アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

2019年 アニメランキング

2019年新作アニメの鑑賞数は,TVシリーズ,劇場版ともに23作品だった(並行して旧作も観ているが,カウントしていない)。以下,「TVアニメランキング」「劇場アニメランキング」「総合ランキング」に分け,2019年の個人的ランキングをカウントダウン方式で紹介する。視認性を高めるため,TVアニメは青字劇場アニメは赤字にしてある。また各セクションの最後には「ランキング表」を掲載してある。

 

TVアニメランキング

10位〜6位

 10位:『どろろ』

dororo-anime.com

【コメント】原作の奔放なコメディ要素を捨象した,いわば“シリアス版どろろ”。百鬼丸とどろろの未来を暗示するだけに留めたラストも好印象だった。

9位:『彼方のアストラ』

astra-anime.com

【コメント】12話という短尺を活かし,非常にスピーディな展開でまとめた秀作。 

8位:『ハイスコアガールⅡ』

hi-score-girl.com

【コメント】アニメではフル3DCGを採用することにより,原作よりもゲームキャラとの相性がよくなった。“ちょっとだけ懐かしい90年代”を仮想空間で描き出した点がユニークな作品。

7位:『さらざんまい』

sarazanmai.com

【コメント】バンクシーン,大胆な楽曲使用,深いテーマ設定など,イクニワールド全開の世界観に加え,監督初の“BL設定”が話題となった作品。尺が短く,テーマを消化し切れていなかったのがやや残念。

6位:『約束のネバーランド』

neverland-anime.com

【コメント】原作に忠実でありながらも,オリジナルの演出も加えた本作は,原作組みを十分に満足させた。2020年10月からの続編も期待される。

TOP 5

5位:『星合いの空』

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『星合いの空』公式Twitterより引用 ©赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会

www.tbs.co.jp

【コメント】爽やか青春アニメを表面に装いながら,その裏に〈DV〉〈承認欲求〉〈親の過干渉〉など,現代日本の心の“闇”を丹念描きこんだ意欲作であった。テーマの深さだけでなく,ユニークな空間描写も目を引いた。本来24話だったものが12話に短縮され,物語半ばで終わりを迎えるという異例の放送となった。大いに期待していた作品だっただけに残念極まりないが,続編の可能性も皆無というわけではなさそうだ。今後も折に触れ応援して行きたい。

www.otalog.jp

4位:『BEASTARS』

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『BEASTARS』公式Twitterより引用 ©︎板垣巴留(秋田書店)/BEASTARS製作委員会

bst-anime.com

【コメント】“人間社会を動物世界にカリカチュアした”というよりは,“動物世界を人間社会にカリカチュアした”というユニークな作品。『宝石の国』(2017年)で初の単独元請けとなった制作会社オレンジによる繊細な3DCG表現に加え,主演の小林親弘,千本木彩花,小野友樹らの演技が大いに光った作品であった。続編の制作が決定している。

3位:『荒ぶる季節の乙女どもよ。』

 

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『荒ぶる季節の乙女どもよ。』公式HPより引用 © 岡田麿里・絵本奈央・講談社/荒乙製作委員会

araoto-anime.com

【コメント】〈性という現実〉や〈言葉〉など,精神分析的なモチーフで織り成されたユニークなスラップスティックコメディ。近年の作品では,『さよならの朝に約束の花を飾ろう』(2018年)に次いで,岡田麿里の本領が発揮された作品だったのではないかと思う。原作とともに,何度も味わいたい小品となった。

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2位:『バビロン』

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『バビロン』公式HPより引用 ©野﨑まど・講談社/ツインエンジン

babylon-anime.com

【コメント】当初完全ノーマークだったダークホース。「自殺」という特異かつ難度の高いテーマ設定に加え,原作にはないアニメオリジナルの演出が光った傑作となった。製作のツインエンジンにとっては代表作となるだろう。本記事を執筆時点ではまだ完了していない(第8話まで放送済み)ため迷ったが,本作に触れずに年は越せまいと判断し,2019年のランキングに入れることにした。後日,放送終了後に完全版レビューを執筆する予定。

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1位『鬼滅の刃』

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『鬼滅の刃』公式HPより引用 ©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

kimetsu.com

【コメント】コミックスや小説原作のアニメ化作品を観る醍醐味のひとつは,やはり“アニオリ”だ。それも原作に忠実でありながら,原作にはない雰囲気や味わいを引き出すことに成功した作品が高い評価を受ける。そういう意味では,先述の『バビロン』に加え,この『鬼滅の刃』が今年のトップにランクされることに誰もが納得するはずだ。単に“面白い”というだけでなく,線描,背景美術,各種撮影効果など,表現の細部を楽しみ,研究したくなる作品となった。劇場版の続編制作が発表されている。

