アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

“配”信 or “発”信-アニメの“ユニバーサルサービス”は多様化するか

「+Ultra」の思想

plus-ultra.tv

NetflixとAmazon Prime Videoの日本市場への参入,Crunchyrollの製作委員会への参加など,近年のアメリカの配信企業の動向を見ると,日本アニメがますますグローバル市場に開かれつつあることがわかります。

2018年の国内の動きとしては,フジテレビが新たに「+Ultra」というアニメ放送枠を作ったことが大きなニュースとなったことは言うまでもありません。フジテレビの既存枠である「ノイタミナ」が国内の需要と嗜好にターゲティングしているのに対し,「+Ultra」はNetflixと提携しつつ,海外に訴求することを目的として立ち上げられました。2018年10月から放映されている『INGRESS THE ANIMATION』を第1弾とし,今後は谷口悟朗監督の『revisions リヴィジョンズ』(2019年1月より放送),渡辺信一郎監督の『キャロル&チューズデイ』(2019年4月放送)とラインナップが予定されています。

ingressanime.com

revisions.jp

caroleandtuesday.com

『INGRESS THE ANIMATION』は,設定もキャラも欧米人が好みそうなゴリゴリのサイエンスフィクションという感じですね。一方,『revisions リヴィジョンズ』と『キャロル&チューズデイ』は(設定や世界観はまだわからないところも多いですが),やや日本アニメよりのキャラデザインになっているようです。

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『INGRESS THE ANIMATION』公式HPより引用 ©「イングレス」製作委員会

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『revisions リヴィジョンズ』公式HPより引用 © リヴィジョンズ製作委員会

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『キャロル&チューズデイ』公式HPより引用 ©ボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会

意外と多様な作風のラインナップですね。日本のアニメファンも満足させる作品になる可能性が感じられます。

「+Ultra」を立ち上げたプロデューサーの森彬俊さんの思想は力強く明快で,これからの日本アニメ業界の牽引役として活躍を期待できるでしょう。フジテレビ・マスカットに森さんのインタビュー記事があります。

きちんとした制作期間をとって適正なコストを払い,クオリティの高いアニメを作っていく。そしてその作品を,放送やネット配信などたくさんのウィンドウでより多くの視聴者に届け,きちんと評価してもらう。我々放送事業者がそういうサイクルを作っていくことが重要だと思っています。そのサイクルができていけば,日本アニメのプレゼンスもさらにあがり,現場にも還元できるのかなと。*1

きちんとお金をかけて,きとんとした作品を作り,きちんとお金を払う。残念ながら,このシンプルなサイクルが今の日本のアニメの現場には不足しています。「+Ultra」が日本アニメの現場を変えるテコ入れになることを期待したいところです。 

“発”信か“配”信か

一方で,やや気になるのが,同じインタビュー記事の中にある森さんの以下の発言です。「作品の内容やテーマに関しても違ってくるのですか?」という質問に対し,森さんはこう答えています。

たとえば「ノイタミナ」で放送された人気作『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などは、とても日本的な作品ですよね。もしかすると、海外の視聴者には「日本の一地方の物語でしょ」と最初から選択肢に入れてもらえない可能性もあります。だから「+Ultra」ではファーストインプレッションをフラットにできるよう、世界中の人々が自分のこととして捉えられるような物語を作っていきたいと思っています。*2

「日本の一地方の物語」というのは,『あの花』意外にも,『氷菓』や『あまんちゅ!』など,いわゆる「ご当地アニメ」として近年盛んに作られているジャンルを含むと考えられます。これらの作品は「聖地巡礼」という文化を生み出し,観光産業を刺激する大きなムーブメントとなっていることは言うまでもありません。

ただそれだけに,よほど日本通や日本好きでない限り,海外の人たちからは「ローカルな作品」として敬遠されることも予想されます。森さんは,そうした海外市場における阻害要因になりかねないローカリズムよりも,ある種のユニバーサリズムを重視するのが「+Ultra」の立ち位置だと言っているわけです。

