アニメや映画などの作品評価を得点として示す方法は,大きく分けて2種類ある。1つは作品全体に対する印象やおすすめ度を大まかに数値化する方法。もう1つは,作品をいくつかの要素に分類し,それぞれの得点を数値として提示する方法だ。
当ブログのアニメレビューは後者の方法をとっている。具体的には,以下の10項目に関して5段階で評価し,記事の最後に「作品評価」としてそれぞれの得点数を挙げている。このほど,新たに【考察】というやや特殊なポイント加えた上で全体を改訂したので,これを機に当ブログの評価基準について紹介しておこうと思う。それぞれのポイントについて,最近の作品の中から高評価となった代表作を挙げてある。
【キャラ】
キャラの外面・内面の描き方が魅力的かどうか,描き分け(彩色などのビジュアル要素も含む)が妥当か,作品全体との調和がとれているかなどを評価。したがって,いわゆるキャラの〈作画〉もこの項目で評価する。"感情移入できるかどうか"は不問。
高評価作品:『メイドインアビス 深き魂の黎明』(2020年)
〈狂気〉としてのリコ,そのアルター・エゴとしてのボンドルドとレグ。そして〈奇跡の贄〉としてのプルシュカ。おそらく近年のマンガ・アニメ作品の中でもずば抜けて"立った"キャラの配置だろう。アニメ版では,このユニークなキャラの輪郭を的確なキャスティングによってさらに際立たせていた。
【モーション】
バトルシーン等の動きのあるシーン以外にも,作品全体やキャラの個性にあった動きになっているかなどを評価。したがって,いわゆる〈止め絵〉なども,十分効果的であれば高評価となる。
高評価作品:『アイの歌声を聴かせて』(2021年)
ミュージカル・アニメとしてエンターテインメント性の高さが注目される本作だが,キャラクターや衣服など,細部の動きが丁寧に作られた作品でもある。特にネットでも話題となった「シオンとサンダーの乱取り」は,劇中歌「Lead Your Partner」とのタイミングも抜群の傑作シーン。アクション・アニメでなくともモーションで魅せることができることを示した作品と言える。
【美術・彩色】
単に"美麗かどうか"よりも,キャラ・ドラマ・メッセージとの調和を評価。作品全体の色彩設計などもここで評価する(ただしキャラの色彩設計については【キャラ】の項目で評価)。
高評価作品:『サイダーのように言葉が湧き上がる』(2021年)
鈴木英人のような80年代「シティ・ポップ」の空気を引用しつつ,実際のロケーションの中に記号的な意味を読み取った本作。イシグロキョウヘイ監督のロジカルとも言える画面設計が光る秀作だった。個人的には,こうした作品のビジュアル面がもう少し正当に評価されるようになればいいと感じている。
【音響】
本編で流されるBGMやその他の音響効果に関するポイント。あくまでも〈効果〉を優先するので,〈敢えてBGMを使わない〉などといった演出も,作品とマッチしていれば高評価になる。
高評価作品:『ガールズ&パンツァー最終章』(第1話:2017年,第2話:2019年,第3話:2021年)
"音響アニメと言えば『ガルパン』"と言ってよいほど,本作の音作りは徹底している。砲弾の着弾音までに至る細部の音へのこだわりは本作最大の魅力と言ってよいだろう。東京都立川市の「シネマシティ」など,ハイスペックな音響システムを備えた劇場に音響監督の岩浪美和が赴き,自ら音響調整を行なう特別上映も話題だ。
【CV】
キャラ・ドラマ・メッセージとの調和を評価。したがって,例えば非職業声優(俳優やお笑い芸人など)の演技が職業声優と比べて拙いものであったとしても,その作品のキャラにマッチしていれば高評価になる。
高評価作品:『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』(2019年)
