アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

TVアニメ『ダンジョン飯』(2024年冬)第3話の演出について[考察・感想]

*この記事は『ダンジョン飯』第3話「動く鎧」のネタバレを含みます。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

delicious-in-dungeon.com


www.youtube.com

TRIGGER初のマンガ原作アニメとして注目される,九井諒子原作/宮島善博監督『ダンジョン飯』。すでに評価の定まった名のある原作をベースとしつつも,TRIGGERらしい躍動感を加味した優れた作品だ。今回の記事では,菅野一期が絵コンテ,中野広大が演出を手がけた第3話「動く鎧」を見てみよう。

 

躍動

TRIGGERと言えば,『キルラキル』(2013-2014年)『宇宙パトロールルル子』(2016年)『プロメア』(2019年)など今石洋之の作品を中心に,吉成曜『リトルウィッチアカデミア』(2017年)や雨宮哲『SSSS.GRIDMAN』など,ダイナミックでスタイリッシュなアニメーションを繰り出してきた制作会社である。オリジナルかほぼそれに近い形式での作品制作が多いため,それぞれの監督の個性が全面に押し出される点にも特徴がある。そのTRIGGERが,マンガ原作という,少なくともビジュアル面ではベースが確定してしまっている作品においてどう“らしさ”を発揮するのか。この点に多くのアニメファンが注目していた。

第1話と第2話にも“らしさ”の片鱗は見えていたが,比較的慎ましやかだったように思う。ところ第3話では,それがかなり明確な形で打ち出されていたと言える。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

まず個人的に注目したいのはAパート冒頭,チルチャックが仕掛けを操作して壁が開いた直後のカットだ。第1,2話と比べ,マルシル,チルチャック,ライオスの作画に柔らかいコミカルさがあるように感じられる(センシは普段通りのようではある…)。同時に,マルシルやチルチャックの姿勢の曲線などに“動き”の兆しを感じる。ほんの一瞬のカットだが,本話数のユニークネスを予兆しているようでもある。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

マルシルが魔法で灯りをつけるカット(左)と,ライオスの剣にまつわる回想に入る直前のカット(右)広角レンズでディストーション(歪み)を発生させている。特に右のカットでは,ライオスのドアップを中央に捉え,左右の“余白”に極端に小さくしたチルチャックとマルシルを配置しているのが面白い。優秀な剣士でありながら,どこかとぼけた変態っぷりを見せるライオスのキャラを上手く表している。

歪みということで言えば,ライオスが動く鎧の卵鞘を発見した後の回想シーンは格別だ。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

湯浅政明の身体表現を思わせるデフォルメオバケによるスピード感の表現,ダイナミックな背動によって,非常に躍動感のある回想シーンになっている。暖色系の色彩とも相まって,不思議な幻想感も感じられる印象的なシーンだ。

このシーンを手がけたのはあの五十嵐海だ。『リトルウィッチアカデミア』(2017年)『SSSS.GRIDMAN』(2018年)『BNA ビー・エヌ・エー』(2020年)など多くのTRIGGER作品で活躍してきた五十嵐だが,近年ではProduction I.G制作の『天国大魔境』(2023年)第10話の絵コンテ・演出が記憶に新しい。

www.otalog.jp

この『天国大魔境』第10話も,大胆なデフォルメや,作画担当の個性を全面に押し出したシーンなど,自由奔放な演出方針が話題となった話数だった。ちなみに作画@wikiの情報によれば,五十嵐は湯浅政明を好きなアニメーターとして挙げているらしい。彼の自由な表現力の出所はその辺りにあるのかもしれない。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

一度退却してから再突入後,センシが動く鎧と戦うカット。オバケ的な画が効果的に挿入され,大変スピード感のあるカットになっている。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

戦闘中に跳ね返ってきた動く鎧の兜をマルシルが杖でキャッチし,慌てふためいて投げ飛ばすシーン。マルシルの正面カットを高速で回転させ,兜視点であることを示している(「動く鎧が対象を視認する生き物である」というライオスの仮説にもつながる)。杖にはまった兜を振り回すマルシルの作画が面白い。TRIGGERらしい躍動感とワチャワチャ感がぎっしり詰まった優れたシーンだ。

 

構図

デフォルメやオバケを多用した躍動感のあるカットの一方で,この話数ではスタイリッシュな構図も目を引いた。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

