*この記事にネタバレはありませんが,各作品の内容に部分的に言及しています。未見の作品を先入観なく鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。
今回の記事では,2024年に放送されたTVアニメの中から特に優れた話数を作品横断的に選び,ランキング形式で紹介する。各話数に関するレビュー記事も併せてご覧いただければ幸いである。
2023年と同様,今年もすべて原作付き作品である。マンガや小説を原作とする作品では,制作者が原作をどう“解釈”するかという点にこそ,アニメーションとしての媒体特性がはっきりと現れる。本記事のシリーズで原作付き作品がランクインしやすいのはそうした理由からだ(もちろん,オリジナルアニメから優れた話数が出た場合には,積極的にピックアップしていきたい)。今年も原作の魅力をブーストした個性的な話数が多く,作画・演出を深く考察するコアなファンにとっても楽しめた年だったではないだろうか。
それぞれのタイトルは,水色=冬アニメ,桃色=春アニメ,赤色=夏アニメ,茶色=秋アニメのように色分けしてある。
- 10位:『小市民シリーズ』 第2話
- 9位:『ダンダダン』 第4話
- 8位:『響け!ユーフォニアム 3』 第7話
- 7位:『ダンジョン飯』 第3話
- 6位:『逃げ上手の若君』第1話
- 5位:『響け!ユーフォニアム 3』第10話
- 4位:『葬送のフリーレン』第26話
- 3位:『逃げ上手の若君』第6話
- 2位:『響け!ユーフォニアム』第12話
- 1位:『ダンダダン』第7話
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10位:『小市民シリーズ』 第2話
【コメント】
正式タイトル:第2話「おいしいココアの作り方」
“シャフ度”,鏡の反映,劇中劇によって,日常風景の中に非日常を混入させるという演出。『化物語』(2009年)にも参加経歴のある武内宣之の技が冴える。同じ米澤穂信作品を原作とした,京都アニメーション『氷菓』(2012年)とはまったく趣を異にした演出方針である。これを機に両作品を比較してみるのもいいだろう。
【スタッフ】
脚本:大野敏哉/絵コンテ・演出:武内宣之/演出補佐:高野やよい/総作画監督:具志堅眞由(Production I.G.新潟)/作画監督:西島央桐,豊田暁子,[杭州神在動画]王渝・张曦萦・周俊杰・味增拉面,[Animore]葛歓,たけうちのぶゆき/作画監督補佐:迫江紗羅,宮田かんち
原画:豊田暁子,石川奨士,宮田かんち,中拓郎,池津寿恵,二瓶令暁,谷口繁則,大原和男,香田知樹,銀さん,M Ali,菊池一真,土屋智義,武内宣之,[志能美クリエイティブ]:Dakogoten・Orel・Romulo・Statice
【レビュー記事】
9位:『ダンダダン』 第4話
【コメント】
正式タイトル:第04話「ターボババアをぶっ飛ばそう」
ユニークな色彩,ダイナミックなアクション,コミカルなデフォルメ作画によって,原作の魅力を最大限に引き出すことに成功した話数。モモの瞳やオカルンの眼鏡の反映を用いた演出は,前編を通して反復される“ライトモチーフ”でもある。また,ラストのトンネルの霊に対するモモとオカルンの真摯な振る舞いは,後述する第7話の展開を予示しているとも言える。
【スタッフ】
脚本:瀬古浩司/絵コンテ・演出・副監督:モコちゃん/演出補佐:藤倉拓也/作画監督:野田友美,下條祐未,ヤン チャン,[Studio INK-Blue]:湯団,灰色菓兒,粉糸,阿鬼,[Fincrossed studio]:葛歡,馮亦範
