アニ録ブログ

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TVアニメ『お兄ちゃんはおしまい!』(2023年冬)第4話の演出について[考察・感想]

 *この記事は『お兄ちゃんはおしまい!』「#04. まひろとあたらしい友達」のネタバレを含みます。

「#04. まひろとあたらしい友達」より引用 ©︎ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

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今回の記事では,ねことうふ原作/藤井慎吾監督『お兄ちゃんはおしまい!』(以下『おにまい』)の各話レビュー第2弾として,柿木田隼人が絵コンテ・演出を手がけた「#4. まひろとあたらしい友達」に注目してみたい。前回取り上げた伊礼えりの第4話と比べれば,構図や画角といった点では比較的おとなしめの作りだが,丁寧な日常芝居が目を引く優れた話数である。 

 

変身その1:転倒する変身譚

アバンは,東映ニチアサ風「魔法少女ニコララ」(CV:えなこ)の場面から始まる。あたかも,〈変身〉がこの話数のライトモチーフであることを予告しているかのようだ。

「#04. まひろとあたらしい友達」より引用 ©︎ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

ニコララの変身バンクを見て感動したまひろは,思わず鏡の前で真似をしてしまうが,その姿をみはりに見られて気まずい思いをする。ますます女児化していくまひろと,ますます姉化していくみはりのコントラストをコミカルに描いた微笑ましいシーンだ。本作の物語が〈ニート兄→かわいい妹〉〈妹→姉〉というロールチェンジ=変身の物語であることを改めて印象付けるような導入部である。

「#04. まひろとあたらしい友達」より引用 ©︎ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

さらに面白いのはこの後のシーンだ。みはりが大学に泊まり込むために出かけていった後,家に独り残されたまひろは,以前の「ニートTシャツ」に着替えてはしゃぐ。意図的な演出かどうかはわからないが,この際のまひろの様子が「ニコララ」変身時の所作と重なっているのが面白い。この時,まひろは女の子からニートへ一時的に“変身”する。つまり“変身”の意味合いが転倒しているわけだ。すでにまひろにとって,“女の子=みはりの妹”であることが日常であり,“ニート”は非日常となっているのである。

 

日常芝居のリアリティ

そのことを裏付けるかのように,ほどなくして“ニート”まひろは,“姉”みはりのいない生活に強い違和感を覚え始める。カメラは,客観・主観両方の視点で,みはりの〈不在〉を捉え始める。

「#04. まひろとあたらしい友達」より引用 ©︎ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

このみはりの〈不在〉を確かな〈不在〉として浮かび上がらせるのが,リアルな日常芝居だ。

この話数に限らず,『おにまい』という作品は,特に家の中での身体的所作を丁寧に描いているのが特徴だ。比較的ゆっくりとした動作の中で,重心の移動,衣服の動き,髪の流れ具合などをじっくりとアニメーションにしている。第4話で言えば,みはりのAパートのお辞儀のカットと,Bパートの飲み物を置いてからソファに座るカットなどがとりわけ目を引く。

「#04. まひろとあたらしい友達」より引用 ©︎ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

お辞儀をする際の膝や手の動き,ソファに座る際の白衣を抑える手の所作などが細やかにアニメートされている。こうしたリアルな日常芝居を描くことによって,あらかじめみはりというキャラの確かな〈在〉を感じさせているからこそ,逆に先ほどのような〈不在〉が際立つ。派手なアクションとはまた違った,日常系アニメーション固有の面白さを感じさせてくれる演出である。

Aパートのラストでは,家に戻ったみはりの〈在〉が改めて丁寧に描かれる。

「#04. まひろとあたらしい友達」より引用 ©︎ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

みはりがまひろの前にかがみ込み,髪を梳かしてやる。その所作がとても丁寧に描かれており,「#2. まひろと女の子の日」の銭湯のシーンを彷彿とさせる。みはりの確かな〈在〉がまひろの心内に染み渡り,まひろは思わず“姉”みはりに甘えてしまう。こうしてニートへの“変身”という束の間の魔法が解かれたまひろは,再び妹という“日常”へと回帰する。

 

変身その2:交差する〈男/女〉〈百合/BL〉

この話数で描かれるもう1つの〈変身〉物語の主人公が,Bパートで登場するもみじである。

「#04. まひろとあたらしい友達」より引用 ©︎ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

初登場時,もみじはボーイッシュな身なりをしているため,まひろは男の子と間違えてしまう。しかしその後,制服姿で再登場したもみじは,すっかり女の子らしくなっており,まひろを戸惑わせる。時系列的には“男の子が女の子に変身した”ように見えるが,実は“女の子が男の子に変身していた”というわけだ。これ自体はよくあるちょっとした変装トリックだが,すでに“兄から妹へ”の〈変身〉を遂げているまひろと対になることで,キャラの面白みはぐっと増す。それを決定づけるのが,Bパートラストの“ラッキースケベ”のシーンだ。

「#04. まひろとあたらしい友達」より引用 ©︎ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

本来,男であるはずの“女の子”まひろが,本来,女であるはずの“男の子”もみじからラッキースケベを受ける。このシーンは,表層的な構図としては『エヴァンゲリオン』以来の男→女という視線を踏襲していながら,その実,“ほんのりBL風味百合ラッキースケベ男女転倒バージョン”とでも言えそうな複雑な関係性を含んでいる。〈男/女〉〈百合/BL〉という関係性の中でキアスムが生じ,単純な“男性目線でのエロ”は相対化される。

 

〈変身〉というモチーフを中心に据えながら,TSFとしての本作の複合的な面白さを引き出した優れた話数である。そしてこの作品は,新しいキャラが登場するたびに主人公・まひろのキャラが徐々に更新されていくという作りになっている。今後のキャラの展開も楽しみにしよう。

 

 

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:ねことうふ/監督:藤井慎吾/シリーズ構成:横手美智子/キャラクターデザイン:今村亮/美術監督:小林雅代/色彩設計:土居真紀子/撮影監督:伏原あかね/編集:岡祐司/音響監督:吉田光平/音響効果:長谷川卓也/音楽:阿知波大輔桶狭間ありさ/プロデュース:EGG FIRM/制作:スタジオバインド

【キャスト】
緒山まひろ:
高野麻里佳/緒山みはり:石原夏織/穂月かえで:金元寿子/穂月もみじ:津田美波/桜花あさひ:優木かな/室崎みよ:日岡なつみ

【「#4. まひろとあたらしい友達」スタッフ】
脚本:
横手美智子/絵コンテ・演出:柿木田隼人/総作画監督:今村亮作画監督:佐藤利幸新海良佑西谷衆平/作画監督補佐:永山歩実ヘインみやち向川原憲山﨑匠馬

 

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