アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

TVアニメ『小市民シリーズ 第2期』(2025年春)第21話の脚本と演出について[考察・感想]

*この記事は『小市民シリーズ 第2期』第21話「黄金だと思っていた時代の終わり」のネタバレを含みます。

「第21話 黄金だと思っていた時代の終わり」より引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

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米澤穂信原作/神戸守監督『小市民シリーズ』各話レビュー第2弾として、今回は「第21話 黄金だと思っていた時代の終わり」を取り上げる。これまでもっぱらロジカルな関係を築いてきた2人が,初めて感情に基づいた行動を見せる。その意味でも,『小市民シリーズ』において画期的な話数と言える。脚本は『さらざんまい』(2019年)などでシリーズ構成・脚本を務めた,ラパントラック共同代表の内海照子。絵コンテ・演出は『化物語』(2009年)や『輪るピングドラム』(2011年)など数々の傑作に参加経歴があり,本作でも第2話「おいしいココアの作り方」などを手がけた武内宣之。また高野やよいが演出・作画監督・原画・第二原画を務めるという,特異な話数でもある。その卓越した技を見ていこう。

 

「紅白」と「おわあ」,そして触れ合い

Aパートの大半は,3年前の轢き逃げ事件捜索と現在の小鳩の状況に関する客観的な語りになっている。そのトーンが俄かに変わるのが,Aパート終盤の場面である。

小鳩常悟朗小佐内ゆきの夜の逢瀬を妨げていたのは,食後の“水”だった。聡くも睡眠薬の混入を疑った小佐内は,「夜,お花に水をあげてください」と書き置きを残していた(前話)。小佐内の警告に気付いた小鳩はそれに従い,夜の昏睡を免れる。かくして2人は,大晦日の夜再会を果たす。

「第21話 黄金だと思っていた時代の終わり」より引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

近くの病室から漏れ出てくる「紅白歌合戦」の演歌とともに,小佐内が病室に登場する。小鳩が「こんばんは」と声をかけると,小佐内は少し驚いたように「おわあ,こんばんは」と答える。この件は小佐内の「おわあ,こんばんは」も含め,ほぼ原作通りの演出だ。しかし久しぶりの再会という,それなりに心的温度が高いはずの場面に,「紅白歌合戦」と「おわあ」という少々呑気な“音響”が加わることにより,このアニメらしいユーモアが生まれている。

最初,2人はふだん通りに即物的な言葉を交わす。しかし小佐内の「もっと早く警告することだってできたのに。ごめんね」という謝罪の言葉をきっかけに,2人の感情の温度に変化が生じ始める。

「第21話 黄金だと思っていた時代の終わり」より引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

轢き逃げ事件の際に小佐内を突き飛ばし,食べていた鯛焼きを台無しにしてしまったことを謝る小鳩。小佐内はそれを遮るように,「鯛焼きなんてどうでもいい」と言いながら小鳩の手を握り,自分を助けてくれたことへの感謝,そして小鳩の命が助かったことへの喜びを伝える。物理的に触れ合う2人の手の描写が美しい。病室の限定された光源によって手に濃い影が落ち,その造形の美しさが際立っている。このブログではこれまでにも何度か手の作画について触れてきたが(下の記事などを参照),本話数の手の描写も“殿堂入り”としたいところだ。

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込み上げる感情に思わず涙する小鳩。それを見て優しく微笑む小佐内の表情が美しく描写されている(上図・右の最終カット,下図・右)。甘い物好きのーーそれも度を越すほど甘い物好きのーー小佐内が,鯛焼きへの言及を間髪いれずに「どうでもいい」と遮り,小鳩への想いを伝えることを優先する。これまでの小佐内のキャラを覆すほどの感情値の高さに,感動を覚えずにはいられないシーンだ。

事実,このシーンを観た視聴者の多くが,“手を握る”という小佐内の行動に少なからず驚いたはずだ。彼女はこれまでの「互恵関係」において,ここまで小鳩に感情的に接近したことはーー少なくとも目に見える形ではーーなかったからだ。そしてなお驚くべきは,この“手を握る”という行動が原作にはないことである。

原作では,この場面での小佐内の行動に関して「小佐内さんは,ベッドに横たわるぼくに顔を近づける」という描写があるのみである。さらにこの際の小佐内のセリフは,「わたしは軽い打ち身だけだったし,鯛焼きなんてどうでもいい。小鳩くんが気になるなら,今度買ってきてあげる。わかったら,わたしの話を聞いて」となっており,どちからと言うとふだんのロジカルで説明的な小佐内の語り口に近い。*1

アニメでは“手を握る”という動作を挿入することにより,この場面を極めて感情的温度の高いものに仕上げている。おそらく,武内らアニメ班によるこの演出判断は,それなりの決意を要したのではないかと察する。というのも,先述した通り,この行動は小佐内のキャラを変質させるほどインパクトのあるものであり,延いては小鳩と小佐内の「互恵関係」を逸脱する恐れを孕むからだ。しかし,おそらく原作勢を含めた多くの視聴者が,この演出に少なからず心を動かされたはずだ。

「第21話 黄金だと思っていた時代の終わり」より引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

なぜか。ここに“視聴者はこういうのが見たかったんでしょ”という意図を読み取るシニカルな態度をとることもできるだろうが,その程度の動機だったとすれば,リスクが高すぎる判断だ。やはり理由はこの場面そのものの魅力にある。小佐内の表情作画,先述した手の演出,小鳩の涙の芝居,羊宮妃那梅田修一郎の演技が,すべて説得力のある美しさで描出されていたからである。

個人的な意見だが,演出家の武内宣之というと,シャフト作品や幾原邦彦監督作品のような,ジオメトリックでスタイリッシュな演出の印象が強い。事実,『小市民シリーズ 第1期』「第2話 おいしいココアの作り方」では,そのような傾向がかなり強く見られた。しかしこの話数のこのシーンでは,画面構成の幾何学性よりも,より有機的でエモーショナルな演出に振り切ったようだ。

上:『化物語』「第一話 ひたぎクラブ 其ノ壹」より引用 ©︎西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト/右:『輪るピングドラム』「09 氷の世界」より引用 ©︎ikunichawder/pingroup

それぞれの媒体には,それぞれに見合った“美意識”がある。推理小説は文字媒体のロジックで語ることが“美”であり,アニメは作画の巧みと声優の演技の温度で伝えることが“美”である。おそらく武内を始めとする制作班は,それぞれの媒体の特性を理解した上で,アニメーション作品としての最適解を提示したのだろう。だからこそ,これほど短い尺のシーンであるにもかかわらず,多くの視聴者を魅了したのだ。

 

浄玻璃2

再び即物的な対話に戻る小鳩と小佐内。小鳩は,車椅子でトイレに連れて行ってもらうよう小佐内に頼む。小鳩は肋骨を骨折しているため,車椅子の車輪を操作することができず,小佐内に車椅子を押してもらう他ないからだ。小鳩の移動の主導権が小佐内に委ねられる。

「第21話 黄金だと思っていた時代の終わり」より引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

トイレまでのルートを確認した後,病室に戻る。2人は,明らかに怪しい様子でそこに佇む日坂英子と出くわす。

「第21話 黄金だと思っていた時代の終わり」より引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

小鳩に睡眠薬の件を問いただされ,とぼける日坂。しかし小鳩が名前を問うと,その表情が俄かに気色ばむ。この際の日坂の凄みのある表情作画,影の描写などが印象的だ。

「第21話 黄金だと思っていた時代の終わり」より引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

小鳩に近づいていく日坂。危険を察し,ハンドルを握る小佐内の手に力が入る。小佐内は日坂と距離をとるべく,ゆっくりと車椅子を後退させていく(なお,この描写は原作にはない)。“小鳩を守ろうとする小佐内”という構図が生まれる。

小鳩が「日坂英子」の名を指摘すると,場面は唐突に転換する。3人がいるのは,とある喫茶店の店内である。そこには大きな〈鏡〉があり,3人の姿を静かに映し出している。

「第21話 黄金だと思っていた時代の終わり」より引用/下:「第19話 小鳩くんと小佐内さん」より引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

この喫茶店は「第19話 小鳩くんと小佐内さん」に登場する喫茶店と同じである。しかし第19話では,そこにあるはずの〈鏡〉が周到なカメラアングルによって隠されていた(上図・下)。第21話では,それを敢えて映し出すアングルに変わっている。だとすれば,この場面において,この〈鏡〉には演出上の意味があるということだ。

その答えを僕らはすでに知っている。武内が手がけた「第2話 おいしいココアの作り方」を振り返ってみよう。

第2話「おいしいココアの作り方」より引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

冒頭のシーンでは,小佐内が背後から近づく小鳩の存在に〈鏡〉を媒介として気づく様子が描かれている(上図・左)。また,堂島健吾の家には鏡付きのキャビネットが置かれ,そこに映し出された小鳩と堂島が互いに相手の“本性”を暴く顛末が描かれた(上図・右)。要するに,〈鏡〉は“暴露”という象徴的意味を担っていたのである(下の記事を参照)。

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「第21話」では,鏡による“暴露機能”の矛先は日坂に向けられている。彼女は小鳩という〈魔境〉によって「日坂英子」という正体を暴かれ,轢き逃げという犯行を暴かれる。そして小鳩に車の投棄の件までをも見抜かれ,いよいよ日坂は追い詰められる。

「第21話 黄金だと思っていた時代の終わり」より引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

この時,小佐内が前に歩み出て,小鳩を守る態勢をとる(上図・中,右)。先ほどの車椅子を後退させる場面と同様,この行動も原作には描写がない。つまりアニメでは,“小鳩を庇護する小佐内”という関係性が強調されているわけだ。

これまで小佐内のキャラを構成していた要素は〈可愛い〉〈大胆〉〈冷徹〉といったものだったが,ここで〈庇護〉という要素が加わり,2人の間にエモーショナルな関係性が加わる。小説でこれを描写するには,言葉で説明する他ないわけだが,その場合,やや野暮でくどい描写になった可能性は否めない。アニメではそれをキャラクターの行動で示すことができる。やはりここでも,アニメという媒体の特性が活かされている。

さて,『小市民シリーズ 第2期』も佳境に入った。日坂英子の動機は何か。小鳩がホテルで会った男の正体は何か。今後の話数では,それらの謎の“答え合わせ”が行われていくだろう。ロジカルな語りの前後に置かれた小さな“アクセント”として,このエモーショナルなエピソードは確かな存在感を放っている。

 

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Twitterアカウントなど

【スタッフ】
原作:米澤穂信/監督:神戸守/シリーズ構成:大野敏哉/キャラクターデザイン:斎藤敦史/サブキャラクターデザイン・総作画監督:具志堅眞由/色彩設計:秋元由紀/美術監督:伊藤聖(スタジオARA)/美術設定:青木智由紀イノセユキエ/撮影監督:塩川智幸(T2studio)/CGディレクター:越田祐史/編集:松原理恵/音楽:小畑貴裕/音響監督:清水勝則八木沼智彦/音響効果:八十正太/アニメーションプロデューサー:渡部正和/ラインプロデューサー:荒尾匠/制作会社:ラパントラック

【キャスト】
小鳩常悟朗:梅田修一朗/小佐内ゆき:羊宮妃那/堂島健吾:古川慎/瓜野高彦:上西哲平/仲丸十希子:宮本侑芽/氷谷優人:山下誠一郎

【第21話「黄金だと思っていた時代の終わり」スタッフ
脚本:
内海照子/絵コンテ武内宣之/演出:高野やよい作画監督:具志堅眞由(Production I.G.新潟)/作画監督:高野やよい/作画監督補佐:髙橋道子
原画:高野やよい髙橋道子橘由美子坂祐太内田百香中川雅文縫田修伊東佳宏DJ小氷

 

この他,この素晴らしい話数に参加されたすべての制作者に拍手を。

 

 

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【原作小説】

 

 

*1:米澤穂信『冬季限定ボンボンショコラ事件』,東京創元社,2024年。下線は引用者による。

劇場アニメ『プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第4章』(2025年)レビュー[考察・感想]:鋼と血,分断される身体

*このレビューはネタバレを含みます。必ず作品本編をご覧になってからこの記事をお読み下さい。

『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』公式HPより引用 ©︎Princess Principal Film Project

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橘正紀監督『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』第4章が公開され,全6章から成る『Crown Handler』シリーズはいよいよ後半戦に差し掛かった。大きな物語の進展はないが,彫金師グラハム・ターナーをめぐるエピソードを挿入することにより,第1章で暗示された「白鳩」たちのアイデンティティの不安を露呈させ,共和国と王国を分断する壁の非情を象徴的に伝えるという,優れたストーリーテリングを見せた章である。

 

あらすじ

メアリー王女の共和国亡命は失敗し,チーム白鳩たちは王国側に拘束される。ノルマンディー公プリンセスを人質にとり,二重スパイとして王国側に与することを白鳩たちに命じる。2つの力の狭間で危うい立場に置かれた彼女たちの元に,共和国側諜報部のLから,彫金師グラハム・ターナーの動向を探る指令が下る。

 

