アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

2026年 春アニメランキング[おすすめアニメ]

*この記事は各作品の内容に関する部分的なネタバレを含みます。未見の作品を先入観のない状態で鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

梅雨の湿度が身と心にまとわりつくようになった今日この頃。2026年春アニメも全ての作品の放送が終了した。今回も恒例通り,当ブログが視聴した2026年春アニメの中から,特にクオリティが高いと判断した11作品をランキング形式で振り返ってみたい。コメントの後には,作品視聴時のXのポストをいくつか掲載してある。今回は「中間評価」の記事でピックアウトしたものから多少の異同がある。

なお,この記事は当ブログの評価基準において「一定の水準を満たした作品を挙げる」ことを主旨としているため,ピックアウト数は毎回異なることをお断りしておく。

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11位:『クジマ歌えば家ほろろ』

kujima-anime.com

【コメント】
「中間評価」ではピックアウトしなかったが,最終話までの完成度の高さからランクインした。作画や芝居は極めてシンプルだが,クジマ役の神月柚莉愛の演技,劇伴,主題歌など音響面とのコンビネーションが巧みだった。何よりクジマという特異なキャラの作りがうまい。最終話が回想と点描で終わってしまったのは少々残念だが,作品全体の仕上がりの高さは評価に値するだろう。

 

10位:『ガンバレ!中村くん!!!』

nakamura-kun.love

【コメント】
この作品も「中間評価」では挙げなかったが,後半の話数の仕上がりを評価した。昭和レトロ風味のデザイン・作画,ED,コメディ要素などもたいへん魅力的だったが,やはり第12話で,中村くんの孤独を美しくも重厚な作画・演出で描いたことが最も評価に値する。ホモセクシャルの感情を閉じられた関係性の中で表現するのではなく,あえてヘテロセクシャルと付き合わせながら捉えている。コメディではあるが,セクシャリティと真摯に向き合った作品と言える。

 

9位:『ニワトリファイター』

www.niwatori-fighter.net

【コメント】
ついこの間まで『BanG Dream!』シリーズを制作していたサンジゲンが,劇画風ニワトリアクションアニメを手がける。この展開自体に面白味を感じてしまう。しかしそれ以上に,原作の持ち味であるニワトリの身体作画を再現した描画技術“鬼”というキャラクターを掘り下げたストーリーテリングなど,作品そのものの質の高さが評価できる作品である。ニワトリ×アクションという取り合わせは,一般受けするモチーフではないかもしれないが,春クールの中でも高いクオリティを示した作品であることは間違いない。

 

8位:『黄泉のツガイ』

yominotsugai.com

【コメント】
実直かつ過不足のない作画。無駄のない脚本。それはややもすると“無個性”になりがちなのだが,こと本作に関しては,アクの強すぎない演出がストーリーへの没入感を高めてくれたように思う。さらに言えば,キャラ作画の安定度やアクション作画の技巧などは,さすがボンズフィルムというべき水準の高さで,その点においては春クールの中でもトップレベルの仕上がりと言っても過言ではない。里山/都市という世界観の二重性や,ガブちゃんを中心としたキャラの二重性もたいへん面白い。連続2クール作品のため,夏クールも放映中である。

 

7位:『ドロヘドロ Season 2』

dorohedoro.net

【コメント】
第2クールではカイマンの謎に徐々に近づいていくわけだが,その過程においてカイマンと会川の“声”は重要な要素である。その意味で,高木渉/木村昴のキャスティングの妙には拍手を送りたい。全く別の声でありながら,互いに“彷彿とさせる”声質。アニメという媒体特性の1つを上手く活用した演出と言えるだろう。配信に限定し,グロ描写を徹底させたのも,この作品への向き合い方として適切だ。すでにSeason 3制作の報が出ている。今後の話数にも大いに期待したい。


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6位:『あかね噺』

akane-banashi.com

【コメント】
「岩先」というキャラクターの役回りがとても面白い。落語とは無縁の“固い”世界の中に生きていた彼女が,あかねの直向きな姿に触れたことで徐々に心を開いていく。あかねの成長へのきっかけを与えながら,自分自身も成長していく。落語という世界の外部の住人を呼び込んだことにより,風通しのよい爽やかなプロットになっている。第10話におけるあかねの圧倒的な力量,最終話の“茜色”の演出など,後半のドラマチックな演出も光った。また,主演の永瀬アンナの演技も素晴らしく,本作が彼女の代表作となることは間違いないだろう。2017年1月から続編の放送が決定している。


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5位:『春夏秋冬代行者 春の舞』

4seasons-anime.com

【コメント】
世界=システムに規定・利用されながら,セカイ=愛の関係へと自閉する。その愛は純粋でありながらも,どこか“壊れて”いる。そう見るならば,確かにこの作品はいわゆる“セカイ系”の後継なのかもしれない。しかしかつてのセカイ系のような重苦しい閉塞感はなく,終始,風薫る清涼な空気が感じられたのは,「春の舞」を描こうとした原作者・暁佳奈のセンスなのだろう。作画・演出・撮影・音響などあらゆる要素が,この愛と清涼を的確に描出していた。Orangestarの主題歌の貢献度も極めて高く,OP・EDと本編との関係を改めて考えさせてくれるきっかけとなった。続編の報は出ていないが,期待したいところだ。

 

4位:『とんがり帽子のアトリエ』

tongari-anime.com

【コメント】
原作の作画をアニメに落とし込む。細密・美麗な作画を最大の特徴とする本作にあって,この課題は相当にハードルの高いものであるはずだ。渡辺歩監督率いるアニメ班は,原作のビジュアル的情報量をアニメに適した程度に低減させながらも,芝居・色彩・美術・劇伴によって十二分に補完することに成功している。特に“優しい魔法”“生活に身近な魔法”をテーマとする本作にとって,丁寧な日常芝居と緻密な心理描写は欠かせない。大島克也が手がけた第3話,および川越一生が手がけた第5話などは,その点においてきわめてクオリティが高い。すでに第2期の制作の報が出ている。息の長い作品で,かつアニメも相当に高カロリーな作業を強いられていると思われるが,ぜひ最後までアニメ化を継続してもらいたいと思う。


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3位:『淡島百景』

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【コメント】
“アニメでしか表現できないこと”は何だろうか。派手なアクションや美しいファンタジー世界だろうか。確かにそれもある。しかし『淡島百景』という作品は,アニメでしか語れない“闇”を描いた。アニメだからこそ表現できる“悔悛”を描いた。無論,これを実写映画やドラマでやれば,それなりの“闇”と“悔悛”が立ち現れてくるだろう。しかしそれはアニメという媒体から生み出されるものとは異なるはずだ。シンプルな描線,柔らかい芝居作画,淡い背景美術。こうしたものが基調を成すからこそ,そこに潜む暗部がいっそう際立つ。
複数の視点,複数の時代が交錯する複雑な構成ではあるが,あらゆる場面に“華麗なる世界の暗部”というライトモチーフを偏在させている。そして最終的には,美の中に闇を見出し,闇と共に光を示すことで,未来へと繋げていく。アニメでありながら,文学作品を読むかのような趣きが感じられる作品だった。
すべての時代を通して演じた声優陣の演技も素晴らしかった。特に第11話における,伊吹桂子役・恒松あゆみの演技は,人生の終末とかつての時を接続しながら,彼女の“悔悛”の心情を見事に伝えていた。
総じて,アニメ媒体の可能性を示した傑作と言えるだろう。

 

2位:『日本三國』

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【コメント】
とにかく第1話の導入が素晴らしかった。そしてそれがこの作品にとって最適解だったのかもしれない。最愛の妻・小紀の首に真っ直ぐ続く“血の道”。そこに手をつき宿敵・平殿器に直願する青輝。戦国物語のカリカチュアである本作は,必然的に人・組織・国同士の関係性が煩雑になるわけだが,それでも視聴者の“心”を捉えるのは,青輝が常に「小紀=先=未来」を見据えているからだ。“血の道”の演出は,そんな青輝の直向きな眼差しを視聴者に強く印象づける効果を持っていたと言える。
世界観や設定の背後に,人の“感情”がある。“感情”を伝えるためにこそ,世界観や設定がある。理想的なストーリーテリングだと思う。大掛かりなアニメオリジナル演出は第1話のみだったが,その後も,第7話の殿継の柔らかな表情作画,第8話の桜虎の弓,第10話の青輝の芝居など,小規模だが的確なオリジナル演出を盛り込むことで,原作に内在する感情を伝えていた。そしてその一方で,キャラクターデザインや構図などの点では,驚くほど原作に忠実だったことも本作の特徴だ。設定と感情,忠実と独創。原作付きアニメのあり方として,1つの理想的な解を提示した作品と言える。
現時点で続編の報はないが,物語はまだまだ続く。ぜひとも最後までアニメ化を実現してほしい作品である。

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1位:『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』

『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

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【コメント】
「何を観る?」の記事でイチオシとして挙げた作品。正直,2位の『日本三國』と大いに迷ったのだが,“アニメーションとしての演出を重視する”という当ブログの方針に従って,最終的に本作を1位と決定した。
評価の要点は,やはり各話の演出家に采配を委ねた演出方針だ。銀さん演出の第3話は,その傾向が最もわかりやすい形で出ていた話数だ。構図などは比較的原作に忠実なのだが,デザイン,「原動画」の手法,シャフト的演出などによって,特にルックの面で他の話数とは一線を画す存在感を放っていた。逆に戸澤俊太郎副監督が手がけた第4話と第5話などは,特殊な構図でカメラの“実在”を浮き立たせ,〈見る=覗く〉という行為を視聴者に自覚させる手法をとっていた。どちらも,作画や演出を“統一”する演出方針であれば実現し得なかった技である。
そして本作を1位とするに当たって決定打となったのは,マニフィ・シンガー・メル(?)と菅原尚が手がけた第11話であった。ジンランの主観的時間体験,ぼたんいぶきの心の距離感,あかねの未来投企を,的確なカメラワークやロケーションで表現し得ていた。言葉ではなく,絵で語る。アニメという媒体が成すべきことを成す。この話数には,そして『上伊那ぼたん』という作品には,そうした気概が感じられたのである。
個人的にも,ここまでアニメの作画・演出について考えさせられたのは久しぶりかもしれない。そして,アニメの作画・演出がキャラクターの心情にここまで寄り添えることに感動したのも久しぶりかもしれない。制作会社ソワネにとって,本作が代表作の1つになることは間違いないだろう。続編の報を待ちつつ,この素晴らしい作品を創造した“神々”の栄光を讃えたい。

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● その他の鑑賞済み作品(50音順)
『氷の城壁』『MAO』『魔法の姉妹ルルットリリィ』『マリッジトキシン』『Re:ゼロから始める異世界生活 4th season』

 

以上,当ブログが注目した2026年 春アニメ11作品を紹介した。

第1位の選出に関しては,ひょっとすると一般の評価とは違うかもしれない。しかし当ブログでは,単純に面白いかどうか,原作に忠実かどうかといったことよりも,アニメという媒体そのものの可能性を問いたいのだ。『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』は,1作品の中で様々な作画・芝居・演出の可能性を示してくれたという点で,積極的に評価すべきと判断した次第である。
アニメは,実写映画など他の媒体とどう違うのだろうか。時間性か。カメラについての考え方か。“描く”という行為によるリアリズムの捉え方か。ロトスコープはどうか。日常芝居の意味は。『鬼滅の刃』など,作画も演出も“整理”された作品を観ているとき,こうした問いは影を潜めてしまうように思う。逆に『上伊那ぼたん』の ような作品を観ると,アニメという媒体への問いを意識的に問い返してみたくなるのだ。僕はそんな作品との出会いを望んでいる。

さて,次のクールではそんな稀有な作品に巡り会えるだろうか。

 

2026年 夏アニメのおすすめに関しては以下の記事を参照頂きたい。

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TVアニメ『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』(2026年春)第11話の脚本と演出について[考察・感想]

*この記事は『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』「第11話」のネタバレを含みます。

「第11話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

kamiina-botan.com


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塀原作/佐久間貴史監督『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』(以下『上伊那ぼたん』)各話レビュー第3弾として,今回は「第11話」を取り上げる。2つの〈時間〉の描出と,構造物を利用した心情描写。抽象的でありながら,キャラクターの心理をありありと伝えた演出が光る名話数だ。脚本は本作の「第3話」「第 7話」「第9話」を手がけた白坂英晃,絵コンテはマニフィ・シンガー・メル,演出は『アンデッドアンラック』(2023-2024年)などに参加経歴のある菅原尚である。その技を詳しく見ていこう。

 

実存的時間

時間は伸縮する。物理的相対性のことを言っているのではない。実存的相対性のことだ。人は時間を“客観的”に認識するときーーすなわち待ち時間の間に時計を見てしまうときーー,それを他者を媒介した抽象的な時間と捉える。自分ごとではないそうした時間は,空疎な延長を持ち,日本語の慣用句で言えば“潰す”対象,英語の慣用句で言えば“殺す”対象(kill time)となる。

「第11話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

しかし時間が自分の実存に関わるとき,いや実存そのものであるとき,人はその時間を本当の意味で“生きる”。そのとき時間は「20分」というような客観的で空疎な延長であることをやめ,様々な知覚と経験で満たされる。いわゆる“体感秒”という境地だ。

『上伊那ぼたん』第11話アヴァンにおけるジンランのカットは,そうした〈実存的時間〉の気分をよく伝えている。水彩風の絵は,この場面の時空間が彼女の内的世界であることを告げている。人々の雑多な声や隣にある水槽の音ですら,このときの彼女は楽しんでいる(上図・左)。彼女はこの間,スマホを弄るでも本を読むでもなく,純粋に時そのものを味わう。客観的な「20分」は確かに経過しているのだが,彼女が知覚しているのはその類の時間ではないのだ。その後,水彩風の幻想的な絵から現実的な絵に徐々に切り替わり,カメラはじわじわとトラックバックしていく(上手・右)。深い内的思索から,ゆっくりと現実世界に浮上する様子を表した,優れたカメラワークだ。

むろん,ジンランが実存的時間に身を浸し,それを楽しむことができたのは,その先にかなでとの時間が待っていたからだ。だから彼女は「好酒沈甕底」ーー「本当に旨い酒は甕の底に沈んでいる」ーーと独り言つ。彼女は,時の熟したその先に,極上の“美酒”が待っていることを知っていた。未来に訪れるものが,今の瞬間を充実させる。これは,かなでが最初からこの場にいた場合には得られなかった境地だろう。“待つ”という行為にも価値があるのだ。

「第11話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

このシーンでは金魚の水槽が映り込むカットが多用される。ジンランの心象世界としての水彩風カット(上図・左上),真横からのロングショット(上図・右上),そして水槽内からのカット(上図・下)。どれも金魚の暖色によって華やかさが加わり,絵画作品のような趣がある。特に水槽内のカットは,かなでの吸う煙草の煙が有機的なラインを作ることで,水中の風景と奥の2人の空間との間に調和が生まれている。奥の窓との関係性もいい。現実的な描写でありながら,一種独特な幻想感に満ちている。

「第11話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

「次,なに飲む?」と聞かれたジンランが,唐突に「好き」と呟くシーン。最初,カメラは左側からジンランを捉えている。しかし「好き」のカットの後,カメラが切り替わり,かなでをナメながら右側からジンランを捉える(上図・左)。いわゆる“イマジナリーライン”を越えたカメラワークだ。実はこの構図自体は原作通りなのだが,原作ではイマジナリーライン越境前後で改ページしているため,特に違和感はない(そもそもマンガではイマジナリーラインははさほど意識されない)。しかしアニメではカットが連続するため,この“越境”が際立ってくる。

イマジナリーラインの越境は,空間や人物の位置関係の把握に混乱をきたすため,映像の基本ではタブーとされることが多い。しかしここでは,「カメラ自体がジンランの突然の“告白”に仰天し,慌ててかなでの反応をフレームに収めるべく,タブーを侵した」というストーリーが見えてくる。“マニフィ・シンガー・メル”なる人物が,これを自覚的に演出したかどうかは重要ではない。映像とは“結果的にどう見えるか”こそが問題なのだから。

