※このレビューはネタバレを含みます。
見たことも聞いたこともある世界に非日常を
女子高生が南極に行けるわけがない。
しかし,だからこそ物語が生まれる。だって僕らはこれまでにも,年端もゆかぬ少年少女たちを天空の城に打ち上げたり,終末世界に放置したり,奈落の底に放り込んだりしてきたではないか。あり得ないゴールを設定するからこそ,アニメはダムの決壊のような突き抜けるエネルギーを表現することができる。分厚い定着氷を打ち砕く意志を表明することができる。
この作品は,そうしたわくわくするような冒険譚を現代日本の“リアルな”世界の上で成立させた。本来,架空の世界を設定した方が作りやすいはずの冒険世界を,時に偶然や無理や非合理を盛り込みながら,僕らが見たことも聞いたこともある日常世界の上で成り立たせた。だからこそ,この作品を観た僕らは,親しみを抱きつつ夢見ることが出来たのだ。
冒険への渇望,不在の母といったモチーフの共通点から,2017年放送の『メイドインアビス』と比較する人もいるかもしれない。『メイドイン~』が冒険を異世界で成立させるという古典文法に則ったのに対し,『宇宙よりも~』はそれを現実世界で成立させるという新手法を用いた。ひょっとしたら,これからの冒険ものの新しいスタンダードとなるかもしれない。
カジュアルで強い絆
若者たちの心の成長を主軸に置いたのもよかった。南極に行くメンバーたちが,クラスメートや幼馴染みでないことが大きなポイントだ。互いの心の中を読めてしまう関係や,好んでもいないのに毎日顔を合わせる関係は,時として息苦しい閉塞感を生む。彼女たちはその閉塞感から脱するかのように,「南極に行く」という目的だけを共有した関係を築く。それは深くはないが風通しの良い関係であり,SNSで趣味の合う者同士がフォローし合うような,すぐれて現代的な関係だ。それをある世代の人たちは「軽い」とか「浅い」とか言うかもしれない。しかし,“しがらみ”よりも“目標”で紡がれた友情の方が,力強い時もあるのだ。そうして,彼女たちは“友”というものの新しい意義を見出す。
閉塞的な日常から透徹した自然へ
画作りの丁寧さも際立っている。家の中や学校の教室やホテルの部屋などは暗いトーンで描かれ,鬱屈した雰囲気を演出している。一方で,南極のシーンは四方八方へ突き抜ける様に広々と描かれ,そこに到達した彼女たちの心が解き放たれたことが美しく演出される。
第8話,船酔いに苦しむ主人公たちが船外に飛び出るシーンも印象的だった。本来なら恐ろしいばかりの夜の荒波のシーンに,『One Step』というカラっと明るい歌を挿む。大自然に果敢に挑む女子高生たちの底抜けの明るさを綺麗に描いた,素晴らしいシーンだった。
親しいけれども閉塞的な日常から,厳しいけれども透徹した自然に飛び込む,この爽快感。
そんなことが出来る女子高生はいないかもしれないし,そんなことを可能にしてくれる人も組織もいないかもしれない。しかしだからこそ,アニメという媒体がフィクショナルな“日常”を生み出し,僕らに極上の冒険を楽しませてくれるのだろう。