※このレビューはネタバレを含みます。
なにせ前回の第1話から一年半を経ての,待ちに待った第2話公開である。
第1話は,河嶋桃のAO入試を実現すべく参加した「無限軌道杯」初戦「対BC自由学園戦」の途中で終了していた。BC自由学園の「エスカレーター組」と「外部生組」の間に対立があり,チームワークに難ありと思い込んだ大洗女子学園が裏をかかれ,橋上で反撃を食らうが,新規参入のサメさんチームの活躍で辛くも危機を脱し…というクライマックスのど真ん中で幕を引いた最終章第1話は,その後一年半もの間僕らを放置して来たのである。誰もが「ここまで待たせたのだから…」という半ば殺気にも近い気分で劇場に足を運んだことだろう。
さて蓋を開けてみれば,〈美少女とミリタリーのマッチング〉,〈エゲツないほどの音響〉,〈チームワーク(仲間意識)〉といった,僕らガルパンファンが求める要素をすべて盛り込んだ極上のエンターテインメントがスクリーンいっぱいに映し出されていた。ここまで待たせて,ここまで満足させる。稀有な作品としてアニメ界に登場した『ガルパン』は,幕引きまでも稀有な作品であろうとしているのかもしれない。
華麗なるマリー
BC自由学園の隊長・マリーは,常に羽扇を手にし,常にスイーツを食べている。仲間のチームが迎撃する間もケーキを食べ,ボカージュに潜んで大洗女子学園を待ち受ける間もケーキを食べる(そんな彼女のモデルは間違いなくマリー・アントワネットなのだろう)。しかし,いざという時の彼女の行動力には目を見張るものがある。エスカレーター組代表の押田と外部生組代表の安藤が同士討ちをしていることに気付いたマリーは,即座に自車ルノーFT-17に乗り込み,まるで舞うような身のこなしで二人の間に入って仲裁する。初戦で敗退することが約束されている弱小チームの隊長で,かつ掴みどころのないマイペースキャラでありながら,ダージリンとはまた違う華やかさをもった魅力的なキャラだ。
この華やかなキャラが華やかに舞い,華やかに歌い,華やかにケーキを食す一方で,それと綺麗なコントラストを成すように,鼓膜をつんざくエゲツない戦車の砲撃音が鳴り響く。第2話の前半は,この美少女と砲撃音の妙なるマッチングが劇場空間を支配する。これぞ『ガルパン』の醍醐味,音響監督・岩浪美和の面目躍如と言うべき演出だ。
〈チームワーク〉至上主義の物語
『ガルパン』は戦闘シーンや砲撃音のエゲツない描写とは裏腹に,視聴者が悪感情を抱くようなキャラを(少なくとも生徒たちの中には)作らないようにしていると思われる。それはキャラクターたちが「戦車道」という「道」の精神に則った行動をし,悪意を行動原理にしないという設定が背景にあるというだけでなく,この作品がいわゆる〈日常系アニメ〉の流れを汲む“優しい世界”の描出を心がけているからではないかと思われる。これも『ガルパン』という作品を魅力的にしている要素の1つだ。
例えば秋山優花里。
BC自由学園の「エスカレーター組」と「外部生組」が仲違いをしており,チームワークに難があるという判断は,秋山優花里の諜報活動に基づくものであり,大洗はそれが原因で窮地に立たされた。しかしそこで当の秋山が「やはりBC自由学園は本当に仲違いをしているのではないか」と推測,大洗は「同士討ち」という策を講じ,大逆転の契機を得る。「秋山のせいで負けそうになった」という悪感情を,ほんのわずかばかりでも視聴者に抱かせない繊細な演出である。脚本の吉田玲子の細やかな配慮が伺えるシーンだ。
例えば河嶋桃。
「無限軌道杯」参加のきっかけとなった河嶋桃の素性を詳らかにしたのは,第2話の大きなポイントだろう。河嶋の実家は文房具店を経営しているが,その見るからに貧しい店構えと兄弟姉妹の多い家族構成から,河嶋家が決して楽な暮らしぶりでないことが伺える。それを目にした武部沙織らは,河嶋を是が非でも公立大学に合格させようと決意する。重要なのは,この時点で視聴者である僕らも武部と同じ心情になっているということだ。ここに至り,河嶋は小うるさい元生徒会役員というより,守るべき〈仲間〉としての存在感を増した。全6回という大長編だからこそできる,丁寧なキャラクター作りだ。
多彩なる「もんじゃ」
さて前半が「スイーツ」の話だったとすれば,後半は「もんじゃ」の話だ。
アヒルさんチームともんじゃ焼きを食べていた知波単学園の福田は,もんじゃに色々な焼き方・食べ方があることを知り,大洗との第2戦において一計を案じるに至る。それまで「突撃」一辺倒だった彼女らは,「足踏み突撃」(要するに待機)や「さよなら突撃」(要するに後退)といった多彩な作戦行動を取る。もちろんこれは単なる詭弁に過ぎないのだが,突撃一辺倒の知波単しか知らない大洗を翻弄するには十分な作戦だったのだ。
思えば『ガルパン』はTVシリーズの頃から,様々な〈食事〉が登場する作品だった。今回,スイーツともんじゃ焼きがある種のアクセサリとして用いられていたのも,『ガルパン』ならではの面白い演出だったと言える。
さて第2話は,こともあろうにこの対知波単戦のクライマックスど真ん中で終了してしまった。そう,第1話と同じ引き方なのだ。もちろん,引きの作り方としてはうますぎるくらいだろう。不安なのは,僕らが次の第3話まで,またどれくらいの間待たされるのだろうかということだ。しかしその不安はあるとしても,今回の第2話で,監督の水島努も脚本の吉田玲子も音響の岩浪美和も,1ミリたりとも観客を裏切ることはないということが証明されたのだ。僕らに大人しく待つ以外のことができるとすれば,グッズを購入したりイベントに参加したりするくらいのことである(そして,それはそれで非常に楽しいことであることは言うまでもない)。