ジンランに「好き」と言われたかなでは,ジョン・カサヴェテス(アメリカの映画監督)の話をやめ,エドワード・ヤン,侯孝賢,馬志翔(全て台湾の映画監督)の話題を持ち出す。ジンランの直球の告白に対し,映画監督の話題転換によって好意の矢印をほのめかすという,かなり高度な“返し歌”のスキルだ。この際,これまでフィックス中心だったカメラが,かなでパンアップ→ジンラントラックアップ→かなでパンと,移動中心のワークに切り替わり,2人の間に広がる情感をじっくり捉える(上図・右)。

ジンランとかなでの間の,湿度の高い心情をうまく捉えた演出である。

 

上昇と下降

「第11話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

ショッピングに出かけるぼたんいぶき。この年頃の女性らしく,生き生きとはしゃぐ様子が微笑ましい(上図)。

「第11話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

しかしそのロケーションは,ほとんど異様と言ってもいい。原作では現実感のある街並みの風景だが,アニメでは山中らしき場所に建つ巨大なアトリウムを舞台にしている(上図)。その中央をオートスロープが貫く。ショッピングの愉悦を幾何学的に象徴するかのように,2人の姿はスロープをゆっくりと〈上昇〉していく。しかし天井からは無数のマネキンが吊り下げられており,この空間に文字通りのサスペンス(sus:下に+pense:吊るす)を加味している。

ファッションブランドに詳しいぼたんと,洋服にはさほど頓着のないいぶき。2人の間にほんの少しだけ隙間が生まれる。アトリウムの枠が抽象的なグリッドのように,無機質に空間を分断しているように見える(上図・右)。2人の〈上昇〉という事実を保証しているのは,オートスロープの傾斜とカメラのパン移動だけである。

「第11話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

パフュームショップに立ち寄る2人。店員と積極的にコミュニケーションを取りながら香水を試すぼたんと,やや気後れするいぶき。この隙間を埋めようと,いぶきも香水をーーそしてぼたんをーーもっと知ろうとする。いぶきにぼたんが接近していくカット(上図・右)は,まるでシュルレアリスム絵画の中に入り込んだかのようだ。ディスプレイスタンドの上にうさぎのオブジェが置かれていることも相まって,御伽噺のような雰囲気もある。超現実的な印象の強いシーンだ。

「第11話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

いぶきが“ぼたんのために”香水を選ぶ。選んだのはJ-Scentの「花見酒」。WEBショプの情報によれば,「吟醸香のフルーティで華やかな香りから、舞い踊る花びらに乗って漂う桜の甘さが広がり,上質なムスクが微酔を帯びたように心地よくフェードアウトしていく儚げな香りです」ということらしいので,いかにも酒好きのいぶきらしいチョイスである。「この香りをまとって,あなたのそばにいたいと思ったの」と,先ほどのジンランに劣らぬ直球を放ったいぶきは,自ら耳まで赤くなってしまう。

しかしその“酒”こそが,ぼたんの気持ちをかき乱す原因となる。(ここから先のシーンはアニメオリジナルである)。

「第11話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

ショッピングからの帰り道。ロケーションは再びあのアトリウムである。今度は,2人の姿は〈下降〉している(上図・左)。いぶきがいつも通り酒の話で盛り上がり始めると,ぼたんは不意に不安を覚えるーーお酒がなかったら,いぶきは自分との時間が楽しいのだろうかーーと。この時,アニメでは螺旋階段を上から覗き込むカットを挿入している。アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』(1958年)を想起させるカットだ。この〈螺旋〉および〈下降〉のイメージは,最後の「ねえ,いぶき,私たちは前に進んでるよね?」というぼたんの言葉と明確に背反しつつ,彼女の不安の気分をうまく伝えている。

 

未来投企

「第11話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

「A世界線」=音楽 vs「B世界線」=就職。あかねは「詮無いことを懊悩」している。しかし実際,彼女にとってこれは「詮無い」選択ではない。一点透視図法により,パースを強調した廊下をまっすぐに歩くあかねのカットは,視聴者の視線を前方へと誘導しており,彼女が未来に向かって己を投企しようとしていることを明確に示している(上図・右)。

あかねにとっての「A世界線」と「B世界線」の対立は,『響け!ユーフォニアム 3』(2024年)で描かれた〈演奏の時〉と〈社会の時〉と綺麗に符合する(下記リンクの記事を参照)。結局,黄前久美子は,演奏を楽しむ今この瞬間=〈演奏の時〉と社会の中に身を置く未来=〈社会の時〉とを,“吹奏楽部の顧問になる”という選択で接合したわけだが,あかねはもっとラディカルな選択をしたかったのだろう。

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「第11話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

あかねはぼたんを誘い,シーシャ(水煙草)を提供するカフェに赴く。そこはまるで社会と隔絶されたかのような閉鎖空間である(上図・左)。カメラも,天井とも宙空ともつかぬ非現実的な場所に設置されている。亜空間のようなその場所で,あかねはぼたんに大学を辞める可能性を伝える。つまり彼女は「B世界線」を離れ,「A世界線」に身を置きたいと考えているのだ。『ユーフォ』で言えば〈演奏の時〉である。あかねはこのとき,シーシャのパイプを握りしめながら「焦がれたい,今すぐに」と呟く。〈今ここ〉にある音楽の愉悦を優先する。潔い。それがあかねなりの未来投企のあり方なのだろう。そしてこの〈時〉の捉え方が,冒頭のジンランの〈実存的時間〉とどこかしら似通っているのは,偶然ではないのかもしれない。

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Xアカウントなど

【スタッフ】
原作:/監督:佐久間貴史/副監督:戸澤俊太郎/シリーズ構成・脚本:米内山陽子/キャラクターデザイン:吉成鋼/サブキャラクターデザイン・メインアニメーター:みやち/プロップデザイン・メインアニメーター:松尾祐輔/衣装デザイン:藤井有紗/美術監督:宮越歩/色彩設計:伊藤唯/撮影監督:富田喜允/3D監督:小川耕平/編集:廣瀬清志/音楽:橋口佳奈/音響監督:明田川仁/音響制作:マジックカプセル/アニメーションプロデューサー:村上光/制作:ソワネ

【キャスト】
上伊那ぼたん:鈴代紗弓/砺波いぶき:青山吉能/郡上かなで:寿美菜子/遊佐あかね:天海由梨奈/北杜やえか:富田美憂/張景嵐:河瀬茉希

【「第11話」スタッフ
脚本:白坂英晃/絵コンテ:マニフィ・シンガー・メル上野壮大の説あり/演出:菅原尚作画監督:宮原拓也/動画検査:今西麻綾色指定・検査:秋田莉緒/制作進行:岡田萌奈

原画:佐藤弘明木曽勇太西谷衆平松村佳子すあまお米ぷん平林航吉川由華NiiiGirardin SolalCloverWorks鈴木咲花

 

この他,この素晴らしい話数に参加されたすべての制作者に拍手を。

 

 

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商品情報

【原作マンガ】

 

2026年 夏アニメは何を観る?来期おすすめアニメの紹介 ~2026年 春アニメを振返りながら~

『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-』公式Xより引用 ©︎結城弘・京都アニメーション/明滋電氣商工会

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2026年 春アニメ振返り

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春クールの作品で特に評価したいのは,『あかね噺』『淡島百景』『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』『春夏秋冬代行者 春の舞』『ドロヘドロ Season 2』『とんがり帽子のアトリエ』『日本三國』『黄泉のツガイ』の8作品だ。

渡辺歩監督『あかね噺』:魅力的なキャラデザ,安定した作画,噺の際のダイナミックな演出など,本作をアニメ化する上で必須の基本要素は標準以上の仕上がりを見せている。加えて,噺家や弟子陣を演じる声優の演技がとてもいい。特に主あかね役・永瀬アンナの演技は,“天才高校生”という役所として非常に説得力がある。

浅香守生監督『粟島百景』:「歌劇学校」という,煌びやかさの裏に正負の感情が犇めく場を,繊細なキャラクター描写,美術,劇伴で描き出すことに成功している。特に岡部絵美の悲劇と伊吹桂子の悔悛というテーマは,作品の奥底で通奏低音のように響き続け,物語全体に重厚な深みを与えている。まるで文学作品のような趣のアニメである。

佐久間貴史監督『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』:まず目を引くのが,各話毎に演出家の個性を打ち出した演出方針だ。物語とは別の次元で,演出そのものの考察を楽しめる作品であると言ってよいだろう。また作品のテーマでもある「百合」要素に関しても,ぼたん登場による“親和力”の変化,ジンラン登場による再変化を繊細に表現し得ている。ちな演出のOPアニメーションも極めてクオリティが高い。

山本健監督『春夏秋冬代行者 春の舞』:代行者と護衛官の間の共依存にも似た絆,悲劇に見舞われた雛菊が生み出した防衛機制としての“雛菊”。外的な設定以上に,内的な感情表現が光る叙情的な作品だ。独特な淡い色彩設計や繊細な撮影処理もこの世界観にマッチしている。またOrangestarのOP・ED主題歌による貢献度も極めて高い。

林祐一郎『ドロヘドロ Season 2』:本作の持ち味であるハードコアな要素をうまくアニメーションに落とし込んでおり,グロ表現が多いにもかかわらず,アート作品を観ているかのような感覚すら覚える。MAPPA制作アニメの中でも一際クオリティが高いと言える。すでにSeason 3制作の報が出ている。

渡辺歩監督『とんがり帽子のアトリエ』:映像化不可能と思わせるほど緻密な原作の絵を,加算・減算の絶妙な配分で見事にアニメーションとして成立させている。純粋に技術面だけとってみても,今季の中で最も高いクオリティを示した作品と言えるだろう。また「優しい魔法」というテーマを軸に,それを脅かす「禁断の魔法」を対置させながら展開する物語もスリリングで面白い。今季トップクラスの作品であることは間違いない。

寺澤和晃『日本三國』:そもそもの物語の面白さに加え,アニメではユニークなオリジナル表現を盛り込みつつ,作品に内在する感情値を増幅させた演出を随所で行っている。特に主人公・青輝に関しては,常に冷静沈着・理性的でありながら,その行動原理の根底には亡き妻・小紀への愛がある,というキャラクターの妙がうまくアニメーションとして表現されている。本作の今季のトップに食い込むことになりそうだ。

安藤真裕『黄泉のツガイ』:作画・演出のブレがなく,安心して観ていられる。当たり前のことのようだが,この手の作品では重要な要素だ。画作りが安定しているからこそ,物語に集中できる。ある意味,作画と演出そのものに感情を乗せた『上伊那ぼたん』とは対極にある作り方と言えるかもしれない。キャラメイクも魅力的で,個人的には当初“殺人鬼”として登場したガブちゃんが,今では推しキャラになっている。

この他,敢えて懐かしい作画と主題歌でBLコメディを描いた『ガンバレ!中村くん!!』,独特で愛らしいキャラ・クジマを中心に一風変わった“日常”を描たい『クジマ歌えば家ほろろ』,ニワトリの闘志と「鬼獣」の恐怖を高いクオリティの3DCGで表現した『ニワトリファイター』なども高評価に値するだろう。

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2026年 春アニメの最終的なランキングは,下記の記事を参照いただきたい。

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では今回も2026年 夏アニメのラインナップの中から,五十音順に注目作をピックアップしていこう。各作品タイトルの下に最新PVなどのリンクを貼ってあるので,ぜひご覧になりながら本記事をお読みいただきたい。なお,オリジナルアニメ(マンガ,ラノベ,ゲーム等の原作がない作品)のタイトルの末尾には「(オリジナル)」と付記してある。

 

①『株式会社マジルミエ 第2期』


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 『株式会社マジルミエ』公式X

【スタッフ】
原作:岩田雪花青木裕/監督:福島利規/副監督:小田裕康/シリーズ構成・脚本:横手美智子/キャラクターデザイン:藤井昌宏/音楽:宮崎誠/音響監督:岩浪美和/美術監督:吉井駿/色彩設計:日野亜朱佳/撮影監督:野口優輔/CGディレクター:春日俊介/編集:近藤勇二(REAL-T)/アニメーション制作:J.C.STAFF

【キャスト】
桜木カナ:ファイルーズあい/越谷仁美:東内マリ子/重本浩司:小山力也/二子山和央:山下大輝/翠川:逢坂良太/土刃メイ:安済知佳/葵リリー:石原夏織/槇野あかね:天海由梨奈/古賀圭:石田彰/越谷長官:後藤光祐/萬田所長:武虎/赤坂いろは:渡部紗弓

【コメント】
2024年秋クールに放送されたTVシリーズの続編。作画等は素朴だが,“魔法少女×ベンチャーの美学”という取り合わせの妙がたいへん面白い作品である。監督が平岡正浩から『Duel Masters LOST 〜追憶の水晶〜』(2024年)などの福島利規へ交代する他,副監督は小坂春女から小田裕康へ交代,シリーズ構成・脚本は永井真吾から横手美智子へ交代,キャラクターデザインは浅間英裕が抜けて藤井昌宏単独担当,音響監督は三間雅文から岩浪美和へ交代,美術監督は大嶋健太と瀬理実穂から吉井駿へと交代,制作会社は萌が抜けてJ.C.STAFF単独担当など,座組みが大きく変化する。PVからはわずかな違いしか認められないが,作画や演出面での変化があるかもしれない。作品の変化・成長を楽しむのもいいだろう。

 

②『きみが死ぬまで恋をしたい』


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『きみが死ぬまで恋をしたい』公式X

【スタッフ】
原作:あおのなち/監督:友田康/副監督:榎本直央/クリエイティブアドバイザー:かくちたくだい/シリーズ構成・脚本:花田十輝/キャラクターデザイン:油布京子/プロップデザイン:中山奈々/美術デザイン:綱頭瑛子(草薙)/美術監督:中田洵輝(草薙)/色彩設計:中野尚美(ステラ)永井唯香(ステラ)/撮影監督:許庭禎(Cypic)/3Dディレクター:千野勝平(CHOTOTU)/編集:瀧川三智(REAL-T)/音楽:橋本由香利未知瑠/音響監督:明田川仁/音響効果:安藤由衣/アニメーションプロデューサー:應地一晃/プロデュース:インフィニット/プロダクトサポート:EVOLROAR/アニメーション制作:ROLL2

【キャスト】
トツキ・シーナ:高橋李依/カガリ・ミミ:日高里菜/リジィ・セイラン:瀬戸麻沙美/モード・アリ:石川由依

【コメント】
原作はあおのなちによる同名マンガ。身寄りのない子どもを戦争兵器へと育成する養成学校を舞台に,“死と隣り合わせの恋”を描くファンタジー作品だ。注目はシリーズ構成・脚本を務める花田十輝。花田が百合要素中心のアニメを手がけるのは,おそらく『やがて君になる』(2018年)以来となる。無論,花田は“百合脚本家”というわけではないのだが,『やがて君になる』が評価されただけに,この方面での手腕を期待したくなる。監督は『僕の心のヤバイやつ』(2023年)『ガールズバンドクライ』(2024年)(以上2作品は花田十輝脚本)『逃げ上手の若君』(2024年)などに演出家として参加経歴のある友田康,制作は『恋は双子で割り切れない』(2024年)のROLL2である。

 

③『グロウアップショウ 〜ひまわりのサーカス団〜』(オリジナル)


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『グロウアップショウ 〜ひまわりのサーカス団〜』公式X

【スタッフ】
原作:キルクスコレクション協会/監督:亀井幹太/キャラクター原案:深崎暮人/シリーズ構成:菊池たけし/キャラクターデザイン・総作画監督:牧野和俊/助監督:髙橋さつき/アクション監修:稲田正輝/絵本デザイン・エフェクトデザイン:まつもとあやね/時代考証:山田順子/イメージボード:六七質/美術監督:橋本巧/美術設定:綱頭瑛子/美術レイアウト:平義樹弥/色彩設計:ホカリカナコ/CG監督:神田瑞帆/撮影監督:青嶋俊明/編集:坪根健太郎/音響監督:藤田亜紀子/音楽:菅野祐悟/制作:A-1 PicturesPsyde Kick Studio

【キャスト】
鶴巻瑞佳:野田朋花/川澄桜翔:黒崎しおり/吾野伊万里:小山内怜央/五十土五十鈴:安堂ななこ/由良葵:楠木ともり/由良茜:夏吉ゆうこ/酒匂雫:鎌倉有那/スヴェトラーナ:岩橋由佳/間宮凛:茅野愛衣/麻利亜:釘宮理恵