鋼の縁

雨模様のロンドンの空を数羽の白鳩が舞う。カメラはノルマンディー公の執務室の卓上に置かれたオブジェクトを捉える。アンジェドロシーちせから押収した銃と刀とCボールだ。3DCGで描画された無機質で硬質な金属は,この作品を世界観を規定している“スチームパンク”を改めて思い起こさせる導入部だ。

『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』第4章 本編冒頭映像より引用 ©︎Princess Principal Film Project

しかし本章において“鋼”のイメージは,単なる世界設定の中のオブジェであることを超え,より積極的に物語を駆動する装置として機能している。とりわけ本章の要であるベアトリスとターナのエピソードにおいて,鋼は1つの縁(えにし)の役割を担う。

ベアトリスは,父親の狂気の実験によって声帯を機械化されている(「#3 case2 Vice Voice」より)。以来,彼女は声色を自在に変える能力を得,かつ自ら工具を用いて人工声帯をメンテナンスする習慣を身につけた。掃除婦としてターナーの仕事部屋に潜入した彼女が,掃除の一環として卓上の工具に機械油を塗るというのはごく自然な行為だった。そしてそれが偶然のきっかけとなり,彼女は偏屈極まりないターナーに認められるようになる。

左・中『プリンセス・プリンシパル』「#3 Vice Voice」より引用/右『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』第4章 本編冒頭映像より引用 ©︎Princess Principal Film Project

無骨でやさぐれた彫金師と,華奢で可憐な侍女(スパイ)。本来であれば接点も共通項もない2人が,工具という“鋼”を縁として心を近づける。ターナーはベアトリスの身を案じ,工場の荒くれから彼女を庇護しようとする。ベアトリスはターナーの不遇を知り,銃弾から身を挺して守ろうとするほどにまで肩入れする。緊迫感がいやましに高まる物語において,小さな陽だまりのように温もりのあるエピソードだ。

『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』第4章 本予告映像より引用 ©︎Princess Principal Film Project

 

分断

しかし,いかにベアトリスとターナーにおいて温かな縁が実現していようとも,物語全体としては,以前として〈分断〉という暗い影がこの世界を覆い尽くしている。王国と共和国を隔てる壁はこの世界を二重化し,人々の心と身体を非情に引き裂く。

それを象徴するのが,ノルマンディー公によって二重スパイを命じられた白鳩たちの立場である。

ちなみに物語冒頭で獄内の白鳩たちが着せられていた囚人服には,broad arrowと呼ばれる印が付いている。劇場版プログラムにも白土晴一による解説があるが,これはアルビオン王国のモデルとなったかつてのイギリスで実際に用いられていたシンボルだ。当初,政府の官有物であることを示すために軍用品につけられたが,後に囚人服にも用いられるようになった。女性参政権運動で有名なクリスタベル・パンクハーストも収監時に身につけていたことが知られている(下図:右,右側の女性)。

左:『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』第4章 本編冒頭映像より引用 ©︎Princess Principal Film Project/右:英語版Wikipedia "Prison uniform"の項目より

王国のノルマンディー公は白鳩に“所有物”としての烙印を押す。一方,共和国の諜報機関はターナー調査の任務(事実上は王国側との取引き)に敢えて白鳩を任命し,その忠誠心を測ろうとする。これまで共和国側のスパイとして明確だった白鳩たちのアイデンティティが,ここで俄かに揺らぎ始める。第1章でウィンストン(ビショップ)がアンジェに向けて言った自分すら曖昧になってくる。あなたもいずれそうなりますよ。嘘をつき続けていると」というセリフが,この事態の不吉な予言であったことが判明する。白鳩は王国と共和国の力の狭間で,その立場を危うくしていく。

彫金師・ターナーの境遇も〈分断〉に呪われている。彼は革命によって王国と共和国が分断した際,愛する妻と生き別れになっている。彼は結核を患う妻を案じて仕送りを続け,妻も夫が戻ることを信じて待ち続けている。ちせの「そこまで想い合っていても,国境は越えられんのか…」というセリフは,近代的な国境を知らない“日本人”のナイーブな心情というよりは,この物語における分断の脅威の度合いをシンプルな言葉で表したものと言える。

『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』第4章 本予告映像より引用 ©︎Princess Principal Film Project

ノルマンディー公とコントロールは,共和国に捕らわれた“ジョンソン・カーター”を王国に引き渡す代わりに,ターナーを共和国側へ亡命させるという取引を行なっていた。ターナーは妻に会いたいとの想いから,共和国への亡命の提案に応じる。しかし“ジョンソン・カーター”が殺害されたことにより,王国と共和国との取引は帳消しになる。王国から白鳩にターナー殺害の命が下される。ターナーを亡命させ,共和国に忠誠を示すか,あるいは彼を殺害し,王国側に与するか。ここにおいて,ドロシーとアンジェの立場が〈分断〉する

ドロシーは共和国側の利害を重視し,ターナーの亡命を完遂させようとする。一方,アンジェはプリンセスの命を守るため,王国の命に従ってターナーを殺害しようとする。ドロシーは体裁上は共和国への“忠義”という構えとっているが,おそらく彼女を突き動かしているのはphilanthropopia「博愛(人間愛)」である(そしてその点において,彼女はプリンセスと思想を共有している可能性がある)。一方,アンジェの奥底にあるのはいわばidiophilia「個人愛」であり,それはひとえにプリンセスだけに向けられている。

アンジェの「国を選ぶか,仲間を選ぶか,自分を選ぶのか」という言葉は,この物語における解決不可能なアポリアを言い当てている。そしてそのアポリアの中で,白鳩たちはスパイとしてのアイデンティティを〈分断〉されている。今のところ,その彼岸にある世界ーー国と仲間と自分を同時に選ぶ世界ーーが見えている,あるいは見ようとしている人物はいないのかもしれない。おそらくプリンセス一人を除いては。

 

血,分断される身体

この危機的なジレンマの解決策を提供したのは,他ならぬターナーであった。彼は自らの右腕を切断することにより,彫金師としての己を“殺害”し,共和国へ亡命することを提案する。白鳩が王国と共和国への忠誠を同時に示すことができる妙案だ。

ターナーの腕はちせの刀という鋼によって切断される。ベアトリスとターナーの出会いにおいては縁となった鋼が,ここでは切断の役割を担う。刀身が肉に食い込み,大量の出血とともに彼の腕は切り落とされる。通常であればブラックアウトなどによってオミットされる身体切断の瞬間が,ここでは生々しく描写されている。そしてこの描写には必然性がある。その理由は明らかだろう。この大量の出血と猛烈な痛みを伴う切断こそが,この世界における〈分断〉の本質だからである。ターナーの腕は王国に引き渡され,本人は共和国へ亡命する。彼の身体がたどる境遇そのものが,この世界における壁とその〈分断〉を象徴しているのだ。

さて,壁がもたらしたこのアポリアを克服できるのは,はたして愛か,力か。

『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』第4章 本予告映像より引用 ©︎Princess Principal Film Project

 

 

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
監督:橘正紀/シリーズ構成・脚本:木村暢/キャラクター原案:黒星紅白/キャラクターデザイン:秋谷有紀恵西尾公伯/総作画監督:西尾公伯/コンセプトアート:六七質/メカニカルデザイン:片貝文洋/リサーチャー:白土晴一/設定協力:速水螺旋人/プロップデザイン:あきづきりょう/音楽:梶浦由記/音響監督:岩浪美和/美術監督:杉浦美穂/美術設定:大原盛仁谷内優穂谷口ごー実原登/色彩設計:津守裕子/HOA(Head of 3D Animation):トライスラッシュ/グラフィックアート:荒木宏文/撮影監督:若林優/編集:定松剛/アニメーション制作:アクタス

【キャスト】
アンジェ:古賀葵/プリンセス:関根明良/ドロシー:大地葉/ベアトリス:影山灯/ちせ:古木のぞみ/L:菅生隆之/7:沢城みゆき/ドリーショップ:本田裕之/大佐:山崎たくみ/ノルマンディー公:土師孝也/ガゼル:飯田友子メアリー:遠藤璃菜/リチャード:興津和幸

【上映時間】60

 

作品評価

キャラ

モーション 美術・彩色 音響
4.5 4

4

4.5
CV ドラマ メッセージ 独自性

4

4 5 4
普遍性 考察 平均
4 4 4.2
・各項目は5点満点で0.5点刻みの配点。
・各項目の詳細についてはこちらを参照。

 

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2025年 春アニメOP・EDランキング[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の内容に部分的に言及しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

『小市民シリーズ』第2期OPアニメーションより引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

今回の記事では,現在放送中の2025年春アニメの中から特に優れたOP・EDを紹介する。タイトルの下にノンクレジット映像を引用してある(『小市民シリーズ 第2期』OPはクレジットあり)ので,ぜひご覧になりながら記事をお読みいただきたい。なお,通常のランキング記事と同様,一定の水準に達した作品を取り上げる方針のため,ピックアップ数は毎回異なることをお断りしておく。

 

7位:『Summer Pockets』ED


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【コメント】
主題歌「Lasting Moment」の煌びやかなギターリフとともに始まるアニメーション。ほぼ止め絵だが,本編とは異なるデザインのヒロインをフィーチャーしていく様が印象的だ。昨今では作り手の個性を前面に押し出したOP・EDも珍しくなくなったが,本OPも絵コンテ・演出・原画を手がけた市松模様によるヒロイン解釈がよくわかる作りになっている。冒頭と楽曲サビにおける縦スクロールの構図(下図上段・左)なども斬新で面白い。

『Summer Pockets』EDアニメーションより引用 ©︎VISUAL ARTS/Key/鳥白島観光協会

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出・原画:市松模様

【主題歌】鈴木このみ「Last Moment」
作詞:新島夕/作曲・編曲:どんまる

 

6位:『ロックは淑女の嗜みでして』OP


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【コメント】
自分たちの演奏を録画しているという体裁のアニメーション。いかにもお嬢様らしいお辞儀をした直後,4人は豹変したように激しい演奏を始める。まさに「ロック」と「淑女」の“ミスマッチ”。ジャクソン・ポロック,あるいは「スプラトゥーン」のような派手な色彩も面白い。リリーがプールに浮かぶ静的なカット(下図中段・右)と,演奏中の動的な跳躍のカット(下図下段・中)とのコントラストも印象的だ。本編ではビターガナッシュとの対バンを終えてようやく4人のまとまりが見えてきたところだが,OPでは仲良く写真を眺める様子が描かれている(下図下段・右)。BAND-MAIDの主題歌「Ready to Rock」はもはや「ロック」のレベルではないような気もするが,本作の激しい演奏魂によくマッチしている。

『ロックは淑女の嗜みでして』OPアニメーションより引用 ©︎福田宏・白泉社/「ロックは淑女の嗜みでして」製作委員会

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:安藤尚也作画監督:宮谷里沙小川玖理周

【主題歌】BAND-MAID「Ready to Rock」
作詞:SAIKI/作曲・編曲:BAND-MAID

 

5位:『LAZARUS ラザロ』ED


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【コメント】
ハイウェイ上に大量に横たわるモノクロの人々。カメラは地面スレスレの超低空飛行でその姿を捉えていく。その中には,ダグクリスティンリーランドエレイナら「ラザロ」のメンバー,およびその指揮官・ハーシュの姿もある。彼ら/彼女らは眠るように死んでいる。あるいは死んだように眠っている。カメラは最後にパルクールの達人・アクセルの姿を捉えるが,彼だけが徐に立ち上がる。まるでキリストによって蘇ったラザロのように。カメラはアクセルの“蘇生”とともにゆっくりと飛翔し,最後に上空を舞う羽根を捉える。シンプルな作りだが,本編の真実を暗示する要素を1カットで伝えたアニメーションは実に印象的だ。

『LAZARUS ラザロ』EDアニメーションより引用 ©︎2024 The Cartoon Network, Inc.