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TVアニメランキング表

1位:『鬼滅の刃』
2位:『バビロン』
3位:『荒ぶる季節の乙女どもよ。』
4位:『BEASTARS』
5位:『星合いの空』
6位:『約束のネバーランド』
7位:『さらざんまい』
8位:『ハイスコアガールⅡ』
9位:『彼方のアストラ』
10位:『どろろ』

● その他の鑑賞済みTVアニメ作品(50音順)
『えんどろ〜!』/『賭ケグルイ××』/『ケムリクサ』/『けものフレンズ2』/『荒野のコトブキ飛行隊』/『PSYCHO-PASS 3』/『進撃の巨人 第3期 Part. 2』/『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』/『ちはやふる 3』/  『ひとりぼっちの◯◯生活』/『Fate/Grand Order ー絶対魔獣戦線バビロニアー』/『ブギーポップは笑わない』/『ロード・エルメロイⅡ世の事件簿ー魔眼蒐集列車 Grace noteー』

劇場アニメランキング

10位〜6位

10位:『空の青さを知る人よ』

soraaoproject.jp

【コメント】「超平和バスターズ」による「秩父三部作」の最終部にしてその集大成となった作品。前2作と比べ,秩父というトポスを前面に押し出し,〈束縛・解放・回帰〉というテーマを象徴的に描いた秀作となった。 

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9位:『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 ー永遠と自動手記人形ー』

www.violet-evergarden.jp

【コメント】TVシリーズのテーマを引き継ぎながらも,ヴァイオレットの役割や2.31:1の画面比率の採用など,TVシリーズと差別化を図った作品として印象的だった。〈固有名〉という特殊な言語表現をテーマとして扱ったことは大変興味深い。

8位:『羅小黒戦記』

heicat-movie.com【コメント】中国アニメの底力を見せつけた傑作。また,現時点での中国アニメと日本アニメの“距離感”を知る上でも貴重な作品となった。

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7位:『海獣の子供』

www.kaijunokodomo.com

【コメント】「言葉で語り得ないもの=ロゴスの外部がある」という本作のテーマをまさに地で行くアニメとなった。物語の筋や設定を理屈で理解することはほぼ不可能だが,その崇高とも言える映像と音響が五感を圧倒する作品である。

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6位:『HELLO WORLD』

hello-world-movie.com

【コメント】〈現実〉と〈仮想現実〉の相対性を主題にしたラブストーリー。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの『あやつり糸の世界』(1973年)の世界観を継ぐ晦渋なSFテーマをエンターテインメント作品に仕立てた傑作である。

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TOP 5

5位:『天気の子』

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『天気の子』公式HPより引用 ©︎2019「天気の子」製作委員会

tenkinoko.com

【コメント】意図的に賛否両論を巻き起こすような結末にしたことが話題となった本作。〈父性性=社会性〉という規範的な衣を脱ぎ,「好きな人を救いたい」という〈剥き出しの少年性〉を全面に押し出し,“正義”という肥大化した自意識に批判的に対峙した問題作である。はたして新海誠は,今後〈世界(セカイ)〉にどう立ち向かって行くのか。今後の作品が大いに楽しみだ。

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4位:『プロメア』

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『プロメア』公式HPより引用 ©TRIGGER・中島かずき/XFLAG

promare-movie.com

【コメント】今石洋之×中島かずきというゴールデンコンビのオリジナルアニメとあって,制作発表当時から期待の高かった作品。結果,〈熱い男たち〉〈スピード感〉〈超展開〉などTRIGGERの十八番とも言えるモチーフが惜しげなく盛りこまれた超大作となった。色彩設計や幾何学デザインなど斬新な表現も目を引いた。

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3位:『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』

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『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』公式HPより引用 ©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

anime-eupho.com

【コメント】主人公の久美子が“高校2年生”という絶妙な過渡期を迎えたことにより,さらに複雑な人間関係が繰り広げられることになった本作。子どもと大人の間にある彼女ら/彼らが,ぶつかり合いながらも心を合わせて行く過程が丁寧に描かれている。〈ひょっとしたらあり得たかもしれない可能世界〉を描いた本作は,TVシリーズとともに,京都アニメーションの代表作となったと言えるだろう。

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2位:『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』

