*この記事は『とんがり帽子のアトリエ』「第5話 巨鱗竜の迷宮」のネタバレを含みます。

白浜鴎原作/渡辺歩監督『とんがり帽子のアトリエ』各話レビュー第2弾として,今回は「第5話 巨鱗竜の迷宮」を取り上げる。巨鱗竜の住まう迷宮に囚われたココ,アガット,テティア,リチェは,ココの発案をきっかけに団結し,辛くも難局を乗り越える。王道の展開だが,計算された構図,繊細な芝居,チームワーク描写などによって,仲間意識の芽生えに至る過程を的確に伝えた名話数だ。脚本はシリーズ構成の瀬古浩司,絵コンテ・演出は『古見さんは,コミュ症です。』(2021-2022年)『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』(2023年)などの川越一生である。その技を詳しく見ていこう。
連帯:テティアの魔法


巨鱗竜から身を守るべく,安全な場所に身を隠すココ,テティア,アガット,リチェ。最初のマスターカット(上図・左)では,4人は離れた場所に座っており,第4話で描かれた心の距離を受け継いだ構図になっている。ここでは,劇伴も悲哀感のあるストリングスの楽曲が使用されている。ココがテティアを気遣って近づく(上図・右)。前話でテティアがココに責めるような目つきをしてしまっていたため,2人の間には気まずい空気が流れている。


しかし実際,ココを責めた目つきはテティアの本心ではない。アニメではそれを示す芝居が挿入されている(上図・左)。ココもテティアの内心を理解していたのだろう,持ち前の行動力で,2人の間の距離を一気に解消する(上図・右)。この「そして私はくっつく!」のカットはほぼ原作通りだが,ロングショットで捉えたことによる表情の省略作画,拍子抜けしたテティアの目パチ,尺の取り方,ココ役の本村玲奈の演技など,面白い要素がふんだんに盛り込まれている。また,迷宮の空虚な広がりに対して2人が相対的に小さく描かれることになるため,コミカルな雰囲気と同時に心細さも醸し出されている。2人の姿をあえてぎりぎり影の中に配置したのも,この後の雲の中のシーンとコントラストを成していて面白い。


己の無力さを痛感する一方で,先輩としてココを守りたいという気持ちに駆られ,テティアは唐突に雲の魔法を発動する。塊となった雲をスクワッシュ&スクイーズで転がす(上図・左)など,アニメーションらしいコミカルな描写が楽しい。シビアな難局の中で,突如ゆるふわなものが出現するという違和感も面白い。
外光を取り込む仕組みになっているのか,あるいは魔法自体が発光しているのか不明だが,雲の中は外より明るい。内部は白ではなくペールオレンジ(いわゆる肌色)で色彩色されており,自宅の自室のような温もりを感じさせる色彩設計だ。


ココとテティアが同時にとんがり帽子を被るカット(上図)。2人の帽子がクロスし,雲の下からアガット,上からリチェが登場する。シンメトリックな構図のまとまりがよい上,温かなコミカルさも加わる。まるで一緒に温泉でも入っているかのような絵面(上図・右)は,彼女たちの心の雪が解け始めたことを示しているようだ。第4話の不和から連帯へ転じる様を表現した,見事なシークエンスだ。
「優しい魔法」


巨鱗竜をテティアの雲魔法で“ダメ”にするという作戦を提案するココ。ココが迷宮の壁に描いたイラスト(上図)は,いかにも彼女らしい“素人っぽさ”が表れているが,これが後のアガット,テティア,リチェの“玄人っぽい”振る舞いと好対照を成す(ちなみにこの巨鱗竜の図は,原作ではもっとリアル寄りに作画されている)。



ココは巨鱗竜を倒さないという方針を立てたばかりか,巨鱗竜の怪我を案じる素振りを見せる。ここでアニメは人物の配置を変化させる。ココが階段を昇り,巨鱗竜の姿を探す。結果として,ココ=上/アガット・テティア・リチェ=下という構図が生まれる(上図)。当然,目線の差が生じ,アガット・テティア・リチェがココを見上げる形になる。




