アニ録ブログ

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TVアニメ『ダンジョン飯』(2024年冬)第7話・第8話の演出について[考察・感想]

*この記事は『ダンジョン飯』第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」と第8話「木苺/焼き肉」のネタバレを含みます。

第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」第8話「木苺/焼き肉」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

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九井諒子原作/宮島善博監督『ダンジョン飯』各話レビュー第2弾として,今回は宮島善博監督が絵コンテ,中野広大が演出を手がけた第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」,および米森雄紀が絵コンテ,下平佑一が演出を手がけた第8話「木苺/焼き肉」を取り上げてみよう。この2つの話数では,作画面でも物語面でも随所に巧みな対比表現が用いられ,作品に深みと広がりが生まれていることがわかる。

 

対比Ⅰ

物語はいかに〈対比〉構造を効果的に使うかが重要だ。キャラ造形,画作り,色彩,音響,いずれの要素においても,的確なコントラスト表現は物語に緩急を生み出し,作品にメリハリを付ける。

第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

上の画像は第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」でマルシルが見せたご満悦の笑顔だ。マルシル特有の丸みを帯びた“エルフ耳”を始め,輪郭,細めた目と口元のライン,少し下がった眉など,一つひとつの描線が柔らかく魅力的に描かれている。しかしその背後には,ライオスが料理に忍ばせた魚人の卵を食したというグロテスクな事実がある。だからこそ,このとびっきりの2次元の笑顔に独特の奥行きが生まれる。

第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

その後のマルシルの挙動も面白い。ごちそうを思い浮かべながらイカ・タコの美味を嬉々として語ったかと思えば,足下のクラーケンの死体が“ごちそう”であることを気付かされ自らの失言を悔やむ。クラーケンの寄生虫を食わされる運命に泣嘆したかと思えば,その調理の匂いに文字通り垂涎する。クルクルと変わるマルシルの表情が楽しい。言うまでもないことだが,マルシルの“キモい”と“美味しい”の間の反復横跳びこそがこの作品の最大の魅力の1つである。

第7話は,このマルシルを中心に,キャラの魅力を的確に引き出した“うまい”作画が特徴だ。全体的に柔らかめの主線で描かれており,『ダンジョン飯』という作品の特色をよく表した作画だと言える。

第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

それだけに,“モブキャラ”の魚人が目一杯不気味に描かれているのがまた面白い。人間に近いから不気味なのか,魚に近いから不気味なのか。その境界の曖昧さがうまく画に落とし込まれており,ライオスとチルチャックの「魚人問答」にも説得力が生まれている。

 

対比Ⅱ

第8話「木苺/焼き肉」Aパートでは,マルシルの魔法学校時代の回想が語られる。

第8話「木苺/焼き肉」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

初々しい生徒たちによる長閑な学校生活。第7話に続き描画の印象は柔らかい。この辺り,さすが『リトルウィッチアカデミア』(TVアニメ:2017年)のTRIGGERという画捌きだ。ちなみに監督の宮島善博,副監督の佐竹秀幸,シリーズ構成のうえのきみこ,キャラクターデザインの竹田直樹,モンスターデザインの金子雄人らを含め,多くのスタッフが『リトルウィッチアカデミア』にも参加している。

この魔法学校の回想でもっとも注目すべきは,マルシルとファリンの描写である。

第8話「木苺/焼き肉」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

“いい感じの棒”を振り回し,バッタを追いかけ,木苺を頬張るファリンの“奇行”に,「学校はじまって以来の才女」マルシルは戸惑いの表情を見せる。〈マルシル=才女/ファリン=自然児〉というキャラの〈対比〉がここに生まれている。天真爛漫なファリンの所作が丁寧にアニメートされており,キャラの魅力を的確に伝えている。

第8話「木苺/焼き肉」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

ファリンがフードから手紙を出すカット。ポージングや所作芝居などが,ファリンの“ふしぎちゃん”要素をうまく表現している。原作にはないカットだが,ファリンのキャラを的確に要約した優れたカットだ。

第8話「木苺/焼き肉」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

突然現れたスライムを魔法で焼き払おうとするマルシル。ダンジョンの生態系においてスライムの存在が必須であることを知るファリンは,マルシルを必死に止めようとする。〈マルシル=座学/ファリン=実地〉という〈対比〉が生まれる。ちなみにこの対比は〈マルシル/センシ〉という〈対比〉にも対応する。この世界におけるダンジョンの秘密にも深く関わるキャラ配置であると言える。

第8話「木苺/焼き肉」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

ファリンがくれた木苺をほおばるマルシル。自分の勉強不足を素直に認め,自分にないものを持つファリンに惹かれていく様子は,マルシルというキャラの爽やかな柔軟性を感じさせる。木苺を食べた時の小さな「おいしい」は,本作におけるマルシルの「おいしい」の原点なのかもしれない。ここで登場したダンジョンを含め,『ダンジョン飯』という作品の“ミニチュア”のようなシークエンスである。

