アニ録ブログ

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OVA『ガールズ&パンツァー最終章 第3話』(2021年)レビュー[考察・感想]:突崩される弾道軌道

*このレビューはネタバレを含みます。 

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公式HPより引用 ©︎GIRLS und PANZER Finale Projekt ©︎GIRLS und PANZER Film Projekt ©︎GIRLS und PANZER Projekt

girls-und-panzer-finale.jp


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前回の第2話(2019年)から2年近く経ち,ようやく『ガールズ&パンツァー最終章』(以下『ガルパン最終章』)の第3話が劇場公開された。前回よりも日常パートを切り詰めた第3話は,以前にも増して対戦シーンそのものでドラマを語るような作りになっている。その分,戦車アクションの情報量が極めて高く見応え十分である。2年の制作期間も納得の出来栄えだ。

作品データ(リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど)

【スタッフ】監督:水島努/脚本:吉田玲子/キャラクター原案:島田フミカネ/キャラクターデザイン・総作画監督:杉本功/考証・スーパーバイザー:鈴木貴昭/キャラクター原案協力:野上武志/ミリタリーワークス:伊藤岳史/プロップデザイン:竹上貴雄小倉典子牧内ももこ鈴木勘太3D監督:柳野啓一郎/モデリング原案:原田敬至Arkpilot3DCGISTUDIOカチューシャ/色彩設計:原田幸子/美術監督:平栁悟/撮影監督:関谷能弘棚田耕平/編集:吉武将人/音響監督:岩浪美和/音響効果:小山恭正/録音調整:山口貴之/音楽:浜口史郎/アニメーション制作:アクタス

【キャスト】西住みほ:渕上舞/武部沙織:茅野愛衣/五十鈴華:尾崎真実/秋山優花里:中上育実/冷泉麻子:井口裕香/角谷杏:福圓美里/小山柚子:高橋美佳子/河嶋桃:植田佳奈/磯辺典子:菊地美香/近藤妙子:吉岡麻耶/河西忍:桐村まり/佐々木あけび:中村桜/カエサル:仙台エリ/エルヴィン:森谷里美/左衛門佐:井上優佳/おりょう:大橋歩夕/澤梓:竹内仁美/山郷あゆみ:中里望/丸山紗希:小松未可子/阪口桂利奈:多田このみ/宇津木優季:山岡ゆり/大野あや:秋奈/園みどり子:井澤詩織/後藤モヨ子:井澤詩織/金春希美:井澤詩織/ナカジマ:山本希望/スズキ:石原舞/ホシノ:金元寿子/ツチヤ:喜多村英梨/ねこにゃー:葉山いくみ/ももがー:倉田雅世/ぴよたん:上坂すみれ/お銀:佐倉綾音/ラム:高森奈津美/ムラカミ:大地葉/フリント:米澤円/カトラス:七瀬亜深 ほか

【上映時間】48分

【あらすじ】かつて「突撃」を唯一の美学としていた知波単学園だが,今や確かな勝利を目指すべく多彩な戦略を繰り出し大洗女子学園を追い詰めていた。しかし西住みほが即興で考案した「ちょうちんあんこう作戦」が功を奏し,最終的に大洗が知波単を下す。準決勝に進出したのは,大洗女子学園継続高校黒森峰女学園聖グロリアーナ女学院。そして大洗の対戦相手となった継続高校には思いがけない“伏兵"が潜んでいた。

弾道軌道を突き崩す

物語は,闇夜のジャングルの中,大洗が知波単を追跡するシーンから始まる。道なき道をまるで砲弾そのもののように疾走する戦車の動きを,カメラは真横,真正面,俯瞰と様々なアングルから捉えつつ,時に乗組員の一人称視点と重なることでそのスピード感を観客に擬似体験させる。

トーマス・ラマールは『アニメ・マシーン』の中で,映像表現のモードとして「シネマティズム」と「アニメティズム」の2概念を対置させる。「シネマティズム」とは,「速度学」を提唱し,テクノロジー・知覚・政治の間のつながりを説いたポール・ヴィリリオ(1932年-2018年)に由来する概念だ。それは画面の奥行きへと向かっていく視点運動であり,世界を一点透視図法的な(ラマールによれば「ハイパー・デカルト主義的な」)視座から合理的に把握し,対象を“標的"として認識する軍事戦略的な意味合いを帯びている。それは「突進する発射体の視点から見る弾道的な知覚,つまりは弾丸の眼から見た眺め」である。ヴィリリオはシネマティズムという概念によって,映像技術と軍事戦略との間の見えない共犯関係を言い当てているのだ。*1 それに対しラマールの提唱する「アニメティズム」 は,複数の平面から成るレイヤーの横断移動である。そこでは視点は複数化され,シネマティズム的な世界認識を揺るがし,観る者に技術との新たな関わりを意識させる。ラマールはアニメティズムが顕著な例として,『風の谷のナウシカ』(1984年)『天空の城ラピュタ』(1986年)などの宮﨑駿の初期作品や,庵野秀明の『ふしぎの海のナディア』(1990年春-1991年冬)などを挙げているが,彼はこれらの作品の中に,アニメーション・テクノロジー固有の批判的な力学を見出しているのである。