巨鱗竜を傷つけずに,自分たちを守る。それはキーフリーの魔法理念を忠実に継いだ「優しい魔法」に他ならない。この上/下の構図は,この世界における「優しい魔法」の優位性を目に見える形で示している。この際のアガットの表情にも繊細な芝居が付けられている。この辺りは原作にはないアニメオリジナルのシーンだが,原作の思想を巧く抽出した優れた演出だ。
反復:魔法使い≒絵描き
ココが策を発案し,アガットが魔法を考案し,テティアとリチェが魔法陣を描く。まるでアニメ制作の座組みのようだと言うと少々深読みに過ぎるかもしれないが,『とんがり帽子のアトリエ』という作品に“絵描き讃歌”という要素があることは間違いない。原作第1巻カバーのそでに書かれた原作者のコメントによれば,本作は「絵が生まれていく過程って魔法みたいだよね,という友人の一言から生まれた物語」らしい。*1


アガットが捨てた魔法陣を拾うココ。彼女はアガットが魔法陣を描く様子を観察し,その技を会得しようとする(ここなども,昔のアニメーターが先輩がゴミ箱に捨てた原画を拾って技術を盗んだという,よく聞く話を想起させる)。ココがアガットに近づく際の所作がコミカルに作画されている(上図・右)。こういう細部の作画もココのキャラをよく表している。
ココはアガットたちの技を真似て繰り返し反復演習し,やがて焚火球の魔法発動に成功する。アガットはその「繰り返し」という言葉から着想を得て,「巨鱗竜をダメにするクッション(竜の砂床)」作戦を完成させる。〈反復演習〉こそが苦境を打開するという展開も,絵描き修行の現場をなぞっているようで面白い。






本話数では,アガット,テティア,リチェが陣を描くカットが原作よりも多く盛り込まれている(上図)。その真剣な眼差しと滑らかな手つきからは,とても見習いとは思えない迫力がうかがえる。その姿は,ココの眼にさぞかし眩しく映ったことだろう。

極め付けはここだ。リチェとテティアが各所に配置した陣を閉じる。その一連の動作が,まるで決めポーズのように流麗かつダイナミックなタッチで作画されている。特にリチェに関しては,軽やかに飛翔した後,着地の瞬間に重量を感じさせる作画をしている。とても的確な作画だ。陣を閉じたリチェとテティアとともに,このシーンの主線を描いたアニメーターたちにも拍手喝采を贈りたくなる。まさに“絵描き讃歌”のシーンである。
なお,この辺りの「巨鱗竜をダメにするクッション」,および後述するキーフリーと巨鱗竜のアクションシーンの劇伴は,北村友香によるフィルムスコアリングで作成されている(下記のBUG FILMS代表取締役・児島宏明のX投稿を参照)。音響面での盛り上げも申し分ない。
第5話ご視聴ありがとうございました!
— 児島宏明@BUG FILMS (@kojima2019) 2026年5月4日
BUGFILMSと言えばこのひと!
川越一生くんのコンテ、演出回でした。
OPED無し、
総作画枚数は何と2万枚以上…!
各セクション総動員、アクションもお芝居も超盛り盛りの作画回でした!
ここで制作裏話☝️
既にお気付きの方もいらっしゃいますが、… pic.twitter.com/PEAvT1eWdr
キーフリーの眼
キーフリーがココたちを救出すべく迷宮に侵入する辺りから,作画は一気に転調する。ここからはアクション作画の見せ場となる。担当アニメーターに“讃歌”を贈りながら見ていこう。



タイルに残った魔墨の跡から魔力のようなものが放たれ,キーフリーの顔がアップになる(上図)。ふだん穏やかな彼が一瞬見せた,鬼気迫る眼の表情が印象的だ。このシーンは鳥井隼人が担当している(下記Xの投稿を参照)。
5話のご視聴いただきありがとうございました。
— 鳥井隼人🪶 (@46gane_9gane) 2026年5月4日
担当カットの中から4つ抜粋しました。
動画の最初から最後に映っている部分までが自分の担当範囲です。
次回6話もお楽しみください!#とんがり帽子のアトリエ pic.twitter.com/X3rVAAK3Hj