【コメント】
舞台は昭和30年代,高度経済成長期の日本。貧乏サーカス団「ひまわりサーカス」のもとに,サーカスの天才・鶴巻瑞佳がやってきて…という話。来季期待のオリジナルアニメである。監督は『冴えない彼女の育て方』(2015年)などの亀井幹太,キャラクター原案は同作の深崎暮人,制作はA-1 PicturesPsyde Kick Studio(サイドキックスタジオ)である。Psyde Kick Studioは,2025年にA-1 Pictures内に新設されたレーベル。若手クリエイターを積極的に起用・育成していくことをコンセプトにしているということで,本作でもフレッシュな表現を期待したい。

 

④『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』


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『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』公式X

【スタッフ】
原作:士郎正宗/監督:モコちゃん/シリーズ構成・脚本:円城塔/キャラクターデザイン・総作画監督:半田修平/美術監督:片野坂恵美/美術監修:増山修/色彩設計:橋本賢/撮影監督:伊藤ひかり/編集:廣瀬清志/音響監督:丹下雄二/音響効果:八十正太/録音:太田泰明/音楽監督・音楽:岩崎太整/音楽:小西遼/音楽:YUKI KANESAKA/音楽制作:フライングドッグ/アニメーション制作:サイエンス SARU/製作:THE GHOST IN THE SHELL COMMITTEE

【キャスト】
未発表

【コメント】
言わずと知れたSFマンガの金字塔,再びのアニメ化である。これまで押井守の映画版,神山健治のTV版,黄瀬和哉の映画版,ルパート・サンダースの実写映画版と,複数の映像化が行われてきた本作だが,少なくともビジュアル面ではこれまでで最も原作に準拠した作りをしていると思われる。しかしそこはサイエンスSARUだ。原作の世界観にどう“サイエンスSARUらしさ”を乗せてくるかが最大の見どころとなるだろう。本記事執筆時点でキャストが発表されていないというのも,逆に気になる。監督は『平家物語』(2022年)第5話演出,『ダンダダン』(2024年)副監督などを務めたモコちゃん。シリーズ構成・脚本はSF作家で『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』(2021年)などにも参加経歴のある円城塔。キャラクターデザイン・総作画監督は『リトルウィッチアカデミア』(2017年)などの半田修平。座組に不足はない。

 

⑤『さよならララ』(オリジナル)


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『さよならララ』公式X

【スタッフ】
原作:キネマシトラス/監督:小出卓史/シリーズ構成:川原杏奈/キャラクターデザイン:谷紫織/美術監督:藤野真里(スタジオ Pablo)/色彩設計:相澤里佳/撮影監督:出水田和人(T2studio)/編集:黒澤雅之/グラフィックデザイン:濱祐斗山口真生/深海イメージ:MON/ウォーターアーティスト:吉邉尚希/音響監督:山田陽/音楽:yuma yamaguchi/音楽制作:KADOKAWA/シニアプロデューサー:小笠原宗紀/チームプロデューサー:石川祥気/クリエイティブプロデューサー:森山菜月/原作・アニメーション制作:キネマシトラス/製作:「さよならララ」製作委員会

【キャスト】
ララ:菱川花菜/大津茉里:川石奈奈/グレイス:深見梨加/ルカ:村瀬歩/大津祥弥:大野智敬/大津誠:真殿光昭/大津江万:住友七絵/ローワン:てらそままさき

【コメント】
本当の愛を成就できず海の泡となった人魚姫が200年後の琵琶湖に蘇り,再び愛を見つけようと奮闘する,という物語。アンデルセンの『人魚姫』の“その後”という設定だ。『メイドインアビス』(2017年)のキネマシトラスオリジナルアニメということだが,テーマ的にもデザイン面でも「世界名作劇場」の趣のある作風だ。「深海イメージ」「ウォーターアーティスト」といったユニークな役職が設置されているのも興味深い。監督は『メイドインアビス』や『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(2018年)に参加経歴のある小出卓史。キャラクターデザインは『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』や『メイドインアビス 深き魂の黎明』(2020年)『メイドインアビス 烈日の黄金郷』(2022年)などに参加経歴のある谷紫織。さて,この布陣が手がける“古典的名作”は現代の視聴者に何を伝えるか。

 

⑥『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』


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『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』公式X

【スタッフ】
原作:地主/監督:鈴木理人森あおい/シリーズ構成:井上美緒/キャラクターデザイン:大滝那佳/プロップデザイン:新谷真昼/美術監督:外谷勝/色彩設計:上村修司/撮影監督:鯨井亮/CG監督:藤谷秀法/編集:石井亜美/音響監督:吉田光平/音楽:河野伸青木沙也果/音楽プロデューサー:久世烈/音楽制作:日音/アニメーションプロデューサー:渡部雅悠/アニメーション制作:旭プロダクション

【キャスト】
佐々木:佐藤拓也/山田/田山:星希成奏/後藤:行成とあ/大野:豊口めぐみ/小畑:安田陸矢/前澤:日笠陽子/鈴木:高橋伸也

【コメント】
原作は地主の同名マンガ。『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』,『日本三國』,『ガンバレ!中村くん!!』ーー春アニメは喫煙の描写が優れた作品が多かった。そのトレンドを受けてということもないだろうが,来季も“ヤニアニメ”が面白くなりそうだ(後述する『ヤニねこ』も然りである)。百害あって一利なしのタバコ。多くの人から忌み嫌われる喫煙。それは百も承知だ。にもかかわらずーーあるいはだからこそーー“ヤニ”から生まれる叙情というものがある。宮﨑駿監督『風立ちぬ』(2013年)を振り返ってみるのもいいかもしれない。“ヤニ”に固有のドラマがあることは確かなのだ。監督は『魔法少女にあこがれて』(2024年)共同監督の鈴木理人,および同作に絵コンテ・演出・作画監督として参加経歴のある森あおい。制作も同作を手がけた旭プロダクションである。この少々背徳感のある座組も頼もしい。

 

⑦『正反対な君と僕 第2期』


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『正反対な君と僕』公式X

【スタッフ】
原作:阿賀沢紅茶/監督:長友孝和/シリーズ構成・アニメーションプロデューサー:内海照子/キャラクターデザイン:みやこまこ/サブキャラクターデザイン・総作画監督:小園菜穂/総作画監督:﨑本さゆり伊澤珠美迫江沙羅/メインアニメーター:前原里恵/美術監督:中村千恵子/色彩設計:秋元由紀/撮影監督:塩川智幸/3Dディレクター:越田祐史/編集:黒澤雅之/2Dデザインワークス:越阪部ワタル/音楽:tofubeats/音響監督:木村絵理子/音響効果:安藤由衣/録音調整:太田泰明/選曲:合田麻衣子/アニメーション制作:ラパントラック

【キャスト】
鈴木:鈴代紗弓/谷:坂田将吾/渡辺:谷口夢奈/佐藤:平林瑚夏/山田:岩田アンジ/東:島袋美由利/平:加藤渉/西:大森こころ/本田:楠木ともり

【コメント】
2026年冬クールに放送された作品の続編。ほぼ間を置かずに続編が観られるのは嬉しい。鈴木&谷の出来上がった恋愛模様も楽しみだが,個人的には山田&西タイラズマの進展が気になる。スタッフに関しては,総作画監督が﨑本さゆりと早川加寿子の2名体制から﨑本さゆり,伊澤珠美,迫江沙羅の3名体制へ,メインアニメーターが前原里恵と伊澤珠美の2名体制から前原里恵の1名体制へと変わるなど若干の異同はあるものの,それ以外のメインスタッフは第1期からの続投である。

 

⑧『対ありでした。〜お嬢さまは格闘ゲームなんてしない〜』


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『対ありでした。〜お嬢さまは格闘ゲームなんてしない〜』公式X

【スタッフ】
原作:江島絵理/監督:井畑翔太/シリーズ構成:渡航/キャラクターデザイン:松本麻友子/美術設定:高橋麻穂/美術監督:Scott MacDonald/色彩設計:林由稀/撮影監督:伊藤康行/編集:小島俊彦/音響監督:立石弥生/音楽:橋口佳奈/アニメーション制作:ディオメディア/収録協力:FAV gaming

【キャスト】
深月綾:長谷川育美/夜絵美緒:市ノ瀬加那/犬井夕:千本木彩花/一ノ瀬珠樹:下地紫野/藤宮亜里沙:長縄まりあ/一ノ瀬花:花守ゆみり/gekido:檜山修之/禍腐餌悪霊:阿座上洋平/星識:八代拓/フランベルジュ:アール

【コメント】
原作は江島絵理による同名マンガ。“お嬢さま×格ゲー”という取り合わせは,『ロックは淑女の嗜みでして』(2025年)などと同系統。この方面が好きな人であれば楽しめるだろう。ただし,今回この作品をピックアップしたのは純粋にPVの仕上がりからだ。キャラクターデザインは原作の個性をうまくまとめており,極めて美麗。芝居も細部まで行き届いている印象だ。格ゲーがモチーフということで,ボタン操作を中心とした“アクション”も楽しめそうだ。なかなかの作画アニメになることが期待される。また,大人しいキャラの配役が多い市ノ瀬加那のドスの効いた演技も楽しみだ。監督は『聖女の魔力は万能です』(2021年)『鴨乃橋ロンの禁断推理』(2023年)などの井畑翔太。シリーズ構成の渡航とキャラクターデザインの松本麻友子も『聖女の魔力は万能です』と『鴨乃橋ロンの禁断推理』に参加しており,かつ制作のディオメディアも両作を手がけている。安定した座組もクオリティを保証してくれるかもしれない。

 

⑨『追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する』


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『追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する』公式X

【スタッフ】
原作:猫子/漫画:武六甲理衣/キャラクター原案:じゃいあん/総監督:鈴木信吾/監督:横峯克昌/キャラクターデザイン:谷圭司内田孝行/総作画監督:谷圭司古田誠/チーフディレクター:山岸徹一/メインアニメーター:大久保宏/音響制作:グロービジョン/音響監督:中島えんじ郡司哲也/音楽:Ludvig Forssell/アニメーション制作:GoHands

【キャスト】
エルマ・エドヴァン:大塚剛央/ルーチェ・ルービス:若山詩音/マリス・エドヴァン:阿部菜摘子

【コメント】
原作は猫子による同名小説。“転生+無双+説明的なタイトルのラノベ”という取り合わせは,個人的にはあまり食指の動かないジャンルなのだが,GoHands制作ということで観ないわけにいかない。PVを観ると,“GoHandsらしさ”が一見してわかる作りになっていることが確認できる。GoHandsの画作りは必ずしも万人受けするものではないかもしれないが,これだけ制作会社単位での個性を打ち出している会社もそう多くない。彼らの作品を観続け,その矜持と固辞と変化と成長を追っていくのも1つのアニメの楽しみ方だろう。総監督の鈴木慎吾,監督の横峯克昌,キャラクターデザインと総作画監督の谷圭司,キャラクターデザインの内田孝行,総作画監督の古田誠らは,GoHandsの過去作『デキる猫は今日も憂鬱』(2023年)と『もめんたりー・リリィ』(2025年)にも参加している(役職は異なる)。

 

⑩『天幕のジャードゥーガル


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『天幕のジャードゥーガル』公式X

【スタッフ】
原作:トマトスープ/総監督:山田尚子/監督:Abel Gongora/シリーズ構成:加藤還一/キャラクターデザイン・作画チーフ:吉田健一/演出チーフ:藤倉拓也/美術監督:樺澤侑里/色彩設計:今野成美/撮影監督:高橋直希/編集:廣瀬清志/音楽:日野浩志郎/音響監督:小沼則義/アニメーション制作:サイエンスSARU

【キャスト】
シタラ:関根明良/ドレゲネ:小清水亜美/ファーティマ:桑島法子/ムハンマド:齋藤潤/オゴタイ:下野紘/トルイ:鈴木崚汰/シラ:入野自由/チャガタイ:浪川大輔

【コメント】
原作はトマトスープによる同名マンガ。舞台は13世紀のイラン。奴隷の少女・シタラは,モンゴル帝国の侵略によって全てを失うも,学問を通して得た知恵を武器に,帝国を内部から破壊しようと目論む。歴史の暴力,それに抗う女性,そして知の力といったものをテーマとした作品である。最大の注目ポイントは,総監督:山田尚子×監督:Abel Gongora×サイエンスSARUという布陣だ。山田は京都アニメーションを離れてから,もっぱらサイエンスSARUを軸に活動しているが,今回は総監督という立場で制作を仕切る。かたや『聲の形』(2016年)『リズと青い鳥』(2018年)で繊細な内面描写を披露し,『平家物語』で歴史の無常を描いた山田尚子。かたや『ダンダダン 第1期』(2024年)のOPアニメーションや同作第2期(2025年)の監督業などで軽妙な演出手腕を発揮したAbel Gongora。この一見異質な2人の采配が,作品の中でどう化合していくか。また『交響詩篇エウレカセブン』(2005年)『地球外少年少女』(2022年)などの吉田健一のキャラクターデザインにも要注目だ。

 

⑪『逃げ上手の若君 第二期


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『逃げ上手の若君』公式X

【スタッフ】
原作:松井優征/監督:山﨑雄太/シリーズ構成:冨田頼子/キャラクターデザイン・総作画監督:西谷泰史/副監督:川上雄介/アニメーションディレクター:太田慎之介/プロップデザイン:よごいぬ/色彩設計:中島和子/美術監督:小島あゆみ/美術設定:taracodtakao/建築考証:鴎利一/タイポグラフィ:濱祐斗山口真生/撮影監督:佐久間悠也/CGディレクター:任杰河北茉衣/編集:平木大輔/音響監督:藤田亜紀子/音楽:GEMBI立山秋航/音響効果:三井友和/制作:CloverWorks

【キャスト】
北条時行:結川あさき/雫:矢野妃菜喜/弧次郎:日野まり/亜也子:鈴代紗弓/風間玄蕃:悠木碧/吹雪:戸谷菊之介/諏訪頼重:中村悠一/足利尊氏:小西克幸

【コメント】
当ブログをお読みになっている方なら多くを語る必要はないだろう。2024年夏クールに放送された,CloverWorksの渾身の傑作の続編である。新たにアニメーションディレクターとして太田慎之介が参加,タイポグラフィとして濱祐斗に加えて山口真生が新たに参加,CGディレクターが有沢包三と宮地克明から任杰河北茉衣に交代,サブキャラクターデザインの高橋沙紀が抜ける(役職自体もなし)など,スタッフに若干の異同があるが、監督・シリーズ構成・キャラクターデザイン・総作画監督等は第一期からの続投である。個人的には今期も小林恵祐の演出を期待したい。

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⑫『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-


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『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-』公式X

【スタッフ】
原作:結城弘/監督:太田稔/シリーズ構成:浦畑達彦/キャラクターデザイン・総作画監督:岡村公平/世界観設定:鈴木貴昭/美術監督:高山真緒/色彩設計:大塚芙由紀/小物設定:疋田彩/撮影監督:植田弘貴/3D監督:髙木美槻/音響監督:鶴岡陽太/音楽:湖東ひとみ/音楽制作:ランティスハートカンパニー/アニメーション制作:京都アニメーション/製作:明滋電氣商工会

【キャスト】
坂本喜八:内田雄馬/百川稲子:雨宮天/三添洋輔:内山昂輝/坂本清六:小野大輔/陸健吾:武内駿輔/百川規子:寿美菜子/原島すず:大地葉/大倉ケイト:川井田夏海/矢倉弥治郎:浦和希/鱒淵伊蔵:平川大輔/百川甚右衛門:家中宏/百川苗子:浅野まゆみ/矢倉文七:遠藤大智/とめ/イナリ:高垣彩陽

【コメント】
原作は結城弘による小説『二十世紀電氣目録』。舞台は架空の歴史を辿った20世紀初頭の京都。蒸気機関だけが発達した社会で,主人公の坂本喜八百川稲子らが“電氣の時代”を求めて奮闘する,という物語である(一部の設定は原作と異なる)。注目は,やはり京都アニメーションの新機軸が楽しめるという点だろう。キャラクターデザインや芝居などの点において従来の京アニの“美意識”を継ぐ一方,美術や撮影効果などは,これまでの作品とは一線を画していると言ってよい。「電氣」がテーマということもあり,光源などの処理にも注目したいところだ。監督は『特別編 響け!ユーフォニアム〜アンサンブルコンテスト〜』(2023年)以降の『ユーフォ』シリーズで楽器作画監督を,『ツルネ -つながりの一射-』(2023年)や『CITY THE ANIMATION』(2025年)で絵コンテ・演出を務めた太田稔。シリーズ構成は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(2018年)『ハイスコアガール』(2018年)などに参加経歴のある浦畑達彦。キャラクターデザイン・総作画監督は『劇場版 Free!-the Final Stroke-』(2021年)『ツルネ -つながりの一射-』などに参加経歴のある岡村公平。2018年にアニメ化が発表されて以来,京アニファン(もちろん僕自身も含め)が“おあずけ”を食らっていた作品だ。大いに注目したい。

