*この記事にネタバレはありませんが,各作品の内容に部分的に言及しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。
今回の記事では,現在放送中の2024年夏アニメの中から特に優れたOP・EDを紹介する。タイトルの下にノンクレジット映像を引用してあるので,ぜひご覧になりながら記事をお読みいただきたい。なお,通常のランキング記事と同様,一定の水準に達した作品を取り上げる方針のため,ピックアップ数は毎回異なることをお断りしておく。
5位:『小市民シリーズ』ED
【コメント】
ED映像の大半を実写映像が占める,いわゆる“実写ED”。影や光源を調整することによって,アニメーションのキャラを実際の風景(岐阜市)の中に自然な形に溶け込ませているが,その自然さが却って奇妙な“実在感”を生み出している。“現実の中に違和を呼び込む”という本編の演出手法にもマッチした映像だ。制作を手掛けたのは映像作家の田島太雄。なお,田島は本作と同じラパントラック制作・幾原邦彦監督『さらざんまい』(2019年)でも,同様の実写EDを制作している。
【アニメーションスタッフ】
映像ディレクター:田島太雄/VFX:山口将(Ydot.inc)/Data Manager:ワキサカワタル/演出:長友孝和/作画監督:具志堅眞由(Production I.G新潟)
【主題歌】ammo 「意解けない」
作詞・作曲:岡本優星/編曲:ammo
4位:『かつて魔法少女と悪は敵対していた。』OP
【コメント】
とにかく可愛い。そもそも本編自体が,それなりに諸々の要素を含む原作から“可愛い”を抽出した作りになっているのだが,OPアニメーションはさらにそれを濃縮&パッケージングしたような映像だ。映像の大半は,白夜そのものを象徴するパステルカラーで彩られ,そこに“悪”としてのリラの黒が時折挿入される。しかしその2つの色は,「敵対」というよりは「相愛」と呼ぶに相応しいほど馴染んでいる。絵コンテ・演出は大橋明代監督,色彩設計は後藤ゆかり。両名の卓越したセンスが光る名OPだ。(ちなみに下図中央のツインテールは白夜。)
【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:大橋明代/作画監督:新井伸浩/色彩設計:後藤ゆかり
【主題歌】Lezel「未完成ランデヴー」
作詞・作曲・編曲:夏目縋
3位:『負けヒロインが多すぎる!』ED
【コメント】
話数ごとに八奈見杏菜,焼塩檸檬,小鞠千花をフィーチャーしたEDアニメーション。第1話〜第4話の八奈見ver.では,8ミリカメラによる実写映像とセルアニメーションという“オールドメディア”が使用されたことが話題となった。また実写映像とアニメのキャラの“不整合”をあえて狙ったという点では,先述の『小市民シリーズ』EDと対照的と言えるかもしれない。第5話〜7話の焼塩ver.は,焼塩の“夢と願望の世界”をシティーポップ風のアニメーションで描いている。本編では見られない彼女の別側面を垣間見るような映像だ。第8話以降の小鞠ver.は,水彩画の絵本のような世界観によって,隠キャ&ギャグ担当の裏に見え隠れする彼女の“女の子らしさ”を表現している。八奈見ver.を手掛けた巡宙艦ボンタと小鞠ver.を手掛けた青瀬きいろは,Xでメイキング映像を公開している(下記リンク参照)。なお,本記事執筆時点(第9話)では小鞠ver.が使用されているが,おそらく今後は別バージョンのEDが披露されることが予想される。
ED映像のメイキングです セルとドリーを組み合わせた新案の撮影方法をはじめ、作品内容や曲の元気なイメージをどう表現するかを軸にいろいろと試しました。買い物カゴにカメラを固定したり、あをいさんが頑張ってくれた領域ですが、タイムラプス撮影や作画との合成なども行っています #マケイン pic.twitter.com/2wIukI3sua
— 巡宙艦ボンタ (@bonta634) 2024年7月13日
【負けヒロインが多すぎる!】
— 青瀬きいろ (@AOSE_KIIRO) 2024年8月31日
エンディングアニメーションのメイキングです。たくさん塗りました…‼︎絵の具はシュミンケ、ホルベイン、W&Nなど、紙はウォーターフォード紙を使用してます。#マケイン#水彩アニメーション pic.twitter.com/4gKAhXxh9Z
◇ 八奈見杏菜ver.