【アニメーションスタッフ】
ディレクター・原画:米山舞

【主題歌】 The Boo Radleys「Lazarus」
作詞・作曲:Martin James Carr

 

4位:『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』ED


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【コメント】
家具や小物が所狭しと置かれた部屋。雑然としてはいるが,シティポップ調の色彩がオシャレ感を出している。上部の隅にドレープカーテンのようなものがあるため,芝居の舞台のようにも見える。ルームシェアをしているのだろうか,マチュニャアンが入れ替わりに登場しては思い思いに振る舞う。しかし前半は2人が同時に現れることはない(やや意味深である)。日が暮れ,楽曲のサビと共に2人が乾杯し,唐突に2人パーティが始まる。夜が深まり,2人は疲れ果てて眠ってしまう。やがて夜が明け,部屋には朝日が差す。しかしそこに2人の姿はない(またもや意味深である)。本編ではマチュとニャアンが袂を分ち,別々の道を歩み始めたところだ。一見,ガーリーで賑やかなアニメーションに見えるが,よく見ると,2人の微妙な距離を感じさせる作りになっている。

『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』EDアニメーションより引用 ©︎創通・サンライズ

【アニメーションスタッフ】
画コンテ・演出:谷田部透湖/キャラクター作画監督:小堀史絵池田由美

【主題歌】星街すいせい「もうどうなってもいいや」
作詞:Yiuki Tsujimura作曲:Naoki Itai,Yuki Tsujimura編曲:Naoki Itai

 

3位:『アポカリプスホテル』OP


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【コメント】
まだ薄暗い「銀河楼」のロビーにホテリエロボット・ヤチヨが現れ,aiko「skirt」に合わせてダンスを踊る。他の作業ロボットはまだ稼働していない。しかし楽曲のサビとともに俄に照明が灯り,ロボットたちとタヌキ星人一家も一緒に踊りはじめる。ダンスをモチーフとしたOP・EDアニメーションには魅力的なものが多いが(最近では『スキップとローファー』(2023年)のOPなどが記憶に新しい),本作も作画・演出のレベルが極めて高く,たいへん見応えのあるOPに仕上がっている。
アニメーションの後半,ヤチヨが徐にドアの方に手を伸ばす(下図中段・右)。その先で何かの光が遠ざかっていく。彼女たちを置いて宇宙に避難した人類だろうか。ヤチヨはしばし悲しげに立ち尽くすが,すぐに笑顔を取り戻し,再び軽快に踊り出す。人類不在の地球に“生き甲斐”を見出すという本編のプロットを仄めかしているようでもある。ヒロイン・ヤチヨの魅力をうまく引き出しつつ,本編の内容をそれとなく暗示した,優れたOPである。

『アポカリプスホテル』OPアニメーションより引用 ©︎アポカリプスホテル製作委員会

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:春藤佳奈/作画監督:横山なつき阿見圭之介

【主題歌】aiko「skirt」
作詞・作曲:AIKO/編曲:島田昌典

 

2位:『アン・シャーリー』OP


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【コメント】
冒頭の足踏み,楽曲に完璧に合ったリズム,そして色とりどりの花。これぞThe 山田尚子という感のアニメーションである。

『アン・シャーリー』OPアニメーションより引用 ©︎アン・シャーリー製作委員会

ふわりと膨れ上がるベッドシーツ,好奇心に光るアンの眼,プレートの上で一気に咲溢れる花。グリーンゲイブルズにおけるアンの多幸感がたっぷりと描写されている。観ているこちらもつい笑顔になってしまうほどだ。とたの主題歌「予感」とのマッチングもとてもいい。

『アン・シャーリー』OPアニメーションより引用 ©︎アン・シャーリー製作委員会

横スクロールで人々に挨拶をしていく場面。背景の渋めのグリーンがアンの髪色と綺麗なコントラストを成している。ギルバートとダンスを踊った後,照れまくるアンの芝居(上図下段・中と右)もとてもいい。

『アン・シャーリー』OPアニメーションより引用 ©︎アン・シャーリー製作委員会

時計の針とともに時は進み,子ども時代のアンと大人になったアンが入れ替わりに登場する。未来のアンの姿を提示しつつも,そのルーツは間違いなく幼少時代の彼女の鋭敏な感性にある,ということだろうか。マリラマシューとの温かな関係性もよく伝わってくる。
OPという短い尺ながら,山田尚子の作品を一本鑑賞したかのような満足感が得られるアニメーションだ。

【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出山田尚子/総作画監督:小島崇史

【主題歌】とた「予感」
作詞・作曲:とた/編曲:出羽良彰

 

1位:『小市民シリーズ 第2期』OP


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【コメント】
ほんのり歪んだクリーントーンの印象的なギターリフに,跳ね上がるシャッフルビート。ヨルシカ「火星人」の軽快なリズムに乗せてアニメーションが始まる。
画面上ではランダムな幾何学模様が忙しなく神経質そうに踊る。やがてそれは小鳩の頭脳に吸い込まれていく(下図上段)。彼の「知恵働き」のビジュアルイメージだろうか。小佐内が髪を耳にかける。しかし下から吹き上げる風で,そのコケティッシュな仕草は台無しになってしまう(下図下段)。

『小市民シリーズ』第2期OPアニメーションより引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

軽快な楽曲とともに始まったアニメーションは,一見ポップなようでいて,どこかアイロニカルな香りを漂わせている。本編では印象的な眼のデザインがオミットされ,シルエットだけで2人のキャラクターを示しているのも面白い。OPアニメーションとしてたいへん印象的な導入である。

『小市民シリーズ』第2期OPアニメーションより引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

暗闇で着火されるライター(上図・左)。冒頭のポップカラーとは対照的に,本編の「連続放火事件」の不吉な暗示となっている。ラパントラック十八番の実写カット(上図・中と右)も効いている。

『小市民シリーズ』第2期OPアニメーションより引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

トレースシートを使った小鳩と小佐内の“デート”の描写(上図・左)。小佐内の絵が重なることで小鳩の存在感が薄くなるのも皮肉が効いている。トリュフチョコレートを火星に見立てたカット(上図・中)は,『星の王子さま』のような箱庭っぽさも感じさせて面白い。小鳩がベッドに倒れ込むのに合わせてカメラを回転させたカット(上図・右)では,大きく傾く背景が常識的な思考への“揺さぶり”のようにも思える。

周期の異なる振り子がうねるように揺れ,バラバラになったかと思えばまた一緒に揺れる描写(下図)。いわゆる「ペンデュラムウェーブ」だ。

『小市民シリーズ』第2期OPアニメーションより引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

彼ら/彼女らの心の周期のずれ,その一時的な同期。すれ違いと歩み寄り。反発と共感。別れと再会。本作らしい心の機微を実にうまく表した描写だ。振り子の球体と惑星との関係性もバランスがよく,絵としての完成度も高い。

『小市民シリーズ』第2期OPアニメーションより引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

唐突に現れる日本画風の作画(上図)。実写カットと合わせて,アニメーションという媒体への自己言及的批判の仕草にも見える。このOPを演出したイシグロキョウヘイらしい絵画的センスだ。

『小市民シリーズ』第2期OPアニメーションより引用 ©︎米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

「火星人」ラストのギターリフに合わせ,矢継ぎ早に現れるランダムイメージ(上図)。特に新聞部のカット(上図中段)では,ギターの一音一音に合わせて門地五日市堂島が連続して姿を表す様が小気味いい。これも音楽にこだわりを見せるイシグロならではの演出と言える。ラストカットでは,火星から「栗きんとん」を取り出した後,小鳩と小佐内がさりげなく眼を合わせる。「互恵関係」よりも“半歩”先へ進んだ2人の目線だ。
おそらく今期アニメOPの中でも群を抜いて情報量が多い『小市民シリーズ 第2期』OP。しかしすべての要素に意味があり,たいへん分析しがいのあるアニメーションだ。文句なしの1位だろう。

【アニメーションスタッフ】
オープニングディレクター;イシグロキョウヘイ総作画監督:斎藤敦史

【主題歌】ヨルシカ 「火星人」
作詞・作曲・編曲:n-buna

 

以上,当ブログが注目した2025年春アニメOP・ED7作品を挙げた。今年の春アニメもすでに終盤に差しかかっているが,今後の鑑賞の参考にしていただければ幸いである。

 

 

関連記事

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2025年 春アニメ 中間評価[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の現時点までの話数の内容に言及しています。未見の作品を先入観のない状態で鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

 

2025年春アニメも後半の話数に差し掛かかり,この重苦しい天気を吹き飛ばすような傑作話数がいくつかの作品から繰り出されている。今回の記事では,当ブログ独自の観点から2025年春アニメ注目の作品を振り返りたい。これまで通り五十音順に(ランキングではないことに注意)作品を紹介していく。

なお「2025年 春アニメは何を観る?」の記事でピックアップした作品は,タイトルを桃色にしてある。

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1.『アポカリプスホテル』(オリジナル)

apocalypse-hotel.jp

【コメント】
タイトル通りのポストアポカリプス的な世界観に,『21エモン』的“ゲスト出演”の賑やかな楽しさ。予測のつかない展開はほとんどカオスとも言えるほどだが,にもかかわらず,それぞれの話数にはしっかりとテーマがある。脚本の妙が光る作品だ。竹本泉(原案)と横山なつき(デザイン)手になる,シンプルだが的確なキャラクターデザインも大変魅力的で,特に主人公のホテリエロボット・ヤチヨのキャラメイキングが面白い。脚本面でも作画面でも,オリジナルアニメとして相当に高い水準を示している作品と言える。後半の話数も楽しみだ。

 

2.『ウマ娘 シンデレラグレイ』

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【コメント】
「芦毛の怪物」,満を持しての『ウマ娘』登場である。オグリキャップの天然&天才っぷりの描き方も上手いが,トレーナー・北原の掘り下げ方,2人の関係性の描写もとてもいい。小西克幸の高めのハスキーボイスは,作品に“張り”と“勢い”を添えると同時に,北原というキャラクターが担う悲哀を的確に伝えている。構図の取り方や止め絵の使い方も上手く,作画面でのクオリティも高い。特に第6話はTV版『ウマ娘』の話数としては最高レベルの出来栄えだったと言えるだろう。後半の話数も楽しみだ。

 

3.『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』

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【コメント】
旧作の“換骨奪胎”としてきわめてユニークな脚本に,魅力的なキャラクターメイキング。特に荒木哲郎が演出を手がけた第4話は,1話のみ登場のシイコ・スガイの掘り下げが深く,まるで短編映画を観るかのように印象深い話数だった。旧作のキャラクターの“リメイク”も秀逸で,特にシャリア・ブルのジェントルだが狂気を孕んだキャラはとても面白い。主人公のマチュ,ニャアン,シュウジを中心に,その脇を固めるキャラを丁寧に描いている印象だ。竹によるキャラクターデザインや作画・芝居も見応えがある。最終的な総合点は相当高くなるだろう。

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4.『薬屋のひとりごと 第2期』

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【コメント】
前クールで壬氏が宦官でないことを猫猫が知ったことにより,2人の関係性に変化が生じ,物語は徐々に加速しつつある。第41話では,子翠の正体が明かされる場面での表情作画・芝居が光った。第42話壬氏羅漢羅半の正面からの表情作画も印象的だった。やはり1期第4話のような“サプライズ”演出は見られないが,作画の安定と物語の面白さで見せていくということなのだろう。いずれにせよ,今後もこのまま高いクオリティを保ち続けていって欲しい作品である。

 

5.『九龍ジェネリックロマンス』

kowloongr.jp

【コメント】
希釈されるアイデンティティ,それに抗う「絶対の自分」という決意と愛。昨今のアニメではあまり見られなくなった大人の「ロマンス」を,男と女,そしてそれを超えたアイデンティティの絶対性において示した作品。設定そのものは一種のSFだが,作品のメッセージ性はほとんど哲学的なものに近い。それを伝える主演の白石晴香杉田智和の落ち着いた演技もいい。そして何より,登場人物たちのノスタルジーの対象である「九龍」というトポスを美しく描いた美術の功績が大きい。総じて,とても質の高いSF恋愛ミステリだ。

 

6.『Summer Pockets』

summerpockets-anime.jp

【コメント】
僕は「AnimeJapan 2025」で小林智樹監督,原作シナリオの,プロデューサーの中島直人のトークを観覧する機会を得たのだが,この手のステージには珍しくスタッフのみの登壇という形式に,むしろ製作陣の自信の程が伺えた。そしてその印象に違わず,キャラクターデザイン,作画,美術等,相当に高い水準を示した作品に仕上がっている。ボーイミーツガール,美少女の不可知性,少年=プレイヤーの不完全な優しさ。Key十八番の美少女ゲーム要素がぎっしり詰まった秀作アニメだ。その独自の美意識を堪能し尽くそう。

 

7.『小市民シリーズ 第2期』

shoshimin-anime.com

【コメント】
本記事執筆時点で『秋期限定栗きんとん事件』が放送終了。小佐内のミステリアスな行動によってミスリードしつつ,放火事件は一通りの解決を迎えた。小佐内&瓜野/小鳩&仲丸という親和関係が解消され,再び小佐内&小鳩という親和関係に回帰した。第1期同様,アニメーションとしての見せ方(演出)が非常に上手く,映像作品としての洗練度が高い作品である。また,小佐内役・羊宮妃那の演技も第1期以上に印象深い。第2期の全体的な雰囲気は,その大部分が彼女の演技によって醸されていたと言っても過言ではないだろう。イシグロキョウヘイによるOPアニメーションもたいへん素晴らしい。後半の『冬期限定ボンボンショコラ事件』への期待も高まる。

 

8.『mono』

mono-weekend.photo

【コメント】
同じあfろ原作『ゆるキャン△』よりもややスピード感があり,ギャグのキレもなかなかいい。もともとカメラレンズを通した画面構成が楽しい作品ということもあり,画作りの面でもかなり凝った演出が多い。キャラの芝居も丁寧で面白く,第4話の原画には『ぼっち・ざ・ろっく』(2022年)『葬送のフリーレン』(2023年)監督の斎藤圭一郎が参加するなど,全体的に作画・演出の上手いスタッフが揃っている印象だ。物語やキャラの妙味もさることながら,作画面での見どころも多い作品である。

 

