- 2020年 冬アニメ振返り
- 天晴爛漫!
- イエスタデイをうたって
- かくしごと
- かぐや様は告らせたい? 天才たちの恋愛頭脳戦
- グレイプニル
- 攻殻機動隊 SAC_2045
- ざしきわらしのタタミちゃん
- BNA ビー・エヌ・エー
- 富豪刑事 Balance:UNLIMITED
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- 2020年 春アニメのイチオシは…
2020年 冬アニメ振返り
2020年冬アニメでは,大童澄瞳原作・湯浅政明監督の『映像研には手を出すな!』の人気が頭一つ抜けていると言えるだろうか。“アニメ制作をアニメで描く”という自己言及性がユニークかつアクチュアルであり,現在上映中の『劇場版SHIROBAKO』ともテーマを共有しているために,両作品間の相乗効果もあったようである。これまで以上に,アニメ制作の現場に注目が集まっていることをよく表した現象である。『劇場版SHIROBAKO』については,以下の記事を参照して頂きたい。
また,深夜アニメのある種の“クリシェ”ともなっているエロ・グロ・萌えの要素がほぼ皆無と言ってよく,深夜放送であるにもかかわらず,子どもを含めた広範囲にわたる視聴者を獲得した作品となった。
一方で,エロ・グロをむしろ前面に押し出した作品が目立ったことも今期の特徴と言えるだろう。
『異種族レビュアーズ』は,異世界ファンタジーでは定番の〈異種族サラダボウル状態〉を,多種多様な性風俗体験の舞台とした点が極めて異色な作品である。その遠慮ない性描写のために,隠し・ピー音はデフォルト(AT-Xの放送やBlu-rayでは無修正),一部の放送局や配信サイトで放送休止や配信停止になったことでも話題となった。
『ドロヘドロ』は,”グロい・汚い・萌えない”という,近年のアニメ視聴者の趣味嗜好からすると敬遠されがちな要素満載でありながら,その奇想天外でまったく先の読めないストーリーと,描き込まれた背景美術やスタイリッシュなキャラクターデザインによって独特な魅力を放つ作品である。今ひとつ注目度が低いように感じるが,僕としてはこの手の作品をこのクオリティで仕上げてくれたことを大いに評価したい。
エロとグロは日本アニメからなくならないし,なくなるべきではないのだろう。
最後に,『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』にも触れておこう。原作の『 魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)の同じくシャフト制作だが,新房昭之は「スーパーバイザー」の立場に退き,劇団イヌカレー(泥犬)が総監督とシリーズ構成を務めている。それもあってか,シャフト演出にさらに幻想風味が加わり,極めて洗練された映像表現になっている。ゲーム原作であるだけにストーリー展開にはやや不安があるが,アニメ表現の可能性を押し広げた作品として大いに評価できるだろう。
それでは以下,春クール期待のアニメを五十音順に紹介しよう。
天晴爛漫!
