アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

2024年 アニメランキング[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品について簡単なコメントを付しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,下の目次から「ランキング表」へスキップするなどしてご覧ください。

2024年アニメの鑑賞数は,TVシリーズが60作品(2クールにまたがる作品は別作品としてカウント),劇場版が21作品(前後編に分かれているものは別作品としてカウント)だった。

以下,「TVアニメランキング(10作品)」「劇場アニメランキング(10作品)」「総合ランキング(20作品)」に分け,当ブログの基準による2023年のランキングをカウントダウン方式で紹介する。視認性を考慮し,TVアニメは青字劇場アニメは赤字にしてある。また各セクションの最後にはコメントなしの「ランキング表」を掲載してある。未視聴の作品がある場合には,「ランキング表」だけをご覧になることをお勧めする。

 

TVアニメランキング

10位〜6位

10位:『チ。-地球の運動について-』(秋)

anime-chi.jp

【コメント】
秋アニメランキングの第5位として挙げた作品。例えば『ダンジョン飯』『逃げ上手の若君』『ダンダダン』などとは違って,一見したところアニメ班の独自解釈が少ない作品に見える。しかし仔細に観れば,ライティングによる明暗の付け方など,アニメにしかできない演出も随所に見られる。特に太陽や星などの光源を用いたライティングは,本作のライトモチーフである天体運動ともマッチした演出と言えるだろう。丁寧に作られた作品だけに,観る方としても細部まで丁寧に観ていきたい作品だ。

 

9位:『ネガポジアングラー』(秋)

np-angler.com

【コメント】
秋アニメランキングの第4位として挙げた作品。「釣り」。アニメ作品として一般受けするモチーフとは決して言えない。それは制作スタッフが一番よくわかっていたことだろう。しかしこの作品は,質の高い作画と演出によって,このモチーフを実に上手く捌き切った。特に決定的な鬱(ネガ)状態にある主人公を,釣り人(アングラー)たちのキャスティング(ポジ)で導くという“タイトル回収”の手つきが実に見事。最終話の締め方も絶妙で,とても爽やかな後味だった。

 

8位:『アンデッドアンラック』(冬)

undead-unluck.net

【コメント】
冬アニメランキングの第3位として挙げた作品。奇想天外な物語+ダイナミックなアクションという,いかにも少年マンガ原作らしい世界観に,驚くほどスタイリッシュな演出要素が加わった秀作だ。原作付きアニメではジャンプコミックス原作が相変わらず優勢だが,その中でも本当に面白いのは,アニメ班の独自解釈が盛り込まれた作品だ。『アンデッドアンラック』はその類の作品の筆頭と言えるかもしれない。2025年冬には「1時間スペシャル」が予定されているらしいが,現時点では情報が少ない。今後の続報を待とう。


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7位:『らんま1/2』(秋)

ranma-pr.com

【コメント】
秋アニメランキングの第3位として挙げた作品。昨今,セル時代のアニメが盛んにリメイクされるようになったが,それ自体の是非はともかくとして,『らんま1/2』はその中でも大きな成功を収めた作品となったと言える。デジタル作画最大のメリットである豊富な色彩を活かしたチャーミングな画作りは,セル時代には決して成し得なかった技だ。谷口宏美によるキャラクターデザインも,キャラをうまく現代的テイストにアップデートしている。もちろん,セル時代の旧作(1989年)にもそれ独自の魅力がある。これを機に新旧の比較をしてみるのも面白いかもしれない。

 

6位:『ダンジョン飯』(冬)

delicious-in-dungeon.com

【コメント】
冬アニメランキングの第2位として挙げた作品。TRIGGERはマンガ原作のアニメ化でもその技術力の高さを示した。それもきわめて高い水準でだ。特に菅野一期が絵コンテを,中野広大が演出を手がけた第3話などは,これまでのTRIGGER作品を彷彿とさせるダイナミックな作画や,はっとさせるほど技巧的で上手い構図が随所に見られた。単なる“原作付きアニメ”にとどまることなく,作画・演出ファンをも唸らせる高品質の作品に仕上がっていたと言える。この作品に限ったことではないが,各話演出の采配に委ねることによる作画の“ブレ”は,常に何らかの批判にあってしまうリスクを孕んでいる。しかし個人的には,TRIGGERにはTRIGGERらしい挑戦をし続けていって欲しいと思う。