 

⑬『ヤニねこ』


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『ヤニねこ』公式X

【スタッフ】
原作:にゃんにゃんファクトリー/監督:木村拓(スタジオ・レモン)/脚本:あおしまたかし/キャラクターデザイン:松浦力/美術監督:丸山由紀子(アトリエ・ムサ)吉野翔太郎(アトリエ・ムサ)/色彩設計:太田ゆいは/撮影監督:米澤寿/編集:武宮むつみ/音楽:鈴木慶一/音響監督:濱野高年/音響制作:マジックカプセル/アニメーション制作:バイブリーアニメーションスタジオ

【キャスト】
ヤニねこ:夏吉ゆうこ/ヤクねこ:松岡美里/ハメねこ:船戸ゆり絵/カンサイねこ:清水彩香/アルねこ:井澤詩織/妹子:本泉莉奈/おちんぽ達郎:明智璃子/大家:稲田徹

【コメント】
原作はにゃんにゃんファクトリーによる同名マンガ。獣人と人間が共に暮らす世界で,ひたすらヤニを愛する猫耳少女の自堕落な生活を描いた作品だ。上述の『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』と並んで来季注目の“ヤニアニメ”だが,PVからもわかるように,はるかにインモラルな香りを漂わせる作品である。それもいいだろう。かつて坂口安吾は「文学のふるさと」の中で,「モラルがない,ということ自体が,モラルなのだ」と言ってのけた。坂口が正しければ,『ヤニねこ』はまさに「アニメのふるさと」だ。監督は『宇宙よりも遠い場所』(2018年)『グッバイ,ドン・グリーズ!』(2021年)『雨を告げる漂流団地』(2022年)『化け猫あんずちゃん』(2024年)などに参加経歴のある木村拓。脚本は『宇崎ちゃんは遊びたい!』(2020年)などのあおしまたかし。キャラクターデザインは『物語シリーズ』などシャフト作品や,『チェンソーマン』(2022年)『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』(2026年)などに参加経歴のある松浦力。座組も頼もしい。

 

⑭『幼女戦記Ⅱ』


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『幼女戦記』公式X

【スタッフ】
原作:カルロ・ゼン/キャラクター原案:篠月しのぶ/監督:山本貴之/シリーズ構成・脚本:猪原健太/キャラクターデザイン・総作画監督:細越裕治/サブキャラクターデザイン:谷口宏美牧孝雄栗田新一/服飾デザイン:谷口宏美/魔導具デザイン:江畑諒真月田文律/銃器デザイン:秋篠Denforword日和大津直月田文律/プロップデザイン:森山洋秋篠Denforword日和/設定考証:鈴木貴昭/メインアニメーター:ほりうちひろゆき栗田新一/美術監督:平栁悟(アートスタジオ・ザオ)/色彩設計:中村千穂/撮影監督:木舩颯人/CGディレクター:高橋将人/特技監督:シュウ浩嵩/編集:神宮司由美/音楽:片山修志/音響監督:岩浪美和/アニメーション制作:NUT/製作:幼女戦記2製作委員会

【キャスト】
ターニャ:悠木碧/ヴィーシャ:早見沙織/レルゲン:三木眞一郎/ルーデルドルフ:玄田哲章/ゼートゥーア:大塚芳忠/ヴァイス:濱野大輝/グランツ:小林裕介/ケーニッヒ:笠間淳/ノイマン:林大地/ミケル:杉田智和/ウィリアム・ドレイク:森川智之/リリーヤ:日笠陽子/メアリー:戸松遥

【コメント】
説明不要だろう。「幼女の皮をかぶった化物」再来である。2017年冬クールに放送された作品の続編である。9年の歳月を経ての続編ということで,待ちわびたファンも多いことだろう。第1期からの最も大きな変更としては,監督が上村泰から『かつて魔法少女と悪は敵対していた。』(2024年)や『ネガポジアングラー』(2024年)に参加経歴のある山本貴之に交代したことだ。監督以外にも若干のスタッフの異同があり,場合によっては第1期との違いが感じられるかもしれない。

 

⑮『ワールド イズ ダンシング』


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『ワールド イズ ダンシング』公式X

【スタッフ】
原作:三原和人/監督:黒柳トシマサ/キャラクターデザイン:佐々木啓悟/シリーズ構成・脚本:川滿佐和子/副監督:淵本宗平/サブキャラクターデザイン:久武伊織/プロップデザイン:おだし/美術設定:緒川マミオ/美術監督:小倉宏昌/井上一宏:色彩設計/佐藤直子:成毛久美子/3D監督:中野祥典/撮影監督:菊池優太郎/編集:平木大輔/音響監督:長崎行男/音楽:篠田大介/題字:根本知/型付監修:津村禮次郎/振付:森山開次川村美紀子/能楽監修:川口晃平/歴史監修:清水克行/アニメーションプロデューサー:溝口侃/アニメーション制作:Cypic

【キャスト】
鬼夜叉:花守ゆみり/石也:土屋神葉/コガネ:内田真礼/増次郎:朴璐美/足利義満:櫻井孝宏/観阿弥:小西克幸/犬王:松田洋治/二条良基:飛田展男/業子:能登麻美子/千晴:水瀬いのり/白拍子:沢城みゆき/十二五郎:石谷春貴/サツキ:瀬戸芭月

【コメント】
原作は三原和人による同名マンガ。室町時代の猿楽師・世阿弥(幼名:鬼夜叉)の生涯を描いた作品ということで,時代設定的には湯浅政明監督『犬王』(2022年)と同じである。実際,本作にも犬王が登場する。本作と『犬王』を比較してみるのも面白いかもしれない。またこの時代設定もあってか,『逃げ上手の若君』と絵作りの方向性が似ているように感じるが,いずれにせよ作画のレベルは相当に高いようだ。監督は『舟を編む』(2016年)『バクテン!!』(2021年)などの黒柳トシマサ。キャラクターデザインは『僕だけがいない街』(2016年)『ウマ娘 シンデレラグレイ』(2015年)などの佐々木啓悟。来季のラインナップの中でも,頭一つ分抜けた作品となりそうだ。

 

2026年 夏アニメのイチオシは…

2026年 夏アニメの注目の期待作として,今回は15作品をピックアップした。

この中でも特にイチオシとして,太田稔監督『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-』を挙げる。新世代の京アニのお手並み拝見と行こう。

次点として,井畑翔太監督『対ありでした。〜お嬢さまは格闘ゲームなんてしない〜』山田尚子総監督/Abel Gongora監督『天幕のジャードゥーガル』山﨑雄太監督『逃げ上手の若君 第二期』木村拓監督『ヤニねこ』黒柳トシマサ監督『ワールド イズ ダンシング』を挙げる。オリジナルアニメ推しの当ブログとしては,『グロウアップショウ〜ひまわりのサーカス団〜』『さよならララ』も挙げたいが,ひとまずは様子見ということにする。

 

以上,2026年 夏アニメ視聴の参考にして頂ければ幸いである。

 

はじめに“フレーム”ありき

 

フィンセント・ファン・ゴッホ《ばら》(1889年)

保育園に通っていた頃の記憶だから,自分にとって相当に印象深い出来事だったのだと思う。

ある日,トイレで用を足していると,目の前の小窓から一輪の花が見えた。何の花だったかは今ではさすがに覚えていないが,トイレの近辺に咲くぐらいだから,ごく平凡な野草の類だったのだろう。しかしその時の僕の眼には,それが天上の世界を淑やかに彩る,世にも稀な一輪に映ったのだ。

決して大げさではない。なにせ数十年経った今でも覚えているくらいなのだから。生まれて初めて美の崇高を体験した僕は,その花をもっと間近で見たいと思った。その場所は,子どもたちが立ち入ってはいけない“禁忌の領域”(おそらくは自治体が管理していたただの空き地)だったのだが,僕はぜひこの眼で美の詳細を確認したいと思い,意を決して外に周り,件の野花が咲くサンクチュアリに足を踏み入れた。

はたして,僕がトイレから観たあの奇跡の花は,そこには影も形もなかった。否,正確に言うならば,物理的に同じものは確かにそこにあった。トイレの窓から観たものと寸分違わぬものがそこにあった。しかし,それにもかかわらず,美的存在としては,それは実在していなかった。あれほど美しかった花が,ほんの数分で世の中から忽然と姿を消した。当時,ロジカルな推論力を持たなかった幼少の僕は,“存在するが存在していない”という矛盾に大いに混乱したのだ。

筆者撮影

では,トイレから見たあの花の美を成り立たせていたものは何だったのか。それは他ならぬ“窓枠”だったのである。ありきたりの野の花も,適切にフレーミングされれば,幼児の心を奪う“絵画”へと姿を変える。それどころか,ゴミ同然のつまらない事物ですら,一つの美的存在として成り立ってしまう。フレームは“地と図”の対立を生み出し,対象物に意味を与え,それを美的存在として立ち上がらせる。

筆者撮影

この経験が唯一の原因というわけでもないだろうが,僕がこれまで興味を抱いたものーー絵画,写真,映画,演劇,マンガ,そしてアニメーーには,おしなべて“枠”が存在した。僕は世界そのものには興味がなかった。枠によって切り取られた《世界》にのみ興味を抱いた。僕の《世界》においては,はじめに枠があり,常に枠が存在していた。

『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』OPアニメーションより引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

だから僕が“アニメを観る”というとき,それは文字どおりアニメを観ていると同時に,それぞれのカットを形作るフレームと,そこに描かれた人物や事物との関係性(制作工程の用語で言えば「L/O」)を観ている。このブログではアニメの画像を多く引用しているが,基本的にトリミングの類はしていない。作り手が設定したフレーミングを尊重したいからだ。

左:『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』「第4話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

僕にとってアニメは,ゴッホの《ばら》と同じロジックで美しい。僕が保育園のトイレの窓枠から見たものは,彼がサン=レミの精神療養院で見たものと構造的に変わらない。そしてそれは,アニメのカットを縁取るフレームと構造的に等価である。

 

もしあなたが世界を退屈だと思うなら,視界をフレームで囲んでみるのもいいかもしれない。幸い,僕らにはスマホという便利なツールがある。退屈に圧倒されそうになったら,カジュアルに世界を切り取ってみるといい。

 

いつも心に“フレーム”を。

 

それがあなたの《世界》を創ってくれるかもしれない。

 

2026年 春アニメOP・EDランキング[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の内容に部分的に言及しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』第3話OPアニメーションより引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

今回の記事では,現在放送中2026年春アニメの中から特に優れたOP・EDをランキング形式で紹介する。タイトルの下にノンクレジット映像を引用してあるので,ぜひご覧になりながら記事をお読みいただきたい。なお,通常のランキング記事と同様,一定の水準に達した作品を取り上げるという方針のため,ピックアップ数は毎回異なることをお断りしておく。

 

6位:『淡島百景』OP


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【コメント】
淡島をメインにしたロケーションのため,窓からの外光と屋内の影とのコントラストが明瞭になっている。この物語の本質を成す“光と影”を巧みに視覚化した導入部だ。Hana Hopeのハスキーな歌声もよくマッチしている。

『淡島百景』OPアニメーションより引用 ©︎志村貴子・太田出版/淡島百景製作委員会

上図は左から田畑若菜岡部絵美伊吹桂子だと思われるが,その表情は隠されていて見えない。通常,OPアニメーションは人物紹介という役割も担うが,このOPではほとんどの場面で人物の顔がオミットされている。この実存的な輪郭の曖昧さ・希薄さは,『淡島百景』という群像劇の特殊性をよく表しているように感じる。

『淡島百景』OPアニメーションより引用 ©︎志村貴子・太田出版/淡島百景製作委員会

このOPでは花も多用されているが,漆黒のバックに描かれた金蓮花と思われる花の作画がとりわけ印象的である。花が萎れていく様子を早送りで示したものだが,逆に巻き戻しているようにも見える。過去と現在の間をめまぐるしく行き来する物語構成ともマッチするイメージだ。

『淡島百景』OPアニメーションより引用 ©︎志村貴子・太田出版/淡島百景製作委員会

深い海のような水に沈んでいく,絵美と思われる少女(上図・左)。本作は絵美の悲劇と,それを生んだ桂子の悔恨が物語の“軸”となるが,そんな桂子が快活にアラベスクのポーズをとるカット(上図・中)がとても印象的だ。彼女にも,煌びやかな世界を屈託なく夢見る時が確かにあったのだ。

『淡島百景』OPアニメーションより引用 ©︎志村貴子・太田出版/淡島百景製作委員会

ラストシーンでは,様々な登場人物の姿が描かれるが,やはりその表情は隠されている。唯一,この物語の“語り部”である若菜だけがその表情を見せる(上図・左)。白く塗りつぶされそうなほどハイキーな光量だ。ラストは,数々の“光と影”を生み出してきた淡島の仄暗い廊下の場面(上図・右)で締めくくられる。

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:浅香守生作画監督:濱田邦彦/原画:西田亜沙子濱田邦彦浅香守生

【主題歌】 Hana Hope『blue hour
作詞:Hana Hope矢野水音作曲:栗原暁Jazzin' park前田佑編曲:前田佑

 

5位:『日本三國』OP


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【コメント】
主人公・三角青輝の強い眼差しで始まるアニメーション。燃える太陽を背にした青輝と共に,あの印象的な書体で『日本三國』のタイトルバックが現れる。まさに日の丸。まさに日の本の国。熱狂的な愛国主義者でなくとも,この絵面には血が滾る。青輝=橙,阿佐馬芳経=青という補色関係もいい。

『日本三國』OPアニメーションより引用 ©︎松木いっか/小学館/日本三國製作委員会

基本フォーマットは人物紹介だが,原作の美意識をきっちりアニメ的な描線に落とし込んでおり,1つひとつのカットが“絵”として成立している。ギラギラとした光源の処理(下図・左)なども,本作のイメージにマッチしている。

『日本三國』OPアニメーションより引用 ©︎松木いっか/小学館/日本三國製作委員会

同じポーズの平殿継を手取川橋と正殿内に立たせた構図(下図)。合間に挿入された殿継と平殿器の満面の笑みとも相まって,非常にシュールな絵面で面白い。

『日本三國』OPアニメーションより引用 ©︎松木いっか/小学館/日本三國製作委員会

龍門光英が燻らせた煙草の煙が龍へと変化し,輪島桜虎にまとわりつく(下図)。本編でもすでに描かれた「龍虎決戦」を暗示している。

『日本三國』OPアニメーションより引用 ©︎松木いっか/小学館/日本三國製作委員会

ちなみにこの作品は,喫煙のシーンが頻発するのも特徴の1つだ。百害あって一利なしの悪習とみなされるようになった喫煙だが,煙草を吸う際の所作や,不規則な紫煙の動きなどに宿る“感情”というものが確かにあって,他に代えががたい1つの表象媒体である。こうした作品をきっかけに,過去の映像作品において“反良俗”的な描写が持つ意義を顧みるのもいいかもしれない。

『日本三國』OPアニメーションより引用 ©︎松木いっか/小学館/日本三國製作委員会

キタニタツヤの主題歌「火種」の歌詞には「先」という言葉が数回登場するが,そのタイミングでアニメーションでは青輝の妻・東町小紀の亡き姿が描かれる(上図・左と中)。本編にもある通り,「先(サキ)=未来」と「小紀(さき)」をかけた描写だ。果たして青輝と芳経の眼差しはどんな「先」を見ているのか。彼らをどんな「先」が待ち受けているのだろうか。

【アニメーションスタッフ】
コンテ:Anded/演出:寺澤和晃/作画監督:阿比留隆彦

【主題歌】キタニタツヤ「火種」
作詞・作曲:編曲:Tatsuya Kitani

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4位:『春夏秋冬代行者 春の舞』OP


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【コメント】
宙に伸ばされた孤独な手。冷たい“枯死”のイメージ。表情を欠いたモノクロの人物。OPアニメーションとしては極めて低いトーンの導入だ。