塔から落下したアガットを救った後,巨鱗竜の背鰭を避けながら飛翔するキーフリー(上図)。極めてダイナミックかつスタイリッシュなアクション作画だ。このシーンの担当はWILLIAM LEEだが,何とこのシーンのコンテは,1話のLEEの仕事を気に入った川越が,彼用に「当て書き」をしたという。川越はLEEを「マスターピース職人」と呼んで大絶賛している(下記Xの投稿を参照)。
#とんがり帽子のアトリエ #WitchHatAtelier 第5話
— ウィリアム リー (@williamleeanim) 2026年5月4日
ご視聴ありがとうございました!こちらが担当カットの一つです。とんがり引き続き宜しくお願いします!
(素材掲載許可済み) pic.twitter.com/qZakG1jPfC
5話コンテの裏話的なところでいうと、… https://t.co/8lEalwXxpU pic.twitter.com/zP5xkdl9f1
— 川越 一生 (@kazuki_kawagoe) 2026年5月4日

雲を水に変換する魔法を発動するキーフリー(上図)。雲が瞬時に水に変わる描写や,キーフリーの眼のアップからのT.B(作画)がとにかく美しくかっこいい。原作にはない描写だが,元々ファンタジー作品ということもあって,この手のスペクタクルがとてもうまくはまる。こういう演出を観るにつけ,アニメ化されるべくしてアニメ化された作品だと実感する。このシーンは野村治嘉の担当である。
雲を水に変換するシーンが音楽演出的にも作画的にも凄く気に入っているのですが、ここの担当アニメーターは野村治嘉さん(@nomura_haruyosi)で、このシーンの他にもドラゴンが雲のクッションでダメになるシーンもやって下さってます。いつもその話数の心臓になるシーンを担当して下さるスーパーアニメー… pic.twitter.com/lyuJKjI2dd
— 川越 一生 (@kazuki_kawagoe) 2026年5月4日
なお,このシークエンスでキーフリーは猛烈な水の魔法を用いて巨鱗竜を圧倒するが,最終的に殺してはいない。アニメでは,「気絶してくれたみたいだ」というセリフ(原作にはない)を追加することで,キーフリーの魔法がココの発案した「巨鱗竜をダメにするクッション(竜の砂床)」と同様,「優しい魔法」の理念に則ったものであることを示唆している。
ラストシーン,みんなを巻き込んだことを謝罪するココに,キーフリーが近寄る。この際の彼の芝居が意味深だ。


キーフリーはいったんココの傍らを通り過ぎ,彼女に背を向けるような姿勢をとる(上図・左)。花江夏樹も,声のトーンを一段落とした演技をしている。しかしその後,すぐにココの方に向き直り,いつもの優しい調子でココを慰める(上図・右)。キーフリーの謎めいたキャラクターを意図的に盛り込んだ芝居構成だ(原作にはこのような演出はない)。
そして,ここまで観てきてお気づきだろうが,この話数はキーフリーの“眼”のアップショットを多用している。それはどれも,ふだんの穏やかなキーフリーとは異質な,鬼気迫る緊迫感を伴った表情だ。それが最も如実に現れるのが,ラストシーンのキーフリーの芝居である。