この立場は海外市場を狙うチームの立場としては十分に理解できるものですが,一方で,「日本的,あまりに日本的」なものは海外には発信せず,「ノイタミナ」枠によって国内で消費させる,という態度表明のようにも聞こえます。「ご当地アニメ」意外にも,「日常系」や「なろう系」,深夜アニメにおけるややきわどい「萌え・エロ・グロ系」など,実に多様な表現が日本国内で育まれてきました。これらの生の素材を生のまま配信プラットフォームに乗せられれば理想ですが,森さんのような見立てでは,「選択肢から外される」ということになってしまうのでしょう。

これはある種の理想論ですが,日本アニメの海外展開は,グローバリズムをあまりに過度に忖度し“配”慮した「“配”信」ではなく,日本で起こっている文化ムーブメントを生のままアクティブに「“発”信」することに向かっていって欲しいと僕は思います。むろん,結果として海外ではまったく売れずに終わる作品もあることでしょうが,国内市場とのバランスをとっていけば,将来的に無理な方策ではないのではないでしょうか。

配信プラットフォームの多様化は起こるか

また,現状,海外配信のプラットフォームがNetflixやAmazon Prime Videoに集中していることもやや気になります。評論家の藤津亮太さんは,「アニメ!アニメ!」のコラムの中で,Netflixによってアメリカ以外の世界中のアニメが「障壁」なしで観られるようになったことを評価する一方で,配信ビジネスの画一化という問題も示唆しています。

[…]アメリカ以外の国の話題作・ヒット作が手軽に見られるようになるという,障壁の低下の意味は大きい。(もちろん「映画は映画館で見たい」とか「Netflix経由で“輸入”された映画は映画と呼べるのか」といった問題はあるが,それはここではおいておく)。

この「障壁の低下」は,「世界に一定数はいるその作品を見たい人」がNetflixで時間と空間を超えてひとつにまとめられるということでもある。
もちろんこの変化は,「障壁を超えるためのルート」がNetflixだけであっていいのか,という問題と裏表でもある。*3

 NetflixにせよAmazonにせよ,無色透明なプラットフォームなどではなく,1つのアメリカ企業です。配信にあたって,アメリカ文化,企業の思想がフィルターとして働くことも十分に考えられます。その時,日本アニメの多様性が捨象されることにはならないか。

「生魚など食えん」という外国人もいれば,「生魚を食うから日本食なのだ」という外国人もいる,というのが実情です。「日本的,あまりに日本的な」要素を脱色した作品を配信すれば,マジョリティ受けはするでしょうが,一部の日本アニメのコアファンの期待を裏切る可能性もあります。それでは新たな視聴者傾向の発掘にはならないでしょう。 近年では,日本アニメに強く影響を受け,いわばアメコミ風味をジャパナイズしたかのような『RWBY』が話題となりました。海外のファンは,意外と「もっとがっつり日本的なアニメ」を観たがっている可能性があります。

rwby.jp

結局,今後の日本アニメの海外展開において重要なのは,次の2点だと僕は考えます。

①「日本的なもの」や「日本固有の多様性」は必ず保持する。

② 海外配信がNetflixやAmazonの寡占支配にならないよう,日本の会社が発信に力を入れ,プラットフォームを多様化する。

①に関しては,製作会社とクリエーターの意向,視聴者の好みなど,様々な要因が関係してくる難しい問題ですが,日本アニメの独自性保持のためには,常に考慮せざるを得ない点です。

②に関しては,アニプレックスの活動などが参考になるでしょうか。アニプレックス傘下のAniplex of America Inc.は,カリフォルニアを拠点としながら,「日本と同クオリティのフルサービスを提供すること」*4を目標に事業展開をしています。公式HPを見るとわかりますが,本家のHPとほぼ同じトーンの構成になっています。日本のコンテンツを生のまま伝えたい,という気概がうかがえますね。

 

“配”信か,“発”信か。僕らが僕らの文化に誇りを持ち,世界に売り出していくにあたって,常に考えていきたい問いです。