アニ録ブログ

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TVアニメ『不滅のあなたへ』#1〜12(2021年春)レビュー[考察・感想]:不滅の“あなたたち”へ

*このレビューはネタバレを含みます。

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『不滅のあなたへ』公式HPより引用 ©︎⼤今良時・講談社/NHK・NEP

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『不滅のあなたへ』は,大今良時の同名マンガ(2016年-)を原作とするTVアニメ作品である。前作『聲の形』(マンガ:2013-2014年,劇場アニメ:2016年)とは打って変わり,膨大な時間の流れの中で生命の営みと価値を描く大河活劇だ。その意味では,同じく悠久の時の流れの中で永遠の命と個の命のドラマを描いた,手塚治虫『火の鳥』シリーズなどともテーマを共有する作品だ。現実世界における等身大の人物を描いた『聲の形』とは表面上の趣を異にするが,1人の存在によって人の生の本質を照射するという点では,『聲の形』と『不滅のあなたへ』の両者に作者の〈生〉に関する問題意識が通底しているように思える。

アニメ版の監督を務めるのは『NARUTO -ナルト- SD ロック・リーの青春フルパワー忍伝』(2012-2013年)や『つくもがみ貸します』 (2018年)などのむらた雅彦。派手な作画や技巧などはないが,原作の魅力を過不足なく伝えた丁寧な作りの作品に仕上がっている。

今回の記事では,春クールに放映された#1〜12(タクナハ編終了)までをレビューしたいと思う。

あらすじ

「観察者」によってこの世界に投げ込まれた「球」は,刺激を受けた物に変化する力を備えていた。「球は」石,苔,オオカミ,そして人間の少年の姿へと変わりながら,多くの刺激を求めて広い世界へと旅立っていく。やがて「フシ」と名付けられたその存在は,その後,「ノッカー」と呼ばれる謎の敵と戦いながら,多くの人との出会いと別れを経験しつつ心を成長させていく。

「白」の世界より

物語は〈白〉から始まる。白い雪,白いオオカミ,白い髪。

原作者の大今良時によれば,この〈白〉の世界を物語の始点としたことには作劇上の意味がある。

白い少年・白いオオカミ・白い雪原というモチーフは,私たちが何も持たずに生まれてきたように,何も持たずに始まり,そこからさまざまなものを得ていく主人公を描きたくて選びました。*1

文字通り“タブララサ(何も書かれていない紙)”としてこの世に投じられたフシは,世界のさまざまな刺激を己の中に書き込みながら変化と成長を遂げていく。

だとするなら,この作品がアニメ化されることによって,色彩という新たな媒体を得たことの意味も決して少なくはないだろう。土の色,草木の色,クダモノの色,血の色,瞳の色,ユメキキョウの色。さらにそこに,キャラクターに息を吹き込む声優陣の声や要所を盛り上げる美しい音響が加わる。アニメになったことによって,僕らはフシが受容する世界の刺激をいっそう彩豊かな世界として追体験できる。その意味で,本作はまさしくアニメになるべくしてなった作品と言えるかもしれない。

宇多田ヒカルの『PINK BLOOD』と共に流れるオープニング・アニメーションは,そのフシの濃密な内的経験世界を表しているように思える。

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『不滅のあなたへ』より引用 ©︎⼤今良時・講談社/NHK・NEP

これまで出会ってきた(あるいはこれから出会うことになる)人物たちが,さながら走馬灯のように現れては消える。実際に起こった出来事もあれば,彼ら/彼女らの願望と思われる風景もある。*2 このオープニング・アニメーションの情報量の高さは,フシの記憶の濃度そのものなのであろう。物語は,膨大な歴史の厚みの中で彼の記憶がその濃度を高めていく様子を描いていく。

情報か,記憶か

フシを生み出した「観察者」は,その目的を「世界の保存」であると説明している。まるでフシを機械的な保存媒体として見ているかのような物言いだ。しかしそれとは裏腹に,フシ自身はビルドゥングス・ロマンの主人公のように心豊かに成長していく。この“心の成長”という契機を与えたのが,ニナンナの少女マーチとの出会いだ。

マーチは,まだ恋すら知らない幼い少女でありながら,「大人になる」ことを常に夢見ている。彼女にとって「大人になる」ことの意味の1つは「ママになる」ことである。だから彼女は,村の孤独な娘パロマから貰った人形を使って,ままごと=ロールプレイをしながら日々を過ごしているのだ。