一方でラマールはシネマティズムの一例として,戦時中に製作された日本の国策映画『桃太郎 海の神兵』(1945年)における戦車の移動カットを挙げているが,これなどはまさしく『ガルパン』のプロトタイプと言えるだろう。

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『桃太郎 海の神兵 デジタル修正版』より引用 ©︎1945松竹株式会社
桃太郎 海の新兵 デジタル修正版

桃太郎 海の新兵 デジタル修正版

  • 発売日: 2016/08/03
  • メディア: Prime Video
 

第3話冒頭のシークエンスに頻出した戦車乗組員視点のカメラワークは,現代の3DCGI技術によって洗練されたシネマティズムの進化形である。『ガルパン』シリーズの 3DCGを担当してきたSTUDIOカチューシャの柳野啓一郎によれば,「乗組員視点の主観カット」を効率的に描画するために,Unreal Engine 4(UE4)*2 というゲームエンジンの導入が不可欠であったという。*3

しかし『ガルパン』というエンターテインメントのユニークネスは,この高度に洗練されたシネマティズムが,本来の意味でのミリタリズムをほとんど含意しないという点にある。この物語では,戦車の砲弾が破壊可能なのは戦車のみであり,「ガールズ」たちの身体を損なうことはまったくない。かつての日本の軍国主義下における国威発揚や戦意高揚とも無縁だ(むしろ日本軍を模したと思われる知波単学園チームの経緯は,日本の軍国主義を揶揄しながら批判しているようにも思える)。『ガルパン』は,戦争のリアリティから安全に単離された〈ミリタリー文化〉の象徴である。「戦車道」と「華道」を接続する五十鈴華というキャラクターの存在が物語るように,そこからはミリタリズムにつきまとうマチスモが綺麗に払拭されている。

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要するに,この作品は“戦争"を“(戦車)道"に読み替えることで,シネマティズム的な弾道軌道を純粋なエンターテインメントに変換することに成功しているのだ。

さらに第3章が面白いのは,シネマティズム的な運動を中断・切断する力によってドラマを生み出していることだ。冒頭の大洗と知波単のシークエンスでは,大洗の戦車を「突撃」から卒業した知波単が側面から攻撃することで,シネマティズム運動を突崩している。黒森峰女学園vsプラウダ高校戦では,逸見エリカが愚直な「前進あるのみ」を断念し,側面からプラウダを撃つことで勝利を収める。

これらはラマールが宮﨑や庵野に見たアニメティズムとは厳密には異なるだろうが,シネマティズムに対して批判的な力を行使しながら,アニメーションに多様な力線をもたらす効果を持っていると言えるだろう。僕らは誰も傷つかない・死なない世界で,シネマティズム的な弾道軌道とそれを横断する力を,まるでジェットコースターに乗っているかのように楽しむことができるのである。

かくして,「ガールズ」の身体そのものと同様,無敵と思われた「あんこうチーム」のⅣ号戦車は,知波単の猛攻撃を前に白旗を上げる。これまでの戦況パターンが一変するとともに,第3話後半の継続高校戦の不吉な予兆となる。

「白い魔女」

「白い死神」と恐れられたフィンランドのスナイパー,シモ・ヘイへをモデルにしたと思しき継続高校のヨウコ。彼女はサンダース戦にて,ミカが誘き出したフラッグ車をいとも簡単に撃破してチームを勝利へと導くと同時に,これまでどちらかと言えば“ゆるふわ担当"だった継続高校の潜在的な恐ろしさを他チームと観客に印象づけた。

古来,手練れのスナイパーの登場は,物語に異様な緊張感を付与するのが常だ。そこでは〈見る/見られる〉の関係の対称性が崩れ,いつどこから狙撃されるかわからない恐怖感が増幅される。最近では,『ゴールデンカムイ』第三期(2020年秋)第二十九話「国境」におけるヴァシリの登場と,それを迎え撃つ尾形の活躍などが思い出されるだろう。ベトナム戦争などの例を出すまでもなく,現実の戦争では〈見えている者〉が勝利を収める。スナイパーは〈見る〉という権能を専有することで,戦場では圧倒的な存在感を放つ