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TOP 5

5位:『逃げ上手の若君』(夏)

nigewaka.run

【コメント】
夏アニメランキングの第1位として挙げた作品。「逃げ」というネガティブな行為をライトモチーフとしながらも,主人公・時行は“生きんとする意志”に満ち溢れている。そして彼を取り巻くキャラクターたちは,あるいは熱く,あるいは華やかで,あるいは勇猛だ。そんなキャラクターたちの豊かな活力を,アニメは小気味のよい作画と演出で巧みに再現している。
『ワンダーエッグ・プライオリティ』(2021年)副監督の山﨑雄太を筆頭に,優れた才能が集結したハイクオリティのアニメだ。毎話,予想もつかない演出が繰り広げられ,その手数も驚くほど多い。適度なアニオリが原作のユニークな風味をいっそう際立たせる。日本史ベースのアニメとして,ここまで豊かな表現技法を披露した作品もそう多くはないのではなかろうか。今後の展開も最も楽しみな作品である。

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4位:『Re:ゼロから始める異世界生活 3rd season』(秋)

re-zero-anime.jp

【コメント】
キャラクターの造形は柔らかいのに,起こる事象はえげつなく絶望的。しかし主人公ナツキ・スバルの類まれなる胆力が,それを(少々強引に)希望へと変える。『リゼロ』という作品の魅力がそんなところにあるとすれば,『3rd season』はこの作品の“らしさ”をこれまで以上にブーストしたシリーズとなったと言える。総勢4名の大罪司教の「襲撃」に,スバルらはどう「反撃」するか。来年からの続編が待ち遠しい。
監督の篠原正寛とキャラクターデザイン・総作画監督の佐川遥は,スタッフ変更に伴う懸念を完全に吹き飛ばすハイレベルの手腕を披露してくれた。こうした長期展開の作品では,座組の異動が見られることは少なくないが,それによって作品の質が変化していく様を観るのも楽しいものだ。この先,『リゼロ』はアニメ化の展開の中でどう変わっていくか。その“成長”の様を今後も見届けていきたい。

 

3位:『ダンダダン』(秋)

『ダンダダン』公式Xより引用 ©︎龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会

anime-dandadan.com

【コメント】
秋アニメランキングで1位として挙げた作品。オカルト×バトル×ラブコメという少年マンガ原作らしいモチーフをベースとしつつも,霊的存在の出自や背景を丁寧に描き込むなど,物語性の高さをも示した傑作だ。山代風我監督以下アニメ班は,そうした喜劇性と悲劇性をきっちりと作画レベルに落とし込み,本作をアニメーション作品として見応えのある作品に仕上げている。その手腕は見事というほかない。
かつてサイエンスSARUと言えば,『夜は短し歩けよ乙女』(2017年)『映像研には手を出すな』(2020年)など,湯浅政明の手になるユルめの作画が持ち味だった。『ダンダダン』はその風味を残しつつも,少年マンガ原作にふさわしい,切れ味鋭い演出を披露して見せた。その意味では,制作会社の新たなポテンシャルを垣間見ることのできた作品だったとも言えるだろう。これから長期展開になることが予想される。今後の続編も大いに期待したい。

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2位:『響け!ユーフォニアム 3』(春)

アニメ『響け!ユーフォニアム』公式Xより引用 ©︎武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

anime-eupho.com

【コメント】
京都アニメーションによる『ユーフォ』シリーズ,堂々の完結である。春アニメランキングで1位として挙げた。
これまでのシリーズと比べるとひりひりとした人間ドラマが多く,かつ第12話における原作改変の件もあって,既存のファンからの批判も少なからず見受けられた。しかしシリアスでシビアな展開を描いたからこそ,そこから類まれなる思想と感情が生まれたことも確かである。同じ京都アニメーション制作の『けいおん!』(2009年)のような,ゆるっとした日常性とは真逆の方向に舵を切ることで,重厚な心理的リアリズムを描出したということだろう。当ブログとしては,監督の石原立也,脚本の花田十輝を始めとした制作陣の英断を高く評価したい。
下に挙げたレビュー記事では,〈時間〉〈正しさ〉というモチーフを軸に,久美子たちの成長の軌跡を考察した。ご一読いただければ幸いである。また,各話の演出もきわめて技巧的で見応えがある。特に優れた話数に関していくつか記事にしてあるので,ご参考にしていだだきたい。

