※このレビューはネタバレを含みます。
マンガ原作既読。
“下降”というエンターテインメント
“上昇”ではなく“下降”によって真実に近づく物語にはそれなりの系譜がある。ダンテ『神曲』,クリスファー・ノーラン『インセプション』,新海誠『星を追う子ども』,庵野秀明『エヴァンゲリオン』などなど。“下降”には暗さや圧迫感などが伴うので,“上昇”よりも息の詰まるような世界観になるだろう。原作者のつくしあきひとは,これに「上昇負荷」というユニークな掟を追加することで,下降運動を一層シビアなものにした。この設定だけでも十分に面白い。
リコ=深淵を志向する力に導かれるレグ
しかしそれ以上に面白いのは,この世界設定の上で活躍するキャラクターたち,とりわけリコとレグの造形である。
「リコがあそこまでアビスの底に執着する理由がよく理解できない」という意見を目にすることがあるが,実はそれはリコを通常の意味での“主人公”だと考えることから来る誤解である。
原作者のつくしあきひとによれば,この物語の主人公は元々1人の少年だったのだが,後にレグ=主人公(読者の感情移入先)+リコ=物語の推進役という別々のキャラに分割されたという経緯がある。レグは記憶を失っており,この世界のあらゆるものが新鮮さと驚きに満ちている。つまり読者の目線に近い。一方リコは,ある種の「アビス中毒」であり,「唯一にして最大の娯楽が目の前にあるので,どれだけ危険な目に遭おうが[…]心の底から楽しんでいる」(Febri VOL.44「特集メイドインアビス」より)。つくしのリコの形容は実に言い得て妙だ。いわく「リコはワクワクする自殺を選んでしまう子」(同上)。つまり,レグを冒険へと誘うリコには,一般的な意味での主人公が内面に抱える合理的な動機というものはほとんどないのだ(「お母さんに会いたい」というのは,お母さん自体が「殲滅のライザ」というアビスの冒険を象徴する存在だからに過ぎない)。その意味で,リコの行動原理は首尾一貫している。
むしろ,リコはアビスを志向する純粋な“力”と言っていいのかもしれない。アビスの呪いに立ち向えるこの唯一無二の“力”に支えられて,何も知らない主人公レグがタブラ・ラサを埋めていく。そういう物語なのだ。
アニメの続編が決定しているが,原作はまだ完結していない。これからしばらく僕ら=レグは,リコという愛らしい狂気に導かれて冒険を続けることになる。実に楽しみだ。
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