9.『LAZARUS ラザロ』(オリジナル)

lazarus.aniplex.co.jp

【コメント】
スキナーという人物をめぐるミステリーの仕込みが上手く,オリジナルアニメとして非常に見応えのある作品に仕上がっている。アクセルのアクションを中心とした作画・芝居もたいへん面白い。渡辺信一郎監督によれば,スタントマンの芝居を実写で撮影したものをアニメに落とし込んでいる(IGNJapan「オリジナルアニメ『LAZARUS ラザロ』渡辺信一郎監督インタビュー」より)とのことで,モーションキャプチャやロトスコープとは違った味わいがある。また,休符のように挿入されるゆったりとしたシーンが独特のテンポ感を生み出しており,渡辺監督作品のリズムが感じられる作品だ。

 

10.『ロックは淑女の嗜みでして』

rocklady.rocks

【コメント】
“ロック×お嬢様”というタイトル通りの“ミスマッチ”に加え,そこはかとない百合要素が感じられる点がたいへん面白い。しかしそこに安直なジャンブルを感じないのは,ボーカル=フロントマンに依存しない楽器奏者としての矜持,“好きなものに貴族も平民もない”という価値観,そして演奏への直向きさというメッセージが,“芯”として作品の中心部に存在しているからだろう。前クールの『BanG Dream! Ave Mujica』に続いて,ガールズバンドアニメの新機軸となる作品かもしれない。

 

以上,「アニ録ブログ」が注目する2025年春アニメ10作品を挙げた。

今回はオリジナル作品として『アポカリプスホテル』『LAZARUS ラザロ』を挙げた。まったく方向性の異なる2作品だが,どちらも脚本面・作画面でたいへん見応えがある。どちらも最終話までの仕上がりによっては,今期のランキングの最上位に位置する可能性がある。

『2025年 春アニメは何を観る?』でイチオシとしてピックアップした『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』も,期待に違わず傑作話数を次々と繰り出している。やや情報量過多の嫌いはあるものの,新・旧両方の“ガノタ”を満足させる仕上がりと言ってよいだろう。

 

最終的なランキング記事は,全作品の放映終了後に掲載する予定である。

 

劇場アニメ『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』第1章〜第3章レビュー記事まとめ[考察・感想]

*ここに掲載したレビューはネタバレを含みます。必ず作品本編をご覧になってからこの記事をお読み下さい。

『プリンセス・プリンシパル Crown Handler』公式HPより引用 ©︎Princess Principal Film Project

橘正紀監督『プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第4章』が2025年5月23日(金)より劇場公開される。全6章で構成される『Crown Handler』は,この章をもっていよいよ後半戦に入ることになる。当ブログに掲載した,第1章から第3章までのレビュー記事のリンクを以下にまとめておく。すでに映画をご覧になった方は,以下のリンクから記事をご覧いただけると幸いである。

 

第1章

アンジェとビショップが接触した回。ビショップの言葉によって,スパイという存在の脆弱なアイデンティティが指摘され,アンジェとシャーロットの“Changeling”の不吉な未来が予示された。

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第2章

王位継承権第三位のリチャード王子が帰国し,いよいよ「Crown Handler」の意味が明確になる。さらにケイバーライト爆弾が登場したことにより,“物理的な破壊力”が物語の構造を大きく変えた。

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第3章

アンジェたちの前に,“暴力”の権化・アーカム公(リチャード)と“因習”の権化・ノルマンディー公が立ちはだかる。果たして真の敵は“力”か“壁”か。

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どの章も緻密な脚本の妙が光っていた。後半の章も期待できるに違いない。第4章のレビューの後日掲載する予定である。

 

TVアニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』(2025年春)第4話の脚本と演出について[考察・感想]

*この記事は『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』「第4話 魔女の戦争」のネタバレを含みます。

「第4話 魔女の戦争」より引用 © 創通・サンライズ

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『ガンダム』シリーズ最新作として注目を集めている,鶴巻和哉監督『機動戦士Gundam GuuuuuuX(ジークアクス)』(以下『ジークアクス』)。『ファーストガンダム』の大胆なリメイクと絶妙なキャラクターメイキングで,すでに2025年1月の劇場先行上映段階で大きな話題を呼んでいた。先行上映は「第3話 クランバトルのマチュ」までの内容だったため,今回紹介する「第4話 魔女の戦争」からは誰も情報を持たない未知の展開となる。そしてこの話数で登場したシイコ・スガイというキャラ(クター)は,誰も予想し得ない絶妙な魅力を放っていた。画コンテは“あの”荒木哲郎鶴巻和哉監督,演出は荒木哲郎である。

 

クラゲのように

自宅のソファでクランバトル(以下「クラバ」)のランキングを見るマチュ。そこへマチュの母が「聞いたわよ。バレないとでも思ったの?」と叱咤モードで姿を現す。マチュは一瞬,クラバに参加したことがバレたと勘違いする。しかし母が怒っていたのは,進路希望書に「クラゲ」と書いたことだった。ベッドに横たわり,暗い顔で「お母さんて普通だな」と独りごつマチュは,母の現実的で散文的な価値観に嫌気が差している。そしてその直後には,マチュがニャアン「シュウジって不思議だよねー」と語るシーンが挿入される。

「第4話 魔女の戦争」より引用 © 創通・サンライズ

ニャアンは,マチュがシュウジに惹かれる理由が今ひとつ理解できないようだ。彼女が「(シュウジが赤いガンダムを)盗んだのかも」と言うと,マチュは「いいね!それ!だったらもっとすごいよ!」とはしゃいでしまう。「普通」と「不思議」の対比,家庭内の公認された平凡への反発と,外世界の公認されていない刺激への憧れ。前者から後者へと「クラゲ」のように浮遊するマチュの危うい心境が,これまで以上に明確に描写されたシーンだ。

そしてマチュは,ある人物と出会ったことで,後者の世界の本質を目の当たりにすることになる。

 

多義的な魔女

本作は『ガンダム』シリーズであるため,モビルスーツ戦のアクションがアニメーションの目玉であることは確かだ。しかし本話数は日常芝居も非常に面白い。

マチュが路地裏でジェジーのポメラニアンを誘き寄せるシーン。

「第4話 魔女の戦争」より引用 © 創通・サンライズ

路地裏の階段を降りる所作や,犬の脇を横跳びする所作(上図左)などが丁寧に描写されている。ほぼロングショットで捉えているが,服の動きなどのも細かく描き込まれており,たいへん見応えのある作画だ。ジェジーが犬を抱え上げて頬擦りした後,マチュを睨みつける芝居(上図右)も,往年のディズニーアニメのような趣があって面白い。

そしてこの場面で,マチュは運命の人物,シイコ・スガイと出会う。

「第4話 魔女の戦争」より引用 © 創通・サンライズ

ショートボブ(というよりも“おかっぱ”か)に,マチュよりも小さい頭身。“品”を作るような身体の動きと小首を傾げる様はまるで中高生の少女のようだが,左手の薬指には指輪が嵌められている。すでにこの登場シーンだけでインパクト大だ。キャラクターデザイナー・のセンスと作画班の技が光る。

「第4話 魔女の戦争」より引用 © 創通・サンライズ

シイコは今では一児の母となっているが,かつて一年戦争で100機以上を撃墜し「魔女」と恐れられたスーパーユニカム(撃墜王)である。「ンフフ」と静かに笑う姿はこけし(あるいはしめじ)を思わせるが,見開いた目の色彩は,「魔女」の異名に相応しく毒薬のように禍々しい。この途方もないギャップこそが,このキャラのインパクトの正体だ。

シイコは一年戦争時,シャア・アズナブルの乗った赤いガンダムにマブを墜とされている。彼女はクラバで赤いガンダムが生き残っていることを知り,それを倒すためにマチュらの前に姿を現したのだった。「戦争に負けても,私は負けてない。赤いガンダムは私が倒すのよ」と静かに語るシイコは,マチスモを除去されたランボー(「俺にとってあの戦争は今でも続いている!」)のように,一年戦争の世界に滞留している。

黄昏の中,河岸を歩くシイコとマチュ。

「第4話 魔女の戦争」より引用 © 創通・サンライズ

すべての事物が黄金色に染められ,その色彩を曖昧にする世界。2人を取り巻く“非現実感”をよく表した色彩設計だ。傍の幸せそうな家族の姿が唯一の“現実”として挿入されるが,はたしてそれは,シイコとマチュにとってどれほどのリアリティがあるだろうか。

おそらくシイコはマチュのニュータイプとしての資質を見抜いており,シュウジとの関係にも勘付いている。そしてこの時点で彼女自身もニュータイプに“感応”していた可能性がある(強化人間だったのではないかという考察もある)。「望むものすべて」,つまり敢えて家庭の幸せと復讐の二兎を追う彼女の中に,マチュは自分の母とは違う“母”の姿を見る。

シイコがマチュに「赤いガンダムのパイロットって,どんな人?」と尋ねる。マチュとシュウジの回想と思しきシーンが挿入される。

「第4話 魔女の戦争」より引用 © 創通・サンライズ

赤いガンダムのコクピットで眠るシュウジ。近づくマチュ。危うい距離感。どうしてシュウジは地球に行きたいのか。マチュの内心の疑問に答えるかのように,シュウジが寝言(?)で「ガンダムは薔薇を探している。だから,地球に行く」と呟く。「薔薇」とはこの上なく謎めいたセリフだが,シュウジの振る舞いの動機として記憶に留めておくべきだろう。*1 物陰から様子を伺うコンチの姿も何やら示唆的だ。

マチュにとって,シイコもシュウジも「言葉にする前にわかっちゃう」タイプの人間(つまりニュータイプの素養がある)であり,おそらくはマチュ自身もそうだ。進路希望書に「クラゲ」と書いたマチュを,「真面目に考えて!アマテの将来でしょ!」と言語的に説得しようとした母とは対照的だ。

ちなみに英語には“down-to-earth”という語があり,「地に足のついた,現実的な,実際的な」という意味で用いられるが,宇宙世紀のコロニーにおいてはこの意味が反転する。マチュが時折見せる倒立のように。

左「第1話 赤いガンダム」より引用/右「第4話 魔女の戦争」より引用  © 創通・サンライズ

現実的なのはマチュの母の世界であり,何らかの理由で地球(earth)を目指すシュウジとマチュは,現実的・散文的・現世的なコロニーの世界から乖離しようとしている。家族という現実を置いて命懸けの復讐に臨もうとするシイコも,彼らと同類なのだろう。

ゲルググのシミュレーションテストを行うシイコ。

「第4話 魔女の戦争」より引用 © 創通・サンライズ

ヘルメットを外した後の乱れ髪の姿は,まるで部活終わりの中学生のような“隙”を感じさせる。それを撫で付ける律儀な所作も丁寧に作画されている。

しかしシイコは「魔女」である。クランバトルが始まると,その「プレッシャー」(この言葉を使うのも,彼女にニュータイプの素養があることを示唆している)に愉悦を覚え,鬼の形相で赤いガンダムを追跡する。“ニュータイプ交信”する際,シュウジの顔がシイコの顔を引き裂くように現れる描写(下図右)が面白い。

「第4話 魔女の戦争」より引用 © 創通・サンライズ

シイコはかつて,ニュータイプだったマブを同じくニュータイプだったシャアの赤いガンダムに奪われ,そのシャアも姿を消した。シュウジはシャアではない。したがってこの戦いは厳密な意味での“敵討ち”ではない。

彼女の行動原理は,差し当たり「望むものすべてを手に入れる選ばれた人」=ニュータイプとしての価値観を完全否定することにあるようだ。マブとシャアという2人のニュータイプを失った彼女は,ニュータイプ的万能感への憧れを捨て,「普通の生き方」=夫と息子のいる生活に甘んじる決意をした。彼女の前に再び現れた赤いガンダムは,彼女の「普通」を危うくするものだ。だから抹消せねばならない。それがロジカルな解釈だろう。

しかしシイコは本当にニュータイプを否定しようとしていたのだろうか。「普通」に甘んじようとしていたのだろうか。もしそうなら,ニュータイプたちから距離を置き,夫と息子のいる幸せな生活を守るべきだったろう。そうはせずに,あくまでも赤いガンダムの打倒にこだわったシイコは,むしろ己と他者の中のニュータイプの素養を認め,それに惹かれていたのではないか。だとすれば,やはりアンキーの言う通り,それは「執着」に近い感情なのだろう。

少女,妻,母,魔女,ニュータイプ。たった1話だけの登場でありながら,シイコにおいて実に豊かなキャラクターメイキングが実現されており,たった1話だけで,まるで短編映画のような濃密な物語が紡ぎ出されている。素晴らしい作劇術だ。

 

魔女の惨殺

「ララ音」の発生とともに,シュウジの赤いガンダムが俄かに“覚醒”し,シイコはその姿を見失う。この後のシーンは本話数で最も優れた演出と言える。

「第4話 魔女の戦争」より引用 © 創通・サンライズ

シイコの背後から現れたシュウジは,ビームサーベルでゲルググのコクピットをゆっくりと貫く。この速度感と尺の取り方が実にうまい。ビームサーベルを引き抜いた後,ゲルググの機体が漸次的に爆発していく描写もたいへん面白い。