『春夏秋冬代行者 春の舞』OPアニメーションより引用 ©︎暁佳奈・スオウ/ストレートエッジ・KADOKAWA/春夏秋冬代行社

無論,これは冬の描写ではない。この作品では,冬は1つの季節として価値を与えられている。この導入部は,春=花葉雛菊の不在,ある1つの実存の,決定的な欠如を描いている。

『春夏秋冬代行者 春の舞』OPアニメーションより引用 ©︎暁佳奈・スオウ/ストレートエッジ・KADOKAWA/春夏秋冬代行社

雛菊が帰還し,姫鷹さくらが寄り添う。Orangestarの主題歌「Petals」のサビと共に春が顕現し,景色は色彩を取り戻す。疾走感のある楽曲に乗せ,カメラがまるで春に歓喜するかのように高速移動しながら景色を映し出していく。

『春夏秋冬代行者 春の舞』OPアニメーションより引用 ©︎暁佳奈・スオウ/ストレートエッジ・KADOKAWA/春夏秋冬代行社

キャラクター紹介のパート(上図)。淡い色彩がとても美しい。ここではそれぞれのキャラクターに表情が宿っている。さくらの眼はオミットされている(上図・下右)が,口元には笑みが浮かんでいるようだ。

『春夏秋冬代行者 春の舞』OPアニメーションより引用 ©︎暁佳奈・スオウ/ストレートエッジ・KADOKAWA/春夏秋冬代行社

触れ合う2つの手(上図・上左)。それは共に雛菊のものだ。彼女の人格の二重性を示しているのだろうか。しかしその後の場面では,雛菊の手はさくらの手を握っている。四季の代行者とその護衛官との間の強い絆を象徴したラストだ。

基本的に本編の物語をなぞった形のアニメーションだが,美しい色彩と楽曲の疾走感が相まって,極めて質の高い映像美を実現している。

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:山本健/作画監督:濱崎秀樹

【主題歌】Orangestar「Petals feat. 夏背
作詞・作曲Orangestar編曲:TAKU INOUE永山ひろなおOrangestar

 

3位:『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』第3話ED


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【コメント】
本作のEDアニメーションは,本編に対する“スピンオフ”のような内容になっており,各話毎にストーリーも異なる。今回は第3話のEDを観ていこう。郡上かなでをフィーチャーしたアニメーションである。主題歌の「感情グラス」の歌唱も郡上かなで役の寿美菜子が担当している。

『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』第3話EDアニメーションより引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

あのかなでが,幼少のころは大のタバコ嫌いだったという話。ボウやら鉄砲やらで父親の喫煙を“取り締まる”姿が少々非現実的で微笑ましい(上図)。

『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』第3話EDアニメーションより引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

 

そんな彼女には,近所に住む年上の幼馴染の友達がいた(ここでは「彼女」としておこう)。子どものころはよく一緒に遊んだが,やがて「彼女」が自分とは違う世界に足を踏み入れていくにつれ,かなでは心の距離を感じるようになる(上図)。

『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』第3話EDアニメーションより引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

ある日,「彼女」は母親と喧嘩して家を飛び出す。それを追いかけたかなでは,「彼女」が大嫌いなタバコを吸っている様子を見てしまう。「彼女」はこともあろうに,かなでに喫煙を勧める。かなでは怒りを露わにしながら,「彼女」が咥える火のついたタバコを握りつぶす(上図)。やがてかなでが引っ越したことにより,2人は物理的にも離れ離れになってしまう。

『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』第3話EDアニメーションより引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

数年後,2人は酒が飲める年頃になり,とあるダイニングバーで再会する。かなではかつて自分が奪い取ったタバコを「彼女」に返す。かなではあれほど嫌いだったタバコを吸うが,人生で初めてのタバコは彼女にとって少しきつい。「彼女」はかなでの手に火傷の跡が残っていないことを確認して安堵する。この後,かなでは立派なスモーカーになるわけだが,それは彼女にとって単なる嗜好品ではなく,「彼女」との思い出が刻み込まれた行為なのだろう。『日本三國』の項でも述べたが,ここでもタバコという悪癖に様々な“感情”が宿っている。

このOPアニメーションを手がけたのは,本作のキャラクターデザイナー・吉成鋼だ。吉成の絵を観てきたアニメファンであれば一見してわかる美麗な作画は,本編とは違ったテイストで彩りを添えている。ちなみに吉成と言えば,『ヤマノススメ Next Summit』(2022年)などでも同様のEDアニメーションを制作している。吉成がこの手のアニメーションを制作する際は,原画から撮影まで全て自ら担当する(下のクレジットからもお分かりだろう)ため,ほぼ彼の“作品”であると言ってよいだろう。

【アニメーションスタッフ】
エンディングアニメーション吉成鋼/エンディング制作:藤田規聖

【主題歌】郡上かなで(CV.  寿美菜子「感情グラス」
作詞:真崎エリカ/作曲・編曲:橋口佳奈

 

2位:『春夏秋冬代行者 春の舞』ED


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【コメント】
OPと同じOrangestarによる主題歌「花筏」だが,OP主題歌「Petals」が疾走感のある楽曲だったのに対して,「花筏」はずっと情緒的で淑やかなメロディだ。夏背の透き通った歌声は,キャラクターたちの可憐さ,直向きさ,その運命の切なさを代弁するかのようで,視聴者を一気に作品の叙情世界に惹き込む魅力がある。

『春夏秋冬代行者 春の舞』EDアニメーションより引用 ©︎暁佳奈・スオウ/ストレートエッジ・KADOKAWA/春夏秋冬代行社

雛菊が蝋燭の小さな炎をかざし,さくらがその温もりを手に感じている。2人は泡のようなもので包まれた小さな世界にいる。本編とは異なる,少しだけ丸みを帯びたデザインが,2人だけの世界の優しい情感を伝えるようだ。

『春夏秋冬代行者 春の舞』EDアニメーションより引用 ©︎暁佳奈・スオウ/ストレートエッジ・KADOKAWA/春夏秋冬代行社

雛菊が忽然と姿を消し,さくらが悲嘆する。再び雛菊が姿を現し,項垂れるさくらに触れようとするが,なぜか彼女は躊躇ってしまう(上図)。

『春夏秋冬代行者 春の舞』EDアニメーションより引用 ©︎暁佳奈・スオウ/ストレートエッジ・KADOKAWA/春夏秋冬代行社

そこへもう1人の雛菊が現れ,彼女を泡の世界から連れ出す。彼女の人格の二重性がここでも示される。外の世界には,様々な時代の人々がおり,様々な人々が春と火の温もりを感じている(上図)。ひょっとしたら,雛菊は人類世界とその歴史における“春”の価値を垣間見たのかもしれない。

『春夏秋冬代行者 春の舞』EDアニメーションより引用 ©︎暁佳奈・スオウ/ストレートエッジ・KADOKAWA/春夏秋冬代行社

しかし場面はまた変わる。春の陽光の中,咲き誇る桜の木の下で雛菊とさくらが微睡んでいる。雛菊が眼を覚まし,躊躇いながらも慈しむように,さくらの前髪に触れる。

ちなみにこのアニメーションを手がけた大野仁愛と言えば,

『春夏秋冬代行者』という作品には2つの世界がある。1つは,人々のシステムと歴史から成る固い〈世界〉。もう1つは,代行者と護衛官だけからなる親密な〈セカイ〉。雛菊たちにとって,どちらの世界も大切である。〈世界〉と〈セカイ〉の狭間で,そのどちらも守ろうとしながら必死で生きようとする彼女たち。そんな世界構造を美しく反映したEDアニメーションである。

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出・作画監督・レイアウト:大野仁愛

【主題歌】Orangestar「花筏 feat. 夏背
作詞・作曲Orangestar編曲:TAKU INOUE永山ひろなおOrangestar

 

1位:『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』OP


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【コメント】
基本的に人物を写しながら紹介していく,というシンプルな構成なのだが,とにかく画作りのセンスがよい。手持ちカメラのブレとコマ抜け感を出すことによって,8mmフィルム撮影の雰囲気を再現。寮生たちが代わる代わるカメラで被写体を撮っていく,という設定にしている。これにより,被写体と撮影者の関係性(“このキャラがこのキャラに撮られたらこの表情をするだろう”)がはっきりと見えてくる(下図)。

『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』第3話OPアニメーションより引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

アニメーションを手がけたちなは,「実在感」という言葉を使っているが(下記のFebriのインタビューを参照),まさに撮られている彼女たちと撮っている彼女たちが“そこにいる”という感覚がリアルに得られる作りだ。

左:完全版/右:TV放送版 『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』第3話OPアニメーションより引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

ちなみにここで紹介している「完全版」は,ちなが当初制作した4:3のアスペクト比だが,TV放送版では上下を切って16:9にしている(上図参照)。Febriのインタビューによれば,かつてちなは土上いつきから「空間を見せるシネスコよりキャラクターを見せる4:3のほうが向いてる」とアドバイスされたことがあり,以来,いくつかの作品で4:3のアスペクトを採用してきたらしい。16:9のアスペクトでも絵として成立してはいるが,確かに空間内にキャラを「実在」させるという意味では,4:3の方がはるかに適しているようだ。

『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』第3話OPアニメーションより引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

印象的ないぶきのカット(上図・左)。ぼたんらがいぶきに風船のサプライズを仕掛けた,という筋立てらしく,撮影者はぼたんだろうか。驚いて振り向くいぶきの表情を捉えたまま,ゆっくりと手持ちでトラックバックしていくカメラ。トラックアップではなく,トラックバックしていくことで,徐々に風船と窓外の緑と寮の廊下の全貌が見えてくる,という“加算”的な作り方をしている。ちなは「『上伊那ぼたん』のメインキャラクターは寮生6人だけではなく,寮という建物も含まれるだろう」と語っており,その思想はこうした構図の中にも表れているようだ。結果,“寮の中に「実在」するいぶき”という画が出来上がる。

『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』第3話OPアニメーションより引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

 

オフショット的な表情もいいが,ポーズをとって“狙った”感のある表情もいい(上図・上)。また,シネカリグラフィー的な文字(上図・下)も可愛らしい雰囲気が出て,このOPでは非常に効果的だ。

『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』第3話OPアニメーションより引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

ラストでぼたんが銃を撃つ真似をするカット(上図・左)。タメをたっぷりととった芝居が印象的で,場の空気感までもが感じられる。ちなみにTV放送版ではカットされているが,最後にいぶきらしき人物のピースサインが挿入されている(上図・右)。

総じて,キャラの魅力を伝えつつ,その「実在感」と「関係性」を補完する機能を持った,きわめて優れたOPアニメーションである。

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:ちな作画監督:渡部さくら

【主題歌】 yonige「芽吹くとき」
作詞・作曲:牛丸ありさ

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以上,当ブログが注目した2026年春アニメOP・ED6作品を挙げた。

OP・EDアニメーションは,本編の内容を反映したストーリー仕立てになっているものも多いが,『淡島百景』OPや『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』OPのように,画作りそのもので/を伝える作品もある。その意味で,より“映像作品的”あるいは“絵画的”とも言えるだろうか。特に『上伊那ぼたん』OPは,物語的な要素をほぼ廃し,画作りと“8mmフィルムカメラ”という設定だけで,人物の関係性を巧みに表現している。演出家の演出思想を的確に伝える画作りをしていたという点で,頭一つ抜けたクオリティに仕上がっていたと言えるだろう。

 

2026年 春アニメ 中間評価[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の現時点までの話数の内容に言及しています。未見の作品を先入観のない状態で鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

 

春を蒸発させるような“夏日”が日本各地で頻発する中,2026年春アニメもすでに後半の話数に差し掛かった。今回の記事では,当ブログ独自の観点から春アニメ注目の作品を振り返りたい。これまで通り五十音順に(ランキングではないことに注意)作品を紹介していく。

なお「2026年 春アニメは何を観る?」の記事でピックアウトした作品は,タイトルを桃色にしてある。

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1.『あかね噺』

akane-banashi.com

【コメント】
「落語」という,アニメ作品としては一見地味なテーマだが,高座の際の派手な演出・処理はとても見応えがあり,緩急もしっかりと出来上がっている印象だ。全体的な作画の安定度も高い。同じ渡辺歩監督『とんがり帽子のアトリエ』(後述)とはテーマも演出方針も大きく異なっており,同じ監督の対照的な2作品を比較するという意味でも面白いかもしれない。永瀬アンナの演技もたいへん耳心地よく,“女子高生×噺家”という取り合わせの妙をうまく消化している。

 

2.『淡島百景』

awajima-anime.com

【コメント】
まず目を引くのはキャラクターデザインだ。原作者・志村貴子の,シンプルだが柔らかく繊細なデザインを巧みにアニメーションとして落とし込んでいる。影の境界線をぼかすなど,細部の工夫も功を奏しているだろう。また原作は余白のコマが比較的多いが,アニメでは淡い水彩調(おそらく原作の表紙絵の画風を踏襲している)で背景美術を彩色するなど,美術・色彩面での工夫も上手い。こうした丁寧な画作りが,「淡島歌劇学校」という,現実と非現実,日常と非日常が交錯する空間,そしてそこで繰り広げられる感情豊かな群像劇を成り立たせている。今期のラインアップの中でも,とりわけ高いクオリティを示している作品である。

 

3.『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』

kamiina-botan.com

【コメント】
「春アニメは何を観る?」の記事でイチオシとしてピックアウトした作品。アニメーションの作りという点では,作画と演出をあえて統一せず,各話の演出担当の采配に委ねる演出方針を打ち出した点が注目に値する。こうした作り方は,一部のライト層には敬遠されるかもしれないが,演出家の個性を味わうタイプのコア層には“美味しい”要素と言える。特に銀さんの「第3話」戸澤俊太郎副監督の「第4話」「第5話」は,それぞれ全く異なるユニークネスを示していてたいへん面白い。「百合」というテーマを直接的な描写ではなく,艶かしい台詞や仕草だけで表象するという作劇法は,ややもすると一部の界隈からの批判に遭う可能性もあるが,そこを差し引いても,アニメーションとして高い水準を示した作品であることは間違いない。また,ちな演出のOPアニメーションは,今期のラインアップの中でも群を抜いてクオリティが高い。

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4.『春夏秋冬代行者 春の舞』

4seasons-anime.com

【コメント】
季節の「代行者(現人神)」という設定,および「代行者×護衛官」という関係性がユニークな作品だ。しかしこの作品の最大の魅力は,この設定と関係性が生み出す“感情”にある。代行者と護衛官の間で取り結ばれる,「共依存」(第7話の台詞)にも似た強力な精神的絆。世界設定と感情を不可分のものとして物語を構築する語り口は,さすが『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の暁佳奈と言うべきだろう。『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』(2024年)の山本健率いるアニメ班の仕事もきわめて良好。またOrangestarのED主題歌「花筏」も本編に豊かな彩りを添えている。小説のアニメ化として,高い完成度を示していると言えるだろう。

 

5.『ドロヘドロ Season 2』

dorohedoro.net

【コメント】
グロい。とにかくグロい。
しかし不思議とアーティスティックな美的感性も感じる。そんな不思議な魅力を持った作品だ。おそらくそれは,異形やマスク,衣装などのデザインが多彩であること,それらを彩る色彩設計が巧みであることなどが理由だろう。ビジュアル面での完成度に加え,物語面での魅力も際立つ。特に「Season 2」は,カイマンを巡る謎の核心に徐々に迫っていくスリルがある。そして何より,これほどグロい作品でありながら,カイマンとニカイドウの間の友情が作品の本質部分を成している点に,どこか清涼感にも似たものを感じる。個人的には,『呪術廻戦』や『チェンソーマン』ではなく,本作こそがMAPPAの代表作ではないかと思っている。

 

6.『とんがり帽子のアトリエ』

tongari-anime.com

【コメント】
一般的なTVシリーズと比較して,相当な期間(そしておそらく費用)を費やして制作されたことが一見してわかる。白浜鴎による緻密で美麗なキャラクターデザインをうまくアニメーションに落とし込み,世界観を忠実に再現。その上で,映像作品として成立させるための的確なオリジナル表現を随所に盛り込み,見応えのある作品に仕上げている。特に川越一生が手がけた第5話は,絵コンテが分厚になるほど膨大な演出情報量でありながら,1つの“作品”としてのまとまりを見せていた。今期のラインアップの中でも,群を抜いて完成度の高いアニメである。渡辺歩監督にとっても,代表作の1つとなることは間違いないだろう。

