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劇場アニメ『プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第2章』(2021年)レビュー[考察・感想]:新たな“力”

*このレビューはネタバレを含みます。必ず作品本編をご覧になってからこの記事をお読み下さい。

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『プリンセス・プリンシパル』公式Twitterより引用 ©︎Princess Principal Film Project

pripri-anime.jp


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前章から半年余り経ち,『プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第2章』が公開された。新たなキャラクター,新たな大道具が登場したことで,物語の構図が大きく変わっていくことを暗示した重要な章だ。同時に「王位継承権」という重要な設定がクロースアップされ,「Crown Handler」という副題の意味がいよいよ明確になっていく。

 

あらすじ

共和国は,1発で戦艦を沈めるほどの脅威的な破壊力を持つ「ケイバーライト爆弾」の開発に成功するも,何者かに奪取され王国内へと運び込まれてしまう。一方,王国では王位継承権第三位のリチャード王子が赴任中の新大陸から帰国するが,パレードの最中に何者かに狙撃され怪我を負う。ケイバーライト爆弾が戦争の火種になることを危惧するコントロールは,チーム白鳩に爆弾の捜索を命じるのだった。  

 

新たなる”力”

物語は共和国側の開発した「ケイバーライト爆弾」の起爆実験のシーンから始まる。海上の戦艦に積載されたケイバーライト爆弾は,不気味な光を放ちながらやがて臨界点に達し,空間そのものを振動させるかのような轟音とともに戦艦を文字通り無きものにする(ちなみに立川シネマシティの「Cボールサウンド」では,このシーンの轟音で座席が振動する)。

この瞬間,これまでどちらかと言えばアンジェの便利な“ひみつ道具”といった程度の存在感であったケイバーライトが,世界を滅ぼしうる悪魔の力としての本性を顕す。共和国と王国の間の政治的な力の駆け引きに,いよいよ物理的な力が介入する。

Lの言によれば,共和国はこの爆弾を「抑止力」として行使することを期待していたわけだが,それを(おそらく)戦争の火種として利用しようとしたのが,王位継承権第三位のリチャードであった。彼は当初,戯けたお調子者として物語に登場する。しかし古来,マンガやアニメ作品において,お調子者キャラが黒幕であることが発覚するプロットは決して珍しくはない(冒頭のやや不自然な狙撃シーンですでに気づいた人も少なくないだろう)。だからリチャードというキャラクターがもたらした本当の面白さは,彼のキャラの豹変というよりは,これまでの“共和国vs王国”という力の構図に,リチャード=ケイバーライト爆弾という物理的な破壊力が加わり,物語の構造が大きく変わったことなのだ。

 

Crown Handler

プリンセス=真アンジェは自ら女王となり,王国と共和国を隔てる壁を壊し,世界の秩序を変えることを夢見ている。そしてリチャードも,自分を「さらなる進化を望む革新の風」になぞらえ,「王国の存続のみを望む因習の壁」=ノルマンディー公を打倒することを目論んでいる。「壁を壊す」という目的において両者の利害は一致しているが,当然,プリンセスはリチャードに容易に組みすることはできない。彼女にはリチャードの力によって多くの血が流されることがわかっているからだ。やがて両者は対立することになるだろう。そこで重要になってくるのがメアリーを中心とした「王位継承権」の問題だ。

アルビオン家の王位継承権の仕組みについては詳細が語られていないが,順位そのものは公式に明らかにされている。第一位がエドワード,第二位がメアリー,第三位がリチャード,第四位がシャーロット(プリンセス=真アンジェ)だ。このうち,第一位のエドワードは,すでにリチャードが無き者にしている。リチャードの目論見は明らかだ。無論,それはおそらく自ら王位を継承して王国に君臨し,世界の秩序を変えることに他ならない。彼はケイバーライト爆弾を用いて第二位のメアリーの殺害も図るが,これはアンジェらの活躍によって阻止されている。だとすれば,今後はメアリーという存在をめぐって,プリンセスとリチャードがどう動いていくかが話の焦点となるのだろう。

 

メアリー=アンジェの“if”

このメアリーというキャラクターをめぐっては,本章で面白いシーンが挿入されている。幼いながら,王位継承権第二位としての責任と重圧に耐え,ノルマンディー公の威圧的態度に震えながら王国の「因習」を背負う彼女に対し,姉であるプリンセス(もちろん本当の姉はアンジェ=真シャーロットだが)は心から優しく接する。そして彼女はメアリーを子どもの頃のアンジェに重ね合わせる。刹那,プリンセスとアンジェの間に擬似的な“姉妹”の関係が生じる。アンジェは「私も,あなたみたいなお姉さんがいたら,お城の生活も我慢できたかも」と本心を漏らす。

TVシリーズの第12話「case 24 Fall of the Wall」などでも,アンジェがプリンセスに対して依存的に振る舞う様子が描かれていたが,それがここでよりはっきりと再演された格好だ。『プリプリ』はアンジェとプリンセスの間のほのかな“百合”テイストが特徴の作品だが,ここでそれが“姉妹”の関係に転調しているのが面白い。もともと貧民層の出自であったプリンセス=真アンジェが,王国の頂点に立って世界の壁を打ち破ると同時に,アンジェ=真シャーロットの心の壁を打ち破る。貴賤の転倒した未来がこの先の物語にあるのかもしれない。

『第2章』を観た僕らは,アンジェが懐に忍ばせたケイバーライトが,戦艦を消滅させたあの爆弾と同じ物質であることを常に思わずにいられない。いつの日か,彼女の懐からあの緑の光は消えてなくなるのだろうか。

 

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】監督:橘正紀/シリーズ構成・脚本:木村暢/キャラクター原案:黒星紅白/キャラクターデザイン:秋谷有紀恵西尾公伯/総作画監督:西尾公伯/コンセプトアート:六七質/メカニカルデザイン:片貝文洋/リサーチャー:白土晴一/設定協力:速水螺旋人/プロップデザイン:あきづきりょう/音楽:梶浦由記/音響監督:岩浪美和/美術監督:杉浦美穂/美術設定:大原盛仁谷内優穂谷口ごー実原登/色彩設計:津守裕子/HOA(Head of 3D Animation):トライスラッシュ/グラフィックアート:荒木宏文/撮影監督:若林優/編集:定松剛/アニメーション制作:アクタス

【キャスト】アンジェ:古賀葵/プリンセス:関根明良/ドロシー:大地葉/ベアトリス:影山灯/ちせ:古木のぞみ/L:菅生隆之/7:沢城みゆき/ドリーショップ:本田裕之/大佐:山崎たくみ/ノルマンディー公:土師孝也/ガゼル:飯田友子/エドワード:丹沢晃之/メアリー:遠藤璃菜/リチャード:興津和幸

【上映時間】53

作品評価

キャラ モーション 美術・彩色 音響
4.5 4.5 4 5
声優 OP/ED ドラマ メッセージ
4 4 4 4
独自性 普遍性 平均
3.5 3.5 4.1
・各項目は5点満点で0.5点刻みの配点。
・各項目の詳細についてはこちらを参照。

 

商品情報

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