ゆっくりと,じっくりと惨殺するという振る舞いが,シュウジの底根にある冷たい狂気のようなものを感じさせる。あまりの“軽さ”に,視聴者の多くは“まさか殺してはいないだろう”と思ったかもしれない。しかしその後のマチュの驚愕の表情と,「キラキラ」の中の非現実的な描写が,視聴者の甘い予想を真っ向から否定する。この惨殺シーンに対して,「ララ音」に共鳴するかのような穏やかな劇伴を添える辺り,いかにも『エヴァンゲリオン』シリーズを手がけたチームという印象だ。

シュウジによる惨殺を目の当たりにしたマチュは,驚愕のあまり表情をこわばらせるが,だからと言ってシュウジの行為を否定するわけではない。むしろ「でも,そこまで踏み込まなきゃ,シュウジのいる場所には届かないんだ」と言って,ある種の憧憬のようなものを抱き続ける。少なくともこの時点で彼女の目に映っているのは,母に象徴される「普通」の世界ではなく,シュウジのいる「不思議」の世界なのだ。仮にそこが血塗られた世界であったとしても。

「第4話 魔女の戦争」より引用 © 創通・サンライズ

この場面を『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(2022-2023年)の「第12話 逃げ出すよりも進むことを」と比べてみるのも面白いかもしれない。ここでは,兵士を惨殺したスレッタをミオリネが「人殺し」と罵り拒絶する。シュウジの行為を受け入れようとするマチュとは対照的だ。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』「第12話 逃げ出すよりも進むことを」より引用 ©︎創通・サンライズ・MBS

またこの2つのシーン描写は,惨殺のスピード感,直接的描写の有無,「魔女」の主客の関係(『ジークアクス』では魔女“を”殺し,『水星の魔女』では魔女“が”殺す)の点においても対照的である。同じ女性主人公の『ガンダム』シリーズとして,両作品を詳細に比較するのも面白いかもしれない。

シイコという激烈な人物の登場によって,マチュの真の願望とシュウジの本性が照射され,この物語における死生観の一端も明らかになった。キャラとしての面白さを発揮すると同時に,物語においても大きな存在感を持った人物である。この類まれなるキャラ(クター)メイキングに惜しみない拍手を送りたい。

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Xアカウントなど

【スタッフ】
制作:スタジオカラーサンライズ/原作:矢立肇富野由悠季/監督:鶴巻和哉/シリーズ構成:榎戸洋司/脚本:榎戸洋司庵野秀明/キャラクターデザイン:/メカニカルデザイン:山下いくと/アニメーションキャラクターデザイン・キャラクター総作画監督:池田由美小堀史絵/アニメーションメカニカルデザイン・メカニカル総作画監督:金世俊/デザインワークス:渭原敏明前田真宏阿部慎吾松原秀典射尾卓弥井関修一高倉武史絵を描くPETERmebaePONCOTAN),稲田航ミズノシンヤ大村祐介出渕裕増田朋子林絢雯庵野秀明鶴巻和哉/美術設定:加藤浩ととにゃん/コンセプトアート:上田創/画コンテ:鶴巻和哉庵野秀明前田真宏谷田部透湖/演出:鶴巻和哉小松田大全谷田部透湖/キャラクター作画監督:松原秀典中村真由美井関修一/メカニカル作画監督:阿部慎吾浅野元/ディティールワークス:渭原敏明田中達也前田真宏/動画検査:村田康人/デジタル動画検査:彼末真由子スタジオエイトカラーズ),三浦綾華中野江美/色彩設計:井上あきこWish/色指定・検査:久島早映子Wish),岡本ひろみWish/特殊効果:イノイエシン/美術監督:加藤浩ととにゃん/美術監督補佐:後藤千尋ととにゃん/CGI監督:鈴木貴志/CGIアニメーションディレクター:岩里昌則森本シグマ/CGIモデリングディレクター:若月薪太郎楠戸亮介/CGIテクニカルディレクター:熊谷春助/CGIアートディレクター:小林浩康/グラフィックデザインディレクター:座間香代子/ビジュアルデベロップメントディレクター:千合洋輔/撮影監督:塩川智幸T2 studio/撮影アドバイザー:福士享T2 studio/特技監督:矢辺洋章/ルックデベロップメント:平林奈々恵三木陽子/編集:辻󠄀田恵美/音楽:照井順政蓮尾理之/音響監督:山田陽サウンドチーム・ドンファン/音響効果:山谷尚人サウンドボックス/主・プロデューサー:杉谷勇樹/エグゼクティブ・プロデューサー:小形尚弘/プロデューサー:笠井圭介/制作デスク・設定制作:田中隼人/デジタル制作デスク:藤原滉平/製作:バンダイナムコフィルムワークス

【キャスト】
アマテ・ユズリハ(マチュ):黒沢ともよ/ニャアン:石川由依/シュウジ・イトウ:土屋神葉/シャリア・ブル:川田紳司/シャア・アズナブル:新祐樹/エグザベ・オリベ:山下誠一郎/コモリ・ハーコート:藤田茜/アンキー:伊瀬茉莉也/ジェジー:徳本恭敏/ナブ:千葉翔也/ケーン:永野由祐/ハロ:釘宮理恵/ポメラニアン:越後屋コースケ/デニム:後藤光祐/ドレン:武田太一

【「第4話 魔女の戦争」メインスタッフ】
脚本:榎戸洋司/画コンテ:荒木哲郎鶴巻和哉/演出:荒木哲郎デザインワークス:射尾卓弥井関修一絵を描くPETERmebaePONCOTAN),稲田航ミズノシンヤ増田朋子鶴弮和哉/キャラクター作画監督:井関修一/メカニカル作画監督:浅野元

原画:阿部慎吾浅野元松原秀典田川裕子小口萌花富田浩章大塚健田澤潮南野諒辻彩夏長谷川哲也岩堀起久岡田直樹宇良隆太長部州太柴田夏来三木達也杉山和隆諸冨直也崎山知明宮村明田中宏紀根本卓弥studo maf),徳田靖芳山優松村佳子藤原舞似子井関修一荒木哲郎

 

この他,この素晴らしい話数に参加されたすべての制作者に拍手を。

 

 

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商品情報

 

 

*1:劇場先行上映版ではキシリアが「シャロンの薔薇」という言葉を口にするが,それと何らかの関連がある可能性が高い。あるいは終盤の描写からするに,彼の母とも関係する可能性もある

『BanG Dream! Ave Mujica』若葉睦/モーティス〈キャラ(クター)〉考察

*この記事はネタバレを含みます。

『BanG Dream! Ave Mujca』公式HPより引用 ©︎BanG Dream! Project

予測のつかない展開と強烈なキャラメイキングで,2025年冬アニメの中でも一際異彩を放っていた『BanG Dream! Ave Mujica』(以下『Ave Mujica』)。敢えてメンバー同士の不和(解散)を起点とし,そこから「運命共同体」としてのAve Mujicaという場の発生までを描くという,バンドアニメとしては稀有なストーリーテリングが話題となった。その並外れた世界観を理解するに当たって,若葉睦/モーティスというキャラ(クター)の分析が不可欠であることは言うまでもない。今回の記事では,彼女の〈キャラ〉と〈キャラクター〉を解析しながら,その魅力を深掘りして行きたい。

なお,本記事における〈キャラ〉〈キャラクター〉という用語に関しては,以下の記事を参照頂きたい。

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〈キャラ〉としての睦/モーティス

のトレードマークと言えば,まずその薄緑色の髪である。緑髪のアニメキャラ(女性)は『交響詩篇エウレカセブン』(2005-2006年)エウレカ,『コードギアス 叛逆のルルーシュ』(2006-2007年)C.C.,『マクロスF』(2008年)ランカ・リーなど枚挙にいとまがない(アニメキャラではないが,初音ミクを加えてもいいだろう)が,睦の髪色はどのキャラよりも薄く,かなり白に近いペールカラーに設定されている(上記のキャラではおそらくエウレカが最も近い)。肌の色も含め,全体的に色素の薄い色彩は,人間よりもエルフやニンフのような幻想的存在を思わせもする。“存在の儚い美少女”というキャラの伝統に依拠しつつ,睦の“自我の希薄”という,本作特有のキャラ設定をよく表した設計と言えよう。

「#2 Exitus acta probat.」より引用 ©︎BanG Dream! Project

希薄な色彩に同調するかのように,睦の表情は常に乏しく,口数も少ない。幼馴染である豊川祥子によれば,「昔はもっとしゃべっていた,笑っていた」(「#3 Quid faciam?」より)のだが,少なくとも物語が『Ave Mujica』に入って以降は,平時はほとんど無表情と言ってよい。祥子が大事にするあの人形さながらに,現実的・身体的な存在感を欠いている。そしてそれだけに,却ってその雑味のないピュアな美少女ぶりが人目を引いてしまう。存在の希薄さが逆説的にキャラの強度を高めている。

その一方で,彼女が7弦ギターを演奏している点が非常に面白い。通常,7弦ギターは6弦よりも低音の弦を追加することにより,重低音が得られるよう設計されている。加えて,Ave Mujicaがメタルバンドだということもあり,そのサウンドには深いディストーションエフェクトがかけられている。結果,このキャラにおいて,〈お嬢様学校の儚げ美少女×重低音歪みサウンド〉という“ギャップ萌え”が発生しているわけだ。後ほど作品レビューの記事で詳しく述べるが,このギャップこそが,『Ave Mujica』という作品全体の基調を成しているのである。ちなみに本記事執筆時点(2024年春クール)で放送中の『ロックは淑女の嗜みでして』でもこれと同様の“ギャップ萌え”が見られるが,この作品のヒロインの鈴ノ宮りりさと黒鉄音羽は,楽器を演奏するとキャラも豹変するという設定であり,睦のそれとはかなりキャラ構造が異なる。

 

モーティス

睦の別人格として生まれたモーティスは,当然のことながら,睦とほぼ同じ外見的要素を共有している。しかしその性格は対照的だ。睦と比べると表情は豊かで,陽気な笑顔から剥れ顔,はてはホラー顔まで,様々な内面を表出して見せる。口数も多く,声のトーンにも感情が出やすい。他者とのコミュニケーションも巧みで,いわゆる“陽キャ”の部類だ。

左・中「#4 Acta est fabula.」より引用/右「#8 Belua multorum es capitums.」より引用 ©︎BanG Dream! Project

モーティスは睦と対照的に,ギターをまったく弾くことができない。このことがAve Mujica解散の直接の原因となったという意味においては,彼女は物語上,一種の“病理”である。しかしだからと言って,モーティスが嫌われキャラかと言うと,まったくそうではない。物語内においては,長崎そよ八幡海鈴がモーティスを守る役割を担うし,祐天寺にゃむに至っては,執着に近い感情を抱いている。また物語外でも,睦/モーティスという別人格の同居の妙味そのものを楽しんだ視聴者が多かったのではないだろうか。言ってみれば“一粒で二度美味しい”キャラだ。実際,柿本監督によれば,制作スタッフの間でも「睦/モーティスを解離性同一性障害というよりは,別々の人格として捉えていく」という意識が生まれ,「モーティスはモーティスで好きになり,睦は睦で好きになってくれていた」ということがあったらしい。*1

先ほどモーティスは睦と「ほぼ」同じ外見だと述べたが,実は瞳孔の大きさを変えることで外見上の差別化を図っている。

左:睦/右:モーティス 「#8 Belua multorum es capitums.」より引用 ©︎BanG Dream! Project

言われなければ気づかないくらいの違いだが,これを知った上で改めて睦/モーティスのスイッチを確かめてみるのも面白いだろう。

 

そしてこの睦/モーティスのキャラスイッチングを見事に演じてみせたのが,CVの渡瀬結月である。渡瀬は声優の中では若手で,アニメの出演歴もそう長くないが,睦/モーティスの差異を話し方と声のトーンを変えることで巧みに演じ分けている。また「#3 Quid faciam?」では,睦の内面描写のシーンで1人13役をこなすなど,難しい役どころを担った。今後の活躍が期待される声優だ。

「#3 Quid faciam?」より引用 ©︎BanG Dream! Project

 

〈キャラクター〉としての睦/モーティス

睦⊻モーティス

睦/モーティスの人格交代は当初,人格の“解離”という症状(解離性同一性障害)として描写される。*2 しかし「#8 Belua multorum es capitums.」では,それが実は「演技」だったことが明かされる。

そもそも“睦ちゃん”は,睦が演じていた無数の「役」 の一部に過ぎなかった。しかし彼女がギターと出会ったことにより,“睦ちゃん”が相対的に強い人格として台頭することになり,他の「役」は影を潜める。“睦ちゃん”の庇護役として誕生したある1つの「役」が抹消されずに残り,祥子がAve Mujicaを立ち上げたことにより“モーティス”としての人格を得た。

「#8 Belua multorum es capitums.」より引用 ©︎BanG Dream! Project

症状としての“障害”なのか,それとも“演技”なのか,という設定上の曖昧さはあるが,ここで重要なのは,若葉睦において〈睦〉と〈モーティス〉が相互にエッセンシャルな人格だということだ。睦はAve Mujicaとして世間の目に晒され続ける上でモーティスという庇護人格が必要であり,モーティスも自身のレゾンデートルとして睦を必要としている。つまり両人格は,ある種の共依存関係にあるわけだ。

