなっているのである。

 

くだらないもの

フリーレンの内的時間感覚は作品世界のメトロノームとして機能し,その尺度との差において,短く刹那的な人類の実存が描かれる。しかしフリーレンはそんな短命種の人類を外部から無関心に“観察”するのではない。すでにヒンメルたちとの冒険の旅路の中で,短いがかけがえのない生時間の中で懸命に生きる人々の日常が彼女の目に映っていたはずだ。ヒンメルの死後,フリーレンは人類種の生時間の中に入り込み,そこで人類種と関わり,共にかけがえのない日常を送ることの価値を再認識する。そもそもあの無数の「くだらない」魔法も,彼女が孤独に収集している限りでは何の面白味もないだろう。人類という他者がいるからこそ,その「くだらなさ」を実感し味わうことができるはずなのだ。この作品は〈ファンタジー〉という構えをとっていながら,その本質は〈日常系〉作品に近い。そうした世界観・価値観を規定しているのが,フリーレンというキャラ(クター)なのである。

 

フリーレンというキャラ(クター)を知ることは,『葬送のフリーレン』という作品を解釈することに等しい。本記事を下敷きとして,第1期終了後に正式なレビュー記事を掲載する予定である。

 

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:山田鐘人(原作)・アベツカサ(作画)/監督:斎藤圭一郎/シリーズ構成:鈴木智尋/キャラクターデザイン・総作画監督:長澤礼子/音楽:Evan Call/コンセプトアート:吉岡誠子/魔物デザイン:原科大樹/アクションディレクター:岩澤亨/デザインワークス:簑島綾香山﨑絵美とだま。長坂慶太亀澤蘭松村佳子高瀬丸/美術監督:高木佐和子/美術設定:杉山晋史/色彩設計:大野春恵3DCGディレクター:廣住茂徳/撮影監督:伏原あかね/編集:木村佳史子/音響監督:はたしょう二/アニメーション制作:マッドハウス

【キャスト】
フリーレン:
種﨑敦美/フェルン:市ノ瀬加那/シュタルク:小林千晃/ヒンメル:岡本信彦/ハイター:東地宏樹/アイゼン:上田燿司

 

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TVアニメ『ダンジョン飯』(2024年冬)第3話の演出について[考察・感想]

*この記事は『ダンジョン飯』第3話「動く鎧」のネタバレを含みます。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

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TRIGGER初のマンガ原作アニメとして注目される,九井諒子原作/宮島善博監督『ダンジョン飯』。すでに評価の定まった名のある原作をベースとしつつも,TRIGGERらしい躍動感を加味した優れた作品だ。今回の記事では,菅野一期が絵コンテ,中野広大が演出を手がけた第3話「動く鎧」を見てみよう。

 

躍動

TRIGGERと言えば,『キルラキル』(2013-2014年)『宇宙パトロールルル子』(2016年)『プロメア』(2019年)など今石洋之の作品を中心に,吉成曜『リトルウィッチアカデミア』(2017年)や雨宮哲『SSSS.GRIDMAN』など,ダイナミックでスタイリッシュなアニメーションを繰り出してきた制作会社である。オリジナルかほぼそれに近い形式での作品制作が多いため,それぞれの監督の個性が全面に押し出される点にも特徴がある。そのTRIGGERが,マンガ原作という,少なくともビジュアル面ではベースが確定してしまっている作品においてどう“らしさ”を発揮するのか。この点に多くのアニメファンが注目していた。

第1話と第2話にも“らしさ”の片鱗は見えていたが,比較的慎ましやかだったように思う。ところ第3話では,それがかなり明確な形で打ち出されていたと言える。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

まず個人的に注目したいのはAパート冒頭,チルチャックが仕掛けを操作して壁が開いた直後のカットだ。第1,2話と比べ,マルシル,チルチャック,ライオスの作画に柔らかいコミカルさがあるように感じられる(センシは普段通りのようではある…)。同時に,マルシルやチルチャックの姿勢の曲線などに“動き”の兆しを感じる。ほんの一瞬のカットだが,本話数のユニークネスを予兆しているようでもある。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

マルシルが魔法で灯りをつけるカット(左)と,ライオスの剣にまつわる回想に入る直前のカット(右)広角レンズで歪みを発生させている。特に右のカットでは,ライオスのドアップを中央に捉え,左右の“余白”に極端に小さくしたチルチャックとマルシルを配置しているのが面白い。優秀な剣士でありながら,どこかとぼけた変態っぷりを見せるライオスのキャラを上手く表している。

歪みということで言えば,ライオスが動く鎧の卵鞘を発見した後の回想シーンは格別だ。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

湯浅政明の身体表現を思わせるデフォルメオバケによるスピード感の表現,ダイナミックな背動によって,非常に躍動感のある回想シーンになっている。暖色系の色彩とも相まって,不思議な幻想感も感じられる印象的なシーンだ。

このシーンを手がけたのはあの五十嵐海だ。『リトルウィッチアカデミア』(2017年)『SSSS.GRIDMAN』(2018年)『BNA ビー・エヌ・エー』(2020年)など多くのTRIGGER作品で活躍してきた五十嵐だが,近年ではProduction I.G制作の『天国大魔境』(2023年)第10話の絵コンテ・演出が記憶に新しい。

