*この記事にネタバレはありませんが,各作品の内容に部分的に言及しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。
秋アニメもほぼすべての作品が最終話を迎え,まもなく2021年の全クールが終了する。今回の記事では,2021年秋アニメの中から,特にレベルの高かった5作品をランキング形式で振り返る。なお,以前掲載した「2021年秋アニメ 中間報告」ではピックアップしたものの,残念ながら最終話の仕上がりで今回ランクインしなかった作品があることをお断りしておく。
5位:『大正オトメ御伽話』
最終話「春ノ嵐」はヘルマン・ヘッセの小説『春の嵐』(1910年,原題は"Gertrud")へのオマージュだろうか。腕を負傷し「死人」と同様の生を強制された珠彦の元に,色とりどりの人間関係を巻き込みつつ"春"をもたらしたユヅ。震災という災禍を生き延びた彼ら/彼女らの「初恋」が,今を生きる僕らの生につながっているのだということを実感させる爽やかな最終話だった。いまだ"3.11後の世界"を生きる僕らにとって,ある種のリアリティを持った作品だったと言える。
4位:『見える子ちゃん』
"見えるのに見えないフリをする"という緊張感の中でコメディと物語を両立させた秀作。どこか憎めない怪物たちのビジュアルもユニークで,アニメ化による付加価値も高かったと言える。以前の記事にも書いたが,〈見える/見えない〉という視点の差異を利用した設定は,アニメ作品においてたびたび反復されるモチーフになっており,2022年冬アニメで言えば山田尚子監督の『平家物語』などがある。いずれ機会があれば,この〈見える/見えない〉を軸にいくつかの作品を比較してみたい。
3位:『古見さんは,コミュ症です。』
「コミュ症」であることから,ほとんどセリフのない古見さんを"ゼロ度"の中心として設定しつつ,その周りをバラエティ豊かなキャラクターが賑やかしていくという構図。そこはスクールカーストも派閥も存在しない,究極の"異世界"と言えるかもしれない。この種の作品がアニメ化と相性がいい所以なのだろう。レンズ効果なども多様しながらキャラクターの心情を丁寧に描写し,原作のマンガ的表現を効果的に取り入れた完成度の高い学園コメディだった。第2期の制作もすでに決定(放送は2022年春を予定)しており,さらに期待が高まる。
2位:『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜 第2クール』
「フィットア領転移事件」の後の話数は,ルーデウスによる下ネタギャグを交えながらも,概ね事件によって引き裂かれた人々の絶望と悲哀が中心に描かれていた。この作品も,3.11から10年後の世界を生きる僕らにとって,ある種のリアリティをもって心に迫るディザスターアニメである。最終話では,本来まったく違うはずのルーデウスと前世の男のビジュアルを意図的に似せた演出を施し,非現実である現世を生きることで現実である前世を生き直す,という重曹的なテーマをきっちりとビジュアルに落とし込んでいた。"なろう系ラノベ"のパイオニアである本作が,世に氾濫する"なろう系アニメ"の金字塔ともなったことは疑う余地がないだろう。続編が強く待望される傑作アニメである。
1位:『王様ランキング』
ボッジの師匠となったデスパーの最終話のセリフ「あなたはその欠けたもので,普通の人にはない,色んなことを経験しています。それは苦しいけれど,きっと自分の道を切り開く力になるでしょう。だから自分のすべてを愛しなさい」は,本作の根底を流れるメッセージと言えるのではないだろうか。身体的な境遇はメリットでもデメリットでもなく,生と多様性とその強度の基底なのだ。同じく最終話で,障がい者と国家の福祉との関係を示唆していた点も,テーマに一定のリアリティを付与する要素として好印象だった。
原作の淡白な描線を元にしながら,迫力あるアクションや表情豊かなキャラクター造形を加味したことで,アニメ化による付加価値の高さを見せつけた傑作となった。本作も2022年冬からの続編放送が決定している。今後も継続して応援していきたい
● その他の鑑賞済み作品(50音順)
以上,当ブログが注目した2021年秋アニメ5作品を挙げた。
お気づきと思うが,今回は当ブログが普段から推しているオリジナル・アニメがランクインしていない。これは当初注目していたオリジナル作品が,テーマやアニメーションのクオリティに関して期待以上の出来ではなかったことに加え,最終話に向けた物語の締めくくり方において不満を残す結果となったためである(特に『海賊王女』)。オリジナル・アニメのストーリーテリングの難しさを視聴者側の立場として痛感したクールだった。はたして次クールには骨太のオリジナル作品が現れるだろうか。2022年冬アニメのおすすめに関しては以下の記事を参照頂きたい。