チルチャックに加勢するセンシのシーン。背後のアオリ(及びあえての“パンチラ”)から正面のアオリへ。センシの股越しにチルチャックの顔を写した構図も面白い。この辺りもTRIGGERらしい切り取り方と言えようか。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

個人的にこの話数で一番好きなのは,マルシルが兜を投げ飛ばした直後のこのカットだ。大写しになったマルシルの杖の輪の部分が,センシとチルチャックを捉える“フレーム”のように機能している。センシの大鍋が輪の中央に配されているのも面白い。動く鎧との乱戦という状況の中に,一瞬,構図の均整が挿入される。静と動,秩序と混沌の配置が上手い。

第3話「動く鎧」より引用 ©︎九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

食事後,ライオスが「動く鎧の手つなぎ」が“交尾”だったことに気づくカット(ちなみにこの箇所は,原作単行本では巻末の「モンスターよもやま話」におまけエピソード的に置かれているものである)。冒頭のカット同様,広角カメラでディストーションを発生させつつ,4人の呆れ顔をフカンで捉えている。マルシルとチルチャックの表情が面白い。先ほどの杖フレームのカットもそうだが,キャラクターの配置がとてもうまく,ほとんど絵画的とも言える“美しい”構図だ。

 

菅野一期と中野広大の技

この話数の絵コンテを手がけた菅野一期はTRIGGER所属のアニメーターだ。『プロメア』(2019年)『BNA ビー・エヌ・エー』(2020年)『SSSS.DYNAZENON』(2021年)『サイバーパンク エッジランナーズ』(2022年)『グリッドマン ユニバース』(2023年)などに参加した経歴を持つ。作画@wikiの情報によれば,先述の五十嵐海の影響を受けているらしく,『天国大魔境』第10話にも原画として参加している。『ダンジョン飯』で先輩の衣鉢を継いだというところだろうか。

『サイバーパンク エッジランナーズ』エピソード3「Smooth Criminal/裏稼業」より引用 ©︎2022 CD PROJEKT S.A.

演出の中野広大も『プロメア』『BNA ビー・エヌ・エー』『SSSS.DYNAZENON』『サイバーパンク エッジランナーズ』『グリッドマン ユニバース』と菅野と同様の制作参加経歴を持つ(ネット上に現在の所属情報はない)。参加作品数はまだ多くないようだが,菅野とともに今後の活躍が期待されるアニメーターだ。

その他,この素晴らしい話数に参加されたすべての制作者に拍手を。

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Twitterアカウントなど

【スタッフ】
原作:九井諒子/監督:宮島善博/シリーズ構成:うえのきみこ/キャラクターデザイン:竹田直樹/モンスターデザイン:金子雄人/コンセプトアート:嶋田清香/料理デザイン:もみじ真魚/副監督:佐竹秀幸/美術監督:西口早智子錦見佑亮(インスパイア―ド)/美術監修:増山修(インスパイア―ド)/色彩設計:武田仁基/撮影監督:志良堂勝規(グラフィニカ)/編集:吉武将人/音楽:光田康典/音楽制作:KADOKAWA/音響監督:吉田光平/音響効果:小山健二(サウンドボックス)/録音調整:八巻大樹(クラングクラン)/アニメーションプロデューサー:志太駿介/アニメーション制作:TRIGGER

【キャスト】
ライオス:
熊谷健太郎/マルシル:千本木彩花/チルチャック:泊明日菜/センシ:中博史/ファリン:早見沙織/ナマリ:三木晶/シュロー:川田紳司/カブルー:加藤渉/リンシャ:高橋李依/ミックベル:富田美憂/クロ:奈良徹/ホルム:広瀬裕也/ダイア:河村螢/シスル:小林ゆう

【第3話「動く鎧」スタッフ】
脚本:
佐藤裕/絵コンテ:菅野一期/演出:中野広大/総作画監督:竹田直樹/作画監督:菅野一期佐藤皓宏/作画監督補佐:五十嵐海/モンスター作画監督:金子雄人

原画:黒崎知栄実岩﨑洋子須藤瑛仁千葉一希MYOUN大井翔森美咲小林優子真野佳孝齋藤拓矢じゅら阿部慎吾すしお菅野一期五十嵐海米田温鄭佳湄千田崇史竹内哲也川窪達郎丹波弘美浅利歩惟大成麻子林可爲はるき鳴海陽太Nogya

 

関連記事

www.otalog.jp

 

商品情報