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この『天国大魔境』第10話も,大胆なデフォルメや,作画担当の個性を全面に押し出したシーンなど,自由奔放な演出方針が話題となった話数だった。ちなみに作画@wikiの情報によれば,五十嵐は湯浅政明を好きなアニメーターとして挙げているらしい。彼の自由な表現力の出所はその辺りにあるのかもしれない。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

一度退却してから再突入後,センシが動く鎧と戦うカット。オバケ的な画が効果的に挿入され,大変スピード感のあるカットになっている。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

戦闘中に跳ね返ってきた動く鎧の兜をマルシルが杖でキャッチし,慌てふためいて投げ飛ばすシーン。マルシルの正面カットを高速で回転させ,兜視点であることを示している(「動く鎧が対象を視認する生き物である」というライオスの仮説にもつながる)。杖にはまった兜を振り回すマルシルの作画が面白い。TRIGGERらしい躍動感とワチャワチャ感がぎっしり詰まった優れたシーンだ。

 

構図

デフォルメやオバケを多用した躍動感のあるカットの一方で,この話数ではスタイリッシュな構図も目を引いた。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

チルチャックに加勢するセンシのシーン。背後のアオリ(及びあえての“パンチラ”)から正面のアオリへ。センシの股越しにチルチャックの顔を写した構図も面白い。この辺りもTRIGGERらしい切り取り方と言えようか。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

個人的にこの話数で一番好きなのは,マルシルが兜を投げ飛ばした直後のこのカットだ。大写しになったマルシルの杖の輪の部分が,センシとチルチャックを捉える“フレーム”のように機能している。センシの大鍋が輪の中央に配されているのも面白い。動く鎧との乱戦という状況の中に,一瞬,構図の均整が挿入される。静と動,秩序と混沌の配置が上手い。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

食事後,ライオスが「動く鎧の手つなぎ」が“交尾”だったことに気づくカット(ちなみにこの箇所は,原作単行本では巻末の「モンスターよもやま話」におまけエピソード的に置かれているものである)。冒頭のカット同様,広角カメラで歪みを発生させつつ,4人の呆れ顔をフカンで捉えている。マルシルとチルチャックの表情が面白い。先ほどの杖フレームのカットもそうだが,キャラクターの配置がとてもうまく,ほとんど絵画的とも言える“美しい”構図だ。

 

菅野一期と中野広大の技

この話数の絵コンテを手がけた菅野一期はTRIGGER所属のアニメーターだ。『プロメア』(2019年)『BNA ビー・エヌ・エー』(2020年)『SSSS.DYNAZENON』(2021年)『サイバーパンク エッジランナーズ』(2022年)『グリッドマン ユニバース』(2023年)などに参加した経歴を持つ。作画@wikiの情報によれば,先述の五十嵐海の影響を受けているらしく,『天国大魔境』第10話にも原画として参加している。『ダンジョン飯』で先輩の衣鉢を継いだというところだろうか。

『サイバーパンク エッジランナーズ』エピソード3「Smooth Criminal/裏稼業」より引用 ©︎2022 CD PROJEKT S.A.

演出の中野広大も『プロメア』『BNA ビー・エヌ・エー』『SSSS.DYNAZENON』『サイバーパンク エッジランナーズ』『グリッドマン ユニバース』と菅野と同様の制作参加経歴を持つ(ネット上に現在の所属情報はない)。参加作品数はまだ多くないようだが,菅野とともに今後の活躍が期待されるアニメーターだ。

その他,この素晴らしい話数に参加されたすべての制作者に拍手を。

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Twitterアカウントなど

【スタッフ】
原作:九井諒子/監督:宮島善博/シリーズ構成:うえのきみこ/キャラクターデザイン:竹田直樹/モンスターデザイン:金子雄人/コンセプトアート:嶋田清香/料理デザイン:もみじ真魚/副監督:佐竹秀幸/美術監督:西口早智子錦見佑亮(インスパイア―ド)/美術監修:増山修(インスパイア―ド)/色彩設計:武田仁基/撮影監督:志良堂勝規(グラフィニカ)/編集:吉武将人/音楽:光田康典/音楽制作:KADOKAWA/音響監督:吉田光平/音響効果:小山健二(サウンドボックス)/録音調整:八巻大樹(クラングクラン)/アニメーションプロデューサー:志太駿介/アニメーション制作:TRIGGER

【キャスト】
ライオス:
熊谷健太郎/マルシル:千本木彩花/チルチャック:泊明日菜/センシ:中博史/ファリン:早見沙織/ナマリ:三木晶/シュロー:川田紳司/カブルー:加藤渉/リンシャ:高橋李依/ミックベル:富田美憂/クロ:奈良徹/ホルム:広瀬裕也/ダイア:河村螢/シスル:小林ゆう

【第3話「動く鎧」スタッフ】
脚本:
佐藤裕/絵コンテ:菅野一期/演出:中野広大/総作画監督:竹田直樹/作画監督:菅野一期佐藤皓宏/作画監督補佐:五十嵐海/モンスター作画監督:金子雄人

原画:黒崎知栄実岩﨑洋子須藤瑛仁千葉一希MYOUN大井翔森美咲小林優子真野佳孝齋藤拓矢じゅら阿部慎吾すしお菅野一期五十嵐海米田温鄭佳湄千田崇史竹内哲也川窪達郎丹波弘美浅利歩惟大成麻子林可爲はるき鳴海陽太Nogya

 

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