アニ録ブログ

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TVアニメ『とんがり帽子のアトリエ』(2026年春)第3話の脚本と演出について[考察・感想]

*この記事は『とんがり帽子のアトリエ』「第3話 ダダ山脈の試験」のネタバレを含みます。

「第3話 ダダ山脈の試験」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

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白浜鴎原作/渡辺歩監督『とんがり帽子のアトリエ』は,魔法に憧れ,魔法使いの弟子となった少女・ココの物語を描いたファンタジー作品である。毎話,平均的なTVアニメの水準をはるかに超えた作画・演出を繰り出しており,今期のアニメの中でも群を抜いて高いクオリティを示している作品と言えるだろう。今回紹介する「第3話 ダダ山脈の試験」は,ココが正式に弟子として認められるまでの過程を緻密で丁寧な作画で演出した名話数だ。脚本はシリーズ構成も担当する瀬古浩司,絵コンテ・演出は『サマータイムレンダ』(2022年)『ゾン100 ゾンビになるまでにしたい100のこと』(2023年)などに参加経歴のある大島克也である。その技を詳しく見ていこう。

 

“減算”から“加算”へ:美術,芝居,カメラ

『とんがり帽子のアトリエ』というマンガの最大の魅力は,白浜鴎の手になる細密・美麗な作画だ。しかしアニメは画を動かすという媒体の特性上,その全てを再現することは不可能だ。YouTubeのスタッフインタビューによると(下記リンクを参照),キャラクターデザイン・総作画監督のうなばら海里を始めとするアニメ班は,原作の情報を極力オミットせず,原作の作画の情報量を再現することに注力したというが,それでもアニメの制作過程において一定の“減算”が生じることは避けられない。  


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アニメはデザイン情報の一部をやむなく犠牲にする一方で,美術,色彩,劇伴等で情報を補完する。特に本作の背景美術は原作に引けを取らないほど細密で,息を呑むような美しさが目を引く。

「第3話 ダダ山脈の試験」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

そこに密着マルチなどのアニメならではの技法を盛り込むことで,原作の世界観の密度を補完している(上図)。

そしてもう1つの重要な要素が,キャラクターの芝居だ。主人公のココを中心に,キャラクターのキャラ性を際立たせる細やかな芝居が作画されている。

「第3話 ダダ山脈の試験」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

上図はココがアガットに靴を貸して欲しいと請うシーンだ。ココが体を傾ける所作は原作の通りだが,目パチ・口パクと手の所作でランダムなリズムを生み出している。身体が傾くにつれて流れていく髪の描写も美しい。全体的に,この作品では髪束の処理が上手く,ビジュアルの密度を高めるのに一役買っている。

上掲のインタビューの中で渡辺監督は,マンガ原作をアニメ化する際に生じる「時の流れ」について言及し,「解凍」という面白い言い方をしている。マンガの中に無時間的に封じ込められたコマの配列は,映像化すると同時に時系列化される。アニメは時間経過を生むことにより,1つの場面で立ち止まったり,前のコマに戻ったりといった鑑賞の“自由”を鑑賞者から奪ってしまう。この「解凍」に失敗したアニメは,もはや何の感動も生まなくなる。これこそ,渡辺監督らが苦慮した最大のポイントであり,その1つの解答がキャラクターの芝居なのだろう。

アニメの芝居とは,単なる物理的な動作というだけではなく,そこに感情と思想が感じられなければならない。上図のココの芝居などは,彼女の魔法への好奇心,それと裏腹なアガットへの遠慮といった感情を巧みに表現し得ている。監督の言う「解凍」が成功している1つの例と言えるだろう。

「第3話 ダダ山脈の試験」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

上図は,アガットに扉窓から放り出されたココが,ダダ山脈までの森を歩く場面だ。原作にはないアニメオリジナルのシーンである。心細さから挫けかけた彼女が,勇気を奮い起こして暗い山中を歩く様が描かれている。表情,おぼつかない足取り,コミカルな所作などの芝居から,ココの勇気,直向きさ,不器用さといったキャラが読み取れる。アニメ的な芝居によって,ココのキャラを補完した上手いシーン演出だ。

「第3話 ダダ山脈の試験」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

さらに,カメラワークの効果も高い。上図は,森を抜けたココがダダ山脈を目にするシーンだ。ココの背後にあったカメラが一気にトラックバックし,ダダ山脈の全貌を捉える。世界観の威風とココの矮小感・心細さを相対的に演出した,見事なカメラワークだ。

「第3話 ダダ山脈の試験」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

一方,ココがアガットから借りた靴で飛行するシーンでは,最初,客観カメラだったものが,ココが墜落した瞬間に主観カメラにシームレスに変化する。カメラの視点とココの視点が重なる。その後,カメラはココの表情を正面から映した後,再びココの主観視点で空の鳥を映し出す。短いシーンだが,世界観への没入とココへの感情移入を視聴者に促す優れたカメラワークだ。

本作のカメラワークについて,篠原准副監督はフカン=「神の目線」になることを極力避け,人物に寄り添い,人物の目線で捉えることを重視したと語っている(上掲のインタビューを参照)。上図のカメラワークなどはその典型例と言えるだろう。

カメラの据え方・動かし方一つで,キャラクターの感情やキャラ性の観え方は大きく変わってくる。いわばカメラがキャラを補完する。カメラワークもマンガ原作の密度を補完し得るのだ。『とんがり帽子のアトリエ』はこうした画作りの計算がとても上手い。単に“綺麗なアニメ”というレベルの話ではなく,制作者の制作思想が克明に表れている作品なのである。

 