7.1chの威力
最後に,本作の卓越した音響について改めて触れておこう。
先述した通り,『ガルパン』ではそのエゲツないまでの音作りが最も大きな魅力の1つであり,本作でも音響監督・岩浪美和の力量が存分に発揮されていた。驚くべきは初戦と第2戦との間に描かれた「ボコミュージアム」のシーンだ。ともに無類のボコ好きである西住みほと島田愛里寿が一緒に仲良くボコミュージアムのアトラクションを楽しむのだが,そのシーンにも,戦車の対戦シーンに負けないほどの音響が施されているのだ。作品の隅々まで一切手を抜かないその音作りには感服するばかりだ。
近頃,音響監督の岩浪はTwitterで7.1chの音作りの重要性についてツイートしていた。
7.1chというフォーマットは軽視される傾向にありました。でも大作のほぼ全てがドルビーアトモスでマスターが作られている今、とても大事な仕様なんです。『BLAME!』公開時 お願いして、チネチッタさん(なんと全スクリーン!)塚口サンサンさん、シネシティザートさん等7.1対応にしていただきました。
— 岩浪美和 (@namisuke1073) 2019年6月18日
10年以内にできた映画館だったらほとんどの場合
— 岩浪美和 (@namisuke1073) 2019年6月18日
ちょっとしたひと手間かければ上映できるんです。
(それ以前に作られた劇場だと機材の大幅な入れ替えが必要な場合があります。)
なるべく多くの劇場で対応していただけれればと
制作者の一員として思っています。
(邦画では7.1ほぼないんですがw)
なぜ7.1chが大事か?
— 岩浪美和 (@namisuke1073) 2019年6月18日
ドルビーアトモスは7.1ch(厳密に言うと天井を含めた9.1ch)に
オブジェクトという任意の場所で鳴らせるサウンドを付加したものだからです。
クリエイターの意図したものにより近い音を再生できるのが7.1chなんですね。
7.1 chにもう一度光を当てたいのでガルパンでやったんです。
僕がなぜアトモスで作りたいか?
— 岩浪美和 (@namisuke1073) 2019年6月18日
理由の一つに『アーカイブとしての価値』があります。
「2001年宇宙の旅」が常に最新の技術でリフォーマットされるように
「その時」の最高の技術で作っておけば(需要があれば)作品が長く伝えられますからね。
アトモスに関して言うと
— 岩浪美和 (@namisuke1073) 2019年6月18日
僕も7.1.4chのアトモスホームシアターありますけど
劇場の再現はぜんぜん無理ですw
『家庭じゃ聞けない音』を作りたいんですよ。
それって劇場で映画観なきゃ!って気になるじゃないですか。
僕らスマホでユーチューブ見てる人たちを
映画館に連れ出さなきゃいかんのですよw。
シネマシティは7.1chはastだけだけど
— 岩浪美和 (@namisuke1073) 2019年6月18日
dstちゃんestちゃんも
きっちり映写クルーのA宮君がスタジオライクに調整してくれてる。
これは作り手としてはすごくありがたい。
すべてのスクリーンでちゃんと上映してくれるってのが
僕ら作り手の希望だからね。
ちなみに今回僕は,ここに言及されている立川シネマシティの「aスタジオ」で鑑賞したが,その迫力には度肝を抜かれた。まさに「家庭じゃ聞けない音」である。これから再鑑賞する予定の方は,ぜひ7.1chの環境がある劇場で観ることをお勧めする。
作品データ
*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど
【スタッフ】監督:水島努/脚本:吉田玲子/キャラクター原案:島田フミカネ/キャラクターデザイン・総作画監督:杉本功/考証・スーパーバイザー:鈴木貴昭/キャラクター原案協力:野上武志/ミリタリーワークス:伊藤岳史/プロップデザイン:竹上貴雄,小倉典子,牧内ももこ,鈴木勘太/3D監督:柳野啓一郎/モデリング原案:原田敬至,Arkpilot/3DCGI:STUDIOカチューシャ,グラフィニカ/色彩設計:原田幸子/美術監督:平栁悟/撮影監督:関谷能弘,棚田耕平/編集:吉武将人/音響監督:岩浪美和/音響効果:小山恭正/録音調整:山口貴之/音楽:浜口史郎/アニメーション制作:アクタス
【キャスト】西住みほ:渕上舞/武部沙織:茅野愛衣/五十鈴華:尾崎真実/秋山優花里:中上育実/冷泉麻子:井口裕香/角谷杏:福圓美里/小山柚子:高橋美佳子/河嶋桃:植田佳奈/磯辺典子:菊地美香/近藤妙子:吉岡麻耶/河西忍:桐村まり/佐々木あけび:中村桜/カエサル:仙台エリ/エルヴィン:森谷里美/左衛門佐:井上優佳/おりょう:大橋歩夕/澤梓:竹内仁美/山郷あゆみ:中里望/丸山紗希:小松未可子/阪口桂利奈:多田このみ/宇津木優季:山岡ゆり/大野あや:秋奈/園みどり子:井澤詩織/後藤モヨ子:井澤詩織/金春希美:井澤詩織/ナカジマ:山本希望/スズキ:石原舞/ホシノ:金元寿子/ツチヤ:喜多村英梨/ねこにゃー:葉山いくみ/ももがー:倉田雅世/ぴよたん:上坂すみれ/お銀:佐倉綾音/ラム:高森奈津美/ムラカミ:大地葉/フリント:米澤円/カトラス:七瀬亜深 ほか
【上映時間】54分
作品評価
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