アニ録ブログ

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アニメ『ひそねとまそたん』レビュー:kawaiiは飼えるー愛玩されたゴジラたち

※このレビューはネタバレを含みます。

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公式HPより引用 © BONES・樋口真嗣・岡田麿里/「ひそねとまそたん」飛実団

 

キャラ モーション 美術・彩色 音響
4 4 4 4
声優 OP/ED ドラマ メッセージ
4 4.5 3 3
独自性 普遍性 平均
4 3 3.75
・各項目は5点満点で0.5点刻みの配点。
・各項目の詳細についてはこちらを参照。

制御不能なGod-zilla

この作品は『シン・ゴジラ』と併せて評価すると面白い。あるいは,作品自体が,樋口監督自身による『シン・ゴジラ』への解答の一つになっているとも言える。

『シン・ゴジラ』では,ゴジラという存在(“Godzilla”という呼称にGod=神が含まれているのは言うまでもない)が人間社会の外部から襲いかかる超常的存在として描かれた(ゴジラ発生の原因となった放射性廃棄物について,それが人間社会の内部にあるものなのか,外部にあるものなのか,そうした問題を樋口や庵野がどう考えているかといったことについては,無論ここでは論じない)。人間たちは必死でゴジラの進化傾向と行動パターンを「予測」し,それはある程度までは成功する。しかし,ゴジラを「制御」するところまでは行かない。必然の結果として,自衛隊に始まる人間組織はゴジラという暴威を無効化しようとする行動に出る。

こうした人間とゴジラとの関係は,僕ら日本人と自然災害との関係にほぼ一致する。僕らは台風や地震を「予測」は出来るが,「制御」は出来ないという限界の中で生きている。このような現実を正面に据えて描いているという点で,『シン・ゴジラ』は紛れもなくリアリズム作品の部類に入る。

 まそたん=ゆるキャラ化されたゴジラ

『ひそまそ』は,このような関係性に対し,アニメというフィクションの立場から解答した作品だという見方が出来る。ここでは,ドラゴン(国を守る神的存在であることが暗示されている)が人間社会の内部に馴化されており,事もあろうに人類のテクノロジーの結晶である戦闘機に身をやつしてさえいる。つまり『ひそまそ』の世界は,フィクションという強力な道具立てによって,人間が神を「制御」することにある程度成功しているのだ。

それだけではない。この作品が決定的に面白いのは,ひそねというキャラクターの妙味によって,「制御」が「愛玩」にまで高められているという点だ。神獣をペロペロするなど,『シン・ゴジラ』の世界では誰も思いつかない。それを『ひそまそ』は実にカジュアルにやってのけている。丸みが強調され,ディテールが省略されたドラゴンたちのデザインは,紛れもなく“ゆるキャラ”のそれである。

ちなみに,シリーズ構成の岡田麿里がまそたんのデザインについて述べた以下の発言はなかなか面白い。「[…]目はべた塗りだし,キティちゃんとかミッフィーちゃんと一緒で“何を考えているかわからない”系の可愛さなんですよね。そこから感情を読み取ろうとすると,怖くも取れるし,愛らしくもできる。[…]まそたんたちは見る側の想像力と重なることで,どちらの感情にも振れるように見える[…]脚本でもその方向性を取り入れたいと思いました」(『Febri』Jul.2018 Vol.49「特集ひそねとまそたん」より)。確かに,まそたんたちの造形は可愛いと同時に,独特の不気味さを備えている。本来,人智を超えた存在であるはずのドラゴンの神秘性と,それを“飼育”する人の心理とを見事につなげる岡田の慧眼と言えるだろう。

自然=神的存在を馴化し,出来ることならペットにしたい―ひょっとしたら,これは常に災害の脅威にさらされている僕ら日本人にとって,究極の願望であり,“kawaii”文化の究極の形態なのかもしれない。

“マチスモ”の脱色

自衛隊の女性たちを主人公にしたことも,一つのテーマ設定として面白かった。『シン・ゴジラ』における自衛隊は,ゴジラに真っ向から対峙する存在として,文字通りマッチョに描かれていた。ゴジラ攻撃作戦を指揮するピエール瀧の顔面を真正面に据えたカットは印象的である。一方,『ひそまそ』では,そうしたマチスモはほぼ皆無である。もちろん,これを“男らしさvs女らしさ”というような単純な構図にすることは出来ない(彼女たちの風貌は一般的な“フェミニン”とはかけ離れている)が,少なくとも,自衛隊という言葉で連想される筋肉体質を中和し,対話や心の交流を成立させる役割を彼女たちが担っていたことは確かである。


最大の難点だったのは,この作品に物語としての“結”をつけるべく用意された「マツリゴト」の設定だった。超大型OTF「ミタツ様」は,まるでまそたんの愛玩性をキャンセルするかのように,ゴジラ的に描かれていた(おまけにFINAL FANTASY Xの最終ボス「シン」にそっくりだという特大のダジャレまでついていた)。最終話に向けてやや急ぎすぎた感があり,最終話そのものも,オチとしてはアッサリ過ぎた感が否めない。

とは言え,温かみのある作画,フランス・ギャルのカヴァーを用いたユニークなED,そして声優陣の,地声に近い等身大の演技は,作品のテーマ設定と絶妙なマッチングを見せており,アニメ表現の可能性を大幅に広げたことは間違いない。こうした要素は,間違いなく今期作品の中で最も評価されるべき点だろう。