キーフリーは魔材屋のノルノアに「つばあり帽」が残した魔墨の調査を依頼した後,本件の他言無用を厳に告げる(上図)。「しかし」と反論しようとするノルノアを,キーフリーは殺意と見紛うほどの強い眼差しで睨みつける。キーフリーというキャラクターの中には,主に「つばあり帽」に関連した“闇”のようなものが潜んでいる。この話数では,それを殊更に抽出した芝居が施されていることを記憶しておきたい。
なお,この場面の作画を担当したのは中嶋敦子だが,川越によれば,「下のキーフリーの絵は怖いですが敦子さんはいつもニコニコされています」とのことだ(下記Xの投稿を参照)。キーフリーのように多元的なキャラの持ち主は,どの業界にもいるということなのだろう。
中嶋敦子さんに5話のAパート大部分+Bパートラストの作画監督を担当して頂いています。かなり重い話数にも関わらず120カット近く修正頂きました。
— 川越 一生 (@kazuki_kawagoe) 2026年5月4日
その凄まじい仕事に毎回救われています。下のキーフリーの絵は怖いですが敦子さんはいつもニコニコされています。そういう人に私もなりたいです。… pic.twitter.com/GVLRIC9ibC
川越一生の技
本話数の演出を担当した川越一生は,制作会社BUG FILMSを代表するクリエイターの1人である(BUG FILMS取締役の1人でもある)。川越はこれまでに,『古見さんは,コミュ症です。』(2021-2022年)や『ゾン100』(2023年)などで監督を務めている。どちらも,構図・空間描写・キャラの芝居などの点で高いクオリティを示しており,アニメーションとしてたいへん見応えのある作品だ。今回の『とんがり帽子のアトリエ』第5話は,彼がこれまで磨き上げてきた技が遺憾なく発揮されたと言ってよい。
今回の話数はチーフアニメーターの中野悟史お気に入りということらしいが,中野によれば,第5話の絵コンテは一際分厚い。*2 総作画枚数も2万枚以上に及んでいる。*3 それだけ情報量の多い話数だということだ。また,上にいくつか挙げた川越のXの投稿を見ればわかるように,彼の絵コンテの熱量は相当なものである(ほとんど縮小版のL/Oか原画だ)。情報量と熱量の産物。この話数を一言でまとめるとそうなるだろう。
今回の記事に盛り込めなかった部分もあるだろう。本記事をお読みになった皆さんは,改めてこの話数を再鑑賞し,細部まで味わい尽くして欲しいと思う。
作品データ
*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Xアカウントなど
【スタッフ】
原作:白浜鴎/監督:渡辺歩/副監督:篠原准/シリーズ構成・脚本:瀬古浩司/キャラクターデザイン・総作画監督:うなばら海里/チーフアニメーター:中野悟史/服飾デザイン:小川茜/小物設定:鈴木典孝,岩畑剛一/美術監督:後藤亮太/美術設定:多田周平,中島美佳/色彩設計:中野尚美/撮影監督:北岡正/編集:本田優規/音響監督:小泉紀介/音楽:北村友香/音響制作:dugout/音楽制作:エイベックス・ピクチャーズ/アニメーション制作:BUG FILMS
【キャスト】
ココ:本村玲奈/キーフリー:花江夏樹/アガット:山村響/テティア:陽木くるみ/リチェ:月城日花/オルーギオ:中村悠一/アライラ:三石琴乃/フデムシ:久野美咲/イグイーン:斎賀みつき
【「第5話 巨鱗竜の迷宮」スタッフ】
脚本:瀬古浩司/絵コンテ・演出:川越一生/総作画監督:うなばら海里/作画監督:中嶋敦子,髙田晴仁,小川茜,石丸史典,小川莉奈,中山みゆき,村田陽佑,野村治嘉/ドラゴン作画監督:福地純平/作画監督補佐:藤本さとる,香月麻衣子,佐藤義久/制作進行:小山匠/制作進行補佐:小倉黎士
原画:野村治嘉,WILLIAM LEE,中野悟史,難波功,鳥井隼人,服部汰一,浦田楓馬,篠原天球馬,玉谷朋香,井口聖,Håvard Skjeggestad Dale,佐藤和巳,松田真路,山田朝日,古長優妃奈,庄田梨乃,Saurabh singh,下地彩加,Vercreek,爲水翔太郎,仁平肇,三宮哲太,藤井康雄,なかむら真我,ナポりん,kASS CHAPA,dino,Daniel Monteiro,木村覚,イン,市村厚美,三上山直美,飯田悠一郎,飯田もの,東田菜奈,内田百香,麻岐仁,金井弓,ふぃめら
この他,この素晴らしい話数に参加されたすべての制作者に拍手を。
関連記事
商品情報
【原作マンガ】
*1:白浜鴎『とんがり帽子のアトリエ①』,講談社,2017年。カバーそでの原作者コメントより。
*2:YouTube動画「TVアニメ『とんがり帽子のアトリエ』アニメ制作現場に潜入!」を参照。
*3:上掲の児島宏明のX投稿を参照。