【スタッフ】
原作:APPERRACING/監督・シリーズ構成・ストーリー原案:橋本昌和/キャラクター原案:アントンシク/キャラクターデザイン・総作画監督:大東百合恵/美術監督:杉浦美穂/制作:P.A.WORKS
【キャスト】
空乃天晴:花江夏樹/一色小雨:山下誠一郎/ホトト:悠木碧/ジン・シャーレン:雨宮天/アル・リオン:斉藤壮馬/ソフィア・テイラー:折笠富美子/ディラン・G・オルディン:櫻井孝宏/TJ:杉田智和/セス・リッチー・カッター:興津和幸
上映中の『劇場版SHIROBAKO』も高評価を受けているP.A.WORK制作のオリジナルアニメである。PVではユニークな形状のマシーンによるカーレースが見られるが,その辺りのアクションが見所ということになるのだろう。
『劇場版クレヨンしんちゃんシリーズ』(2008年-),『TARI TARI』(2012年)の橋本昌和が監督を務める。
イエスタデイをうたって
【スタッフ】
原作:冬目景/監督・シリーズ構成・脚本:藤原佳幸/脚本:田中 仁/キャラクターデザイン・総作画監督:谷口淳一郎/総作画監督:吉川真帆/美術監督:宇佐美哲也/色彩設計:石黒けい/制作:動画工房
【キャスト】
魚住陸生:小林親弘/野中晴:宮本侑芽/森ノ目榀子:花澤香菜/早川浪:花江夏樹/木ノ下:鈴木達央/狭山杏子:坂本真綾/柚原チカ:喜多村英梨/湊:小野友樹/杜田:名塚佳織/滝下克美:堀江瞬/福田タカノリ:寺島拓篤/福田梢:洲崎綾/カンスケ:前川涼子
TVアニメ「イエスタデイをうたって」4月4日(土)テレビ朝日 新・深夜アニメ枠「NUMAnimation」放送開始
冬目景の同名マンガ(1998-2015年)が原作。「新宿にほど近い私鉄沿線の小さな街で,悩み、迷いながらも懸命に生きる4人の男女の姿を描いた,人生と愛のストーリー」(公式HP「About」より)とあるように,ストレートな青春群像劇だが,そこにカラスを連れた少女「ハル」がミステリアスな要素を加えるというのがストーリー上のポイントだろう。その「ハル」を,『SSSS.GRIDMAN』(2018年)の「宝多六花」役でナチュラルな演技を評価された宮本侑芽が演じる。
また,キャラデザ・総作監を『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)などの谷口淳一郎が務めるのも大きなポイントだ。カラス,タイトルロゴ,キービジュアルから一見してわかるように,”黒”がキーカラーになっているようだ。そこに谷口が描く黒髪のキャラクターたちがマッチする。ビジュル的にも期待大の作品である。
本作は,テレビ朝日が2020年春から設ける新アニメ枠「NUMAnimation」で放映される。「NUMAnimation」の名称は「沼落ち」に由来し,コアファン向けの枠として設定されているそうだ。*1 とすれば,本作にも表面的な爽やかさを良い意味で裏切る何かを期待できるかもしれない。
『NEW GAME!』(2016年)などの藤原佳幸が監督・シリーズ構成・脚本を務める。
かくしごと
【スタッフ】
原作:久米田康治/監督:村野佑太/シリーズ構成・脚本:あおしまたかし/キャラクターデザイン:山本周平/総作画監督:西岡夕樹・遠藤江美子・山本周平/美術監督:本田光平/制作:亜細亜堂
【キャスト】
後藤可久士:神谷浩史/後藤姫:高橋李依/志治仰:八代拓/墨田羅砂:安野希世乃/筧亜美:佐倉綾音/芥子駆:村瀬歩
なんと言っても神谷浩史と高橋李依の語りが心地いい。PVを見れば一気にその魅力に引き込まれるだろう。作品の方向性を決定づけるインパクトのあるキャスティングだ。
久米田康治の同名のマンガ(2015年-)を原作とする本作は,「ちょっと下品な漫画を描く後藤可久士と,彼が溺愛する一人娘の姫」が繰り広げるハートフルコメディだ。神谷と高橋の演技が原作にどう彩りを加えてくるか,非常に楽しみである。
監督は『ぼくらの七日間戦争』(2019年)の村野佑太。山本周平のキャラクターデザインはシンプルだが存在感があり,原作の魅力を存分に引き出してくることが期待される。
かぐや様は告らせたい? 天才たちの恋愛頭脳戦
【スタッフ】
原作:赤坂アカ/監督:畠山 守/シリーズ構成:中西やすひろ/キャラクターデザイン:八尋裕子/音楽:羽岡 佳/制作:A-1 Pictures