かつて舞台やミュージカルなどで活躍した黒沢ともよは,いわゆる典型的な"アニメ声"ではなく,よりナチュラルな芝居のできるユニークな声優だ。特に『ユーフォ』シリーズでは,彼女の独特な脱力系ボイスが主人公・黄前久美子の"普通の女子高生"という存在感にぴったりマッチしていた。「めんどくさいなー1年性!」という,あのいかにも面倒臭そうな絶妙な芝居は彼女にしかできない。
【ドラマ】
ストーリーラインが魅力的かどうかを評価。仮に明確な物語がなくても,全体として調和がとれていれば高評価となる。
高評価作品:『映画大好きポンポさん』(2021年)
当ブログの2021年アニメランキングで第1位となった作品なので,ほぼすべての項目で高評価なのだが,特に「映画制作の中に自己を見出しつつそれを他者に宛てる」というドラマ性と,効果的な画作りと音響による盛り上げ方が秀逸な作品だった。
【メッセージ】
作品から読み取れ,なおかつ言語化できる思想のようなもの。〈テーマ〉とも言える。
高評価作品:『さらざんまい』(2019年春)
ポップなビジュアルと軽快なコメディの背後に,〈欲望〉〈つながり〉〈生と死〉〈性の多様性〉など,実存的なテーマを据えたユニークなアニメ。幾原邦彦監督の問題意識がアップデートされた作品と言える。上掲の記事ではハイデガー『存在と時間』における“das Man”やラカンの「欲望」概念と絡めて論じた。
【独自性】
仮にパクリやオマージュなどが多くあったとしても,メッセージや演出に独自性があれば高評価。
高評価作品:『Sonny Boy』(2021年夏)
一般的な意味での採算性をほぼ度外視し,監督の夏目真悟のやりたいことを表現し切ったという意味で,少なくとも近年のTVアニメの中では『Sonny Boy』ほど【独自性】の高い作品はないだろう。「学校の漂流」「超能力」といったモチーフ自体は古典的だが,その世界観の構築はとてつもなくユニークだ。ちなみに本作は【メッセージ】と【考察】の評価も高い。
【普遍性】
"10年後に観ても面白いと思えるか"が基準。
高評価作品:『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』(1993年)
TVシリーズの放映終了(1997年)から25年経ってなお楽しまれる『セーラームーン』シリーズ。『セーラームーン』というコンテンツそのものが魅力的であると同時に,個性豊かな制作者が参加していたシリーズとして,今でも語れる機会が多い。中でも劇場版『R』は,幾原邦彦監督独自の解釈による演出がふんだんに盛り込まれており,幾原演出の"ルーツ"を知る上でも重要な作品だ。今後,長きにわたって愛され評価され続ける作品であることは間違いない。
【考察】
いわゆる「謎解き」的な意味での考察ではなく,作品のテーマやアニメーションの作りに関しての考察(したがって【メッセージ】のポイントと関連することが多い)。簡単に言ってしまえば,"レビューの書き甲斐"がある場合に高評価となる。筆者の個人的な関心に依存することが多いので,最も主観的な評価ポイントでもある。
高評価作品:『海辺のエトランゼ』(2020年)
ボーイズ・ラブというテーマを〈幻想〉と〈現実〉という2つの面で伝えた傑作短編。女性の描き方も考えられており,鑑賞者に深い考察を促す。沖縄の美しい風景や,民家を用いた絶妙なカメラワークなど,画作りに関しても考察しがいがある。BL作品の面白さを教えてくれた作品だった
アニメに限らず,ある作品を得点で評価する方法というのはとても難しい。上の【考察】の項目で「最も主観的な評価ポイント」と書いたが,当然,他のポイントもレビュワーである筆者の主観にすぎない。また,そもそも得点にする意味があるのかという議論もあるだろう(実際,得点評価自体を廃止しようと考えたこともある)。しかし,特定のポイントを拠り所にして数値化することによって評価の輪郭が明確になるだろうし,記事をご覧になる読者の方にとっても,レビュワーの意図が伝わりやすいと思う。まだまだ改善の余地はあるだろうが,アニメ評価の一案として参考にしていただき,ご意見などいただければ幸いである。