ダダの試験:継承される技

本作の作劇上の面白さの1つは,「魔法」が生得的な能力として設定されていない点だ。特殊な道具があれば,誰でも魔法陣を描いて魔法を発動できる。まさに現実世界における絵画と同じだ(本作が絵描きを1つのモチーフとしていることは,タイトルに付された「アトリエ」という言葉や,魔法陣を描く行為に焦点が置かれていることなどからもうかがえる)。しかし魔法使いになるのに,素養の類が全く関係しないということではない。絵筆があれば誰にでも絵が描けるわけではないのと同じだ。

「第3話 ダダ山脈の試験」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

子どもの頃から魔法に接してきたアガットたちと違い,ココは魔材の扱いには不慣れだ。ここに大きなハンディキャップがある。しかし彼女は,仕立ての作業には人一倍長けている。ココは即席の仕立て屋の道具を魔材に見立て,「ダダの試験」を乗り越えようとする。

「第3話 ダダ山脈の試験」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

アニメでは,ここで回想という形でココのを登場させている(原作にはない)。母が仕立て道具を幼いココに手渡す。ココがそれを受け取る。仕立て部屋をロングショットで写したカット(上図・右)では,母が甲斐甲斐しくココの世話をする中,中央の机でココが熱心に仕立ての作業を真似ている。彼女の生活の中心に仕立ての仕事があったことがよく表れているシーンだ。

「第3話 ダダ山脈の試験」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

マントに魔法陣を描くカット(上図)では,布に石を添え,徐に線を引く所作,そこに添えられる母の手などの芝居が丁寧な作画で描かれている。後れ毛までもがココの“集中”という芝居をしているかのようだ(上図・右)。仕立て作業に対するココの誇りと確信,そして母への愛が画面全体に満ちているかのような,極めて密度の高いシーンである。

「第3話 ダダ山脈の試験」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

見事飛行に成功し,ダダ山脈の頂上を目指すココ(上図)。この辺りは気鋭のアニメーター,Vercreekの作画だ(下記Xの投稿を参照)。風に靡く髪や衣服,母を想いながら流す涙の描写などが美しい。飛翔による大気の流れを確かに感じさせる見事な作画だ。

ちなみに,この辺りのシーンに宮﨑駿作品の趣を感じた視聴者も少なくないだろう。ロケーションと「王冠草」確保のカットは『天空の城ラピュタ』(1986年),飛行具との格闘は『魔女の宅急便』(1989年),飛翔シーンは『風の谷のナウシカ』(1984年)を思わせるものがある。制作陣がどれだけ意識したかはわからないが,アニメ表現に歴史と伝統があることは間違いない。

「第3話 ダダ山脈の試験」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

風に翻るマントが幼少時代の寝床のシーツに変わり,母との回想に入る場面(上図)。これもアニメオリジナルである。ココの手を優しく握る母の手の芝居がとても丁寧で美しい。先ほどの回想シーンもそうだが,アニメでは,ダダ山脈の標高が最も高い時期に試験に挑むココの決意の底に,母への強い想いがあることがより強く伝わる演出になっている。

 

とんがり帽子のココ

最後に,ラストでココが魔法使いの正装に着替えるシーンを見てみよう。

「第3話 ダダ山脈の試験」©︎白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

ボタンをかける手,布の質感と皺,髪を直す仕草,そして「とんがり帽子」を恭しく頭に頂く所作が,この上なく緻密な作画で演出されている。おそらく作画的には,この話数の中でも最も目を引く場面だろう。

幼少の頃から魔法に憧れてきたココにとって,このとんがり帽子の正装を纏うこと自体が大きな誇りであるはずだ。この一連の入念な作画は,単なる物理的・身体的な“動作”であることを超え,ココの内面を残りなく汲み取っている。まさに“芝居”だ。この場面に十分な尺を割いた大島に惜しみない拍手を送りたい。

ちなみに,このシーンは特殊エンディングという形式をとっているため,制作スタッフのクレジットが表示されている。ココにとって最も誇らしい場面を,制作陣の名前が飾る。まるでココとともに,この話数を手がけた制作スタッフへ賛辞を送るかのように。そんな深読みをしたくなるラストシーンである。

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Xアカウントなど

【スタッフ】
原作:白浜鴎/監督:渡辺歩/副監督:篠原准/シリーズ構成・脚本:瀬古浩司/キャラクターデザイン・総作画監督:うなばら海里/チーフアニメーター:中野悟史/服飾デザイン:小川茜/小物設定:鈴木典孝岩畑剛一/美術監督:後藤亮太/美術設定:多田周平中島美佳/色彩設計:中野尚美/撮影監督:北岡正/編集:本田優規/音響監督:小泉紀介/音楽:北村友香/音響制作:dugout/音楽制作:エイベックス・ピクチャーズ/アニメーション制作:BUG FILMS

【キャスト】
ココ:本村玲奈/キーフリー:花江夏樹/アガット:山村響/テティア:陽木くるみ/リチェ:月城日花/オルーギオ:中村悠一/アライラ:三石琴乃/フデムシ:久野美咲/イグイーン:斎賀みつき

【「第3話 ダダ山脈の試験」スタッフ
脚本:瀬古浩司/絵コンテ・演出:大島克也/総作画監督:烏宏明うなばら海里/作画監督:石丸史典新井達也齋藤魁小野可奈子中嶋敦子/作画監督補佐:田島瑞穂小川莉奈/制作進行:小倉黎士

原画:WILLIAM LEE鳥井隼人難波功田頭悠郎田島瑞穂佐藤和巳松田真路山田朝日Saurabh singh石丸史典中野悟史Vercreek浦田楓馬白河小川莉奈長谷川愛下地彩加金井弓北川知子成松義人西道拓哉新井達也寒川顕一スタジオカフカ井嶋けい子渚美帆室山祥子西原沙紀

 

この他,この素晴らしい話数に参加されたすべての制作者に拍手を。

 

 

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