劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」Ⅲ.spring song 予告編│2020年3月28日公開
『Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song』が今年,2020年3月28日(土)から公開される。2006年の『Fate/stay night』TVシリーズから14年の時を経て,いよいよ『Fate/stay night』の物語がアニメ媒体において完結することになる。
*新型コロナ感染拡大により,公開日は8月15日(日)に延期。
『III. spring song』公開に先立ち,すでに主題歌『春はゆく』の発表がなされたことは周知の通りだ。歌はAimer,作詞・作曲は梶浦由記。この2人は『I. presage flower』の『花の唄』,『II. lost butterfly』の『I beg you』に続き3度目のタイアップである。
梶浦は本作の楽曲プロデュースにおいて,ヒロイン・桜の心情を巧みに再現する詩と,Aimerの独特な声質を存分に活かした曲を作り上げて来た。彼女たちの作品は,アニメ本編を盛り上げるための不可欠な要素となっている。
さらに,各楽曲で提供されているミュージックビデオも注目に値する。三木孝浩が監督を務め,浜辺美波が主演するビデオは,各章における桜の内面をシンボリカルに表している。本編と併せて鑑賞することによって,楽曲の理解が深まるという楽しみもある。
以下,MVを観ながら各章の主題歌の魅力を振り返ってみよう。
『花の唄』(『I. presage flower』主題歌)
Aimer 『花の唄』(主演:浜辺美波 /劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」Ⅰ.presage flower主題歌)
不気味な影に追われる制服姿の少女。花に囲まれた魔法陣の中で目覚める白いドレスの少女。少女の前にローブを纏った影が現れる。フードがゆっくりと外されると,そこに現れたのは少女自身のアルター・エゴだった。
自身の中に蠢く暗い欲望を予感し慄く桜を見事に現しているMVだ。梶浦は『花の唄』について以下のようなコメントをしている。
「花の唄」は「みんなが桜を愛したくなるような曲」。かわいそうな桜にじんわりとくるような。かわいそうな桜の内面をきちんと描きたいなという気持ちがありました。*1
このコメントの通り,桜の暗い命運(fate)を予感させるような,切なく心に染みわたるバラードである。 まだあどけなさを残す浜辺美波も,この主題歌の雰囲気にぴったりの「かわいそうな桜」を好演している。
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『I beg you』(『II. lost butterfly』主題歌)
Aimer 『I beg you』(主演:浜辺美波 / 劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」Ⅱ.lost butterfly主題歌)
人形,時計,鏡など,無数の事物で埋め尽くされた部屋。独りアンニュイな面持ちで座る彼女。夢の中のような世界で動物の仮面を被った男たちと楽しげに踊る彼女の口から突如,黒い塊が吐き出され,仮面の男たちを殺めていく。
お姫様のようなドレス姿は「お菓子の国」の夢を見る桜の姿と重なる。黒い塊は,彼女を蝕んでいく「影」そのものだ。
このビデオの浜辺美波の表情はとても素晴らしい。最近はTVドラマなどで表情豊かな役柄をこなすことが多い彼女だが,これほど魅力的で美しい“無表情”を作れる俳優はそう多くないのではないかと思う。
『花の唄』から一転してアップテンポでハイテンションな楽曲となったこの『I beg you』に関して,梶浦は次のようにコメントしている。
桜は「達観していてドライ」なところがあると思うんです。自分の悲劇におぼれずどこか冷めていて,悲劇は例え自分のことであろうと,突き放して見てしまえばどこかしら滑稽なものになりますから。第二章の曲はあえてポップなリズムにすることで,彼女が自分自身を冷笑しているような要素を入れようと。ビートを効かせて,グルーヴを出して。(原文ママ)*2
この蠢くように進行する旋律は,膨張していく己の魔力のなすがままとなり,暗い欲望に身を委ねていく桜の高揚感を表しているように思える。
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『春はゆく』(『III. spring song』主題歌 teaser ver.)
Aimer 『春はゆく』teaser ver.(主演:浜辺美波・劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」Ⅲ.spring song主題歌)& クロスフェード
桜の木の下で蹲る彼女。その姿は喪服のように見える。手に持つクリスタルの中には,かつての自分の姿が閉じ込められている。再びローブの影と相見える。果たして彼女が悼むのは,自分自身なのか,それとも…
僕は『Fate/stay night』の一番の魅力は,その緻密な設定や世界観以上に,まるで演歌でも聴いているかのような“情”の表現にあると思っている。衛宮士郎が「俺は桜のためだけの正義の味方になる」という“理不尽”を選択した“桜ルート”は,とりわけ主要人物たちの濃厚な“情”が渦巻く物語である(「レイン」のシーンなどを思い浮かべてみればよいだろう)。3部作の最後を締めくくる『春はゆく』は,そうした“演歌味”を前面に押し出した楽曲になっていると言える。『春はゆく』を収録したニューシングル『春はゆく / marie』は2020年3月25(水)発売。本日2月23日(日)から,「iTunes Store」「レコチョク」「mora」にて先行配信されている。
今回紹介したミュージックビデオでは,梶浦由記,Aimer,浜辺美波という才能によって,“間桐桜”という多義的なキャラクターが見事に表現されている。未視聴の方は,ぜひこれを機にご覧になって頂きたい。
果たして,結末はどちらに分岐するのか。
『Heaven's Feel』第二章と第三章のレビューに関しては,以下の記事を参照頂きたい。