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『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』公式Twitterより引用 © 2019こうの史代・双葉社 /「この世界の片隅に」製作委員会

ikutsumono-katasumini.jp

【コメント】前作『この世界の片隅に』(2016年)に,すずとリンのシーンを中心とした250以上ものカット(30分以上)を加えた新作。これにより,前作よりもずっと〈女〉という記号の登場頻度が高くなり,すずと周作の距離感も微妙に異なった印象に仕上がっている。様々な意見があるだろうが,僕としてはやはりこの作品はこうあるべきだったのだと思うし,その意味で『さらにいくつもの』を“完成版”と考えるべきだと思う。後日レビュー記事を執筆する予定だ。

1位:『劇場版 Fate/staynight [Heaven's Feel] II. lost butterfly』

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『劇場版 Fate/stay night Heaven’s Feel [II lost butterfy]』 公式HPより引用 ©︎TYPE-MOON・ufotable・FSNPC ©︎TYPE-MOON

www.fate-sn.com

【コメント】正直このチョイスには悩んだ。というのも,『Heaven's Feel』は前作に当たる『Stay night』『Unlimited Blade Works』を抜きに単体で評価できる作品ではなく,すでにコアファン向けであるという意味で一般的評価が難しい作品だからである。しかしそれを措いても,本作における〈桜〉という人物の描写,「レイン」を代表とする名シーンの数々を評価せずにはおれない。『Fate』シリーズをご存知ない方には,これまでのゲーム版とアニメ版をすべて鑑賞した上で『Heaven's Feel』を観ることを強く勧めたいと思うほどだ。きっとここに描かれる〈桜〉という美しくも禍々しい人物の魅力に当てられることだろう。

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劇場アニメランキング表

1位:『Fate/stay night [Heaven's Feel] II. lost butterfly』
2位:『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』
3位:『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』
4位:『プロメア』
5位:『天気の子』
6位:『HELLO WORLD』
7位:『海獣の子供』
8位:『羅小黒戦記』
9位:『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝ー永遠と自動手記人形ー』
10位:『空の青さを知る人よ』

● その他の鑑賞済み劇場アニメ作品(50音順)
『映画 この素晴らしい世界に祝服を! 紅伝説』/『ガールズ&パンツァー 最終章 第2話』/『きみと,波にのれたら』/『劇場版シティーハンター〈新宿プライベート・アイズ〉』/『劇場版総集編メイドインアビス【前編】旅立ちの夜明け/【後編】放浪する黄昏』/『コードギアス 復活のルルーシュ』/『甲鉄城のカバネリ〜海門決戦〜』/『センコロール コネクト』/『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』/『二ノ国』/『薄暮』/『フラグタイム』/『ロング・ウェイ・ノース』

総合ランキング

最後に,TVシリーズと劇場版を総合したランキングを5位まで紹介しよう。

1位:劇場アニメ『劇場版 Fate/staynight [Heaven's Feel] II. lost butterfly』
2位:TVアニメ『鬼滅の刃』
3位:劇場アニメ『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』
4位:TVアニメ『バビロン』
5位:TVアニメ『荒ぶる季節の乙女どもよ。』

悩んだなどと言っておきながら,結局は『Heaven's Feel』が1位となった。実は僕の作品評価の軸には,「レビューの書き甲斐があるかどうか」というものがある。作画や演出に多少難があっても,メッセージ性などの高い作品は筆が乗り,高評価になることがある。逆に単純に面白い作品でも,面白いという以上に書きようがない作品はあまり評価が高くならない。そういう意味では,「総合ランキング」に挙げた作品はどれも「書き甲斐のある」作品であり,とりわけ上位2作品は作画,演出,メッセージ性どの点においても「書ける」作品だったのだ。

総評

2019年は,新海誠の『君の名は。』ショック(?)のあった2016年時点においてすでに「劇場アニメラッシュ」が予測されていた年であった。そして予測の通り,矢継ぎ早にクオリティの高い作品が公開されていった印象がある。しかしそれだけに,作品どうしが互いに印象を薄め合ってしまった嫌いもある。「アニメ産業レポート2019」の記事でも言及したように,減退するビデオパッケージ市場を補完する形で劇場アニメに依存する動きが今後も続くはずだ。そうなった時,ひとつひとつの作品の質を一定以上に保つ努力が必須だろう。来年も,今年以上に質の高い劇場作品に出会えることを願いたい。

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一方のTVアニメに関しては,『星合いの空』のような,クリエーターの不本意で終わるような事態は決して繰り返されてはならない。日本の深夜アニメ=オトナアニメは,他国ではまず見られないような表現の多様性を育むことのできる環境だ。これは一種の理想論ではあるが,深夜アニメが“売れるか否か”とは違う指標で作品が評価されるような場であって欲しいと思う。

では,2020年もすばらしい作品に出会えることを祈りつつ,皆様よいお年をお迎え下さい。