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1位:『葬送のフリーレン』(冬)

『葬送のフリーレン』公式Twitterより引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

frieren-anime.jp

【コメント】
2023年秋から2024年冬までの連続2クール作品。2023年秋アニメと2024年冬アニメのランキングで連続1位,および2023年TVアニメランキングでも1位として挙げた作品だが,2024年も1位となった。
「エルフ」という,生の尺度がまるで異なる種族が,ミニマルな人の営みに穏やかに寄り添う様が美しいアニメーションで描かれている。第26話のようなダイナミックなアクションももちろん面白いのだが,本作の醍醐味はやはりその日常芝居だろう。ちなみに井上俊之は,これまで日本のアニメーションはアクションに偏重する傾向があり,もっと日常芝居を重視すべき旨を説いている。*1 アクションと日常芝居のバランスが上手く取れている『フリーレン』は,やはり現代アニメの中でも稀有な作品なのだろう。
また,撮影処理をギリギリまで抑え込み,作画の力を全面に押し出すという演出方針は,後述する『ルックバック』(2024年)の思想にも通じるところがある。そうした画作りの方針が,キャラクターの日常的実在感を生み出し,『フリーレン』という作品の世界観を成していく。作画技術と世界観が見事に融合した作品と言えるだろう。
すでに第2期の制作が発表されている。この類まれなる傑作を最後まで見届けよう。


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TVアニメランキング表

1位:『葬送のフリーレン』
2位:『響け!ユーフォニアム 3
3位:『ダンダダン』
4位:『Re:ゼロから始める異世界生活 3rd season』
5位:『逃げ上手の若君
6位:『ダンジョン飯』
7位:『らんま1/2』
8位:『アンデッドアンラック』
9位:『ネガポジアングラー』
10位:『チ。-地球の運動について-』

● その他の鑑賞済みTVアニメ作品(50音順)

『アオのハコ』『アストロノオト』『ATRI -My Dear Moments-』『異修羅』『異世界スーサイド・スクワッド』『WIND BREAKER』『うる星やつら』『狼と香辛料』『【推しの子】』『俺だけレベルアップな件』『ガールズバンドクライ』『怪異と乙女と神隠し』『怪獣8号』『かつて魔法少女と悪は敵対していた。』『株式会社マジルミエ』『カミエラビ GOD.app シーズン2 完結編』『君は冥土様。』『鬼滅の刃 柱稽古編』『休日のわるものさん』『薬屋のひとりごと』『この素晴らしい世界に祝福を! 3』『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』『しかのこのこのここしたんたん』『終末トレインどこへいく?』『小市民シリーズ』『戦隊大失格』『先輩はおとこのこ』『天穂のサクナヒメ』『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』『ドラゴンボール DAIMA』『菜なれ花なれ』『姫様“拷問”の時間です』『ぶっちぎり?!』『ぷにるはかわいいスライム』『僕の心のヤバイやつ 第2期』『星降る王国のニナ』『魔王2099』『負けヒロインが多すぎる!』『魔法少女にあこがれて』『真夜中ぱんチ』『無職転生 Ⅱ〜異世界行ったら本気だす〜第2クール』『メカウデ』『メタリックルージュ』『〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン』『勇気爆発バーンブレイバーン』『ゆるキャン△ 3』『妖怪学校の先生はじめました!』『夜のクラゲは泳げない』

 

劇場アニメランキング

10位〜6位

10位:『傷物語 -こよみヴァンプ-』

www.kizumonogatari-movie.com

【コメント】
2016年と2017年に劇場公開された三部作を,一つの作品としてまとめた再構成版。いわゆる総集編の類だが,数年ぶりに観て改めて傑作だということを再認識した。作画技術と演出技術のカタマリである。ゴダール風のインタータイトルとクレモンティーヌの主題歌によって,フランス映画風味に仕上げてあるのも面白い。三部作のまとめ方としてもとても綺麗に仕上がっている。

 

