アニ録ブログ

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TVアニメ『メダリスト 第2期』(2026年冬)第17話の脚本と演出について[考察・感想]

*この記事は『メダリスト』「score17 下剋上」のネタバレを含みます。

「score17 下剋上」より引用 ©︎つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

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つるまいかだ原作/山本靖貴監督『メダリスト』各話レビュー第3弾として,今回は「score17 下剋上(第2期第4話)を取り上げる。 場面は「中部ブロック大会」。視聴者が待ち侘びた結束いのりの滑走回とあって,漸層法的にシーンを盛り上げ,クライマックス感を極限まで高めた演出が施されている。作画のまとまりも良好な優れた話数だ。脚本は花田十輝,絵コンテは『亡念のザムド』(2008年)などの奥村正志,演出は河合昂平である。滑走シーンを中心に,その技を詳しく見ていこう。

 

虹色フレア:妖精の舞

「score17 下剋上」より引用 ©︎つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

滑走開始直前のスターティングポーズ。いのりの表情は気迫に満ちている(上図左)。それはリンクサイドでに「任せて」と言ったときに見せた力強い表情(上図右)とも重なる。狼嵜の黄色い眼光にも引けを取らない“眼力”だ。

しかしひとたび滑走が始まると,彼女の表情は一気に華やぐ。今回の演技曲は映画『カノンとベルの国』*1 より「The Flower Fairy(花の妖精)」だ。氷上のいのりの顔には,まさにこの曲のテーマにふさわしい,花のような笑顔が咲いている。真剣な表情から華やぐ笑顔へのモードチェンジ。いのりの演技面での成長が伺える,優れた演出である。

「score17 下剋上」より引用 ©︎つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

カメラは上空からのフカンでいのりの笑顔を捉える。小さな花弁を上から覗き込むような感覚を覚える。とても美しい構図だ。原作では比較的真剣なまなざしの表情が多いのに対し,アニメではこうした柔らかい笑顔の表情を多用している。林ゆうきの楽曲の美しさも相まって,華やかな雰囲気に満ちた演技シーンだ。また,実際の競技ではこのようなカメラワークは不可能であるから,まさにアニメならではの表現と言えるだろう。

「score17 下剋上」より引用 ©︎つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

最初のジャンプであるトリプル・ループを決めるいのり。着氷時のカット(上図下)では,いのりを包み込むように虹色フレアを置き,それをブレードによる光跡が水平に横切る光線処理をしている。ブレードの動きに合わせた「シュイン」というハイピッチのSEも効果的だ。ジャンプ成功による達成感と高揚感を高める優れた演出である。虹色フレアや光跡の効果はこれまでの話数でも見られたが,今回は一際厚めに施されているように思える。「花の妖精」という演技のテーマにもマッチした華やかな画作りだ。

「score17 下剋上」より引用 ©︎つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

ジャンプ時の真剣な面持ちと,その後の演技時の笑顔との対比。いのりの内面と彼女の努力の成果が手にとるようにわかる。とてもいい表情の捉え方だ。

ちなみに「The Flower Fairy」は,第1期最終話「score 13 朝が来る」の6級テストでも使用された楽曲だ。その美しくもドラマチックな調べは,第1期の最終話を飾るにふさわしい風格だったわけだが,それと同程度の盛り上がりをこの話数にも設定したということだ。しかも「花の妖精」としてのいのりの演技は,あの頃と比べて一段と磨きがかかっているように見える。相当に気合いの入った話数と言える。

「score17 下剋上」より引用 ©︎つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

アオリで捉えたジャンプ。着氷の瞬間,衝撃波のように虹色フレアが広がる。ダッチアングルによる斜線,ブレードの光跡による水平線,虹色フレアによる曲線,そしていのり自身の身体。幾何学模様と有機的身体が見事に調和した名カットだ。

ちなみに「フィギュアスケート」という名称は,かつてリンク上に図形=figureを描く競技だったことに由来する。現代のフィギュア競技で氷上の図形が意識されることはないが,アニメの『メダリスト』を観ていると,カメラワークから生まれる幾何学性が演技の美しさを際立たせているように感じる。ENGIの3DCG班と撮影班の描写力に改めて感服する。

「score17 下剋上」より引用 ©︎つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

フィギュアのルールを全く知らず,最初は退屈していた加護羊が,ここではいのりの美麗な演技に純粋に見惚れている。対して,コーチ陣はいのりの演技をあくまでも得点と順位の観点で見ている。このコントラストもまた面白い。フィギュアスケートは「競技」であるから,ジャンプと演技の配点を知った上で観覧するのが“正しい”観覧法であることは間違いない。しかしその純粋に美的な側面が,羊のような新たなファンを惹きつけるということもある。この場面に加護父娘というキャラを配置したことで,フィギュアスケートの多層的な魅力が浮き彫りになっていると言えるだろう。

 

トリプル・サルコウ:2人の「約束」

そしていよいよ今回の目玉,演技後半のコンビネーションジャンプである。

「score17 下剋上」より引用 ©︎つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

ジャンプの直前,緊張が最高潮に達したその瞬間に,「約束」という言葉を含んだあるモノローグが登場する。原作では司一人のセリフのように描写されているが,アニメでは,これを以下のようにいのりと司の二人のモノローグに変更している。

司:信じるんだ いのりさんの武器を その切り札を
いのり:このジャンプに全てをかける!
司:約束を
いのり:約束を
司:この約束だけは
いのり&司:絶対に果たすために!