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『不滅のあなたへ』#2「おとなしくない少女」より引用 ©︎⼤今良時・講談社/NHK・NEP

しかしマーチの運命は「オニグマ」の生贄として選ばれたことで狂い始める。機を見て逃亡した彼女は,子どもの象徴である顔の墨を落とす。これは村のしきたりを破り,子どもでありながら大人になろうとする彼女なりの抵抗であろう。やがてマーチはフシと出会う。彼女はフシに名を授け,クダモノを与え,食事の仕方を教え,言葉を教えることで,「ママになる」という夢を実現する。この時,アニメ版ではフシの瞳の色を変化させる演出をしている。これはおそらく,フシに人の心が宿った瞬間を示しているのだろう。*3

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『不滅のあなたへ』#2「おとなしくない少女」より引用 ©︎⼤今良時・講談社/NHK・NEP

#5「共にゆく人」で,マーチはフシに決定的な語りかけをする。

大人になるって知っていくってことでしょ?もちろんふーちゃん,あなたも一緒。一緒に知って,一緒に大人になっていくの

この直後,マーチはハヤセの矢に斃れる。その様を目にしたフシは,激昂してオニグマとなり,ハヤセの一団に襲いかかる。“懐胎しなかった聖母”マーチは,「知ること=大人になること」をフシに託してこの世を去る。フシの中には,マーチの心が確かに宿る。

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『不滅のあなたへ』#5「共にゆく人」より引用 ©︎⼤今良時・講談社/NHK・NEP

フシはマーチとの出会いを通して,人と出会い別れることに伴う感情の負荷を理解したのだろう。彼の中には,永遠の時を通して彼の心を支配する「失いたくない」という感情が生まれる。

「観察者」によって作られたフシとその成長は,ニール・ブロムカンプ『チャッピー』(2015年)などのような,“AI成長物語”を思わせるところがある。あるいは,『不滅のあなたへ』と同時期に放映された『Vivy -Fluorite Eye's Song-』(2021年春)における,「心=記憶」という定義の問題とも通じるところがあるかもしれない。

私の使命は歌でみんなを幸せにすること。そのために心を込めて歌うのよ,ナビ。私にとって,心を込めるっていうのは,思い出と一緒に歌うことだから。思い出が増えて歌うたびに,お客さんはたくさん喜んでくれた。私はよく笑うようになった。私にとって心っていうのは,思い出の,記憶のことなのよ。

アーカイブの記憶はきっと悲しい出来事で溢れてる。それに続く未来も。だからこんな決断をするしかなかった。こんな未来に自分の使命をかけた。私はそうは思わない。私の思い出は,心は,悲しみだけじゃない。どれだって私を形作る,かけがえのないものだから。*4

機械的な〈情報の保存〉から実存を形作る〈記憶の蓄積〉へ。この2つは連続的でありながら,その間には「成長」という大きな飛躍があるのかもしれない。 

最終的にフシは,「世界の保存」という観察者のプログラムに従っていくのだろうか。あるいはさまざまな人との出会いと記憶の蓄積によって観察者の思惑から逸脱し,自身の「エラン・ヴィタール」に従って「創造的進化」を遂げていくのだろうか。*5

「あなた」という呼称

#7「変わりたい少年」は,グーグーのアイデンティティの問いから始まる。

最近思うんだ。何で僕は僕なんだろうって。何であの屋敷の子供に生まれなかったんだろうって。

グーグーは貧者としての自分を卑下し,兄と共に今の生活から抜け出して「僕以外の誰かのように生きること」を夢見ている。そして憧れの少女リーンを救おうとして顔に重度の怪我を負った後は,「怪物」になったことで「夢は叶った」と自嘲する。この時点でグーグーは,自己否定という心の影を負っている。しかしその後,ピオランが連れてきたフシと出会い,兄弟のような関係を築くことで,彼は徐々に自己肯定感を強めていく

グーグーの自己肯定感を高める決定的なきっかけとなったのは,#9「深い記憶」におけるリーンのセリフだ。

あなたが怪物でも人間でも私にはどっちでもいいけどさ。でもそれってどっちもあなたでしょ?全部さらけ出すあなたも,隠さずにはいられないあなたも,どっちも変で好きだけどな。それがあなた。あなたはあなたよ。

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『不滅のあなたへ』#9「深い記憶」より引用 ©︎⼤今良時・講談社/NHK・NEP

