*この記事は『Do It Yourself!!』すてっぷ①とすてっぷ②のネタバレを含みます。
現在(2022年秋)放送中の米田和弘監督『Do It Yourself!!』は,ものづくりを通して新たな価値を見出す女子高生たちの姿を描いたオリジナルアニメである。キャラクターのデザインやモーションなどが丁寧に作り込まれている一方で,大胆な舞台設定と構図で人間関係を暗示するなど,ユニークな技が冴える良作だ。原作付き作品の中に強者が勢揃いする今季にあって,決して派手な作品ではないが,だからこそあえてその魅力を語っておく必要があるだろう。今回の記事ではすてっぷ①「DIYって,どー・いう・やつ?」とすてっぷ②「DIYって,だれかと・いっしょに・やるってこと?」の演出を詳しく見ていく。
オートメーションとDIY:映像で見せる
冒頭,この作品の舞台である新潟県三条市の景色が映し出された後,住宅街の俯瞰映像に空中を飛び交うドローンが姿を現す。自動運転のバスが走り去った後,カメラはまるで「のび太の家」のような少し古風な家を画面中央に捉える。主人公せるふ(結愛せるふ)の住む家だ。
今よりも少しだけテクノロジーが進んだ世界。ナレーションのないこの数十秒のシークエンスの中に,リアルとほんの少しのSF,そしてDIYとオートメーションという対比関係が既に示されている。セリフに頼らずに世界観とテーマを提示するという,映像作品としての“正解”を示した優秀なシークエンスだ。こうした世界観のコントラストの中で,“便利になっていく世の中であえてものづくりをする”という素朴な価値観が打ち出されていくことがわかる。話数の限られたオリジナルアニメの冒頭として,理想的な作りだと言えるだろう。
ぷりんとせるふ:高低差で見せる
そしてこの世界観のコントラストは,ぷりん(須理出未来)とせるふのキャラにそのまま反映されている。成績優秀なぷりんは有名高校「湯々女子高等専門学校(湯専)」に合格し,エリートコースを歩んでいる。せるふは「湯専」には受からず,滑り止めで受けた「潟々女子高等学校(潟女)」に通い,のんびりと日々を過ごしている。ぷりんはそんなせるふのスローライフにイライラしながらも,常に彼女を気にかけている様子だ。「未来はAIによるフルオートメーション化。人間は手作業どころか,何もしなくてよくなるのよ!」と豪語するぷりんは,毎日自動運転のスクールバスで通学している。それに対し,せるふはのんびりと自転車に乗りながら「何もしなくてよくなる未来かー。何もしなくてよくなったらー何しようかなー」と独り言つ(ともにすてっぷ②のセリフ)。
この2人の関係性が〈高低差〉で表されているのがとても面白い。2人の家は坂道の途中にあり,せるふの家よりもぷりんの家(門やキーロックがオートメーション化されている)の方がやや高みにある。したがって帰宅時などの会話は,常にぷりんがせるふを見下ろすような構図になる。
さらに面白いのは,2人が通う「湯専」と「潟女」のロケーションだ。どういうわけか,前者が後者を内包するような構造になっており,校舎に高低差もある。自然,湯専にいるぷりんは潟女のせるふや「DIY部」を見下ろす構図になる。
エリート高に通うぷりんと平凡高に通うせるふとの“上下関係”を物理的に視覚化した,少々えげつない構図だ。文字通りの“上から目線”である。しかし見過ごしてはならないのは,2人が自宅で窓越しに会話するカットでは,この〈高低差〉が(家の立地には高低差があるにもかかわらず)まったく存在せず,2人の目線のレベルが等しくなっている点である。
幼馴染であるせるふとぷりんは,小さい頃は同じ目線で向き合い,同じ目線で遊んでいた。常にせるふのことを気にかけるぷりんの苛立ちは,ぷりんそのものに対する苛立ちであるというよりは,ぷりんが自分と同じ高校に進学しなかったことで〈同レベル目線〉が崩れてしまったことに対する苛立ちなのかもしれない。おそらく,彼女はせるふを見下ろしたくなどないのだ。自宅の窓越しの会話は,2人が心の“ホームポジション”に立ち戻っていることを暗示しているのかもしれない。このような人間関係の機微を物理的なロケーションで示す手法は,高く評価されて然るべきだ。
デフォルメとリアリズム:ディテールで見せる
そして言うまでもなく,本作最大の見どころはDIYの作業風景だ。YouTuberとしても活躍するスワロ監修のもと,工具の造形や動作,それを扱うキャラクターの所作が丁寧に再現されている。
松尾祐輔の適度にデフォルメされたキャラと,細部まで描きこまれたDIYギアが違和感なくなじむ。これはひとえに,キャラクターのモーションが丁寧に作り込まれているからだろう。近年,『けいおん!』(2009年),『ガールズ&パンツァー』(2012年),『スーパーカブ』(2021年)など,アニメらしい柔らかなデフォルメキャラ(多くは女の子)と工学系のハードなギアが出会う物語の系譜が出来上がりつつあるが,こうした作品において〈デフォルメ〉と〈リアリズム〉のマッチングが成功するための1つのポイントが,キャラクターのモーションだと思われる。『Do It Yourself!!』はその辺りを十分にクリアしている作品だ。
先述したように,決して派手な存在感のアニメではないが,細部まで読み解いていくと色々なものが見えてきそうだ。「2022年 秋アニメは何を観る?」の記事では挙げなかった作品だが,最終話まで見届けようと思う。
作品データ
*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど
【スタッフ】
原作:IMAGO,エイベックス・ピクチャーズ/監督:米田和弘/シリーズ構成・脚本:筆安一幸/キャラクターデザイン:松尾祐輔/プロップデザイン:米森雄紀,加藤けえ/DIYデザイン・監修・指導:スワロ/美術監督・設定:岡本有香/色彩設計:坂上康治/撮影監督:浅黄康裕/編集:定松剛/音響監督:郷田ほづみ/音楽:佐高陵平(Hifumi,inc.)/アニメーション制作:PINE JAM/オフィシャルパートナー:株式会社 髙儀/オフィシャルサポーター:三条市/製作:DIY!!製作委員会
【キャスト】
せるふ:稲垣好/ぷりん:市ノ瀬加那/くれい:佐倉綾音/たくみ:和氣あず未/しー:高橋花林/ジョブ子:大森日雅/法華津治子:かかずゆみ
【すてっぷ①スタッフ】
脚本:筆安一幸/絵コンテ・演出:米田和弘/作画監督:松尾祐輔
【すてっぷ②スタッフ】
脚本:筆安一幸/絵コンテ:笹木信作/演出:ソガメグミ/作画監督:江畑諒真,茂木海渡,新井博慧
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