にもかかわらず,睦/モーティスの人格は,「#8 Odi et amo.」のライブシーンまでは相互に排他的な関係にある。特にモーティスの人格が支配的になって以降は,睦は内面の奥底で“睡眠”もしくは“軟禁”状態になり,表に現れることはほとんどない。ところが何らかの事情で睦の人格が活性化した場合には,両人格が競合的に同時発生することがある。これが最もドラマチックに描かれたのが,「#6 Aimum reges.」の“階段落ち”のシーンである。

左・中「#6 Aimum reges.」より引用/右「#9 Ne vivam si abis.」より引用 ©︎BanG Dream! Project

睦/モーティスの目まぐるしい交代が,表情作画と渡瀬の演技,および素早いカメラワークによって描写されている。睦/モーティスは,階段から転げ落ちてもなお,コンピュータ・プログラムの競合状態のような異常行動を見せ続ける。ここでは,睦/モーティスは一種の“主導権争い”の状態にあり,相互に排他的な振る舞いを見せている。やがて「#9 Ne vivam si abis.」において,睦が奈落に落ちたことによって一時的に睦が排除され,モーティスの人格だけが残ることになる。

なお「#8 Odi et amo.」については以下の記事も参照いただきたい。

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睦∧モーティス

しかしその睦/モーティスも,「#10 Odi et amo.」のライブシーンでモーティスが睦を“救出”したことにより,再び共存することになる。

「#10 Odi et amo.」より引用 ©︎BanG Dream! Project

しかしこれは,2つの人格の“融合”ないし“綜合(ジンテーゼ)”が起こり,1つの人格が完成したというような上昇志向的物語には到底思えない。そもそも『Ave Mujica』という作品世界において,そのような教養小説的なプロットは相応しくないだろう。むしろ,「#13 Per aspera ad astra.」(最終話)の表情や振る舞いなどから判断するに,異なる人格(キャラ)の〈共存関係〉が完成したと読むべきではないだろうか。

「#13 Per aspera ad astra.」より引用 ©︎BanG Dream! Project

若葉睦というキャラクターは,〈睦であると同時にモーティス〉という並列関係において“完成”する。*3 はたしてそれは異常なことだろうか。現実の人間にしても,軽微な人格の解離は起こりうるものだし,そもそも己の人格が常に幸せに統合されていると考えること自体が,ある種の幻想なのではないだろうか。僕らは時にーーあるいはしばしばーー相互に矛盾し対立する人格を内包することがある。その意味で,睦/モーティスというキャラクターには一定のリアリティがあるように思える。

 

そしてこのことは,集団としてのAve Mujicaにも言える。Ave Mujicaは,それぞれに異なる思惑と動機持ったメンバーによって構成されている。彼女たちは差異と対立を保持したまま,バンド名(Ave Mujica)という「運命」によって束ねられている。はたしてAve Mujicaという“キャラ(クター)”は今後どんな豊な表情を見せるだろうか。ここで示したような睦というキャラ(クター)の解析が,その1つの指標となるかもしれない。

 

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Xアカウントなど

【スタッフ】
原作:ブシロード/監督:柿本広大/シリーズ構成:綾奈ゆにこ/脚本:綾奈ゆにこ後藤みどり小川ひとみ和場明子晴日たに/キャラクター原案:ひと和植田和幸/キャラクターデザイン:信澤収もちぷよ/アニメーションキャラクターデザイン:茶之原拓也八森優香Shin Joseph/CGスーパーバイザー:奥川尚弥/モデリングディレクター:武内泰久寺林寛/リギングディレクター:矢代奈津子柏木亨/色彩設計:北川順子石橋名結松下由佳/撮影監督:奥村大輔/美術監督:山根左帆対馬里紗/美術設定:成田偉保/編集:日髙初美/音響監督:柿本広大/音楽:藤田淳平Elements Garden),藤間仁Elements Garden/音楽制作:ブシロードミュージック/アニメーションプロデューサー:松浦裕暁保住昇汰/アニメーション制作:サンジゲン

【キャスト】
三角初華/ドロリス:佐々木李子/若葉睦/モーティス:渡瀬結月/八幡海鈴/ティモリス:岡田夢以/祐天寺にゃむ/アモーリス:米澤茜/豊川祥子/オブリビオニス:高尾奏音

 

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商品情報

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【楽曲】

 

 

*1:サンジゲン公式YouTube「サンジゲンチャンネル」の「#3 Quid faciam?」コメンタリより

*2:柿本監督自身も睦/モーティスのキャラクターを構築するにあたって,解離性同一性障害の資料に依拠したらしい。サンジゲン公式YouTube「サンジゲンチャンネル」のコメンタリを参照。

*3:これに関して柿本監督は,「モーティスは人格ではなくなり,『役』の1つになったというイメージ」と説明している。サンジゲン公式YouTube「サンジゲンチャンネル」の「#10 Odi et amo.」コメンタリより。

2025年 冬アニメランキング[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品の内容に部分的に言及しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

 

桜前線が日本列島を北上する中,2025年冬アニメも全作品が放送を終了した。今年も恒例通り,2025年冬アニメの中から当ブログが特にクオリティが高いと判断した12作品をランキング形式で振り返ってみたい。コメントの後には,作品視聴時のXのポストをいくつか掲載してある。今回も「中間評価」の記事でピックアップしなかった作品がランクインしている。なお,この記事は当ブログの評価基準において「一定の水準を満たした作品を挙げる」ことを主旨としているため,ピックアップ数は毎回異なることをお断りしておく。

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12位:『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる』

okitsura.com

【コメント】
沖縄の文化・風習・方言を楽しく伝えることを主眼とした作品。その要素ももちろん面白いのだが,照秋(てーるー)飛夏(ひーなー)夏菜(かーなー)のメインキャラの関係性がとてもいい。ひーなーは沖縄の精霊のような存在で,彼女に恋するてーるーは沖縄そのものに恋をしているようだ。一方,かーなーはてーるーに対してあくまでも人間的に恋をしている。ひーなーとかーなーは無二の親友としてお互いを必要としている。誰も傷つけることのない,優しい恋の三角関係。濃い影によって沖縄の陽光を表現した作画も好印象。続編を期待したいところだ。

 

11位:『もめんたりー・リリィ』(オリジナル)

sh-anime.shochiku.co.jp

【コメント】
「2025年 冬アニメは何を観る?」の記事でイチオシとしてピックアップした作品。
〈終末〉〈日常〉〈飯〉,そして人の〈不在〉を巡る物語。一つひとつの要素はありふれたものだが,GoHands独自路線の演出によって,全体としてユニークな取り合わせを楽しむことができた。世界設定やストーリー展開にはもう一捻り欲しかったところだが,脚本に破綻などはなく,オリジナルアニメとしてまとまりのよい作品になったのではないだろうか。何よりこの制作会社の持ち味を存分に堪能できた良作だった。GoHandsには,この路線を守りつつ,さらに進化したオリジナルアニメを期待したい。

 

10位:『チ。-地球の運動について-』

anime-chi.jp

【コメント】
「チ」を巡る,あくまでもフィクショナルな語りが,現実世界へと鮮やかに接続された最終話。“地動説の執拗な弾圧”というプロットが仮構されたものであることを僕らは予め知っていたわけだが,それでもそこに何がしかの“真実”を見ていたとすれば,現実と虚構の間の境界線は思いのほか曖昧なのかもしれない。アニメは,原作者・魚豊が紡ぎ出したこの類まれなる物語を過不足のない作画で巧みに伝えていた。マンガ・アニメともに,この先何年,何十年と価値を持ち続ける作品になるだろう。

 

9位:『わたしの幸せな結婚 第二期』

watakon-anime.com

【コメント】
甘水直という最強のヴィランとの対決でクライマックスを迎えた第二期。アニメオリジナル脚本によって甘水の過去を描き出すことで,キャラクターと世界観にいっそうの深みが増していたように感じられる。最終話,異能という力から遠ざかる決断をした美世清霞は,ようやく「幸せな結婚」という“楽園”にたどり着けるようだ。新作アニメの制作が決定している。今後も美世と清霞の「わたし“たち”の幸せな結婚」を見届けていくことにしよう。


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8位:『全修。』(オリジナル)

zenshu-anime.com

【コメント】
ナツ子が『滅びゆく物語』のバッドエンドをハッピーエンドへと「全修」することで大団円を迎えた最終話。彼女を駆り立てていたのは,他ならぬ自分自身の初期衝動だったのであり,それこそが彼女にとっての「初恋」だった。一見,シンプルなハッピーエンドに見えるが,『滅びゆく物語』の原作者・鶴山監督の捨て台詞を入れることで,さりげなく価値観を相対化した点なども心憎い。『数分間のエールを』(2024年)や『ルックバック』(2024年)などと同様,“クリエイター讃歌”の物語として大いに楽しめた作品だった。

 

7位:『アオのハコ』

aonohako-anime.com

【コメント】
「中間評価」の記事ではピックアップしなかったのだが,の想いがクロースアップされた後半の話数がとてもよく,急遽ランクインさせる判断をした。恋というものの成分には,“楽しさ”だけではなく,“悲しさ”も含まれる。「アオ」は“青春”でもあれば“憂鬱”でもある。この物語に内在するアンビバレントな悲喜の感情を際立たせるに当たって,雛というキャラクターは不可欠だったし,彼女をフィーチャーしたEDアニメーションは完璧な演出だった。すでに第2期制作の報が出ている。今後も期待しよう。

『アオのハコ』公式HPより引用 ©︎三浦糀/集英社・「アオのハコ」製作委員会

 

6位:『薬屋のひとりごと 第2期』

kusuriyanohitorigoto.jp

【コメント】
この作品は当初から猫猫と壬氏の独特な距離感が見どころの1つだったわけだが,壬氏が猫猫に真実を告げる決意をしてから,徐々に2人の関係性に変化が生じ始めている。ラブコメ(しかもそこそこアダルトな)のような展開の一方で,今後は数々の謎の真相が明らかになるようだ。結局1期4話のような“サプライズ演出”はなかったが,美麗で安定した作画はこの作品の持ち味と言えるかもしれない。連続2クールのため,すでに春クールの放送も始まっている。猫猫と壬氏の“距離”はどうなるだろうか。

 

5位:『Re:ゼロから始める異世界生活 3rd season

re-zero-anime.jp

【コメント】
新スタッフによって新たなスタートを切った『リゼロ』シリーズ。後半戦はスバル陣営vs大罪司教陣営の激しい対決が描かれた。特にスバルvsレグルス戦を描いた62話ガーフィールvsクルガン戦を描いた63話は,作画・演出的にもたいへん見応えのある仕上がりだった。レグルスを演じた石田彰の演技は逸品。またガーフィールvsクルガン戦のアクション(下記Xのポストを参照)は,これまでの『リゼロ』シリーズには見られなかったダイナミックかつ繊細な作画だった。すでに4th seasonの報も出ている。今後もこの制作チームの技に期待しよう。


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4位:『悪役令嬢転生おじさん』

tensei-ojisan.com

【コメント】
 制作スケジュールに追われながら最終話に漕ぎ着けるTVアニメが多い中,放送前全話完納という神技を成し遂げ,かつ全話安定した作画と演出をキープした傑作。平均クオリティが決して高いとは言えないこのジャンルのアニメにおいて,1つの“模範解答例”になったのではないだろうか。本作は“家族”“親子”という,このジャンルでは何かと除外されがちな要素を敢えて盛り込んだ点が見どころの1つなわけだが,そうした原作者の価値観をうまくアニメーションに落とし込むことに成功していたと言える。特に井上和彦の渋くも温かみのある声質は,屯田林憲三郎「親目線」を的確に伝えていた。きわめて説得力のある演技だったと言える。現在のところ続編の報は出ていないが,是非とも期待したい。

 

3位:『俺だけレベルアップな件 Season2』

sololeveling-anime.net

【コメント】
主人公・がレベルアップするにつれ,苛烈かつスピーディかつスタイリッシュになるアクション。その迫力の作画は,『呪術廻戦』や『鬼滅の刃』などの大型コンテンツに引けを取らない,あるいはそれらを凌駕するほどのクオリティだったと言える。したがって視聴者の側としても,もっとレベルアップしてもっと作画のボルテージを上げて欲しいと期待するようになる。この作品において「レベルアップ」という要素は,物語上のギミックであると同時に,視聴者を惹きつけるフックにもなっていたように思う。そういう意味でも,本作はアニメ化されるべくしてアニメ化されたと言えるのではないか。今のところ続編の報はないが,是非とも制作してもらいたい。

 