ここでリーンが無邪気に反復する「あなた」という呼称はこの物語にとって意義深い。それは「野菜売り」「怪物」「人間」と言った一般名詞では言い当てられない「グーグー」という個の存在へ向けられると同時に,この物語に登場するすべてのキャラクター,及びすべての視聴者を遍く指示しているようにも聞こえるからだ。つまり「あなた」は,特殊であると同時に普遍なのだ。

この「あなた」が『不滅のあなたへ』というタイトルの一部を成していることは言うまでもない。

#12「目覚め」において,ノッカーの襲撃を受けたグーグーは,再び身を挺してリーンを守ろうとする。リーンは助かるが,グーグーは瓦礫の下敷きになって命を落とす。

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『不滅のあなたへ』#12「目覚め」より引用 ©︎⼤今良時・講談社/NHK・NEP

その後,グーグーが生きていると信じているリーンの前で,フシはグーグーの姿になってしまう。彼は図らずもリーンからグーグーの死を隠すことになる。フシをグーグーだと思い込んでいるリーンの前で,フシは「どうして俺は俺なんだろう」というグーグーのアイデンティティの問いをなぞる。

しかし,リーンはグーグーの死の事実を直感で悟っていたようだ。ユメキキョウの花に囲まれて横たわる彼女は,父に「私,結婚やめる。好きな人ができたの」と言って,グーグーへの永遠の愛を暗示的に誓う。この時のリーンの「もうここにはいないの。きっと彼(引用者註:フシ)と一緒にいるんだわ」というセリフは,この物語の本質を言い当てた重要なセリフだ。

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『不滅のあなたへ』#12「目覚め」より引用 ©︎⼤今良時・講談社/NHK・NEP

リーンが「あなた」と名指したグーグーの魂は,フシの中で,あるいはフシの傍で永遠に生き続けることになるだろう。『不滅のあなたへ』というタイトルにおける「あなた」は,フシその人を指すと同時に,フシが記憶したかけがえのない「あなたたち」なのかもしれない

人が人として誰かと関わり合う以上,その存在は必ず誰かの〈記憶〉として残る。たとえそれがどれだけ希薄な記憶であろうと,そして時間と共にどれだけ希釈されようとも,その記憶が無になることはない。人が「不滅」であることというのは,そういうことなのかもしれない。「あなた」という呼称がすべての人を指す普遍性を持つからこそ,この物語は普遍的な価値を持ち,多くの人の心を打つのだろう。

この後,物語は“超展開”とも言えるほどの大胆な展開を見せていく。それをどう受け止めるかは視聴者次第だろう。不滅の存在と共に,「あなたたち」の行く末を最後まで見届けようではないか。

www.otalog.jp

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作品データ(リンクはWikipediaもしくは@wiki) 

【スタッフ】
原作:⼤今良時/監督:むらた雅彦/シリーズ構成:藤田伸三/キャラクターデザイン:薮野浩二/美術監督:渋谷幸弘/色彩設計:福田由布子/撮影監督・3DCG:織田頼信/編集:池田康隆/音楽:川﨑龍/音響監督:高寺たけし/アニメーションプロデューサー:小沢十光/アニメーション制作:ブレインズ・ベース

【キャスト】
フシ:川島零士/マーチ:引坂理絵/パロナ:内田彩/ピオラン:愛河里花子/ハヤセ:斎賀みつき/グーグー:白石涼子(少年),八代拓(青年)/リーン:石見舞菜香/酒爺:利根健太朗/シン:阿部敦/観察者:津田健次郎

作品評価

キャラ モーション 美術・彩色 音響
4.5 3.5 3.5 4
声優 OP/ED ドラマ メッセージ
4 4 5 5
独自性 普遍性 平均
4 4.5 4.2
・各項目は5点満点で0.5点刻みの配点。
・各項目の詳細についてはこちらを参照。

商品情報

Blu-ray

コミックス

 

*1:「アニメージュ」2021年7月号,p.53,徳間書店,2021年。

*2:ちなみにオープニング・アニメーションには,単行本の表紙を元にしたと思われるカットもいくつか挿入されている。

*3:原作ではフシの微笑みだけでこれを表現している。

*4:『Vivy -Fluorite Eye's Song-』13話「Fluorite Eye's Song」より引用。

*5:アンリ・ベルクソン(合田正人,松井久訳)『創造的進化』,ちくま学芸文庫,2010年。