【アニメーションスタッフ】
巡宙艦ボンタ
【主題歌】八奈見杏菜(CV. 遠野ひかる)「LOVE 2000」
作詞:hitomi/作曲:鎌田雅人/編曲:村田祐一
◇ 焼塩檸檬ver.
【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:須藤瑛仁/キャラクターデザイン・作画監督:山﨑爽太
【主題歌】焼塩檸檬(CV.若山詩音)「CRAZY FOR YOU」
作詞・作曲:磯貝サイモン/編曲:村田祐一
◇ 小鞠千花ver.
【アニメーションスタッフ】
コンテ・演出・水彩着彩・撮影:青瀬きいろ/作画:青瀬きいろ,前田芽美
【主題歌】小鞠千花(CV.寺澤百花) 「feel my soul」
作詞・作曲:YUI/編曲:村田祐一
2位:『逃げ上手の若君』OP
【コメント】
冒頭,独りで歩いていた時行の周りに,弧次郎,亜也子,雫,吹雪,玄蕃ら「逃若党」の面々が颯爽と姿を現す。
幕府を滅ぼされ孤立無縁だった時行を郎党として支える5人。本編の筋立てをコンパクトに示した的確なカットだ。玄蕃だけ登場の仕方を変えてキャラを立てせているのも面白い。
この作品は適役の尋常ならざる存在感も魅力だが,OPアニメーションでもその辺りがきっちり抑えられている。特に尊氏の“目玉”の描写は印象的だ。
色彩量は非常に多いが,本編と同様いわゆる“伝統色”に近い色彩設計をしているため,決してうるさくなく,綺麗にまとまっている。キャラクターデザインがよい分,これくらいパキッとした色使いした方が美観上の説得力が増すように思える。
DISH//による主題歌「プランA」もこのアニメーションと大変相性がよい。純和風の祝祭的なメロディに俄かに挿入される「プランA」というカタカナ英語。これによって日本史をベースとした本作に,ある種の“異化効果”が生まれる。本編の作風ともマッチした楽曲だ。
【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:黒木美幸/作画監督:西谷泰史
【主題歌】DISH//「プランA」
作詞:北村拓海/作曲:DISH///編曲:新井弘毅
1位:『負けヒロインが多すぎる!』OP
【コメント】
冒頭はメインヒロインの八奈見杏菜,焼塩檸檬,小鞠千花のアップから始まる。小道具や表情でしっかりとキャラ分けをしている。抜かりのない導入部だ。
スタッフクレジットが映像内に組み込まれているスタイルのアニメーションで,キャラクターが文字列とインタラクトする遊び心も面白い。カット数と映像情報量が非常に多く,ラブコメ作品冒頭の“賑やかし”として的確な演出と言える。明度の高い色彩は,比較的光量の少ない本編と綺麗にコントラストを成している。しかし決して下品ではないのがいい。
温水の読む本から「恋」の文字が飛び出し,メインヒロイン3人が翻弄される。本編を暗示するストーリー性があるのもいい。
後半はスタッフクレジットと共にサブキャラクターが紹介されていく。クレジットの文字列とキャラクターとの“共演”が,スタッフとキャラクターとの間の奇妙な親密さを生み出していて大変面白い。スタッフがアニメそのものに“参加”していると言ってもいいかもしれない。
再び「恋」がヒロインたちの前に現れるが,先ほどとは違って3人は少しアンニュイな様子だ。本編でもしばしば見られる,彼女たちのメランコリックな感情値を反映している。
本作は学園ものということもあって比較的登場人物が多いが,OPではメインヒロイン3人を繰り返し登場させることで,視聴者が追うべき対象を明確にしている。情報量の極めて多いアニメーションだが,OPとして模範的な作りであると言える。ぼっちぼろまるの主題歌「つよがるガール」も相性抜群。アップテンポでコミカルなリズムが小気味よくアニメーションを彩っている。
【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出;A-1 Pictures,菊池貴行/作画監督:A-1 Picitres,川上哲也/プロップ作画監督:木藤貴之
【主題歌】ぼっちぼろまる「つよがるガール feat. もっさ(ネクライトーキー)」
作詞・作曲・編曲:ぼっちぼろまる
以上,当ブログが注目した2024年夏アニメOP・ED5作品を挙げた。今年の夏アニメもすでに終盤に差しかかっているが,今後の鑑賞の参考にしていただければ幸いである。
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