原画:西垣庄子,長濱佑作,吉原拓也,力徳欽也,えーてつ,百藤,下地なるみ,姜周用,早野正樹,吉岡春野,石守源太,坂田駿,神林荘汰,李志龍,Abel Gongora,ヤン チャン,菊池有騎,エイデン グオ,ほうわ,堀内博之,黒崎隼人,宮川駿,田中宏紀,モコちゃん,[アニメアール]:吉田徹
【レビュー記事】
8位:『響け!ユーフォニアム 3』 第7話
【コメント】
正式タイトル:第七回「なついろフェルマータ」
〈見る/見られる〉という関係回路において,久美子と真由の心内に宿る〈無〉を描き出した話数。カメラアイによる隠喩も見事で,EDアニメーションとの連携が決まりに決まった話数でもある(本話数とEDアニメーションは共に山村卓也が絵コンテ・演出を手がけている)。久美子と真由の緊迫感に満ちた対話劇は,第12話の2人の対話劇と相似・対比を成している。
【スタッフ】
脚本:花田十輝/絵コンテ・演出:山村卓也/作画監督:髙橋真梨子
原画:浦田芳憲,瀨崎利恵,成松健吾,隈嵜那美,松尾翔平
【レビュー記事】
7位:『ダンジョン飯』 第3話
【コメント】
正式タイトル:第3話「動く鎧」
アニメーターの個性を押し出しつつ,TRIGGERらしい躍動感に満ち溢れた話数。原作を大胆に解釈した話数として,本作の中でも独自の存在感を放っている。絵コンテ・演出を手がけた菅野一期と原画担当の五十嵐海(共にTRIGGER所属)は,“あの”『天国大魔境』(2023年)第10話にも参加している(絵コンテ・演出は五十嵐海)。
【スタッフ】
脚本:佐藤裕/絵コンテ:菅野一期/演出:中野広大/総作画監督:竹田直樹/作画監督:菅野一期,佐藤皓宏/作画監督補佐:五十嵐海/モンスター作画監督:金子雄人
原画:黒崎知栄実,岩﨑洋子,須藤瑛仁,千葉一希,MYOUN,大井翔,森美咲,小林優子,真野佳孝,齋藤拓矢,じゅら,阿部慎吾,すしお,菅野一期,五十嵐海,米田温,鄭佳湄,千田崇史,竹内哲也,川窪達郎, 丹波弘美,浅利歩惟,大成麻子,林可爲,はるき,鳴海陽太,Nogya
【レビュー記事】
6位:『逃げ上手の若君』第1話
【コメント】
正式タイトル:第一回「5月22日」
本作が“作画アニメ”であることを初手から印象付けた話数。担当パートの詳細は不明だが,『エロマンガ先生』(2017年)や『ワンダーエッグ・プライオリティ』(2021年)などで注目された小林恵祐が原画として参加しており,極めて質の高い日常芝居が披露されている。また色彩設計のセンスもずば抜けている。
【スタッフ】
脚本:冨田頼子/絵コンテ・演出:山﨑雄太/作画監督:西谷泰史/プロローグアニメーション:Takuan Paradise
原画:河本有聖,鈴木咲花,中村七左,宮内祟,三輪修平,コーコラン健太,沢田犬二,菊地陽子,西谷泰史,Nogya,小林恵祐,濱口明,冨田真理,進藤麻耶,佐藤利幸,高野綾,渡部さくら
【レビュー記事】
5位:『響け!ユーフォニアム 3』第10話
【コメント】
正式タイトル:第十回「つたえるアルペジオ」
ユニークなカメラワークと構図で,田中あすかの特異な洞察力,彼女と中瀬古香織との関係性などを巧みに伝えた話数。2期第九回「ひびけ!ユーフォニアム」や1期第十二回「わたしのユーフォニアム」など,過去の話数のシーンを暗示した点も面白い。またラストの演説シーンにおける黒澤ともよの演技は絶品である。
【スタッフ】
脚本:花田十輝/絵コンテ:太田稔/演出:太田稔,北之原孝將/作画監督:岡村公平
原画:羽根邦広,大野由里加,疋田彩,原島彩帆,吉田愛夢舞
【レビュー記事】
4位:『葬送のフリーレン』第26話
【コメント】
正式タイトル:「#26 魔法の高み」
アニメーターの個性を活かした盛り盛りのアクションシーン,キャラクター同士の〈対峙〉の演出など,〈静〉と〈動〉の緊迫感が巧みに表現された話数。フリーレンvsフェルンという,ありえないはずの“対決”をドラマチックに描いたという点も面白い。
【スタッフ】