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7.『日本三國』

www.nipponsangoku.com

【コメント】
原作のデザインばかりか,構図や文字列の配置までも忠実に再現する一方で,一般的なアニメでは用いない大胆なオリジナル演出を散りばめる。“忠実”と“独創”のバランスがとてもいい作品だ。そういう意味では,マンガ原作のアニメ化として,理想的な作り方をしていると言えるかもしれない。特に寺澤和晃監督が手がけた第1話は,引き剥がされる背景,日本画風の蛾,独特な構図でのカメラの切り返しなど,アニメーションという媒体の“外部”を目指すような挑戦的な演出が目を引いた。主人公・青輝が最愛の妻・小紀の首へとつながる“血の道”に跪くシーンなどは,鮮烈な映像美に様々な感情と思想が織り込まれ,絶大な演出効果を発揮していた。原作の物語面での面白さも的確に伝えている。今期のラインアップの中でも,格別高い評価を受けるべき作品だろう。

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8.『ニワトリファイター』

www.niwatori-fighter.net

【コメント】
劇画タッチのニワトリvsグロテスクな鬼獣という取り合わせは,必ずしも一般的なアニメファンに好まれる題材ではないかもしれない。しかしアニメーション作品,とりわけ3DCG描写の作品として,相当に高い完成度を見せていることは間違いない。サンジゲンがあの『BanG Dream! Ave Mujica』の後にこの作品を発表したという事情もなかなか面白い。異形の怪物「鬼獣」 の中に,“泣いた赤鬼”的なヒューマニズムを描き出すストーリーテリングも魅力的だ。1クールの中に,こうしたキワモノ系の秀作が1つはあってもいいだろう。

 

9.『黄泉のツガイ』

yominotsugai.com

【コメント】
個性的な作品が目立つ今クールの中で,本作のように実直な作りをしている作品はややもすると埋もれてしまうかもしれない。しかしキャラクターデザイン,作画,美術など多くの点で水準以上のクオリティを示していることは確かだ。制作会社ボンズフィルムの技術が遺憾無く発揮されていると言ってよいだろう。そして何より独特な世界観や敵/味方が反転する展開など,物語面がたいへん魅力的な作品だ。小野賢章宮本侑芽中村悠一久野美咲といった錚々たる声優陣の演技も素晴らしく,あらゆる点において安心して観られる良作である。

 

以上,「アニ録ブログ」が注目する2026年春アニメ9作品を挙げた。

 

今期は,各話毎の演出家に采配を委ねた『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』,逆に全ての話数で作画の質を極限まで高めた『とんがり帽子のアトリエ』,原作に忠実でありながら大胆なオリジナル演出を盛り込む『日本三國』と,多様な演出方針が楽しめるクールだ。今回ピックアウトしなかった作品の中にも“有望株”があり,最終話までの出来次第ではランクに浮上する可能性もある。全体として高いクオリティを示した作品が多く,格付けが大いに難航することが予想される。まさに“嬉しい悲鳴”だ。

 

最終的なランキング記事は,全作品の放映終了後に掲載する予定である。

 

TVアニメ『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』(2026年春)第4話・第5話の脚本と演出について[考察・感想]

*この記事は『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』「第4話」と「第5話」のネタバレを含みます。また原作第6巻の内容にも一部触れていますので,本記事をお読みになる際は十分ご注意ください。

上:「第4話」より引用/下:「第5話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

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塀原作/佐久間貴史監督『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』(以下『上伊那ぼたん』)各話レビュー第2弾として,今回は「第4話」「第5話」を取り上げる。特殊な構図によって視聴者に〈見る=覗く〉という行為を意識させ,独特な世界没入感を生み出す。“アニメを観る”ことそのものへの考察を促す,極めて興味深い話数である。第4話の脚本は『スキップとローファー』(2023年)などに参加経歴のある篠原智子,絵コンテは『平家物語』(2021年)『アンデッドアンラック』(2023年)などに参加経歴のある戸澤俊太郎,演出は『mono』(2025年)などに参加経歴のある牧野秀則,第5話の脚本は篠原智子,絵コンテ・演出は戸澤俊太郎である。その技を詳しく見ていこう。

 

カメラの実在:〈見る=覗く〉その1

「第4話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

「第4話」は,特にその独特な構図の取り方が注目され,“実相寺アングル”*1 として話題を呼んだ。確かに,事物を手前に配したナメの構図(上図)などは,実相寺昭雄やそのフォロワー(例えば庵野秀明)らの画作りを彷彿とさせる。

しかしこのような構図をどう呼ぶにせよ,そこに気を衒ったオマージュ程度のものをしか見ないのであれば,ごく表面的な解釈に留まるだろう。この話数で特に注目したいのは,三峰神社におけるぼたんといぶきのシーンだ。他のメンバーと別れて2人きりになったぼたんといぶきは,密かに「縁結びの木」に赴き,こよりに互いの名前を書き合う。

「第4話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

上図は社側から2人の姿を捉えたカットだ。梁や格子が手前に写り込んだ構図が特徴的だ。当然のことだが,原理的にアニメにはカメラという物理的実体は存在しない。したがって,人物を写すという機能だけを求めるのであれば,物理性を度外視し,写り込みというノイズを排したクリーンな画を作ればよいはずだ。しかしここでは,敢えて事物を遮蔽物としてナメることで,あたかもそこに“カメラ”が実在しているかのような印象を与えている。

このような構図自体は,アニメ作品でもさほど珍しいわけではない。とりわけ日常系アニメにおける屋内のシーンなどでは,手前にプロップなどを写し込む構図(下図)は頻繁に見られる。

左2枚:『お兄ちゃんはおしまい!』「#02. まひろと女の子の日」より引用 ©︎ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会/右2枚:『瑠璃の宝石』「第9話 190万トンのタイムカプセル」より引用 ©2025 渋谷圭一郎/KADOKAWA/「瑠璃の宝石」製作委員会

事物の写り込みがあることによって,カメラがそれらの事物と共に“そこに置かれている”という感覚を生む。カメラは透明な媒体=機能であることをやめ,物理的実在としてそこに“在る”ことを主張し始める。当然,カメラの物理的な“眼”は視聴者の物理的な“眼”と重なる。視聴者はカメラの実在性に保証される形で,キャラクターの生活圏内に自ら実在し,キャラクターを〈覗いている〉かのような感覚を得る。

ちなみに,第4話と第5話の絵コンテおよび第5話の演出を担当した戸澤俊太郎は,山田尚子監督『平家物語』(2022年)の「第四話 無文の沙汰」に演出として参加した経歴を持つ。彼は『平家物語 アニメーションガイド』の中で,「僕は以前から山田(尚子)監督の演出が好きだったんです」と前置きしながら,以下のように語っている。

山田監督のフィルムは「カメラが温かい」ところが好きで,キャラクターたちに演技をさせるのではなく,そこにいるキャラクターたちの邪魔をしないように,そっと定点から撮影するという感じがあるんです。 *2

そもそも山田尚子監督の『平家物語』は,「びわ」というフィクショナルな観察主体を導入することによって,『平家物語』を文学的な〈読む〉対象から,アニメーション的な〈観る〉対象へとコンバートした作品である。戸澤の「そこにいるキャラクターたちの邪魔をしないように,そっと定点から撮影するという感じ」という言い回しは,「びわ」というキャラクターの特性,つまり山田版『平家物語』の本質をいみじくも言い当てている。そして戸澤は,このキャラクターを観察する=〈覗く〉という表現法を,山田作品を通して消化・吸収・継承し,『上伊那ぼたん』第4・5話において独自の形で実現し得たのだと言える。

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カメラの実在は,視聴者にキャラクターたちを〈見る=覗く〉という行為を意識化させる。視聴者は,ぼたんといぶきとの間で執り行われる秘め事を〈覗いている〉ことを自覚する。いわば〈見る〉という行為そのものを“観る”。僕らは,かなでやあかねの空間ではなく,ぼたんといぶきの空間に共存していることを自覚しながら,いわばライブ感覚で彼女たちの心情の生々しさを体感するのだ。

「第4話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

 

紫陽花の花弁:〈見られる〉

かくして2人の秘め事の“共犯者”となったカメラ=僕ら視聴者は,このシークエンスの最後で,唐突にかなでとあかねの前に引き立てられる。

「第4話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

紫陽花の群生をシンメトリックなロングショットで捉えた見事な構図(上図・左)だが,ここでは遮蔽物のナメがないことに注目しよう。画面奥に小さく写るかなでは,確かにこちらを〈見ている〉。遮蔽物の防護を剥ぎ取られたカメラ=視聴者は,かなで自身から発せられたかのような濃厚な沈黙の中で,彼女の眼に晒される。「来ないわね,いぶきたち」という台詞とともに,青い紫陽花がクロースアップになる(上図・右)。

少々個人的な話になるが,僕は動物よりも植物に異様な生命力を感じとることがある。特に棕櫚やリュウゼツランのような巨大な植物には,傍を通るだけでbotanophobia(植物恐怖症)を感じることすらある。それほどではないとしても,上の紫陽花のカットなどは,単に綺麗な花をアップにしたというよりは,花弁という能動的主体によって〈見られている〉感覚を視聴者に与える。「冷淡」「浮気」という花言葉を参照するまでもなく,その冷ややかな青の色彩は,「来ないわね,いぶきたち」というかなでの仄暗い言い回しとともに,ぼたんといぶきの共犯者となった僕らを冷たく咎めているように思える。

 

〈見る=覗く〉その2

「第4話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

かなでがベンチから立ち上がる。一旦,白い蝶をナメたカットとライターのカットを挿入した後,再び紫陽花を正面から捉えた構図に戻る。しかし場面は寮の庭である。視聴者はカメラの物理的実在の連続性が絶たれ,一瞬混乱する。まもなく,すでに場面が転換していたことに気づく。しかし,かなでの座る位置,喫煙を咥えながら思いに耽る様子,代弁者としての雨(上図・右)などから,彼女の心情が前場面から連続していることを察する。場面の不連続性と心情の連続性を同時に進行させた,とても面白い演出だ。

しかしここでは,カメラは引き戸の枠をナメている。カメラは再び〈見る=覗く〉モードに入る。

「第4話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

しかもこともあろうに,いぶきをめぐってぼたんに嫉妬したかなでが,他でもないぼたんとの“秘め事”に興じる(あるいは興じる羽目になる)というシチュエーション(上図)だ。カメラは様々なプロップをナメながら,このインモラル一歩手前の状況を〈覗く〉。そして同時に,視聴者は上伊那ぼたんというキャラの小悪魔的あざとさを噛み締める。

「第4話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

なお,ナメの構図と〈覗く〉行為の演出は,本話数のBパート,川越の足湯バーにおけるぼたん,いぶき,やえかの場面でもリフレインされる(上図)。やえかが捌け,またもやぼたんといぶきが2人きりになる。

「第4話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

いぶきが酒を飲み,ぼたんがマニキュアを塗って欲しいといぶきに請う。どちらも艶かしく濃密な作画で演出されている。

“心の暗がり”

「第5話」のアヴァンは,いぶきの夢から始まる。

「第5話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

いぶきは高校の制服を身につけている。その瞳には同じ制服を着た生徒が映っている。彼女が憧れ,そして“トラウマ”の原因となった,養老うつぎだ。*3 かつていぶきは,新歓で初めて飲酒した際に例のしゃっくりをしてしまい,高校時代から憧れていたうつぎに「うるさいんだけど」と言われてショックを受ける。それ以来,いぶきは人前で酒を飲むことを避けてきたのだ。

夢の中のうつぎの肩に手をかけようとしたところで,アラーム音とともにいぶきは現実に引き戻される。梅雨空の薄暗がりに佇むいぶき。この暗がりが,本話数前半における彼女の心の明度そのものなのである。

「第5話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

この話数の冒頭でも第4話に見られたようなナメの構図が登場し(上図),この話数が第4話と同じ視覚フォーマットで構成されていることを告げ知らせている。構造物のパースが導線となり,ぼたんといぶきに視線を集中させる構図の取り方も面白い。

「第5話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

ただ今回の話数で面白いのは,「電柱作監」として知られる田中達也の電柱作画(上図)が異様な存在感を放っているところだ。“クリエイターの個性を活かす”という思想がこうした細部にも反映している点にも注目しておきたい。

「第5話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

ぼたんといぶきがバーを訪れるシーン(上図)。最初は客が1人もおらず,2人は気兼ねなくカウンターで酒を嗜むが,途中で男性客が2人入ってくる。カウンターのラインを画面上部まで寄せた極めて狭い構図でぼたんといぶきを捉え,かつそこに男性客の手が介入して2人の姿を遮る,という演出をしている(上図・右)。異質な存在が闖入することにより,2人の世界が圧迫される様をよく表した構図だ。

「第5話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

いぶきはしゃっくりの癖を見知らぬ人間に聞かれることを遠慮し,カウンター席に移る(上図)。片側の照明が点灯していないため,ぼたんといぶきとの間に残酷なほどの“明暗”の差ができている。アヴァンにおけるいぶきの心の暗がりが,いわば“逆スポットライト”という形で浮き彫りにされる。

「第5話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

しゃっくり癖を慰めるぼたんに,いぶきは「ありがとう,ぼたん。でもね,言われたんだよ。うるさいって…」と言いながら大粒の涙を流す。夢の中ではうつぎを映していたその瞳には,今やぼたんの姿が映し出されている(上図・左)。ほぼ全カゲになったいぶきの頬に,輝く涙が伝う様(上図・右)がとても美しい。

 

圧倒する花

「第5話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

第4話にも紫陽花の印象的なカットが見られたが,第5話ではが登場するカットがさらに多用されているのが特徴だ(上図)。ちなみに山田尚子監督『平家物語』などにも花のカットは頻出したが,画面に彩りを添える程度のさり気ない描写である場合がほとんどだ。それと比べると,戸澤の描く花々ははるかに強い存在感を放っている。

そしてこの話数において,花が最も能弁に“語る”のが,いぶきとかなでが山梨の温泉に行った後,ニッコウキスゲの里に赴くシーンだ。

「第5話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

夕暮れ時の淡い光の中を,いぶきとかなでが歩いている。2人の間を,一本の飛行機雲が今にも分け隔てようとしている(上図・左)。2人の関係性の危うさが示される。唐突にニッコウキスゲの群生が大写しになる(上図・中)。これまでせいぜい1/3程度しか占めていなかった花が,ここでは画面の大半を埋め尽くす。

「第5話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

かなでの「じゃあ運転がなかったら[一緒に酒を]飲んでくれるの?」という台詞の後,風と共にニッコウキスゲの花びらが大量に舞い,2人の姿を包み込む(上図)。垂直に伸びる太陽光の線は,やはり2人の間を引き裂こうとしているかのように見える。

「第5話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

しかしここでいぶきは,徐にかなでに近づいていく(上図・左)。影を帯びたニッコウキスゲ夕暮れの青い光の中に浮かび上がる様は,“黄昏時”というよりも“逢う魔が時”という呼称の方が似合いそうなほど,非現実的でやや不穏な空気を醸し出している。アヴァンでうつぎを,バーの場面でぼたんを映し出していた瞳に,今度はかなでの姿が映し出される(上図・右)。

「第5話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

いぶきは徐ら,かなでの咥える煙草を奪い取り,自分の口に添えて有害な煙を吸う(上図・左と中)。本当に小悪魔的にあざといのは,ぼたんではなくいぶきなのではないか,という思いがよぎる。一輪のニッコウキスゲが,2人の“秘め事”を隠蔽するーーあるいはむしろ暴露するーー意志を持ったかのように現れ,画面いっぱいに大写しになる(上図・右)。その花弁は,美しいというよりも,圧倒的なほどの生命力を漲らせている。botanophobiaの気がある僕には,少し圧倒的過ぎるくらいに強い画だ。

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Xアカウントなど

【スタッフ】
原作:/監督:佐久間貴史/副監督:戸澤俊太郎/シリーズ構成・脚本:米内山陽子/キャラクターデザイン:吉成鋼/サブキャラクターデザイン・メインアニメーター:みやち/プロップデザイン・メインアニメーター:松尾祐輔/衣装デザイン:藤井有紗/美術監督:宮越歩/色彩設計:伊藤唯/撮影監督:富田喜允/3D監督:小川耕平/編集:廣瀬清志/音楽:橋口佳奈/音響監督:明田川仁/音響制作:マジックカプセル/アニメーションプロデューサー:村上光/制作:ソワネ

