*この記事は『メダリスト』「score01 氷上の天才」のネタバレを含みます。

「2025年 冬アニメは何を観る?」の記事でもおすすめ作品としてピックアップした,つるまいかだ原作/山本靖貴監督『メダリスト』。3DCG,カメラワーク,手描き作画など,初手から目を見張る作画・演出技術を披露し,すでに“名作”の風格を見せている。脚本は花田十輝,絵コンテ・演出は山本靖貴監督。その技を詳しく見ていこう。
3DCGの演技,手描きの逃亡
結束いのりは学校の勉強も余所に,テレビ画面に映る1人の少女の演技を真剣な面持ちで見ている。その演技は力強く美しく,彼女の心を完全に虜にしているようだ。
第1話のアヴァンにこのシーンを置いたのには,おそらく2つの意味があるだろう。1つは,まもなくいのりの前に好敵手として姿を現すことになる狼嵜光の圧倒的な演技力を見せつけること。そしてもう1つは,本作の持ち味である高い技術の3DCGを視聴者に印象付けることだ。そしてこの2つの要素は,このシーンにおいて密接不可分な関係にある。




制作会社のENGIは,CGアニメーションの制作に長けたスタッフを多く擁し,「ハイブリッドデジタルアニメーション」をモットーにデジタル作画と3DCGを融合した画作りを目指している。本作はそのENGIの制作方針が前面に押し出された作品と言えるだろう。冒頭のスケートシーンの描画は,もはや“やむなく3DCGを使用した”というレベルではない。氷上での滑らかかつダイナミックなアクションの描画にとって,3DCGが最適解であると感じさせる説得力を持っている。さらにCGによる安定した描画は,無駄も乱れも迷いもない演技という光のキャラ性とも相性がよい。今後の話数でも,スケートシーンにおける3DCGの描画力には要注目だ。
そしてこのシーンと好対照を成すのが,手描きで作画されたいのりの“逃亡”シーンである。








明浦路司にリンクの料金のことを追求され,にわかに走り逃げるいのり。身体の動きは無軌道的で,特にランダムな手の表情が面白い。アヴァンの光の演技とは好対照を成している。




いのりの目のクルクルもあって,シーン全体の雰囲気はコミカルなのだが,身体描写そのものはリアル寄りに作画されている。












第1話の“見せ場”の一つが手すりスライドのシーン(上図)だろう。深くしゃがみ込んでからの高い跳躍,安定した滑降,着地時の衝撃吸収という一連の流れが,リアルな身体動作と共に描き出されている。ここでもやはり手の表情が面白い。
ちなみにこの一連のシーンは,原作(下図)では概ねマンガ的に記号化された描写がなされている。いのりのエキセントリックなキャラ性が表れた,とても面白いシーンだ。

アニメではこれを比較的リアルな身体動作に変換することで,いのりの体幹や弾性の強さを強調し,彼女の「天才」という設定に説得力を持たせている。原作に則りつつ,原作とは違う形で見せる。アニメーション作品として的確な演出方針だと言えるだろう。3DCGによる光のスケート演技と,手描きによるいのりの逃亡シーンは,本作アニメ化における付加価値の一端を示していると言ってよい。
大人の後悔,子どもの想い
ちなみに身体描写ということでは,司の身体の描き方も目を引く。




いのりに「スケーティング」を説明するシーン(上図)では,主に司の足の筋肉が美しく作画されており,“フィギュアスケートのコーチ”というキャラクター性にも説得力が出ている。しかしこの時,いのりは青ざめた表情で「足長い…」と独りごつ。彼女は司の大人としての身体性に怯えているのだ(原作では「コワイ…」という手書きのセリフが加えられている)。
司は当初,子どもたちにとって“怖い大人”の象徴として現れる。多くの小学生が滑るリンクの上で,司の姿は少々浮いている。原作にもあるモブ児童の激突シーンでは,チルトアップ,アオリ,フカンといったカメラワークによって,司と子どもたちとの身長差が強調されている(下図)。