【キャスト】
四宮かぐや:古賀葵/白銀御行:古川慎/藤原千花:小原好美/石上優:鈴木崚汰/伊井野ミコ:富田美憂/早坂愛:花守ゆみり/柏木渚:麻倉もも/大仏こばち:日高里菜/柏木の彼氏:八代拓/ナレーション:青山穣
TVアニメ「かぐや様は告らせたい? ~天才たちの恋愛頭脳戦~」第1弾PV
〈生徒会〉は異世界だ。特殊な異能・権能を持ったキャラクターが集う場として,教室や部室とは異なるドラマが繰り広げられる。アニメにおける〈生徒会〉の位置づけは奥深く,このテーマだけでブログの記事が書けるほどと言ってよい。
2019年に放送された1期が放映された本作は,”超ツンデレどうしの特殊ラブコメ”という特化した内容でありながらも,わかりやすく魅力的なキャラとテンポのよいギャグで人気を博した。今回の『かぐや様は告らせたい? 天才たちの恋愛頭脳戦』はその続編であり,その意味深なタイトル(「?」と取り消し線)は1期との内容差を暗示しているのだろう。「第十四回声優アワード」で主演女優賞を獲得した古賀葵の演技も楽しみである。
はたして2人の恋の行方は。伝説の「チカダンス」は再び見られるのか。
グレイプニル
【スタッフ】
原作:武田すん/監督:米田和弘/シリーズ構成:猪爪慎一/キャラクターデザイン:岸田隆宏/美術監督:岡本有香/制作:PINE JAM
【キャスト】
加賀谷修一:花江夏樹/青木紅愛(クレア):東山奈央/青木江麗奈(エレナ):花澤香菜/宇宙人:櫻井孝宏
武田すんの同名マンガ(2015年-)が原作。ゆるキャラのような着ぐるみに変身する能力を持った少年・加賀谷修一と少女クレアとの出会いから始まるアクション&ラブコメ。公式HP内の情報は少ないが,PVからは硬派な画作りが伺える。
「第十四回声優アワード」で主演男優賞を獲得した花江夏樹を初め,ヒロインの東山奈央,花澤香菜,櫻井孝宏と,豪華声優陣も見所である。
監督は『鬼灯の冷徹 第弐期』(2017-2018年)などの米田和博。『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)などを手がけたベテラン岸田隆宏がキャラクターデザインを務めるのも注目ポイントだ。
攻殻機動隊 SAC_2045
【スタッフ】
原作:士郎正宗/監督:神山健治×荒牧伸志/キャラクターデザイン:イリヤ・クブシノブ/制作:Production I.G×SOLA DIGITAL ARTS
【キャスト】
草薙素子:田中敦子/荒巻大輔:阪脩/バトー:大塚明夫/トグサ:山寺宏一/イシカワ:仲野裕/サイトー:大川透
www.ghostintheshell-sac2045.jp
神山健治×荒牧伸志は『ULTRAMAN』(2019年)に次いで2度目のタッグ。むろん,神山には『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(2002-2003年),『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』(2004-2005年)の実績がある。『攻殻』シリーズを熟知したクリエーターが本作に関わるという事実だけでも,自ずと期待は高まる。
『攻殻』アニメ史上初のフル3DCGということだが,果たして。
ざしきわらしのタタミちゃん
【スタッフ】
原作:押切蓮介,ゼロジー,エイベックス・ピクチャーズ/監督・脚本・キャラクター原案:押切蓮介/キャラクターデザイン・作画監督:山下敏成/美術監督・背景:椎野隆介/制作:ZERO-G
【キャスト】
タタミちゃん:井澤詩織/大家:新井里美/くすぐり坊主:杉田智和/霊:佐藤恵/ぽんぽこ丸:上田耀司/イナノガワ:BBゴロー/カラオケ店店長:藤原啓治/お菊:香坂さき/カラオケ店店員:大塚琴美
マンガ『ハイスコアガール』(2010-2018年)でゲーム少年・少女たちの甘酸っぱい恋模様を描いた押切蓮介。『ハイスコアガール』はアニメ化もされ(1期:2018年,2期:2019年),高い評価を得た。その押切が『ざしきわらしのタタミちゃん』で自ら監督・脚本・キャラクター原案を務めるというから驚きである。『ハイスコアガール』と比べギャグ要素が強く,”押切節”を前面に押し出した作風のようである。dTV・dアニメストアで配信予定。
BNA ビー・エヌ・エー
【スタッフ】
