*この記事は『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』「#10 アキラ オブ ザ デッド」のネタバレを含みます。
麻生羽呂・高田康太郎原作/川越一生監督『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』の放送が始まった。当ブログでは当初から注目していた作品だが,監督の川越が絵コンテ・演出を手がけた第1話は,巧みなレイアウト,強烈な色彩,ハイセンスな劇伴と,きわめて情報量の多い演出によって期待を上回る仕上がりになっていたと言える。その卓越した技を詳しく見ていこう(ちなみに今回紹介するカットはほぼアニメオリジナルである)。
ゾンビ系・アキラ
第1話の見せ場は,入社当時の活力溢れるアキラが,会社のブラック体質によって活力を失い,ゾンビ出現によって再び活力を取り戻すという,キャラクターのエネルギー量の変化だ。入社当初は溌剌としていたアキラだが,ブラック企業のブラックな環境の中で徐々に人間性を失っていく。そこまでの経緯を,“不気味さ”を強調した身体所作で表しているのが大変面白い。
2日連続で家に帰れないことを知った時のアキラ(上図)。小刻みに震えながら首が不自然に回転する。
個人的に注目したいのは上のカットだ。身も心も疲れ果てたアキラがフラフラと歩きながら郵便ポストに頭から激突するのだが,首の動きが不自然で面白い。まるで彼自身がゾンビになりかけているかのようだ。
極め付けは,ゾンビ出現直後,アキラがマンションの屋上に逃げるシーン。階段を駆け上がるアキラの不自然なポーズが強調されている。ドアノブに手を伸ばす腕は不自然に折れ曲がり,いわゆる“オバケ”によってその動きが誇張されている。まさしくゾンビの挙動である。ここはぜひ皆さんにも再鑑賞していただきたい。
体育会系・アキラ
しかしマンションの屋上にたどり着くと,アキラの目にはさまざまな“色”が飛び込んでくる。世界は再び彩度を取り戻す。これ以降,復活した元体育会系由来の“活力”が,ダイナミックな身体所作によって次々と表現されていく。
ゾンビ出現後,画面の彩度が上がった後のアキラの疾走シーン(上図)。実に爽快感のある心地よいシーンだ。ゾンビの股下をスライディングで潜り抜け,明るい陽光を浴びながら歓喜する。彼の所作と表情だけを見るならば,まるで青春部活モノの一幕である。
特に前半のシーンでワイシャツの袖に腕を通す所作(上図左)や,ゾンビ化した社長に啖呵を切った後,ネクタイをほどき捨て去る所作(上図右)など,ややきつめにパースを効かせたカットも目を引く。体育会系・アキラの“かっこよさ”を強調したカットだ。
無彩色から有彩色の世界へ
そして第1話で最も注目すべきは色彩の演出だ。アキラの心情変化を表した色の彩度変化は,この話数の中でも一番の目玉だ。
ゾンビが出現する前までのアキラの世界は完全に彩度を失い,彼自身の顔もゾンビさながらだ。しかし彼が管理人室のゾンビを目にするや,まるで「スプラトゥーン」,あるいはジャクソン・ポロックのような高彩度の色彩が画面を彩り始める。
この色彩演出はもちろんモノクロである原作コミックにはない。そのアイディアの出所に関しては今のところ明らかにされていないが,原作のカラー表紙の色合いを基にした可能性は考えられる(もちろん「日5」という放送時間帯に関する配慮もあったろう)。
いずれにせよ,アキラというキャラのエネルギー量の変化を表すのに,ゼロ彩度の世界と彩度の高い純色の世界とを対比させたのは秀逸なアイディアだ。セリフのレベルでは「青い空ッ!緑の木々ッ!真っ赤な血ッ!」(原作通り)と「青・緑・赤」の3色のみだが,ここに黄色やピンクなどのビビッドな色が加わることで,アキラの豊かな心象世界が強調されている。アニメという媒体の特性を存分に活かした演出である。
川越一生の技
監督の川越一生と言えば,『古見さんは,コミュ症です。』(第1期:2021年/第2期:2022年)が記憶に新しい。スタイリッシュな空間描写や美しい光源による演出など,彼の演出の“技”は『ゾン100』の中でも遺憾無く発揮されている。例えば,どちらの作品にもフキダシや文字列が空間に貼り付けられたような描写があるが,この独特な空間表現はとても面白い。
『ゾン100』は『古見さん』と比べアクションが多い作品なだけに,川越監督の更なる“技”が披露される可能性がある。今後の話数に大いに期待しよう。
作品データ
*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど
【スタッフ】
原作:麻生羽呂 ,⾼⽥康太郎/監督:川越⼀⽣/副監督:上⽥華⼦/シリーズ構成:瀬古浩司/キャラクターデザイン:田中紀衣/ゾンビデザイン:福地純平/音楽:宮崎誠/選曲:合⽥⿇⾐⼦/⾳響制作:dugout/アニメーション制作:BUG FILMS
【キャスト】
天道輝/アキラ:梅⽥修⼀朗/三日月閑/シズカ:楠木ともり/竜崎憲一朗/ケンチョ:古川慎/ベアトリクス・アメルハウザー:髙橋ミナミ
【「#1 アキラ オブ ザ デッド」スタッフ】
脚本:瀬古浩司/絵コンテ・演出:川越一生/演出助手:上田華子/総作画監督:烏宏明/作画監督:福地純平,小川茜,香月麻衣子,齋藤魁
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