改めて問おう
あなたは円盤購入派か,配信(Video on Demand=VOD)派か。
アニメのVODサービス(とりわけ2015年に参入したNetflix)が主流になって以来,たびたび問われる問題ですね。
結論から言うと,僕は“今のところ”,円盤購入にこだわりたいと思っています。というのも,「好きなコンテンツ ー“モノ”ではなく“コンテンツ”,ここが肝心ですー が手元にある安心感 」は,やはり何物にも代えがたいからです。
「コレクション・アーカイヴ」的価値
僕がこのような言い古された問いに立ち返ったのは,ITmediaビジネスに,ジャーナリストの数土直志さん*1のこんな記事があったからです。
記事のポイントは2点あります。
①近年,配信サービス拡大により,アニメのビデオソフト(円盤)の売り上げが低迷している。ソフトが販売中止になる作品も出るという異例の事態も。
②にもかかわらず,ビデオソフトの市場は相変わらず大きい。とりわけビデオソフトの持つ「コレクション」「保存・アーカイブ」という特徴は今後も重要だ。
①に関してはもはや言うまでもないことでしょう。この記事をお読みいただいている多くの方が肌で感じている時代の流れだと思います。冒頭で「円盤購入にこだわりたい」と言い切った僕も,(もっぱらオリジナル作品視聴が目的ですが)NetflixとAmazon Primeを利用し始めて以来,円盤の購入数はやや減りました。
しかしより重要なのは②の「コレクション」「保存・アーカイブ」という側面です。VODサービスではままあることですが,観たいと思った作品が配信停止になることがあります。例えばここを見るとわかりますが,Amazon Prime Videoでは,近いうちに配信停止になる作品が告知されています(2018年11月現在では『ドラえもん』の映画や『マジンガーZ』など)。VODを中心にアニメを観ている人にとって,けっして安心できる状況ではありません。BDやDVDのような物理的なメディアは,こうした事態を回避できる手段であり,今後もその価値は失われないだろうと数土さんは言うわけです。
それぞれのメリット
ここで改めて,BD/DVDとVODのメリット・デメリットを整理してみましょう。
BD/DVD
メリット
①コレクション的価値がある(モノとして所有できる+特典を楽しめる)
②アーカイヴ的価値がある(配信会社の都合による配信停止の心配がない)
③制作側への「投資」ができる(円盤売上に貢献することで「2期制作」を促進できる*2)
デメリット
①高価である
②かさばる
③光学メディアには寿命がある*3
VOD
メリット
①安価である
②ソフトの出し入れが不要(これは案外重要なファクターです。BD/DVDをケースから取り出してプレイヤーにセットし,再生ボタンを押す…という「儀式」は存外,面倒なものです)
③かさばらない
デメリット
①配信停止の可能性がある
②コレクション的価値はほとんどない
③「円盤売上」そのものには貢献できない
こんなところでしょうか。仮に,両者のいいところどりをするのであれば,「コレクション・アーカイブ的価値がありながらコンパクトデザインを実現し,なおかつ売り上げの基準となるサービス」ということになるのですが…
データ購入の時代を待つ
数土さんは「コンパクトデザイン」については言及していませんでしたが,これは「コレクション・アーカイブ」という機能にとってはとても重要だと僕は考えます。BD/DVDは(特にBoxではなく単巻購入した場合は)非常にかさばります。個人レベルとはいえ,ある程度の量をコレクションするのであれば,「コンパクトデザイン」であることのメリットはたいへん大きいと思います。
結局,「コレクション・アーカイヴ」的価値と「コンパクトデザイン」を両立させるためには,「データ購入」の方式が最善策なのかもしれません。特典のCDやブックレットなどもデータ化できますし,それ以外のグッズは物理的に郵送・宅配をすれば済む話です。僕は“今のところ”円盤購入派ですが,特典の充実したデータ販売のサービスが普及したら,まっさきに飛びつくと思います。なぜなら僕にとって所有すべきものは,光学メディアという「モノ」ではなく「コンテンツ」の方だからです。
これらのメリットにもかかわらず,データ購入が主流にならないのは,ビジネスモデルとして重大な欠陥があるからかもしれません。しかし僕は,「コレクション=モノの所有」という因習的な価値観が阻害しているような気がしてなりません。「円盤購入派はモノで所有したがるから,データ購入には手を出さないだろう」という意見があるのです。しかし,たかだか数十年しか保たない光学メディアにそこまで執着する理由がはたしてあるでしょうか。
もちろん,これは僕個人の考え方です。まったく異なる意見をお持ちの方もいるでしょう。もしこの記事をお読みになって,異論や反論をお持ちになった方は,ぜひコメントをいただけると嬉しいです。
アニメの文化を停滞させないためにも,そろそろ「コンテンツの所有」のあり方について真剣に考えるべき時なのかもしれません。
*1:ジャーナリスト。国内外のアニメーション関する取材・報道・執筆を行う。また国内のアニメーションビジネスの調査・研究をする。「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。大手証券会社を経て、2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」、その後「アニメ!アニメ!ビズ」を立ち上げ編集長を務める。2012年に運営サイトを(株)イードに譲渡。2016年7月、イードを退社。
主著「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命 」(星海社新書) [「アニメーションビジネス・ジャーナル」のaboutより引用]
*2:以下を参照。用語集/売りスレ - アニメDVD・BDの売り上げを見守るスレ@wiki - アットウィキ
*3:諸説あるが,一般的には10年〜30年程度と考えられる