第8話Bパートでは,ウンディーネ登場以降の作画が特に目を引く。

第8話「木苺/焼き肉」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

第7話から第8話Aパートまで続いた柔らかい描線から,シビアな描線へと俄かに一変する。特にウンディーネと戦うマルシルの作画は,これまでと比べて顔の造作やプロポーションにも大きな違いが見られる。本記事冒頭の満面の笑みのマルシルと比べれば,その違いが明らかだろう。魔力を帯びた水からの光によって影が濃く出た表情も,シーンの深刻さにマッチしている。

AパートとBパートの間で作画の〈対比〉が生まれ,話数全体の中で大きなメリハリがついている。こうした作画の変化を嫌う向きもあるため,それなりにリスクのある演出ではあるが,考えてみれば同じ作品でキャラの相貌が変化するというのはアニメならではの技法なのだ。“味変”ならぬ“作変”を楽しむのもアニメの醍醐味と言っていい。

第8話「木苺/焼き肉」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

ちなみに上の画像左(ウンディーネに魔法を放つマルシル)は第3話「動く鎧」で絵コンテを手がけた菅野一期の原画,右(ウンディーネから逃げるライオス一行)は当ブログでも常連となった五十嵐海の原画だ。菅野の描線が戦闘のシビアさを伝え,五十嵐がそれをダイナミックに崩す。2人のコンビネーションが活きている。

 

作画の統一感を狙った第7話と,Bパートで統一からの逸脱を狙った第8話。この2つの話数自体が相互に〈対比〉の関係になっているとも言える。こうした話数間の連携も面白い。『ダンジョン飯』はTRIGGERの豊富な技の手数を楽しめる作品でもあるのだ。

この素晴らしい話数に参加されたすべての制作者に拍手を。

 

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Twitterアカウントなど

【スタッフ】
原作:九井諒子/監督:宮島善博/シリーズ構成:うえのきみこ/キャラクターデザイン:竹田直樹/モンスターデザイン:金子雄人/コンセプトアート:嶋田清香/料理デザイン:もみじ真魚/副監督:佐竹秀幸/美術監督:西口早智子錦見佑亮(インスパイア―ド)/美術監修:増山修(インスパイア―ド)/色彩設計:武田仁基/撮影監督:志良堂勝規(グラフィニカ)/編集:吉武将人/音楽:光田康典/音楽制作:KADOKAWA/音響監督:吉田光平/音響効果:小山健二(サウンドボックス)/録音調整:八巻大樹(クラングクラン)/アニメーションプロデューサー:志太駿介/アニメーション制作:TRIGGER

【キャスト】
ライオス:
熊谷健太郎/マルシル:千本木彩花/チルチャック:泊明日菜/センシ:中博史/ファリン:早見沙織/ナマリ:三木晶/シュロー:川田紳司/カブルー:加藤渉/リンシャ:高橋李依/ミックベル:富田美憂/クロ:奈良徹/ホルム:広瀬裕也/ダイア:河村螢/シスル:小林ゆう

 

【第7話「水棲馬/雑炊/蒲焼き」スタッフ】
脚本
佐藤裕/絵コンテ:宮島善博/絵コンテ協力:佐竹秀幸竹田直樹清田千萌大井翔演出:中野広大/総作画監督:竹田直樹/作画監督:芳垣祐介,半田修平,竹田直樹/作画監督補佐:波賀野義文千葉一希/モンスター作画監督:金子雄人

原画:米田温曾品喬蔣平翊長谷川哲也折原貴志芳垣祐介三木達也渡部由紀子中務泰山千田崇史森美咲黄志龍大谷彩絵宇田早輝子頼志青堀尾鉱土肥志文齋藤拓矢林可爲児玉莉乃蔡孟書翁靖翔范言新岩崎洋子はるき真野佳孝佐竹秀幸関みなみ大成麻子仁井宏隆山口杏奈氷室陽小林優子伊藤公景すしお山口美衣大井翔川窪達郎丹羽弘美

【第8話「木苺/焼き肉」スタッフ】
脚本
樋口七海/絵コンテ:米森雄紀演出:下平佑一/総作画監督:竹田直樹/作画監督:郡安俊兵佐藤皓宏/モンスター作画監督:金子雄人

原画:荒井洋紀波賀野義文郡安俊兵ベラスNogya岩崎洋子菅野一期五十嵐海林可爲横山麻華川窪達郎佐藤皓宏はるき安部葵山口美衣岩渕いづみ大井翔森美咲鄭佳湄

 

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