さらにいのりとの出会いのシーンでは,司が仁王立ちになるカットを挿入(アニオリ)することで,いのりに対する司の威圧感が加味されている(下図)。



これらのシーンが示しているのは,大人と子どもの目線の“ズレ”である。この時点では,司といのりはごく一般的な“大人と子ども”の関係状態にある。
しかし逃亡シーン直後の対話やクラブのロッカールームの対話(下図)では,いのりと司の目線が同じ高さになるカットが多く見られるようになる。






司はいのりの目線に合わせ,正面から彼女に向き合う。彼の過去の後悔の念が,いのりの現在の想いと共鳴し,二人の心の目線が徐々に重なっていく。“大人と子ども”から“コーチと生徒”へ,そしてそれを超えた“心の同志”へ。2人の関係性のアークがカメラワークと構図によってうまく表現されていると言えるだろう。
泣き,笑い,叫び
本話数のもう1つの見せ場は,いのりの“感情解放”のシーンだろう。




「自分にはスケートしかないのだ」という想いを,涙ながらに母にぶつけるシーン。この際の,子どもの心の叫びを伝えた春瀬なつみの演技は逸品だ。このストレートな感情の吐露に,司も心を動かされる。しかしこのシリアスなシーンの直後に,司の「もうさっさとやらせましょう」という雑な返しでオチをつけるのも本作の魅力の1つだ。このシーンに限らずだが,司の天然っぷりによるギャグのテンポ感もとても小気味よい。



その後,自らコーチを引き受けることを宣言し,いのりにスケートを継続させることを懇願する司。この辺りは原作の作画の描線に凄まじほど勢いがあり,司の心の叫びを描線で伝えている。しかしマンガの荒々しい描線は,アニメではどうしても“クリーンナップ”せざるを得ない。それを補って余りあるのが,大塚剛央の演技だ。勢い余って噛み気味・裏返り気味になったその演技は,例えば『【推しの子】』のアクアのような沈着冷静なキャラとは好対照だ。大塚の演技の幅の広さを窺わせる。第1話の締めくくりとして,この春瀬と大塚の演技の貢献度は極めて高い。
この通り優れた演出術を示した第1話だが,このクオリティで最終話まで走りぬけば,制作会社ENGIにとって飛躍の作品となるかもしれない。今後も応援していこう。
作品データ
*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Xアカウントなど
【スタッフ】
原作:つるまいかだ/監督:⼭本靖貴/シリーズ構成・脚本:花⽥⼗輝/キャラクターデザイン:⻲⼭千夏/総作画監督:亀山千夏,伊藤陽祐/フィギュアスケート振付:鈴木明子/フィギュアスケート監督・3DCGディレクター:こうじ/3DCGビジュアルディレクター:戸田貴之/3DCGアニメーションスーパーバイザー:堀正太郎/3DCGプロデューサー:飯島哲/色彩設計:山上愛子/美術監督:中尾陽子/美術設定:比留間崇,小野寺里恵/撮影監督:米屋真一/編集:長坂智樹/音楽:林ゆうき/音響監督:今泉雄一/音響効果:小山健二/アニメーションプロデューサー:神戸幸輝/アニメーション制作:ENGI
【キャスト】
結束いのり:春瀬なつみ/明浦路司:大塚剛央/狼嵜光:市ノ瀬加那/夜鷹純:内田雄馬/鴗鳥理凰:小市眞琴/三家田涼佳:木野日菜/那智鞠緒:戸田めぐみ/大和絵馬:小岩井ことり/蛇崩遊大:三宅貴大
【「score01 氷上の天才」スタッフ】
脚本:花田十輝/絵コンテ・演出:山本靖貴/総作画監督:亀山千夏/作画監督:田守優希,横山香月,増井良紀,青沼ひかり,亀山千夏
原画:竹内あゆみ,福田希彩,木村衣里,小澤明日美,角道春乃,斉藤愛美,武川陽,山本悠,内田百香,増井良紀,竹内広幸,秋山絵梨,田中桃子,田村万有,林高明
この他,この素晴らしい話数に参加されたすべての制作者に拍手を。
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