9位:『劇場版ハイキュー!!ゴミ捨て場の決戦』

haikyu.jp

【コメント】
3セット目,月島パートの辺りで一気にボルテージが上がる作画,主演の村瀬歩の歓喜の雄叫び,そしてラスト近辺の継続的な主観カメラと呼吸音など,特に後半の作画・演出・芝居には目を見張るものがあった。孤爪研磨というキャラクターの掘り下げ,およびお日向翔陽との関係性の描き方などもよい。本作の魅力を改めて世に知らしめた大作である。

 

8位:『きみの色』

kiminoiro.jp

【コメント】
“レンズを通して見る世界”の美しさ,“見る”という行為そのものに随伴し,介在する色彩,規律=変わらないものを小躍りさせる音楽の多幸感。2024年の劇場作品の中では,そのストーリーやメッセージ性は比較的薄味でインパクトは小さいが,“山田尚子節”が炸裂した大作である。物語と画作りのどちらに焦点を当てるかで大きく評価が変わる作品だが,おそらく監督自身は後者で伝えたいものが多かったのではないだろうか。アニメーションそのもので感動を伝えた作品であると言える。

 

7位:『劇場版 進撃の巨人 完結編 THE LAST ATTACK

shingeki.tv

【コメント】
2023年にTV放送された「完結編」の再構築版ということで,本来ならここでピックアップすべき作品ではないかもしれないが,あまりの出来の良さに取り上げた次第である。
エンドロール後の“現代編”に関しては賛否があるが,個人的にはあの映像は不可欠だったのではないかと思う。マンガ原作では感じなかったことだが,劇場で観ると,暗転明けにスクリーンに大写しになるエレン,ミカサ,アルミンの姿は僕らの“鏡像”のように見える。そこには,憎しみと争いと流血の連鎖の中で積み上げられたこの文明の,この大都市の只中で,最高の劇場環境で最高傑作を鑑賞するという壮絶な“歴史の皮肉”が感じられるのだ。現実の情勢を省みた時,『進撃の巨人』をめぐる考察はまだ終わらない。

 

6位:『化け猫あんずちゃん』

ghostcat-anzu.jp

【コメント】
俳優による実写映像をそのままロトスコープで抽出するという,実験的な手法がとられた意欲作。原作のユーモアとアニメーション技術が融合した,類稀な秀作だ。劇場版ブログラムの藤津亮太の記事にある通り,ロトスコープを使うことで,逆にアニメーションという媒体の特性がはっきりと打ち出された作品になっている点も面白い。現代におけるロトスコープの特異な使用例としても記憶に留めるべき作品だろう。

 

TOP 5

5位:『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく!Re:/Re:Re:』

bocchi.rocks

【コメント】
最近の「総集編」は「総集編」だからと高を括ってはいけない。特典やグッズばかりに頼らず,ファンの足を確実に劇場に向けるべく,作品そのものに付加価値を盛り込む作品が多く見られるようになった。とりわけ本作は,これまでのアニメ総集編の中でもトップクラスの出来栄えと言ってよいだろう。
特に『ぼっち・ざ・ろっく』という作品は,劇場という“箱”と相性がいい。場面によっては,TV放送よりも映えた部分もあったように思う。ガールズバンドものという特性上,特に音響面では劇場の環境にアドバンテージがある。今後も劇場作品としての展開を期待したい作品である。
斎藤圭一郎監督を始め,若く優れた才能が集まって出来上がった作品だということを改めて実感した。今後も末長く愛される作品になることを願う。

 

4位:『劇場版モノノ怪 唐傘』

www.mononoke-movie.com

【コメント】
2006年の『怪〜ayakashi〜』と2007年の『モノノ怪』を観た時の衝撃が忘れられない。画面から匂い立つような映像の色気,アニメを観ることの快楽。“日本産アニメ”の打ち出し方としてこのような方法があるのかと,痛く感心した覚えがある。
それから20年近く経った今,『モノノ怪』は現代技術の粋を集め,新たな装いで生まれ変わった。2007年TV版よりも3D空間を強調して構築し(カメが奥方向に連行されるカットがわかりやすい),和紙テクスチャや浮世絵の2D要素との緊張感を生み出している。中村健治監督はこれを「平面と立体の戦い」(劇場版プログラムより)と呼んでいる。まさに技術の成せる技だろう。キャラクターデザインを現代風にアレンジした点も評価できる。あの“映像の色気”が技術によってアップデートされた。最新技術による過去作の“リサイクル”として,成功例の1つとなったと言えるだろう。

