*この記事にネタバレはありませんが,各作品の内容に部分的に言及しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。
今回の記事では,現在放送中の2025年春アニメの中から特に優れたOP・EDを紹介する。タイトルの下にノンクレジット映像を引用してある(『小市民シリーズ 第2期』OPはクレジットあり)ので,ぜひご覧になりながら記事をお読みいただきたい。なお,通常のランキング記事と同様,一定の水準に達した作品を取り上げる方針のため,ピックアップ数は毎回異なることをお断りしておく。
- 7位:『Summer Pockets』ED
- 6位:『ロックは淑女の嗜みでして』OP
- 5位:『LAZARUS ラザロ』ED
- 4位:『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』ED
- 3位:『アポカリプスホテル』OP
- 2位:『アン・シャーリー』OP
- 1位:『小市民シリーズ 第2期』OP
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7位:『Summer Pockets』ED
【コメント】
主題歌「Lasting Moment」の煌びやかなギターリフとともに始まるアニメーション。ほぼ止め絵だが,本編とは異なるデザインのヒロインをフィーチャーしていく様が印象的だ。昨今では作り手の個性を前面に押し出したOP・EDも珍しくなくなったが,本OPも絵コンテ・演出・原画を手がけた市松模様によるヒロイン解釈がよくわかる作りになっている。冒頭と楽曲サビにおける縦スクロールの構図(下図上段・左)なども斬新で面白い。









【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出・原画:市松模様
【主題歌】鈴木このみ「Last Moment」
作詞:新島夕/作曲・編曲:どんまる
6位:『ロックは淑女の嗜みでして』OP
【コメント】
自分たちの演奏を録画しているという体裁のアニメーション。いかにもお嬢様らしいお辞儀をした直後,4人は豹変したように激しい演奏を始める。まさに「ロック」と「淑女」の“ミスマッチ”。ジャクソン・ポロック,あるいは「スプラトゥーン」のような派手な色彩も面白い。リリーがプールに浮かぶ静的なカット(下図中段・右)と,演奏中の動的な跳躍のカット(下図下段・中)とのコントラストも印象的だ。本編ではビターガナッシュとの対バンを終えてようやく4人のまとまりが見えてきたところだが,OPでは仲良く写真を眺める様子が描かれている(下図下段・右)。BAND-MAIDの主題歌「Ready to Rock」はもはや「ロック」のレベルではないような気もするが,本作の激しい演奏魂によくマッチしている。









【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:安藤尚也/作画監督:宮谷里沙,小川玖理周
【主題歌】BAND-MAID「Ready to Rock」
作詞:SAIKI/作曲・編曲:BAND-MAID
5位:『LAZARUS ラザロ』ED
【コメント】
ハイウェイ上に大量に横たわるモノクロの人々。カメラは地面スレスレの超低空飛行でその姿を捉えていく。その中には,ダグ,クリスティン,リーランド,エレイナら「ラザロ」のメンバー,およびその指揮官・ハーシュの姿もある。彼ら/彼女らは眠るように死んでいる。あるいは死んだように眠っている。カメラは最後にパルクールの達人・アクセルの姿を捉えるが,彼だけが徐に立ち上がる。まるでキリストによって蘇ったラザロのように。カメラはアクセルの“蘇生”とともにゆっくりと飛翔し,最後に上空を舞う羽根を捉える。シンプルな作りだが,本編の真実を暗示する要素を1カットで伝えたアニメーションは実に印象的だ。









【アニメーションスタッフ】
ディレクター・原画:米山舞
【主題歌】 The Boo Radleys「Lazarus」
作詞・作曲:Martin James Carr
4位:『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』ED
【コメント】
家具や小物が所狭しと置かれた部屋。雑然としてはいるが,シティポップ調の色彩がオシャレ感を出している。上部の隅にドレープカーテンのようなものがあるため,芝居の舞台のようにも見える。ルームシェアをしているのだろうか,マチュとニャアンが入れ替わりに登場しては思い思いに振る舞う。しかし前半は2人が同時に現れることはない(やや意味深である)。日が暮れ,楽曲のサビと共に2人が乾杯し,唐突に2人パーティが始まる。夜が深まり,2人は疲れ果てて眠ってしまう。やがて夜が明け,部屋には朝日が差す。しかしそこに2人の姿はない(またもや意味深である)。本編ではマチュとニャアンが袂を分ち,別々の道を歩み始めたところだ。一見,ガーリーで賑やかなアニメーションに見えるが,よく見ると,2人の微妙な距離を感じさせる作りになっている。









【アニメーションスタッフ】
画コンテ・演出:谷田部透湖/キャラクター作画監督:小堀史絵,池田由美
【主題歌】星街すいせい「もうどうなってもいいや」
作詞:Yiuki Tsujimura/作曲:Naoki Itai,Yuki Tsujimura/編曲:Naoki Itai
3位:『アポカリプスホテル』OP
【コメント】
まだ薄暗い「銀河楼」のロビーにホテリエロボット・ヤチヨが現れ,aikoの「skirt」に合わせてダンスを踊る。他の作業ロボットはまだ稼働していない。しかし楽曲のサビとともに俄に照明が灯り,ロボットたちとタヌキ星人一家も一緒に踊りはじめる。ダンスをモチーフとしたOP・EDアニメーションには魅力的なものが多いが(最近では『スキップとローファー』(2023年)のOPなどが記憶に新しい),本作も作画・演出のレベルが極めて高く,たいへん見応えのあるOPに仕上がっている。
アニメーションの後半,ヤチヨが徐にドアの方に手を伸ばす(下図中段・右)。その先で何かの光が遠ざかっていく。彼女たちを置いて宇宙に避難した人類だろうか。ヤチヨはしばし悲しげに立ち尽くすが,すぐに笑顔を取り戻し,再び軽快に踊り出す。人類不在の地球に“生き甲斐”を見出すという本編のプロットを仄めかしているようでもある。ヒロイン・ヤチヨの魅力をうまく引き出しつつ,本編の内容をそれとなく暗示した,優れたOPである。