2位:『メダリスト』

medalist-pr.com

【コメント】
本作ではマンガ原作をアニメ化するにあたって,脚本,作画,演出などにオリジナル要素を少なからず盛り込んでいるが,総合的に見てかなりの程度成功したと言ってよいだろう。特に3DCGを用いた演技シーンは,原作のイメージよりもたっぷりと尺をとり,カメラワークや画角の調整によってダイナミックに描写している。2Dとの違和感がないという消極的意義だけでなく,3DCGでこそこの表現ができるという積極的な意義が感じられた。いのり役・春瀬なつみの愛らしくも直向きな演技と,司役・大塚剛央の熱く真摯な演技は,フィギュアスケートに対する純粋な想いをそれぞれのキャラクターにおいて感動的に表現していた。今期のマンガ原作アニメとして,最も成功した作品と言ってよいのではないだろうか。第2期の制作がすでに決定している。楽しみに待とう。


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1位:『BanG Dream! Ave Mujica』

『BanG Dream! Ave Mujica』「#6 Animum reges.」より引用 ©︎BanG Dream! Project

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【コメント】
ダントツの1位と言ってよいだろう。戸山香澄の「キラキラ」で始まった『バンドリ』シリーズは,これまで多かれ少なかれ,バンドへのポジティブな高揚感とメンバー同士の絆がその基調を成していた。しかし『Ave Mujica』は,メンバー間の心の“斥力”をライトモチーフにすることで,ガールズバンドアニメというジャンルのフレームそのものを打ち壊したと言える。その意味で,本作は文字通り画期的な作品となった。
キャラクターメイキングも優れていた。とりわけ睦/モーティスの二重性は,この物語には不可欠な要素だったと言える。監督によれば,睦の“二重人格”設定は当初の脚本にはなく,睦のキャラクターを掘り下げていく中で生まれたアイデアだったそうだ。*1 これは“後付け”の設定であるというよりは,睦/モーティスというキャラクターがこの物語の内的必然性から生まれたのだと言える。睦/モーティスは,『Ave Mujica』の世界観において,生まれるべくして生まれたキャラクターなのだ。ガールズバンドのジャンルに大きな“不協和音”を響かせたこのキャラクターメイキングに,惜しみない拍手を送りたい。
たいへん喜ばしいことに,『It's MyGO!!!!!』と『Ave Mujica』を併せた続編の報が出ている。まだこの作品をご覧になっていない方も,これを機に『バンドリ』シリーズを追いかけてみるのもいいだろう。


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● その他の鑑賞済み作品(50音順)
『天久鷹央の推理カルテ』『SAKAMOTO DAYS』『空色ユーティリティ』『ドラゴンボール DAIMA』『ハニーレモンソーダ』『花は咲く,修羅の如く』『ババンババンバンバンパイア』『妖怪学校の先生はじめました!』

 

以上,当ブログが注目した2025年冬アニメ12作品を紹介した。

今回取り上げたオリジナルアニメは『もめんたりー・リリィ』(11位)と『全修。』(8位)のみだが,両者とも世界観の作り込みが巧みで,最後まで楽しめた作品だった。特に『全修。』は脚本のまとまりがとてもよく,うえのきみこの才能を改めて感じた作品だった。

上位3作の『BanG Dream! Ave Mujica』『メダリスト』『俺だけレベルアップな件 Season2』はまったく異なる路線の作品だが,脚本とキャラクターメイク,3DCG描画,アクション作画と,それぞれに高水準の技術を示しており,改めて日本アニメの技術の幅の広さを感じることができた。特に『Ave Mujica』と『メダリスト』における3DCGの表現力には驚かされた。今後,日本のアニメにおける2Dと3Dの関係性はさらに進化・発展を遂げていくことだろう。

 

2025年春アニメのおすすめに関しては以下の記事を参照頂きたい。

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*1:「メガミマガジン」2025年4月号 Vol.299,p.29,Gakken,2025年

2025年 春アニメは何を観る?来期おすすめアニメの紹介 ~2025年 冬アニメを振返りながら~

『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』公式Xより引用 ©︎創通・サンライズ

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2025年 冬アニメ振返り

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冬クールの作品で特に注目したいのは,『悪役令嬢転生おじさん』『BanG Dream! Ave Mujica』『メダリスト』の3作品だ。

竹内哲也監督『悪役令嬢おじさん』は,“親目線”“家族からの支援”というファミリー要素を盛り込んだ,転生モノとしてはやや珍しいタイプの作品だ。主人公・屯田林憲三郎の中間管理職としての有能さ,真正のオタク気質といったキャラがたいへん魅力的で,彼の「転生」によって悪役令嬢が悪役でなくなってしまうという筋立てもシンプルだが面白い。そして何よりアニメーションとしての質が高い。放送前完納+放送中の打ち上げという制作秘話を差し引いても,安定した作画と丁寧な演出はそれだけで高評価に値する。

柿本広大監督『BanG Dream! Ave Mujica』は,ガールズバンド・アニメに定番の“キラキラ感”や“肯定的成長”といった陽の要素を排し,“没落”“人格分裂”“嫌悪”“嫉妬”“執着”といった陰のモチーフによって物語を駆動したという点で,このジャンルにおいて極めて画期的な作品となった。しかしそのような泥沼展開の中でも,それぞれのキャラクターの魅力をうまく引き出しており,“推し文化”の潮流に乗ったコンテンツとしても大きな成功を収めている。前作の『It's MyGO!!!!!』と併せた続編の報もすでに出ている。楽曲も含め,今後の展開が楽しみな作品だ。


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山本靖貴監督『メダリスト』は,子どもの願いと大人の想いの共鳴というモチーフを丁寧に伝えつつ,3DCGによる美麗な演技シーンによって,“フィギュアスケート・アニメ”としてのプレゼンスをきっちり示した秀作だ。特にスケートシーンにおけるカメラワークや画角などは,細部に至るまで“見せる”ための工夫が施され,非常に見応えがある。制作会社ENGIの代表作として記憶される作品となるに違いない。

この他,恋の哀楽を瑞々しい作画で伝えた『アオのハコ』,ラブコメテイストの中で沖縄の魅力をきっちり伝えた『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる』,スタイリッシュなアクションにいっそう磨きがかかる『俺だけレベルアップな件 Season2』,猫猫・壬氏の関係の変化に目を離せない『薬屋のひとりごと 第2期』,オリジナルアニメとして完成度の高かった『全修。』,原作の重く深いテーマを過不足なく表現した『チ。-地球の運動について-』,終末と日常をGoHands独自の表現技術で美しく描いた『もめんたりー・リリィ』,強敵・甘水直の出現によって物語も佳境に入った『わたしの幸せな結婚 第二期』など,優れた作品が数多くある。

2025年 冬アニメの最終的なランキングは,全作品の最終話放送終了後に掲載する予定である。

 

では今回も2025年 春アニメのラインナップの中から,五十音順に注目作をピックアップしていこう。各作品タイトルの下に最新PVなどのリンクを貼ってあるので,ぜひご覧になりながら本記事をお読みいただきたい。なお,オリジナルアニメ(マンガ,ラノベ,ゲーム等の原作がない作品)のタイトルの末尾には「(オリジナル)」と付記してある。

 

①『アポカリプスホテル』(オリジナル)


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『アポカリプスホテル』公式X

【スタッフ】
原案:ホテル銀河楼 管理部/監督:春藤佳奈/キャラクター原案:竹本泉/シリーズ構成・脚本:村越繁/キャラクターデザイン:横山なつき/美術監督:本田こうへい/色彩設計:砂子美幸/3D監督:中野祥典/撮影監督:岡﨑正春/編集:神宮司由美/音楽:藤澤慶昌/音響監督:飯田里樹/音響制作:dugout/音楽制作協力:SCOOP MUSIC/アニメーション制作:CygamesPictures

【キャスト】
ヤチヨ:白砂沙帆
【コメント】
舞台は人類がいなくなった後の地球。銀座のホテル『銀河楼』では,ホテリエロボットの「ヤチヨ」たちがオーナーたちの帰還を待ち侘びていた。しかしそこへ現れたのは地球外生命体のお客様で…という話。文明崩壊後の地球が舞台ということで,美しい廃墟の美術が楽しめるようだ。キャラデザはシンプル系だが,PVを見ると,かなり面白い作画をしていることがわかる。aikoの主題歌も注目ポイントだ。
監督は『幼女戦記』(2017年)で副監督を務めた春藤佳奈,シリーズ構成・脚本は『ゾンビランドサガ』(2018年)などの村越繁,制作は『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』(2024年)などのCygamesPicturesである。今期期待のオリジナルアニメだ。

 

②『アン・シャーリー』


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『アン・シャーリー』公式X

【スタッフ】
監督:川又浩/シリーズ構成:高橋ナツコ/キャラクターデザイン:土屋堅一/作画監督:渡辺裕二斎藤直子/美術監督:工藤ただし/色彩設計:久力志保/撮影監督:齋藤真次/音響監督:小泉紀介/音楽:大島ミチル/アニメーション制作:アンサー・スタジオ

【キャスト】
アン・シャーリー:井上ほの花/マリラ・カスバート:中村綾/マシュウ・カスバート:松本保典/ギルバート・ブライス:宮瀬尚也/ダイアナ・バーリー:宮本侑芽/J.A.ハリソン:太田光
【コメント】
1979年に放映された『赤毛のアン』のリメイク作。『THE FIRST SLAM DUNK』(2022年)『らんま1/2』(2024年)『ベルサイユのばら』(2025年)など,往年の傑作のリメイクが盛んな昨今だが,本作は1908年出版の児童文学作品を原作とする点,高畑勲という名のある監督が手がけた作品のリメイクである点などにおいて,少々趣を異にしていると言えるかもしれない。
監督は『ROAD TO YOU〜君へと続く道〜』(2017年)などの川又浩。また,確定情報ではないものの,オープニング・アニメーションの演出を山田尚子が手がける可能性がある。
 

③『 ウマ娘 シンデレラグレイ』


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『ウマ娘 シンデレラグレイ』公式X

【スタッフ】
原作:Cygames/漫画:久住太陽/脚本:杉浦理史/漫画企画構成:伊藤隼之介/監督:伊藤祐毅みうらたけひろ/シリーズ構成:金田一士/キャラクターデザイン:宮原拓也佐々木啓悟/総作画監督:福元陽介髙田晃小森篤/色彩設計:岡崎菜々子/美術監督:狹田修/3DCGディレクター:神谷宣幸/撮影監督:伏原あかね/編集:三嶋章紀/音響監督:郷文裕貴/音楽:川井憲次/アニメーションプロデューサー:近松拓也町口漱汰/アニメーション制作:CygamesPictures

【キャスト】
オグリキャップ:高柳知葉/ベルノライト:瀬戸桃子/北原穣:小西克幸/六平銀次郎:大塚芳忠/フジマサマーチ:伊瀬茉莉也/ノルンエース:渋谷彩乃/ルディレモーノ:大地葉/ミニーザレディ:井澤詩織/タマモクロス:大空直美/シンボリルドルフ:田所あずさ/マルゼンスキー:Lynn/ミスターシービー:天海由梨奈

【コメント】
あくまでも1つの基準だが,僕は競馬にまったく興味がない。が,オグリキャップという馬のことは知っている。それくらいこの馬は有名だと言っていいだろう。そのオグリキャップを主人公にした『ウマ娘』作品が満を持してアニメ化されるとあっては,競馬素人の『ウマ娘』ファンである僕としては注目しないわけにいかない。
久住太陽(漫画),杉浦理史(脚本)のマンガを事実上の原作としている。監督は『GRANBLUE FANTASY The Animation』(2017年)の監督を初め,多くの大作で原画や演出を手がけてきた伊藤祐毅と,勇気爆発バーンブレイバーン』(2024年)で大活躍を見せたみうらたけひろ。座組に懸念はない。

 

④『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』 


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『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』公式X

【スタッフ】
制作:スタジオカラーサンライズ/原作:矢立肇富野由悠季/監督:鶴巻和哉/シリーズ構成:榎戸洋司/脚本:榎戸洋司庵野秀明/キャラクターデザイン:/メカニカルデザイン:山下いくと/アニメーションキャラクターデザイン・キャラクター総作画監督:池田由美小堀史絵/アニメーションメカニカルデザイン・メカニカル総作画監督:金世俊/デザインワークス:渭原敏明前田真宏阿部慎吾松原秀典射尾卓弥井関修一高倉武史絵を描くPETERmebae稲田航ミズノシンヤ大村祐介出渕裕増田朋子林絢雯庵野秀明鶴巻和哉/美術設定:加藤浩(ととにゃん)/コンセプトアート:上田創/画コンテ:鶴巻和哉庵野秀明前田真宏谷田部透湖/演出:鶴巻和哉小松田大全谷田部透湖/キャラクター作画監督:松原秀典中村真由美井関修一/メカニカル作画監督:阿部慎吾浅野元/ディティールワークス:渭原敏明田中達也前田真宏/動画検査:村田康人/デジタル動画検査:彼末真由子(スタジオエイトカラーズ),三浦綾華中野江美/色彩設計:井上あきこ(Wish)/色指定・検査:久島早映子(Wish),岡本ひろみ(Wish)/特殊効果:イノイエシン/美術監督:加藤浩(ととにゃん)/美術監督補佐:後藤千尋(ととにゃん)/CGI監督:鈴木貴志/CGIアニメーションディレクター:岩里昌則森本シグマ/CGIモデリングディレクター:若月薪太郎楠戸亮介/CGIテクニカルディレクター:熊谷春助/CGIアートディレクター:小林浩康/グラフィックデザインディレクター:座間香代子/ビジュアルデベロップメントディレクター:千合洋輔/撮影監督:塩川智幸(T2 studio)/撮影アドバイザー:福士享(T2 studio)/特技監督:矢辺洋章/ルックデベロップメント:平林奈々恵三木陽子/編集:辻󠄀田恵美/音楽:照井順政蓮尾理之/音響監督:山田陽(サウンドチーム・ドンファン)/音響効果:山谷尚人(サウンドボックス)/主・プロデューサー:杉谷勇樹/エグゼクティブ・プロデューサー:小形尚弘/プロデューサー:笠井圭介/制作デスク・設定制作:田中隼人/デジタル制作デスク:藤原滉平/製作:バンダイナムコフィルムワークス