 

3位:『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』

『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』公式HPより引用 ©︎2024 劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」製作委員会

movie-umamusume.jp

【コメント】
アニメ作品の展開として見た場合,『ウマ娘』のようなコンテンツはとかくマンネリ化しやすい。しかしこの作品はシリーズを重ねるごとにその印象を更新し,当初見られたフェミニンな可愛さが程よく中和されつつある。『ウマ娘』というコンテンツにおける「プリティー」の意味は変容しつつあると言える。

『新時代の扉』もキャラ造形や作画・演出の面で,これまでとはまるで異なる“ウマ娘テイスト”を打ち出してきた。特にアグネスタキオンというキャラのマッドサイエンティストぶりはたいへん見応えがある。本作最大のインパクトと言えるだろう。まさに「新時代の扉」である。

ちなみに本作には『葬送のフリーレン』(2023年)などの伏原あかねが撮影監督として参加している。『フリーレン』とはまったく方向性の異なる撮影処理が見られるので,撮影技術を学ぶ素材としても適した作品かもしれない。

 

2位:『数分間のエールを』

『数分間のエールを』公式Xより引用 ©︎「数分間のエールを」製作委員会

yell-movie2024.com

【コメント】
空の星は見えない。しかしそれは確かにそこにある。見えないからこそ,人は星を求める。存在の“否定”によって存在の“実在”を輝かせる。花田十輝の脚本が冴える。
花田と言えば,2024年は『響け!ユーフォニアム 3』『ガールズバンドクライ』『天穂のサクナヒメ』など,彼の活躍が目立った年だった。特に本作と『響け!ユーフォニアム 3』に関しては,“否定による実存の強化”というメッセージが作品の奥底で共通した水脈を成しているように感じる。花田脚本の考察ポイントとして,この2つの作品を比較してみるのも面白いかもしれない。
クリエイターへの賛歌というテーマや68分という尺など,後述する『ルックバック』との共通点が多いのも興味深い。3DCGと手描きアニメというルック面での違いこそあれ,作り手への強い思いが創作の原動力となるという,ある種の自己言及性が共通して見られる。また,短い尺の中に凝縮された表現の強度のようなものも両作品から感じられる。このフォーマットによるアニメ映画の可能性を感じることができた作品だ。

 

1位:『ルックバック』

『ルックバック』公式Xより引用 © 藤本タツキ/集英社 ©︎2024「ルックバック」製作委員会

lookback-anime.com

【コメント】
そもそも藤本タツキの原作だけで,作品の存在感としては十分だった。衝撃的なエピソードと深いメッセージ性は,本来この作品が向けられたクリエイターのみならず,一般の読者の心にも強く響いた。重層的な物語構造は様々な考察を呼んだ。現代の読み切りマンガの中で,これほどまで多様な解釈がなされた作品もそう多くないだろう。
しかし押山清高監督は,そこにアニメーション作品としての付加価値を盛り込んだ。そしてそれに成功した。原画の描線の生々しい勢いと卓越した背景動画の妙(これに関しては井上俊之の技に依るところが大きい)は“描き手への賛歌”というメッセージ性を補強し,随所に仕込まれた〈反射〉の描写は“ルックバック”というタイトルの意味作用をいっそう豊かにした。主演2人の演技は,藤野と京本というキャラクターに強い実在感を付加した。美しい劇伴と主題歌は,それ自体が能弁な語り部であるかのように,作品に潜在していた感情を顕在化した。マンガ原作とは一味も二味も違う,深い感動がそこから生まれたのである。
58分という尺の短さも,この作品の成功に寄与した一因と言える。本来アニメ制作において欠かせない主線のクリーンナップを極力抑えるべく少人数の制作体制にし,かつ監督が作品全体のニュアンスをコントロールするためには,この程度の尺がギリギリのラインだろう。結果,押山監督の個性が発揮された統一感のある作品に仕上がった。ちなみに当ブログが最初に短尺のアニメ映画に注目したのは2020年の『海辺のエトランゼ』だが,その後も『どうにかなる日々』(2020年),『サマーゴースト』(2021年),そして今年の『数分間のエールを』など,短い尺の良作が定期的に生まれている。共通点としては,やはり監督の“色”が強く押し出されている点だろうか。今後もこのフォーマットで珠玉の小品が生み出されることを期待したい。

