タイトルやPV,そして「中学生のソフトテニス部」という題材から予想される“爽やか青春ドラマ”の印象を見事に裏切った『星合いの空』。本作のテイストの方向性は,第1話における夏南子の「あんたさぁ,なーんか闇深そうだね」というセリフによって決定付けられたと言っていいだろう。この“闇”を孕んだ登場人物の心理を描写するにあたり,本作がユニークな空間描写を活用している点も注目に値する。
幾何学的構図の演出
まず特長的なのは,様々な構造物を活用しつつ幾何学的な構図を多用している点だ。主に女子テニス部が使うテニスコートは,男子テニス部の練習場よりも高い位置にあり,常に「激つよ女子」が「激よわ男子」を見下す位置関係になっている。
女子部と男子部の“カースト”的上下関係と空間的位置関係の,このあからさまとも言える対応関係は,物語前半において極めて強い印象を放つ構図となっている。
また人物どうしの距離の描き方も秀逸だ。時に構造物等も援用しながら,人と人との距離感を効果的に描き出している。
このシーンでは,画面右側の構造物がパース線を構成し,客観的な物理空間を作り出している。それに対し,画面左側では(手前から)御杖夏南子,桂木眞己,新城柊真が等間隔に並び,その立ち位置自体が別のパースを構成しているかのように錯覚させている。信頼関係が生まれる前の人物どうしの心の距離を見事に表していると同時に,構造物が構成する客観的なパース線に対し,人物が構成する擬似パース線が複雑に交差することで,不安に満ちた画面構成を演出している。
狭小空間の活用
一方,室内等の狭小空間の使い方も非常に効果的だ。まず「生徒会」のシーンが独特である。一般に,アニメに描かれる生徒会の「部費会議」は,広々とした教室にロの字形に並んだ机に座った状態で行われることが多いが,この作品では敢えて狭い空間に生徒たちを詰め込む構図にし,意図的に狭隘感を演出している。
また男子ソフトテニス部が部室代わりに使用している更衣室も狭隘感の創出に大きく寄与している。カメラは必ずこの狭い空間のどこかに具対的な場所を占めており,視聴者は部員たちの精神的・身体的な衝突を至近距離で観察することになる。
本作ではこうした室内の狭隘感が極めて特徴的で,これが屋外の広々としたテニスコートで行われる練習シーンと綺麗なコントラストを成しているのである。
そしてこの狭隘感が最も活かされるのが,この作品の基調ともなっている“闇”の部分の描写だ。心理的な不安が描かれるシーンでは,カメラのチルトやレンズの効果によって,狭小空間のパース線が不規則に歪められる。
もちろんこうした画面演出自体は珍しいものではない。しかし本作が“爽やか部活モノという表層の下に闇を潜在させたアニメ”であることを考えた時,〈幾何学空間〉〈テニスコートの広々とした空間〉〈狭小空間〉という多様な空間描写の切り替えが,そのテーマに即した見事な演出になっていることがわかるだろう。派手さはないが,その作り込みの点で目が離せない作品となりそうだ。