最後のセリフは二人のユニゾンになっており,「約束」という言葉を連想させる回想シーン(上図)を挿入している。楽曲も山場を迎え,まるでミュージカル映画のクライマックスを観ているかのようなドラマチックな高揚感がある。

この刹那,楽曲がカットアウトし,いのりの滑走がスローモーションになる。

「score17 下剋上」より引用 ©︎つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

フィギュアのジャンプには6種類あるが,ごく稀な例外を除き,その全てが右足で着氷する。したがって,コンビネーションジャンプを行う際,第2ジャンプは原則として右足から始まるものに限定される。しかし司はとある理由から,左足から始まるサルコウを第2ジャンプとする決断をした。そのため,オイラー(左足で着氷する特殊なジャンプ)を“つなぎ”として用いたのである。結果,「ダブルアクセル+オイラー+トリプルサルコウ」という構成になったわけだ。

フィギュアを始めたてのいのりにとって,これは決して簡単なことではない。ましてや集中力と体力が落ちる後半にそれを盛り込むとなると,まさしく「賭け」以外の何物でもない。しかしいのり&司はそれをやってのけたのだ。

司の雄叫びとともに楽曲が再びカットインし,いのりはノーミスで演技を終える。見事「中部ブロック大会」金メダル受賞と相成り,二人の「約束」は果たされる。

 

Excel:司の勝算

司がコンビネーションの第2ジャンプとしてサルコウにこだわった理由は,「着氷率」にあった。練習記録をExcelにまとめていた司は,いのりのサルコウの着氷率が,構成や体調に関係なく「100%」であることに気づく。彼はその数字に賭けたのである。

「score17 下剋上」より引用 ©︎つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

実はこの場面は,原作から構成を変えている。原作では,いのりのコンビネーションジャンプの直後に回想として挿入されているが,アニメでは「祝勝会」後の司と鴗鳥慎一郎の対話の中に組み込まれている。慎一郎がいのりの演技構成について司に問う場面だ。

慎一郎:今日の結束選手の演技についてです。素晴らしい演技でした。が,一年前に初級だった選手に対して,高すぎるゴールを設定したと感じたのも事実です。なぜそんな選択をしたのですか。
司:いろんな人から期待される選手になってもらうためです。
慎一郎:だから勝算もなく高いハードルを設定した…というのでしたら,先生への評価を改めなければなりません。
司:いえ,勝算はありました。賭けではありましたが…

ここで司は上述の「サルコウ着氷率100%」の話をし,慎一郎を納得させる。

アニメでこのようにまとめたのは,尺の問題が一つの理由として考えられる。しかしこの構成にしたことにより,あのコンビネーションジャンプの選択が単なる無謀な賭けではなく,数値的な「勝算」に基づいたものだったことが強調された結果になる。司のコーチとしての采配の才を際立たせたいい脚本だ。

さて,この話数でめでたく“タイトル回収”となったわけだが,そこにいのりのライバル・狼嵜光と,司の宿敵・夜鷹純が不在であることを忘れてはならない。いのりと司にとって,コンビネーションジャンプよりもはるかに高いハードルが待ち受けている。

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Xアカウントなど

【スタッフ】
原作:つるまいかだ/監督:⼭本靖貴/シリーズ構成・脚本:花⽥⼗輝/キャラクターデザイン・総作画監督:⻲⼭千夏/フィギュアスケート振付:鈴木明子/フィギュアスケート監督・3DCGディレクター:こうじ/3DCGビジュアルディレクター:戸田貴之/3DCGアニメーションスーパーバイザー:堀正太郎/3DCGプロデューサー:飯島哲/色彩設計:山上愛子/美術監督:中村葉月編集:長坂智樹/音楽:林ゆうき/音響監督:今泉雄一/音響効果:小山健二/アニメーションプロデューサー:三浦孝純 /アニメーション制作:ENGI

【キャスト】
結束いのり:春瀬なつみ/明浦路司:大塚剛央/狼嵜光:市ノ瀬加那/夜鷹純:内田雄馬/鴗鳥理凰:小市眞琴/鴗鳥慎一郎:坂泰斗/八木夕凪:阿部菜摘子/申川りんな:伊藤舞音/炉場愛花:長縄まりあ/牛川四葉:田中美海/離洲くるみ:遠野ひかる/穴熊咲希奈:田中貴子/庭取さな:夏吉ゆうこ/岡崎いるか:山村響/鯱城理依奈:藍原ことみ/栗尾根茉莉花:茅野愛衣

【「score17 下剋上」スタッフ
脚本:花田十輝/絵コンテ:奥村正志/演出:河合昂平総作画監督:亀山千夏大関志緒利/作画監督長谷川早紀熊谷勝弘中島達央飯島弘也能海知佳吉岡勝森山剛史和田祐二lolroute

原画:武川陽川村乃愛丸山遥花寺内理桜岩田幸子王國年鈴木夕陽戸嶋唯郎黄翔麟福田希彩木村衣里めろまKes岡遼子Xercharles AnonatKennedy Freeman高瀬ゆり子LO StudioGo-geonPark Se-young

 

この他,この素晴らしい話数に参加されたすべての制作者に拍手を。

 

 

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【原作マンガ】

 

*1:原作によれば架空のアニメ映画ということらしい。