【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:春藤佳奈/作画監督:横山なつき,阿見圭之介
【主題歌】aiko「skirt」
作詞・作曲:AIKO/編曲:島田昌典
2位:『アン・シャーリー』OP
【コメント】
冒頭の足踏み,楽曲に完璧に合ったリズム,そして色とりどりの花。これぞThe 山田尚子という感のアニメーションである。






ふわりと膨れ上がるベッドシーツ,好奇心に光るアンの眼,プレートの上で一気に咲溢れる花。グリーンゲイブルズにおけるアンの多幸感がたっぷりと描写されている。観ているこちらもつい笑顔になってしまうほどだ。とたの主題歌「予感」とのマッチングもとてもいい。






横スクロールで人々に挨拶をしていく場面。背景の渋めのグリーンがアンの髪色と綺麗なコントラストを成している。ギルバートとダンスを踊った後,照れまくるアンの芝居(上図下段・中と右)もとてもいい。






時計の針とともに時は進み,子ども時代のアンと大人になったアンが入れ替わりに登場する。未来のアンの姿を提示しつつも,そのルーツは間違いなく幼少時代の彼女の鋭敏な感性にある,ということだろうか。マリラとマシューとの温かな関係性もよく伝わってくる。
OPという短い尺ながら,山田尚子の作品を一本鑑賞したかのような満足感が得られるアニメーションだ。
【アニメーションスタッフ】
絵コンテ・演出:山田尚子/総作画監督:小島崇史
1位:『小市民シリーズ 第2期』OP
【コメント】
ほんのり歪んだクリーントーンの印象的なギターリフに,跳ね上がるシャッフルビート。ヨルシカ「火星人」の軽快なリズムに乗せてアニメーションが始まる。
画面上ではランダムな幾何学模様が忙しなく神経質そうに踊る。やがてそれは小鳩の頭脳に吸い込まれていく(下図上段)。彼の「知恵働き」のビジュアルイメージだろうか。小佐内が髪を耳にかける。しかし下から吹き上げる風で,そのコケティッシュな仕草は台無しになってしまう(下図下段)。






軽快な楽曲とともに始まったアニメーションは,一見ポップなようでいて,どこかアイロニカルな香りを漂わせている。本編では印象的な眼のデザインがオミットされ,シルエットだけで2人のキャラクターを示しているのも面白い。OPアニメーションとしてたいへん印象的な導入である。



暗闇で着火されるライター(上図・左)。冒頭のポップカラーとは対照的に,本編の「連続放火事件」の不吉な暗示となっている。ラパントラック十八番の実写カット(上図・中と右)も効いている。



トレースシートを使った小鳩と小佐内の“デート”の描写(上図・左)。小佐内の絵が重なることで小鳩の存在感が薄くなるのも皮肉が効いている。トリュフチョコレートを火星に見立てたカット(上図・中)は,『星の王子さま』のような箱庭っぽさも感じさせて面白い。小鳩がベッドに倒れ込むのに合わせてカメラを回転させたカット(上図・右)では,大きく傾く背景が常識的な思考への“揺さぶり”のようにも思える。
周期の異なる振り子がうねるように揺れ,バラバラになったかと思えばまた一緒に揺れる描写(下図)。いわゆる「ペンデュラムウェーブ」だ。






彼ら/彼女らの心の周期のずれ,その一時的な同期。すれ違いと歩み寄り。反発と共感。別れと再会。本作らしい心の機微を実にうまく表した描写だ。振り子の球体と惑星との関係性もバランスがよく,絵としての完成度も高い。



唐突に現れる日本画風の作画(上図)。実写カットと合わせて,アニメーションという媒体への自己言及的批判の仕草にも見える。このOPを演出したイシグロキョウヘイらしい絵画的センスだ。









「火星人」ラストのギターリフに合わせ,矢継ぎ早に現れるランダムイメージ(上図)。特に新聞部のカット(上図中段)では,ギターの一音一音に合わせて門地・五日市・堂島が連続して姿を表す様が小気味いい。これも音楽にこだわりを見せるイシグロならではの演出と言える。ラストカットでは,火星から「栗きんとん」を取り出した後,小鳩と小佐内がさりげなく眼を合わせる。「互恵関係」よりも“半歩”先へ進んだ2人の目線だ。
おそらく今期アニメOPの中でも群を抜いて情報量が多い『小市民シリーズ 第2期』OP。しかしすべての要素に意味があり,たいへん分析しがいのあるアニメーションだ。文句なしの1位だろう。
【アニメーションスタッフ】
オープニングディレクター;イシグロキョウヘイ/総作画監督:斎藤敦史
【主題歌】ヨルシカ 「火星人」
作詞・作曲・編曲:n-buna
以上,当ブログが注目した2025年春アニメOP・ED7作品を挙げた。今年の春アニメもすでに終盤に差しかかっているが,今後の鑑賞の参考にしていただければ幸いである。
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