【キャスト】
上伊那ぼたん:鈴代紗弓/砺波いぶき:青山吉能/郡上かなで:寿美菜子/遊佐あかね:天海由梨奈/北杜やえか:富田美憂/張景嵐:河瀬茉希

【「第4話」スタッフ
脚本:
篠塚智子/絵コンテ:戸澤俊太郎/演出:牧野秀則/作画監督:井川典恵/動画検査:今西麻綾/色指定・検査:丸山麻美/制作進行:樋山翔太

原画:髙橋良太碓井遥仁大江櫂石井でんつく小西達裕まなもとすいず諸冨直也Mahmoud Moftahぼんさい徳田つかさ湯藤梲あんぷ宮沢聖麿Saitou松本元気牧野秀則貞元北斗渡部尭晧中下美湖ミャン

【「第5話」スタッフ
脚本:
篠塚智子/絵コンテ・演出:戸澤俊太郎/作画監督:宮原拓也あけろら作画監督補佐:井川典恵/動画検査:後山汰央今西麻綾色指定・検査:藤木由香里/制作進行:佐藤克樹

原画:小川智暉じゅらアワビ林珠銀曾品喬蔡泓鏗髙橋良太we1k中山みゆき池部元基宮井加奈田中達也椎香貞正松浦力宮原拓也世良コータあけろら

WIT STUDIO北村昂大髙崎朝登

 

この他,この素晴らしい話数に参加されたすべての制作者に拍手を。

 

 

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【原作マンガ】

 

*1:映画監督の実相寺昭雄が『ウルトラセブン』(1967-1968年)などで実践したカメラアングル。ローアングル,ナメ,広角レンズの使用などによる大胆な構図が特徴。

*2:『平家物語 アニメーションガイド』,p.19,KADOKAWA,2022年。

*3:原作第6巻に登場する。

TVアニメ『とんがり帽子のアトリエ』(2026年春)第5話の脚本と演出について[考察・感想]

*この記事は『とんがり帽子のアトリエ』「第5話 巨鱗竜の迷宮」のネタバレを含みます。

「第5話 巨鱗竜の迷宮」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

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白浜鴎原作/渡辺歩監督『とんがり帽子のアトリエ』各話レビュー第2弾として,今回は「第5話 巨鱗竜の迷宮」を取り上げる。巨鱗竜の住まう迷宮に囚われたココアガットテティアリチェは,ココの発案をきっかけに団結し,辛くも難局を乗り越える。王道の展開だが,計算された構図,繊細な芝居,チームワーク描写などによって,仲間意識の芽生えに至る過程を的確に伝えた名話数だ。脚本はシリーズ構成の瀬古浩司,絵コンテ・演出は『古見さんは,コミュ症です。』(2021-2022年)『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』(2023年)などの川越一生である。その技を詳しく見ていこう。

 

連帯:テティアの魔法

「第5話 巨鱗竜の迷宮」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

巨鱗竜から身を守るべく,安全な場所に身を隠すココテティアアガットリチェ。最初のマスターカット(上図・左)では,4人は離れた場所に座っており,第4話で描かれた心の距離を受け継いだ構図になっている。ここでは,劇伴も悲哀感のあるストリングスの楽曲が使用されている。ココがテティアを気遣って近づく(上図・右)。前話でテティアがココに責めるような目つきをしてしまっていたため,2人の間には気まずい空気が流れている。

「第5話 巨鱗竜の迷宮」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

しかし実際,ココを責めた目つきはテティアの本心ではない。アニメではそれを示す芝居が挿入されている(上図・左)。ココもテティアの内心を理解していたのだろう,持ち前の行動力で,2人の間の距離を一気に解消する(上図・右)。この「そして私はくっつく!」のカットはほぼ原作通りだが,ロングショットで捉えたことによる表情の省略作画拍子抜けしたテティアの目パチ尺の取り方,ココ役の本村玲奈の演技など,面白い要素がふんだんに盛り込まれている。また,迷宮の空虚な広がりに対して2人が相対的に小さく描かれることになるため,コミカルな雰囲気と同時に心細さも醸し出されている。2人の姿をあえてぎりぎりの中に配置したのも,この後の雲の中のシーンとコントラストを成していて面白い。

「第5話 巨鱗竜の迷宮」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

己の無力さを痛感する一方で,先輩としてココを守りたいという気持ちに駆られ,テティアは唐突に雲の魔法を発動する。塊となった雲をスクワッシュ&スクイーズで転がす(上図・左)など,アニメーションらしいコミカルな描写が楽しい。シビアな難局の中で,突如ゆるふわなものが出現するという違和感も面白い。

外光を取り込む仕組みになっているのか,あるいは魔法自体が発光しているのか不明だが,雲の中は外より明るい。内部は白ではなくペールオレンジ(いわゆる肌色)で色彩色されており,自宅の自室のような温もりを感じさせる色彩設計だ。

「第5話 巨鱗竜の迷宮」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

ココとテティアが同時にとんがり帽子を被るカット(上図)。2人の帽子がクロスし,雲の下からアガット,上からリチェが登場する。シンメトリックな構図のまとまりがよい上,温かなコミカルさも加わる。まるで一緒に温泉でも入っているかのような絵面(上図・右)は,彼女たちの心の雪が解け始めたことを示しているようだ。第4話の不和から連帯へ転じる様を表現した,見事なシークエンスだ。

 

「優しい魔法」

「第5話 巨鱗竜の迷宮」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

巨鱗竜をテティアの雲魔法で“ダメ”にするという作戦を提案するココ。ココが迷宮の壁に描いたイラスト(上図)は,いかにも彼女らしい“素人っぽさ”が表れているが,これが後のアガット,テティア,リチェの“玄人っぽい”振る舞いと好対照を成す(ちなみにこの巨鱗竜の図は,原作ではもっとリアル寄りに作画されている)。

「第5話 巨鱗竜の迷宮」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

ココは巨鱗竜を倒さないという方針を立てたばかりか,巨鱗竜の怪我を案じる素振りを見せる。ここでアニメは人物の配置を変化させる。ココが階段を昇り,巨鱗竜の姿を探す。結果として,ココ=上/アガット・テティア・リチェ=下という構図が生まれる(上図)。当然,目線の差が生じ,アガット・テティア・リチェがココを見上げる形になる。

「第5話 巨鱗竜の迷宮」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

巨鱗竜を傷つけずに,自分たちを守る。それはキーフリーの魔法理念を忠実に継いだ「優しい魔法」に他ならない。この上/下の構図は,この世界における「優しい魔法」の優位性を目に見える形で示している。この際のアガットの表情にも繊細な芝居が付けられている。この辺りは原作にはないアニメオリジナルのシーンだが,原作の思想を巧く抽出した優れた演出だ。

 

反復:魔法使い≒絵描き

ココが策を発案し,アガットが魔法を考案し,テティアとリチェが魔法陣を描く。まるでアニメ制作の座組みのようだと言うと少々深読みに過ぎるかもしれないが,『とんがり帽子のアトリエ』という作品に“絵描き讃歌”という要素があることは間違いない。原作第1巻カバーのそでに書かれた原作者のコメントによれば,本作は「絵が生まれていく過程って魔法みたいだよね,という友人の一言から生まれた物語」らしい。*1

「第5話 巨鱗竜の迷宮」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

アガットが捨てた魔法陣を拾うココ。彼女はアガットが魔法陣を描く様子を観察し,その技を会得しようとする(ここなども,昔のアニメーターが先輩がゴミ箱に捨てた原画を拾って技術を盗んだという,よく聞く話を想起させる)。ココがアガットに近づく際の所作がコミカルに作画されている(上図・右)。こういう細部の作画もココのキャラをよく表している。

ココはアガットたちの技を真似て繰り返し反復演習し,やがて焚火球の魔法発動に成功する。アガットはその「繰り返し」という言葉から着想を得て,「巨鱗竜をダメにするクッション(竜の砂床)」作戦を完成させる。〈反復演習〉こそが苦境を打開するという展開も,絵描き修行の現場をなぞっているようで面白い。

「第5話 巨鱗竜の迷宮」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

本話数では,アガット,テティア,リチェが陣を描くカットが原作よりも多く盛り込まれている(上図)。その真剣な眼差しと滑らかな手つきからは,とても見習いとは思えない迫力がうかがえる。その姿は,ココの眼にさぞかし眩しく映ったことだろう。

「第5話 巨鱗竜の迷宮」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

極め付けはここだ。リチェとテティアが各所に配置した陣を閉じる。その一連の動作が,まるで決めポーズのように流麗かつダイナミックなタッチで作画されている。特にリチェに関しては,軽やかに飛翔した後,着地の瞬間に重量を感じさせる作画をしている。とても的確な作画だ。陣を閉じたリチェとテティアとともに,このシーンの主線を描いたアニメーターたちにも拍手喝采を贈りたくなる。まさに“絵描き讃歌”のシーンである。

なお,この辺りの「巨鱗竜をダメにするクッション」,および後述するキーフリーと巨鱗竜のアクションシーンの劇伴は,北村友香によるフィルムスコアリングで作成されている(下記のBUG FILMS代表取締役・児島宏明のX投稿を参照)。音響面での盛り上げも申し分ない。

 

キーフリーの眼

キーフリーがココたちを救出すべく迷宮に侵入する辺りから,作画は一気に転調する。ここからはアクション作画の見せ場となる。担当アニメーターに“讃歌”を贈りながら見ていこう。

「第5話 巨鱗竜の迷宮」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

タイルに残った魔墨の跡から魔力のようなものが放たれ,キーフリーの顔がアップになる(上図)。ふだん穏やかな彼が一瞬見せた,鬼気迫る眼の表情が印象的だ。このシーンは鳥井隼人が担当している(下記Xの投稿を参照)。

「第5話 巨鱗竜の迷宮」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

塔から落下したアガットを救った後,巨鱗竜の背鰭を避けながら飛翔するキーフリー(上図)。極めてダイナミックかつスタイリッシュなアクション作画だ。このシーンの担当はWILLIAM LEEだが,何とこのシーンのコンテは,1話のLEEの仕事を気に入った川越が,彼用に「当て書き」をしたという。川越はLEEを「マスターピース職人」と呼んで大絶賛している(下記Xの投稿を参照)。

「第5話 巨鱗竜の迷宮」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

雲を水に変換する魔法を発動するキーフリー(上図)。雲が瞬時に水に変わる描写や,キーフリーの眼のアップからのT.B(作画)がとにかく美しくかっこいい。原作にはない描写だが,元々ファンタジー作品ということもあって,この手のスペクタクルがとてもうまくはまる。こういう演出を観るにつけ,アニメ化されるべくしてアニメ化された作品だと実感する。このシーンは野村治嘉の担当である。

なお,このシークエンスでキーフリーは猛烈な水の魔法を用いて巨鱗竜を圧倒するが,最終的に殺してはいない。アニメでは,「気絶してくれたみたいだ」というセリフ(原作にはない)を追加することで,キーフリーの魔法がココの発案した「巨鱗竜をダメにするクッション(竜の砂床)」と同様,「優しい魔法」の理念に則ったものであることを示唆している。

ラストシーン,みんなを巻き込んだことを謝罪するココに,キーフリーが近寄る。この際の彼の芝居が意味深だ。

「第5話 巨鱗竜の迷宮」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

キーフリーはいったんココの傍らを通り過ぎ,彼女に背を向けるような姿勢をとる(上図・左)。花江夏樹も,声のトーンを一段落とした演技をしている。しかしその後,すぐにココの方に向き直り,いつもの優しい調子でココを慰める(上図・右)。キーフリーの謎めいたキャラクターを意図的に盛り込んだ芝居構成だ(原作にはこのような演出はない)。

そして,ここまで観てきてお気づきだろうが,この話数はキーフリーの“眼”のアップショットを多用している。それはどれも,ふだんの穏やかなキーフリーとは異質な,鬼気迫る緊迫感を伴った表情だ。それが最も如実に現れるのが,ラストシーンのキーフリーの芝居である。

「第5話 巨鱗竜の迷宮」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

キーフリーは魔材屋のノルノアに「つばあり帽」が残した魔墨の調査を依頼した後,本件の他言無用を厳に告げる(上図)。「しかし」と反論しようとするノルノアを,キーフリーは殺意と見紛うほどの強い眼差しで睨みつける。キーフリーというキャラクターの中には,主に「つばあり帽」に関連した“闇”のようなものが潜んでいる。この話数では,それを殊更に抽出した芝居が施されていることを記憶しておきたい。

なお,この場面の作画を担当したのは中嶋敦子だが,川越によれば,「下のキーフリーの絵は怖いですが敦子さんはいつもニコニコされています」とのことだ(下記Xの投稿を参照)。キーフリーのように多元的なキャラの持ち主は,どの業界にもいるということなのだろう。

 

川越一生の技

本話数の演出を担当した川越一生は,制作会社BUG FILMSを代表するクリエイターの1人である(BUG FILMS取締役の1人でもある)。川越はこれまでに,『古見さんは,コミュ症です。』(2021-2022年)や『ゾン100』(2023年)などで監督を務めている。どちらも,構図・空間描写・キャラの芝居などの点で高いクオリティを示しており,アニメーションとしてたいへん見応えのある作品だ。今回の『とんがり帽子のアトリエ』第5話は,彼がこれまで磨き上げてきた技が遺憾なく発揮されたと言ってよい。

今回の話数はチーフアニメーターの中野悟史お気に入りということらしいが,中野によれば,第5話の絵コンテは一際分厚い。*2 総作画枚数も2万枚以上に及んでいる。*3 それだけ情報量の多い話数だということだ。また,上にいくつか挙げた川越のXの投稿を見ればわかるように,彼の絵コンテの熱量は相当なものである(ほとんど縮小版のL/Oか原画だ)。情報量と熱量の産物。この話数を一言でまとめるとそうなるだろう。

今回の記事に盛り込めなかった部分もあるだろう。本記事をお読みになった皆さんは,改めてこの話数を再鑑賞し,細部まで味わい尽くして欲しいと思う。

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Xアカウントなど

【スタッフ】
原作:白浜鴎/監督:渡辺歩/副監督:篠原准/シリーズ構成・脚本:瀬古浩司/キャラクターデザイン・総作画監督:うなばら海里/チーフアニメーター:中野悟史/服飾デザイン:小川茜/小物設定:鈴木典孝岩畑剛一/美術監督:後藤亮太/美術設定:多田周平中島美佳/色彩設計:中野尚美/撮影監督:北岡正/編集:本田優規/音響監督:小泉紀介/音楽:北村友香/音響制作:dugout/音楽制作:エイベックス・ピクチャーズ/アニメーション制作:BUG FILMS

【キャスト】
ココ:本村玲奈/キーフリー:花江夏樹/アガット:山村響/テティア:陽木くるみ/リチェ:月城日花/オルーギオ:中村悠一/アライラ:三石琴乃/フデムシ:久野美咲/イグイーン:斎賀みつき

【「第5話 巨鱗竜の迷宮」スタッフ
脚本:
瀬古浩司/絵コンテ・演出:川越一生/総作画監督:うなばら海里/作画監督:中嶋敦子髙田晴仁小川茜石丸史典小川莉奈中山みゆき村田陽佑野村治嘉/ドラゴン作画監督:福地純平/作画監督補佐:藤本さとる香月麻衣子佐藤義久/制作進行:小山匠/制作進行補佐:小倉黎士

原画:野村治嘉WILLIAM LEE中野悟史難波功鳥井隼人服部汰一浦田楓馬篠原天球馬玉谷朋香井口聖Håvard Skjeggestad Dale佐藤和巳松田真路山田朝日古長優妃奈庄田梨乃Saurabh singh下地彩加Vercreek爲水翔太郎仁平肇三宮哲太藤井康雄なかむら真我ナポりんkASS CHAPAdinoDaniel Monteiro木村覚イン市村厚美三上山直美飯田悠一郎飯田もの東田菜奈内田百香麻岐仁金井弓ふぃめら

 

この他,この素晴らしい話数に参加されたすべての制作者に拍手を。

 

 

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【原作マンガ】

 

*1:白浜鴎『とんがり帽子のアトリエ①』,講談社,2017年。カバーそでの原作者コメントより。

*2:YouTube動画「TVアニメ『とんがり帽子のアトリエ』アニメ制作現場に潜入!」を参照。

*3:上掲の児島宏明のX投稿を参照。

TVアニメ『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』(2026年春)第3話の脚本と演出について[考察・感想]