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劇場アニメランキング表

1位:『ルックバック』
2位:『数分間のエールを』
3位:『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉
4位:『劇場版モノノ怪 唐傘』
5位:『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:/Re:Re:』
6位:『化け猫あんずちゃん』
7位:『劇場版 進撃の巨人 完結編THE LAST ATTACK
8位:『きみの色』
9位:『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』
10位:『傷物語 -こよみヴァンプ-』

● その他の鑑賞済み劇場アニメ作品(50音順)
『大室家 dear sisters』『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい 特別編集版』『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章/後章』『トラペジウム』『ふれる。』『MEMORIES』(リバイバル上映)『ルパン三世 カリオストロの城』(リバイバル上映)『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』

 

総合ランキング表

最後に,TVシリーズと劇場版を総合したランキングを紹介しよう。

1位:『ルックバック』
2位:『葬送のフリーレン』
3位:『響け!ユーフォニアム 3』
4位:『数分間のエールを』
5位:『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』
6位:『ダンダダン』
7位:『Re:ゼロから始める異世界生活 3rd season』
8位:『劇場版モノノ怪 唐傘』
9位:『逃げ上手の若君』
10位:『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:/Re:Re:』
11位:『ダンジョン飯』
12位:『化け猫あんずちゃん』
13位:『劇場版 進撃の巨人 完結編THE LAST ATTACK』
14位:『きみの色』
15位:『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』
16位:『らんま1/2』
17位:『傷物語 -こよみヴァンプ-』
18位:『アンデッドアンラック』
19位:『ネガポジアングラー』
20位:『チ。-地球の運動について-』

 

総評

2024年のTVアニメでは,『ダンダダン』(サイエンスSARU)『ダンジョン飯』(TRIGGER)の2つが,制作会社の個性を強く打ち出した作品として目を引いた。両制作会社の技術力を改めて見せつけた作品である。また『逃げ上手の若君』のように,各話の演出家の個性が発揮された作品も印象深かった。しかしいずれの作品も,単に作画や演出が独特であるというだけでなく,作品の世界観や物語性に則った画作りを追求していたように思う。『葬送のフリーレン』『響け!ユーフォニアム 3』のように,緻密に計算された作画と演出で物語を構築した作品にも同じことが言える。去年も同様のコメントをしたが,優れた作品においては,画作りと物語性とは表裏一体なのだ。

そうした意味では,劇場アニメの『ルックバック』は,2024年の作品の中でも一際優れていたと言える。“クリエイターへの賛歌”というテーマと制作方針とをぴたりと一致させ,かつ深い感動を生み出す。押山清高という類稀な才能がなければ成し得なかった技だろう。

その『ルックバック』と,劇場アニメランキングで2位とした挙げた『数分間のエールを』で考えさせられるのは,“短編アニメ映画”というフォーマットのアドバンテージだ。尺が短いからこそ,監督の意図が隅々まで浸透しやすい。結果として,凝縮された傑作が出来上がる。この2作品はそのような実例を示した作品として評価できるだろう。今後,フォロワーとなる作品が生み出されていくかもしれない。

最後に,今年のTVアニメで唯一ランクインした『ネガポジアングラー』にも言及しておこう。その渋いテーマ性ゆえ,一般的にはあまり注目される作品ではないだろうが,その完成度の高さを過小評価すべきではない。こうした水準のオリジナル作品が継続して制作される環境が絶対に維持されるべきであるし,またこうした作品を語る批評空間が常に存在すべきなのだ。当ブログはこれからもそうした立ち位置を保ちたいと思う。

 

さて,今年最後の太陽もすでに西の空に傾きつつあり,いよいよ2024年も暮れようとしている。2025年,日本のアニメはどう変化し,どう進化しているだろうか。来年も優れたアニメ作品に出会えることを祈念しつつ。皆さま,よいお年を。

 

*1:井上俊之『井上俊之の作画遊蕩』,pp.53-63,KADOKAWA,2024年。「第四章小林恵祐と日常芝居の説得力」