*この記事にネタバレはありませんが,各作品の内容に部分的に言及しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。
今回の記事では,現在放送中の2024年春アニメの中から特に優れたOP・EDを紹介する。タイトルの下にノンクレジット映像を引用してあるので,ぜひご覧になりながら記事をお読みいただきたい。なお,通常のランキング記事と同様,一定の水準に達した作品を取り上げる方針のため,ピックアップ数は毎回異なることをお断りしておく。
- 5位:『うる星やつら』 第4クールED
- 4位:『この素晴らしい世界に祝福を!3』ED
- 3位:『アストロノオト』OP
- 2位:『終末トレインどこへいく?』OP
- 1位:『響け!ユーフォニアム 3』ED
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5位:『うる星やつら』 第4クールED
【コメント】
前クールで『薬屋のひとりごと』第2クールOPを手がけていたイシグロキョウヘイ。今回彼が手がけた『うる星やつら』第4クールOPもたいへん魅力的な仕上がりだ。軽やかなピアノ曲に合わせ,ラムをモチーフとしたアイコンが教室の机の上を舞う。あたるが何かを探している。彼はラムのツノらしきものを見つけて手に取るが,すぐに消えてしまう。宇宙に現れた白い“無”の周りを回転し始めるあたる。その目には涙が浮かび,窓際で手を振るラムの姿が映る。彼はどこからともなく現れたハートを手につかむが,それもやはり儚く霧散してしまう。ラムのいる“日常”はいつか終わってしまうのか。最終クールにふさわしい暗示的なアニメーションだ。
【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出・3D:イシグロキョウヘイ/作画監督:清丸悟
【主題歌】MAISONdes「春紛い feat. アユニ・D,ニト」
作詞・作曲・編曲:ニト。 うた:アユニ・D
4位:『この素晴らしい世界に祝福を!3』ED
【コメント】
ちょむすけがどこかから拾ってきたジャイアントトードのオタマジャクシ。カズマ一行はしばらくの間世話をした後,無事トードの夫婦に送り届けるのだが,なぜか(いつも通り)アクアが襲われるというストーリー。制作会社が変わったことによりややテイストが変わった本作だが,“作画の遊び”は相変わらず健在だ。特にEDアニメーションでは意図的な作画の“崩し”によって,本作独自のユルさが存分に楽しめる映像になっている。脱力感たっぷりのキャラソン「あの日のままのぼくら」もこのアニメーションの作風にぴったりマッチしている。
【アニメーションスタッフ】
コンテ:金崎貴臣/演出:安部祐二郎/作画監督:竹本佳子,牛ノ濱由惟
【主題歌】アクア・めぐみん・ダクネス「あの日のままのぼくら」
作詞・作曲・編曲:佐藤良成
3位:『アストロノオト』OP
【コメント】
アニメーションも主題歌も隅々まで“昭和感”がぎっしり詰まったOP。しかし(これは本編もそうなのだが)昭和的な価値観が灰汁のように漏れ出てしまったというような作りではなく,昭和感から抽出した懐かしい爽やかさを素材に美味な料理を作ったという印象だ。山下清悟の手がけるアニメーションも緻密で見応えがある。その意味で単なる古さよりもむしろ新しさを感じるし,とても好感の持てるOPだ。特にミラと拓己を隔てる踏切や電柱に隠れる葵のカットなどは,このOPのテイストに絶妙にマッチしている。降幡愛の歌う「ホホエミノオト」の昭和再現度も見事なまでに高く,この作品になくてはならない要素になっている。
【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出・撮影・編集:山下清吾(スタジオクロマト)/作画監督:あおきまほ
【主題歌】降幡愛「ホホエミノオト」
作詞:森雪之丞/作曲:本間昭光/編曲:本間昭光
2位:『終末トレインどこへいく?』OP
【コメント】
「7G事件」以降の不条理な世界改変と少女たちの友情を描いた『終末トレインどこへいく?』。OPアニメーションは,そうした本作の世界観とテーマを的確に要約した作りになっている。
冒頭,街→地球→宇宙を捉えた映像が葉香の不安げな眼に映り込む。彼女の行動が世界改変の発端となったことを暗示する。その眼差しは電車の向こうにいる静留の強い眼と重なり,2人の深い関係性が物語のコアにあることが示される。