*この記事は『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』「第3話」のネタバレを含みます。

「第3話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

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塀原作/佐久間貴史監督『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』(以下『上伊那ぼたん』)は,主人公の上伊那ぼたん砺波いぶきら女子大生たちが,様々な酒を嗜みながら心を通わせる様を描いた百合テイストのアニメだ。当ブログでは『2026年 春アニメは何を観る?』の記事でイチオシとしてピックアップした作品である。まず驚くべきは,各話毎に演出担当の個性を全面に打ち出した演出方針だ。とりわけ今回取り上げる「第3話」では,キャラクターデザインの個性もさることながら,カット割りのスピード感や文字・図形・実写カットの挿入など,作り手のユニークな感性が披露された名話数だ。脚本は『真夜中ぱんチ』(2024年)などの白坂英晃,絵コンテ・作画監督・原動画は『mono』(2025年)第4話で作画監督(貞元北斗と共同)を務めた銀さん,演出は『ヤマノススメ セカンドシーズン』(2014年)などに参加経歴のある重原克也,動画検査は『mono』『瑠璃の宝石』(2025年)などの後山汰央である。その技を詳しく見ていこう。

 

〈分散〉する作画

『上伊那ぼたん』の視聴者であれば周知のことだろうが,この作品には「総作画監督」(以下「総作監」)という役職が設置されていない。

「作画監督」(以下「作監」)は,原画担当アニメーターの作画を補正し,各話の中での作画統一を担うが,それだけでは各話間で絵柄の違いが生じる可能性がある。そこで作監毎の差異を解消し,作品全体の作画統一を図るべく置かれるのが,総作監という役職である。

総作監制度がいつ頃から導入されたのかは定かではないが,作監については,東映動画(現・東映アニメーション)の『わんぱく王子の大蛇退治』(1963年)がその嚆矢とされている。*1 したがって,少なくとも絵柄を統一するという考え方自体は,日本アニメの草創期からすでにあったわけだ。総作監というクレジットがなくとも,作監やキャラクターデザイナーが全話数の作画を修正するというケースもあった。*2 しかし,90年代くらいまでは各話毎に作画のばらつきがあるのがごく当然だった(有名なところでは『美少女戦士セーラームーン』シリーズなどだろう)。

総作監という役職名は,おそらく80年代頃から使われ出したと思われるが *3 ,システムが定着していったのは2000年代以降と考えられる。この時代,TVアニメは自立した娯楽作品としての価値を持ち始め(『エヴァ』と深夜アニメ興隆がその背景にあることは言うまでもない),ファンの裾野も広がり,作画に対する一般の注目度が高まりつつあった。また,ビデオソフト販売が市場の主流となった時期でもあり,メーカーがアニメを“パッケージ”として販売するため,制作側に作画統一を要請するケースもあったようだ。*4 以降,TVアニメにおける作画統一は徐々にスタンダード化し始める。

TVシリーズを“パッケージ”化すること。そのために,話数間の差異・矛盾・祖語を極力解消し,一個の作品としてのアイデンティティー(自己同一性)を確保すること。これが多くの現代アニメの標準的な制作思想である。

こうすることにより,“作品”および“商品”としての完成度は高くなるだろう。しかし当然,各話の演出・作画担当の個性は捨象される。総作監を置かず,むしろ各話演出の個性を全面に押し出した『上伊那ぼたん』は,このアニメ界の標準に真っ向から挑んだというわけだ。ちなみに当ブログでは,各話や各パートで作画のタッチを変える演出方針を〈分散型〉と呼び,逆に作画を統一する方針を〈集中型〉と呼んでいる。

無論,最近の作品にも,意図的に演出や作画担当の個性を打ち出した〈分散型〉の話数は見られる。たとえば『モブサイコ100 Ⅲ』(2022年)第8話の伍柏諭回,『天国大魔境』(2023年)第10話の五十嵐海回,『薬屋のひとりごと』(2023年)第4話のちな回などが記憶に新しい。しかしこれらの作品では,全話のうち1話から数話程度の部分的な“サプライズ”にとどまっている。

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それに対し,『上伊那ぼたん』は全話で各クリエイターの個性を打ち出す制作方針をとっている。それを原作者側から公表するというのも,PRの方法としては珍しいだろう(下記Xの投稿を参照)。

このような制作方針が可能となったのは,1つには原作者の自身にアニメ制作の経験があることも大きいだろう。塀は松尾祐輔との縁故で,『ヤマノススメ サードシーズン』(2018年)第12話で二原として,『ヤマノススメ Next Summit』(2022年)第12話で原画としてアニメ制作に参加している。*5 アニメを作り手の側から考察する感性が,すでに原作者の中にあったわけだ。

上から「第1話」「第2話」「第3話」の上伊那ぼたん ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

プロデューサーの村上光によれば,『上伊那ぼたん』は「当初はもう少し方向性を定める予定だった」が,塀の「自分の作品をアニメ化するなら,各演出さんの個性を発揮してほしい」というXの投稿に後押しされる形で,現在の演出方針に変更したのだという。*6 

「第3話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

特に今回見ていく「第3話」は,キャラの主線や頭身などが前2話とも大きく異なり,作り手の“手つき”が格別に強く押し出された作りになっている。また話数内でもパート毎にタッチが変化するなど,〈分散〉の度合いが極めて高い。

なお,この話数では絵コンテ・作画監督の銀さん「原動画」としてもクレジットされているのも面白い。「原動画」と言えば,藤本タツキ原作/押山清高監督『ルックバック』(2024年)でクレジットされていたことが記憶に新しい。原画の線をクリンナップせず,そのまま動画として活かすという特殊な手法だ。Febriのインタビューによれば,銀さんは「『ルックバック』を見て、原画の線をそのまま動画として再利用する作り方に憧れていた」という。*7 これなども,作り手の個性を打ち出す方針に則った技法と言える。

左:ソワネ公式サイトから引用/右:「第3話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

上図はBパートの「貸切温泉」のシーンにおける銀さんパートだ。左の原画の線がそのまま完成画に反映されているのがわかる。

また,原画のニュアンスを保持することに尽力した動画検査担当・後山汰央の貢献度も高い(下記Xの投稿を参照)。

原画の線を活かしつつ「トレスから中割りまで一人で」というのは言うが易しというもので,相当な作業量だったと推測される。後山の仕事のおかげで,この話数は作り手の個性が一際息づく豊かな話数になったと言える。

ただ,ここで1つ附言しておきたい のは,作り手の個性を活かす作画の〈分散〉が許容されるためには,キャラの“核”が出来上がっていなければならないということだ。塀の原作と吉成鋼のキャラクターデザインをベースとしつつ,第1話の比較的“正攻法”な佐久間監督の演出が先行したからこそ,銀さんの「第3話」のような〈分散〉型の話数が活きる。ソワネのプロデューサー・藤田規聖は,佐久間を称して「すさまじいバランサー」と呼んでいるが,まさに彼のような采配があってこそ,〈分散〉作画が可能なのだ。*8 また原作を読むとわかるが,アニメはキャラとストーリーに関してはかなり原作に忠実に作られている。キャラと脚本を“体幹”として保持しているため,アニメーション表現をどれだけアクロバチックにしても,ブレが生じないということかもしれない。

 

個の才能×伝統の力:“シャフト”という技法

しかし本話数が優れている理由は,作画の〈分散〉だけではない。カット割りミドル⇄アップのカメラ転換など,全体的な演出のリズム感がとても心地よい。

「第3話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

上図はいぶきの部屋の「G」騒動の場面だ。いぶきの目のアップからのポン引き→「G」と「!!!!」のカット挿入→ぼたんの顔アップからのポン引き→「。」のカット挿入→ポップな作画の対話と,気持ちのよいスピード感のあるカット構成になっている。「G」に対するぼたんといぶきの対照的な反応も面白い。

「第3話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

かと思えば,二人のエモーショナルなアップの表情作画をじっくり見せ,場の湿度感を一気に上げる(上図)。テンポとタメのバランスがよく,非常に小気味のよいシーンに仕上がっている。

「第3話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

ぼたんが雷に怯え,幼少のトラウマを語るシーン(上図)。目線を右下に逸らしたアンニュイな表情のカットから始まり,雷が鳴った瞬間にカメラを移動させ,右下で驚いた表情を捉る。カメラのアングルが切り替わり,今度は目線が左下に向かった表情で雷に驚く芝居を入れる。いったんいぶきの表情と「(回想)」の文字カットをインサートした後,同アングルで幼少時代のぼたんの表情を捉える。リズム感のあるカット構成でありながら,場の静けさ,空気感,キャラの心情がしっかり伝わる名演出である。

なおこの話数の1つの特徴として,文字・記号のカットのインサートが多用されている点が挙げられる。部分的な実写映像の利用なども印象的だ。

「第3話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

アニメファンにとっては,一見してシャフト(尾石達也)演出が想起されるだろう。本話数担当の銀さんはシャフトファンを公言している*9 から,こうした演出は意図的なオマージュを狙ったものと考えられる。

しかし,シャフトという会社が半世紀にわたって演出技法を練り上げてきた事実を考えると(周知の通り,シャフトは今年の2026年で創立50周年を迎えている),これを“オマージュ”の一言で片付けるのは,却って演出の価値を過小評価することになるだろう。“シャフトっぽさ”はもはや単なるネタやミーム的なものではなく,様々な作品の中に取り込まれ,消化され,再解釈されてきたことにより,1つの“技法”としての価値を担いつつある。『上伊那ぼたん』第3話は,銀さんを中心とした〈個〉の才能が発揮されていると同時に,アニメの歴史の中で醸成された技法の一流に棹さしている。アニメは〈個〉の才能と〈伝統〉の力が出会う場で作られるものだということを再認識させられる。

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「第3話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

寮の玄関先で,実家から戻ったあかね,ぼたん,いぶきがレコードについて語り合う場面(上図)。カット割りのリズム,斜めのアングルからの表情作画,ポップで平面的な背景,あかねがレコードを取り出す際の所作,「?」の挿入など,ここもシャフトテイストが感じられる演出だが,話数の中で完全に消化・吸収されている。浮いた感じがあるどころか,むしろ話数コンセプトにマッチした素晴らしい演出だ。

 

アナログの時間

本話数のクライマックスは,やはりLPの楽曲シーンだろう。

「第3話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

ぼたんといぶきがIPAについて語る背後で,あかねが徐にレコード盤をターンテーブルに乗せ,ボリュームつまみを回す。あかねの所作が,まるでスローモーションのようにじっくりと描写され,彼女がアナログレコード特有の“手間”そのものを楽しんでいる様子がうかがえる。時間が1つの価値として画面に充溢するかのような,きわめて優れた演出だ。

「第3話」より引用 ©︎塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会

ぼたんがレコードに針を落とす。針の落ちたノイズとともに「Flame on the Distant Door」*10 がレコードから流れ出し,作画が色鉛筆の手描き風タッチに変わる(上図)。穏やかな楽曲と柔らかな風合いの作画とのマッチングがとてもよい。シーンが“アナログ”一色に染まる。

作業工程としてはデジタルの時代に,本質的にアナログな描写を取り入れる。それは,ストリーミング優勢の時代に,あえてレコードのアナログな味わいを楽しむあかね(そして現代のアナログファン)の感性と同調している。物語内の価値観をそのまま画に落とし込むという優れた着想だが,それもこの話数のような〈分散型〉の演出方針だからこそなせる技だろう。

 

神々の創造

本作の制作を手がけるソワネは,『ヤマノススメ』シリーズなどで有名なエイトビット出身の村上光藤田規聖が立ち上げた会社だ。当初から“自分たちの作りたいものを作る”という,ある意味でベンチャーのような精神を貫いている。それを体現しているのがまさに『上伊那ぼたん』と言えよう。そしてこの会社のクリエイティビティに対する敬意は,作品公式サイトに掲載されたクレジットにも表れている。

「第3話」のスタッフクレジット(『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』公式サイトより引用)

上図は第3話の各話紹介のコーナーに記されたクレジットである。一般的に公式サイトの各話紹介コーナーでは,クレジットそのものが掲載されていないか,掲載されていても,脚本,絵コンテ・演出,(総)作画監督までの役職くらいであることがほとんどだ。だが『上伊那ぼたん』では,およそ話数に関わった全てのスタッフが記されている。またソワネの公式サイトには,各話の代表的な原画や修正原画が,その制作者の名前とともに掲載されている。

そもそもアニメーションの創造主体は,“監督”というモノセイスティックな大文字の“神”に還元できるものではない。それは,各話・各パートを担当するポリセイスティックな“神々”が創造するものだ。とりわけ『上伊那ぼたん』のような,多元性と多声性を重視した作品においては,一人ひとりの制作主体のプレゼンスが相対的に大きい。『上伊那ぼたん』とソワネの公式サイトの設計は,まさに作品の思想そのものを反映しているわけだ。それを踏まえ,僕らも造物主たる“神々”に深い敬意を払うべく,クレジットの名一つひとつを記憶に刻んでいこうではないか。www.otalog.jp

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Xアカウントなど

【スタッフ】
原作:/監督:佐久間貴史/副監督:戸澤俊太郎/シリーズ構成・脚本:米内山陽子/キャラクターデザイン:吉成鋼/サブキャラクターデザイン・メインアニメーター:みやち/プロップデザイン・メインアニメーター:松尾祐輔/衣装デザイン:藤井有紗/美術監督:宮越歩/色彩設計:伊藤唯/撮影監督:富田喜允/3D監督:小川耕平/編集:廣瀬清志/音楽:橋口佳奈/音響監督:明田川仁/音響制作:マジックカプセル/アニメーションプロデューサー:村上光/制作:ソワネ

【キャスト】
上伊那ぼたん:鈴代紗弓/砺波いぶき:青山吉能/郡上かなで:寿美菜子/遊佐あかね:天海由梨奈/北杜やえか:富田美憂/張景嵐:河瀬茉希

【「第3話」スタッフ
脚本:
白坂英晃/絵コンテ・作画監督:銀さん/演出:重原克也/動画検査:後山汰央/色指定・検査:秋田莉緒/制作進行:Ethan Wiener/原動画:銀さん

原画:codyアワビかぶきゅうhumuu月山贅道Girardin Solal服部乃樹ani貞元北斗表碧都佐藤利幸根岸君尋

 

この他,この素晴らしい話数に参加されたすべての制作者に拍手を。

 

 

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商品情報

【原作マンガ】

 

*1:本作では森康二が作監としてクレジットされている。東映アニメーション公式サイトの情報を参照。

*2:たとえば『一休さん』(1975-1982年)には「キャラクターデザイン監修」と「総作画監修」という役職が置かれており,小黒祐一郎によれば,「びっくりするくらいにキャラクターが統一されている」。『Dr.スランプ アラレちゃん』(1981-1986年)では,「チーフ作画監督」の前田実が全話に修正を入れていいたという。また『TRIGUN』(1998年)では,キャラクターデザインの吉松孝博が全話全カットでレイアウト修正を入れていたらしい。これらの情報に関しては,Xのツリーを参照。

*3:たとえば『あした天気になあれ』(1984-1985年)では,金沢比呂司が総作監としてクレジットされている。

*4:西位輝実『アニメーターの仕事がわかる本』,p.68,玄光社,2019年。および「WEBアニメスタイル」の小黒祐一郎編集長の証言を参照。

*5:Febri:『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』スタッフリレーインタビュー① プロデューサー・村上光×藤田規聖対談(前編)を参照。なお,『上伊那ぼたん』の制作会社ソワネの立ち上げた村上光と藤田規聖は,『ヤマノススメ』シリーズの制作会社エイトビット出身であることも附言しておこう。

*6:Febri上掲インタビュー①参照。

*7:Febri:『上伊那ぼたん,酔へる姿は百合の花』スタッフリレーインタビュー③ みやち(メインアニメーター,第1話作監)×銀さん(第3話絵コンテ&作監)対談を参照。

*8:村上光プロデューサーも「どれだけ作画のテイストが変わっても,キャラクターの魂はブレさせないように意識していますよ」と語っている。Febri上掲インタビュー③を参照。

*9:銀さんの公式Xプロフィールを参照。

*10:歌:Davis Sprague/作詞:西田圭稀/作曲:西田圭稀,モリシー/編曲:Nunaによる本作オリジナル楽曲である。