脚本:鈴木智尋/絵コンテ:斎藤圭一郎,原科大樹,岩澤亨/演出:森大貴/総作画監督:長澤礼子/総作画監督補佐:藤中友里/作画監督:廣江啓輔,瀬口泉,新井博慧,八重樫優翼/アクション作画監督:岩澤亨
原画:阿部純子,神取万由子,亀澤蘭,小橋弘侑,西田達三,廣江啓輔,八重樫優翼,山﨑絵美,山脇僚太,遠藤正明,大橋実,木曽勇太,銀杏豆太郎(渡邊啓一郎?),久保まさひこ,三宮哲太,湿気った皆絵馬(前並武志?),下谷早苗,橋本治奈,ひらおかえみ,平田有加,松田隼人,丸山修二,芳山優,Aditya,Mahmoud,Michael Sung,Saucelot,Saurabh Singh,ship,Vercreek,飛鴻動畫,枼瀚文,哈魯,OUTLINE,あいう
【レビュー記事】
3位:『逃げ上手の若君』第6話
【コメント】
正式タイトル:第六回「盗め綸旨,小笠原館の夜」
Aパートにおける異常な距離感覚の創出,Bパートにおける狂気の絵画性の演出。『逃げ上手の若君』という作品の“手数の多さ”が最も美麗かつ技巧的に表れた話数だ。原作に厳密に則りながらも,原作を大胆に解釈し直したこの話数は,“原作付きアニメ”のあり方の一つの解答例を示したと言えるかもしれない。
【スタッフ】
脚本:山崎莉乃/絵コンテ・演出:菊地陽子/作画監督:Nogya/作画監督補佐:高橋沙妃,三輪修平,宮内祟,上武優也,小室裕一郎,中下美湖,髙石まみ
原画:菊地陽子,柴田志朗,小磯沙矢香,三輪和宏,川原智弘,近藤高光,横山未来,深海無名,吉川由華,36.5°C,田中宏紀,Raisu,BS_kim,Hoodieboi,繁澤敬ニ,Amphibi,Muhammad Palmer,佐竹秀幸
【レビュー記事】
2位:『響け!ユーフォニアム』第12話
【コメント】
正式タイトル:第十二回「さいごのソリスト」
原作改変という英断により,これまでにない豊な思想と感情を生み出した話数。シリーズ完結編にふさわしい強度を持った脚本と演出であった。久美子が貫いた〈正しさ〉,そこに伴う〈感情〉。この2つを描いたことによって,彼女が“今この瞬間”から“未来”へと自らを投企していく様がよりリアルにイメージできるようになった。アニメ史に残る改変と言っても過言ではないだろう。
【スタッフ】
脚本:花田十輝/絵コンテ:小川太一/演出:山村卓也/作画監督:髙橋真梨子,引山佳代
原画:浦田芳憲,瀨崎利恵,安藤京平,佐藤知美,芳﨑桃代,糸川駿,松尾望生,松尾翔平,中田うの,宮城良,唐田洋,山口平,熊野誠也,野尻壮
【レビュー記事】
1位:『ダンダダン』第7話
【コメント】
正式タイトル:第07話「優しい世界へ」
アクションとドラマの混在,喜劇性から悲劇性への転調。『ダンダダン』という作品の特徴が濃縮された話数だ。アクロバティックさらさらをめぐる悲哀と,それに対するアイラの純粋な想いが美しく演出された傑作話数である。なおこの話数の絵コンテ・作監を手がけた榎本柊斗は,「2023年 TVアニメ話数ランキング」で1位とした『天国大魔境』「〈#08〉それぞれの選択」にも原画として参加している。
【スタッフ】
脚本:瀬古浩司/絵コンテ・作画監督:榎本柊斗/演出:松永浩太郎/副監督:モコちゃん/作画監督補佐:奥谷花奈
原画:伊藤香奈,奥谷花奈,ゼロ,柴田海,今井史枝,中村七左,長濱佑作,じゅら,力徳欽也,関口亮輔,nasiijau,姚杰善,加藤ていいち,えーてつ,小琳,姚松林,早野正樹,赤松香穂,羅雄韜,石守源太,マッケルゴ ニック,Abel Gongora,榎本柊斗
【レビュー記事】
以上,2024年TVアニメ名話数の中から,今年度は10作品を挙げた。この記事を参考に,改めて各作品を再鑑賞していただければ幸いである。
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