キャラ紹介のカットでは,モノクロの背景にそれぞれのイメージカラーで彩色されたキャラが映し出される。構図そのものは日常風景のそれだが,どこか不穏で不可思議な雰囲気を醸し出している。しかしその一方で,本作のモチーフである〈電車での冒険〉の楽しさを伝えるカットも挿入されており,陰陽入り混じった描写が面白い。
中島怜の歌う「GA-TAN GO-TON」は,そうした“不可思議”と“陽気”を同時に伝えるユニークな主題歌だ。いわゆる“流行り”の路線とは違う作りかもしれないが,作品の世界観に寄り添った優れた楽曲である。
終盤では再び静留と葉香の関係性が描かれる。電車の座席に離れて座る2人。その手は最後に触れ合うことになるのか。最終話まで見届けることにしよう。
【アニメーションスタッフ】
絵コンテ;maxilla,二子石和郎/演出:maxilla,二子石和郎,村川直哉/作画監督:西田亜沙子
【主題歌】中島怜「GA-TAN GO-TON」
作詞・作曲:姉田ウ夢ヤ,堀下さゆり/編曲:姉田ウ夢ヤ
1位:『響け!ユーフォニアム 3』ED
【コメント】
パステルカラーを中心とした色彩によって全体的にファンシーなルックに仕上がっているが,その実,第3期のテーマを反映した深いメッセージ性がある。その意味で,今クールの中でも最も強い存在感を放つOPアニメーションである。
第2期のEDと同様,「北宇治カルテット」の4人が桃色,黄色,水色,薄紫色と,色とりどりの制服を身につけて登場する。
彼女たちの背後にはカラフルなピアノの鍵盤を思わせる柵があり,さらにその後ろには久美子=サクラ,緑輝=カツラ,葉月=イチョウ,麗奈=ヤドリギのように,春夏秋冬を代表する植物が配されている。本作のメインテーマである音楽性に加え,時の移り変わりを克明に暗示している。「久美子3年生編」として物語が終盤を迎えようとしている今,このビジュアルメッセージは意義深い。高校生活は“終わらない日常”ではないのだ。
4人は思い思いのポーズでカメラを構え,何かを撮影する素振りを見せる。一見無邪気な仕草に見えるが,このカメラは明らかに本編第五回「ふたりでトワイライト」と第七回「なついろフェルマータ」で登場した,あの真由のカメラを示唆している(ちなみにOPアニメーションを手がけが山村卓也は第七回でも絵コンテ・演出を担当している)。真由は結局,〈見る主体〉としての自己と〈見られる主体〉としての自己の両方を消去してしまったわけだが,久美子たちはどうだろうか。
部活動の風景を写した後,4人がファインダー越しに眼差すのは,自分自身の過去から現在までの姿だ。好むと好まざるとにかかわらず,未来へ向かう時の流れの中に生きる彼女たちは,ここで一度,現在完了というアスペクトにおいて自己の過去を省みようとしているのかもしれない。
第5回には現在の久美子と過去の久美子が重なるカットがあるが,人が本当の意味で未来へ志向する時は,むしろ過去の自分と真剣に対峙しなければいけないのだろう。そんなことを考えさせるアニメーションだ。
北宇治カルテットが歌う主題歌「音色の彼方」のセカンドコーラスには,「楽譜は右に 音は前に進む」という歌詞がある。「音色」は否応なく未来へと進む時間そのものである。4人がそれぞれの植物を宙に投げる様子は,まるで「音色」という時間性の彼方へと自己の可能性を投企しているかのようにも見える。
終盤のシーンでは,4人の頭の上には風に靡くヴェールが見られる。このシーンは多義的だが,だからこそ豊穣な意味を持っている。保護,仮面,遮蔽。彼女たちはそれを取り払おうとしているようにも見えるし,逆に手放すまいとしているようにも見える。人は未来を見通すことはできない。未来を眼差す彼女たちのファインダーには常にヴェールがかけられ,その視界を遮り続けることだろう。しかしそれは完全な不透明ではないのだ。
【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:山村卓也/作画監督:池田和美/原画:髙橋真梨子
【主題歌】北宇治カルテット「音色の彼方」
作詞・作曲:ZAQ/編曲:白戸佑輔
以上,当ブログが注目した2024年春アニメOP・ED5作品を挙げた。今年の春アニメもすでに終盤に差しかかっているが,今後の鑑賞の参考にしていただければ幸いである。
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