監督:吉成曜/シリーズ構成:中島かずき/コンセプトアート:Genice Chan/キャラクターデザイン:芳垣祐介/総作画監督:竹田直樹/美術監督:野村正信/制作:TRIGGER
【キャスト】
影森みちる:諸星すみれ/大神士郎:細谷佳正/日渡なずな:長縄まりあ/アラン・シルヴァスタ:石川界人/バルバレイ・ロゼ:高島雅羅/マリー伊丹:村瀬迪与
吉成曜×中島かずきのタッグとくれば,観ない手はない。
「”人類”と“獣人”が共存する社会」という,今石洋之×中島かずきの劇場アニメ『プロメア』(2019年)にも見られた〈共生〉というテーマ。これを『リトルウィッチアカデミア』(2017年)で力量を見せつけた,TRIGGERきっての実力派・吉成曜が料理する。同じTRIGGER制作だが,今石とは一味違ったディレクションを楽しめる作品となりそうだ。
海外市場を強く意識した「+Ultra」枠で放送されることも,この作品の方向性を予想する材料になる。劇場作品として作られた『プロメア』が海外のファンに受けがよかったため,TRIGGERとしてはその流れを維持したいという思いがあるだろう。”TRIGGER”というブランドの海外訴求力をいっそう高める作品となることが期待される。またその一方で,海外市場を意識したことによる作風の変化があるのかどうかも気になるところである。
富豪刑事 Balance:UNLIMITED
【スタッフ】
原作:筒井康隆/ストーリー原案:TEAM B.U.L/監督:伊藤智彦/シリーズ構成・脚本:岸本 卓/キャラクターデザイン:佐々木啓悟/制作:CloverWorks
【キャスト】
神戸大助:大貫勇輔/加藤 春:宮野真守
「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」 アニメ化決定PV
筒井康隆のミステリ小説『富豪刑事』(1975-1977年)が原作。ライトノベル以外の小説を原作とするという点が注目だ。
監督に『僕だけがいない街』(2016年)『HELLO WORLD』(2019年)などの伊藤智彦が,シリーズ構成・脚本に『ハイキュー!!』(2014年-)『僕だけがいない街』などの岸本卓, キャラクターデザインに『僕だけがいない街』などの佐々木啓悟が就く。”『僕街』トリオ”の復活というわけだ。
A-1 Picturesの「高円寺スタジオ」を2018年に新ブランドとして立ち上げたCloverWorksが制作。すでに『約束のネバーランド』(2019年)や『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』(2019年)などでの実績があるだけに,一定のクオリティは期待できる作品である。
LISTENERS リスナーズ
【スタッフ】
監督:安藤裕章/ストーリー原案:じん・佐藤大・橋本太知/シリーズ構成:佐藤大/キャラクターデザイン:pomodorosa/アニメーションキャラクターデザイン:鎌田晋平/美術監督:谷岡善王/楽曲プロデュース:じん/制作:MAPPA
【キャスト】
エコヲ・レック:村瀬歩/ミュウ:高橋李依/ニル:釘宮理恵/ロズ:花澤香菜/殿下:諏訪部順一
『カゲロウプロジェクト』のじんと『交響詩篇エウレカセブン』(2005-2006年)のシリーズ構成・佐藤大のタッグからわかる通り,音楽,とりわけロックを前面に押し出したストーリーということらしい。ビジュアル的にもどことなく『エウレカ』の作風を継ぐ要素が伺える。”ボーイミーツガール””世界救済””ロック”といったトラディショナルなモチーフを踏襲しながらも,新しい時代の物語を提供してくれるか。期待したいところだ。
『亜人』(2016年)などの安藤裕章が監督を務める。
2020年 春アニメのイチオシは…
以上,2020年 春アニメ期待の10作品を挙げてみたが,中でも今回のイチオシはオリジナル作品である『BNA』としたい。先述したように,TRIGGERと「+Ultra」のコンビネーションがどう決まるかも気になる作品だ。さらに次点として,『イエスタデイをうたって』『かくしごと』も挙げておこう。
現在,COVID-19の蔓延でアニメ制作にも大きな影響が出ているが,4月からの春クール開始がつつがなく迎えられるよう願うと共に,アニメ制作関係者の方々には,くれぐれも無理をされないよう御自愛を祈りたい。