第3話は,そのヨウコが放った砲弾とカメラの視点が完全に一致し,西住みほの搭乗するⅣ号戦車に着弾するカットで終わる。言うまでもなく,シネマティズム的カメラワークアニメ版の完成形だ。果たして次回第4話で,大洗女子学園はこの容赦ないシネマティズム的弾丸軌道をどう突き崩してくるのか。

丸山紗希は何を見ていたのか

気になるのは,対戦前にウサギさんチーム(1年生チーム)がエルヴィンに勧められたある映画を観ていたことだ。トロッコを腹這いで移動するシーンやバイクで疾走するシーンなどから,この映画がジョン・スタージェス監督の『大脱走』(1963年)であると考えられる。第二次世界大戦の最中,ドイツ軍の捕虜となった連合軍兵士たちが地下に穴を掘り,大掛かりな脱走を企てる名作映画だ。現在はU-NEXTで視聴可能だ。

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TVシリーズ第12話「あとには退けない戦いです!」におけるブライアン・G・ハットン監督『戦略大作戦』(1970年)や,『ガールズ&パンツァー劇場版』(2015年,以下『劇場版』)におけるスティーブン・スピルバーグ監督『1941』(1979年)など,過去の名作映画から戦略のヒントを得てきた1年生チームのことを考えると,彼女たちが次回の第4話でも戦況を一変させる策を講じる可能性は高い。

戦略大作戦(字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

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さらに無視できないのは,同じ1年生チームの丸山紗希の振る舞いだ。

第3話のサンダースvs継続戦では,1年生チームが対戦を観戦するシーンが挿入されている。例によって,丸山紗希だけがあさっての方を向いてボーッとしている。どちらが勝つかをみんなで予想する話になり,他の5人全員がサンダースに賭ける一方で,ひとり丸山だけが継続高校に賭け,その通り継続高校が勝利する。

これを“いつもの丸山紗希"としてスルーすることもできるが,これまでの彼女のエピソードを考えると,どうも簡単には見逃せないシーンのようにも感じる。

先述したTVシリーズ第12話における黒森峰戦では,『戦略大作戦』からヒントを得た1年生チームが黒森峰のエレファントの背後を取ることに成功するも,装甲の硬さゆえに撃破まで至らない。豪を煮やしたメンバーに「薬莢…捨てるとこ」とアドバイスをして窮地を救ったのが丸山紗希だ。また,『劇場版』で「観覧車…」と呟いて,メンバーに『1941』を元にした作戦を思い付かせたのも彼女である。 

こうして見てみると,丸山紗希は,『CLANNAD』(ゲーム版:2004年,アニメ版:2007年秋-2009年冬)の一ノ瀬ことみや『STAINS;GATE』(ゲーム版:2009年,アニメ版:2011年春・夏)の椎名まゆりなどの系譜に連なる〈真実に最も近い不思議ちゃん〉のヴァリアンツだ。サンダースvs継続戦であさっての方を向いていた丸山紗希には,森に潜むヨウコ=「白い魔女」に関する何かが見えていた可能性がある。もちろん,詳細を視認できるはずもないだろうから,仮に見えていたとしてもほんのわずかな手掛かりに過ぎなかっただろう。しかし1年生チームが「白い魔女」に関する何かしらの情報を得て,事前に西住みほに伝えていたであろうことは十分に予測できる。

乏しい情報からの予想はここまでにしよう。これまでのペースで行けば,次回第4話はおそらく2023年頃の公開となるだろう。『ガルパン』制作チームには身体を自愛して頂きつつ,健やかに傑作を繰り出し続けてもらうことを祈りたい。

作品評価

キャラ モーション 美術・彩色 音響
5 5 5 5
声優 OP/ED ドラマ メッセージ
4 4 5 4
独自性 普遍性 平均
5 4.5 4.7
・各項目は5点満点で0.5点刻みの配点。
・各項目の詳細についてはこちらを参照。

 

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商品情報

*1:トーマス・ラマール『アニメ・マシーン』,p.56,名古屋大学出版会,2013年。

*2:Epic Games社が開発したゲームエンジン。数多くのゲームの他,NASAの訓練システムや映画制作にも利用されている。

*3:『ガールズ&パンツァー最終章 第3話』劇場プログラム,pp.16-17,2021年。