【キャスト】
アマテ・ユズリハ(マチュ):黒沢ともよ/ニャアン:石川由依/シュウジ・イトウ:土屋神葉/シャリア・ブル:川田紳司/シャア・アズナブル:新祐樹/エグザベ・オリベ:山下誠一郎/コモリ・ハーコート:藤田茜/アンキー:伊瀬茉莉也/ジェジー:徳本恭敏/ナブ:千葉翔也/ケーン:永野由祐/ハロ:釘宮理恵/ポメラニアン:越後屋コースケ/デニム:後藤光祐/ドレン:武田太一

【コメント】
先行上映をご覧になった方には説明不要だろうが,『ガンダム』シリーズ最新作にして,女性主人公2作目(1作目はもちろん『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(2022-2023年))の期待作である。ネタバレは避けるが,導入部のサプライズ,キャラクターの魅力,新機軸のメカデザインなど,これまでの『ガンダム』シリーズにはなかった画期的な作品となることが期待される。
制作はスタジオカラーサンライズ,監督は鶴巻和哉,脚本は榎戸洋司庵野秀明などなど,名前を聞くだけでクラクラしそうな座組である。言うまでもなく,その多くが『エヴァンゲリオン』シリーズに携わったクリエイターであり,その点も本作の注目点となるだろう。

 

⑤『薬屋のひとりごと 第2期 第2クール


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『薬屋のひとりごと』公式X

【スタッフ】
原作:日向夏/キャラクター原案:しのとうこ/総監督・シリーズ構成:長沼範裕/監督:筆坂明規/副監督:中川航/脚本:柿原優子千葉美鈴小川ひとみ/キャラクターデザイン:中谷友紀子/美術監督:髙尾克己/色彩設計:相田美里CGIディレクター:永井有/撮影監督:鈴木麻予/編集:今井大介/音響監督:はたしょう二/音楽:神前暁Kevin Penkin桶狭間ありさ/アニメーション制作:TOHO animation STUDIO×OLM

【キャスト】
猫猫:悠木碧/壬氏:大塚剛央/高順:小西克幸/玉葉妃:種﨑敦美/梨花妃:石川由依/里樹妃:木野日菜/小蘭:久野美咲/ナレーション:島本須美

【コメント】
本作は連続2クールのため,冬クールからの連続放送ということになる。壬氏猫猫に自分の真の身分を告げることを決意し,2人の関係に徐々に変化が生じ始める。第1クールの35話と36話のラブコメのような展開も,ある意味では本作に潜在していた要素がいよいよ表に現れ始めたというところだろう(誰もが猫猫と壬氏の関係を気にしながら観てきたのだから)。とは言え,この作品はあくまでも後宮内での事件をメインにした物語である。2人の距離感にニヤニヤしつつも,様々な事件が収束していく様を楽しむことにしよう。

 

⑥『Summer Pockets』


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『Summer Pockets』公式X

【スタッフ】
原作:KeyVISUAL ARTS/監督:小林智樹/シリーズ構成:大知慶一郎/キャラクターデザイン:大塚舞/特技作画監督:徳丸輝明/3DCG監督:小川耕平/背景:美峰/美術監督:吉原俊一郎/美術設定:青木薫/色彩設計:田川沙里/撮影監督:難波史/編集:丸山流美/音響監督:納谷僚介/キャラクター原案:Na-Ga和泉つばす永山ゆうのんふむゆん/原作シナリオ:新島夕ハサマ/音楽:折戸伸治麻枝准どんまる竹下智博水月陵大橋柊平/アニメーションプロデューサー:瀧ヶ崎誠/原作プロデューサー:丘野塔也/プロデューサー:中島直人/アニメーション制作:feel.

【キャスト】
鷹原羽依里:千葉翔也/鳴瀬しろは:小原好美/空門蒼:高森奈津美/久島鴎:稗田寧々/紬ヴェンダース:岩井映美里/野村美希:一宮朔/水織静久:小山さほみ/加藤うみ:田中あいみ/岬鏡子:高本めぐみ/鳴瀬小鳩:白石稔/イナリ:鈴木このみ/三谷良一:熊谷健太郎/加納天善:浜田洋平

【コメント】
原作は2018年に発売されたKeyの同名恋愛アドベンチャーゲーム。ゲームのアニメ化は常に困難がつきものだが,ディレクターのを中心に,ゲーム版のスタッフがアニメ制作会議に立ち合い,綿密に脚本を練り上げたという。『CLANNAD』(ゲーム原作:2004年/TVアニメ:2007-2008年)を初め,これまでいくつもの傑作“泣きゲー”を生み出してきたKey作品のアニメ化ということもあり,期待は自ずと高まる。
監督は『ぼくたちのリメイク』(2021年)などの小林智樹,シリーズ構成は『五等分の花嫁』(2019年)などの大知慶一郎が務める。

 

⑦『小市民シリーズ 第2期


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『小市民シリーズ』公式X

【スタッフ】
原作:米澤穂信/監督:神戸守/シリーズ構成:大野敏哉/キャラクターデザイン:斎藤敦史/サブキャラクターデザイン・総作画監督:具志堅眞由/色彩設計:秋元由紀/美術監督:伊藤聖(スタジオARA)/美術設定:青木智由紀イノセユキエ/撮影監督:塩川智幸(T2studio)/CGディレクター:越田祐史/編集:松原理恵/音楽:小畑貴裕/音響監督:清水勝則八木沼智彦/音響効果:八十正太/アニメーションプロデューサー:渡部正和/ラインプロデューサー:荒尾匠/制作会社:ラパントラック

【キャスト】
小鳩常悟朗:梅田修一朗/小佐内ゆき:羊宮妃那/堂島健吾:古川慎/瓜野高彦:上西哲平/仲丸十希子:宮本侑芽/氷谷優人:山下誠一郎

【コメント】
独自の演出でアニメファンを唸らせた『小市民シリーズ』。2024年に放送された第1期は,小鳩常悟朗小佐内ゆき「互恵関係」を解消した場面で最終話を終えていた。その続編となる本作では,小鳩と小佐内の両者に恋人がいるという,少々ショッキング(?)な状況から話が始まる。今後どんな事件が発生するのか。そして事件が起きた時,この“狐”と“狼”はどう関わり合うことになるのか。2人は「小市民」を貫くのか。そしてアニメーションスタッフはどんなユニークな演出術を繰り出してくるか(ちなみにスタッフの異同はないと思われる)。楽しみな点の多い作品だ。

 

⑧『日々は過ぎれど飯うまし』(オリジナル)


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『日々は過ぎれど飯うまし』公式X

【スタッフ】
キャラクター&ストーリー原案・漫画ネーム制作:あっと/原作:team apa/監督:川面真也春水融/シリーズ構成:比企能博/キャラクターデザイン・総作画監督:満田一/衣装デザイン:藤谷奈美/プロップデザイン:牧野博美/美術監督:東潤一/美術設定:藤井祐太/色彩設計・特殊効果:加口大朗/3D監督:市川元成/2Dworks:村上瞭/撮影監督:佐藤陽一郎/編集:髙橋歩/オンライン編集:グッド・ジョブTOKYO/音響監督:高寺たけし/音響制作:マジックカプセル/音楽:水谷広実/アニメーション制作:P.A.WORKS

【キャスト】
河合まこ:嶋野花/古館くれあ:加隈亜衣/小川しのん:青山吉能/比嘉つつじ:乾夏寧/星なな:会沢紗弥/モコ太郎:もえのあずき

【コメント】
5人の女子大生が繰り広げる日常系飯テロアニメ。一見,きらら枠のような趣だが,P.A.WORKSによるオリジナルアニメだ。正直,P.A.のオリジナルがすべて“当たり”というわけではないのだが,少なくともPVを見る限りでは好ましい雰囲気の作品ではある。
監督は『のんのんびより』(2013年)などの川面真也と,『映画 五等分の花嫁』(2022年)で副監督を務めた春水融。『のんのんびより』(2009-2021年)のあっとがストーリー原案を手がける。

 

⑨『LAZARUS ラザロ』(オリジナル)


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『LAZARUS ラザロ』公式X

【スタッフ】
原作・監督:渡辺信一郎/脚本:渡辺信一郎佐藤大小沢高広(うめ),近藤司/アクション監修:チャド・スタエルスキ(87Eleven Action Design)/キャラクターデザイン:林明美/コンセプトデザイン:ブリュネ・スタニスラス/美術監督:杉浦美穂/色彩設計:田辺香奈/画面設計:坂本拓馬/撮影監督:佐藤光洋/音楽:Kamasi WashingtonBonoboFloating Points/音響効果:Lauren Stephens(Formosa Group)/音響制作:dugout/アニメーションプロデューサー:松永理人/制作:MAPPA/企画プロデュース:SOLA ENTERTAINMENT

【キャスト】
アクセル:宮野真守/ダグ:古川慎/クリスティン:内田真礼/リーランド:内田雄馬/エレイナ:石見舞菜香/ハーシュ:林原めぐみ/アベル:大塚明夫/スキナー:山寺宏一

中村悠一杉田智和千葉翔也ニーコ小野大輔井上和彦日野聡上坂すみれ高橋英則内山昂輝小野賢章多田葵佐倉綾音榊原良子

【コメント】
脳神経学博士スキナーが開発した鎮痛剤「ハプナ」は人類を苦痛から解放したかに見えたが,それはスキナーが仕掛けた壮大な罠だった。人類を救うべく,5人のエージェントチーム「ラザロ」が立ち上がる…というストーリー。どちらかと言えば海外向けの作風のようだが,PVからはかなりクオリティの高い作画であることが伺える。
原作・監督・脚本は『カウボーイビバップ』(1998年)『残響のテロル』(2014年)の渡辺信一郎,キャラクターデザインは『輪るピングドラム』(2011年)『BANANA FISH』(2018年)などの林明美,制作はMAPPA。この布陣のオリジナルアニメで注目するなという方が無理があるというものだろう。

 

⑩『リコリス・リコイル Friends are thieves of time.


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『リコリス・リコイル』公式X

【スタッフ】
原作:Spider Lily/監督:足立慎吾/キャラクターデザイン:いみぎむる/サブキャラクターデザイン:山本由美子/各話ゲストキャラクターデザイン:齋藤悠秋谷有紀恵/作画監督:山本由美子森田莉奈齋藤悠合田浩章秋谷有紀恵/銃器監修:江間一隆/プロップデザイン:朱原デーナ/美術監督:岡本綾乃/美術設定:六七質平義樹弥/色彩設計:佐々木梓/CGディレクター:森岡俊宇/撮影監督:青嶋俊明/編集:須藤瞳/音響監督:吉田光平/音楽:睦月周平/制作:A-1 Pictures

【キャスト】
錦木千束:安済知佳/井ノ上たきな:若山詩音/中原ミズキ:小清水亜美/クルミ:久野美咲/ミカ:さかき孝輔

【コメント】
2022年に放送され大ヒットとなったオリジナルアニメが,全6話のショートムービーとして帰ってくる。サブタイトルからも想像できるように,大きな事件が発生するというよりは,「喫茶リコリコ」を舞台に日常風景を切り取っていく作品になるようだ。ある意味で,きわめて『リコリコ』らしいスピンオフである。放送はアニプレックス公式YouTubeチャンネル他,各種配信プラットフォームで配信される。TV放送リアタイでのあの興奮が味わえないのが唯一の難点か。

 

2025年春アニメのイチオシは…

2025年春アニメの期待作として,今回は10作品をピックアップした。

今回のイチオシ作品として,鶴巻和哉監督『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』を挙げよう。僕は先行上映を観ているので,少なくとも導入部の面白さは保証できる。スタジオカラー・バージョンの『ガンダム』がどんなものになるか,お手並み拝見といこう。

次点として,春藤佳奈監督『アポカリプスホテル』伊藤祐毅・みうらたけひろ監督『ウマ娘 シンデレラグレイ』渡辺信一郎監督『LAZARUS ラザロ』足立慎吾監督『リコリス・リコイル Friends are thieves of time.を挙げる。特に『アポカリプスホテル』と『LAZARUS ラザロ』は,今期期待のオリジナルアニメとして注目していきたい。

 

以上,2025年春アニメ視聴の参考にして頂ければ幸いである。