アニ録ブログ

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『葬送のフリーレン』フリーレン〈キャラ(クター)〉考察

*この記事はネタバレを含みます。

『葬送のフリーレン』公式HPより引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

伝統的なファンタジーの舞台設定を用いつつ,穏やかな日常風景と細やかな心の機微を描く『葬送のフリーレン』。その独特な世界観を解釈するに当たって,主人公フリーレンのキャラ(クター)理解は不可欠である。今回の記事では,フリーレンの〈猫〉〈ずぼら〉〈オタク〉〈時間感覚〉といった成分に注目しつつ,このキャラ(クター)のユニークネスを分析したいと思う。

なお,本記事における〈キャラ〉〈キャラクター〉という用語に関しては,以下の記事を参照頂きたい。

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〈キャラ〉としてのフリーレン

〈エルフ〉成分

〈キャラ〉としてのフリーレンは思いのほか多義的である。その基底を成しているのは言うまでもなく“エルフ”の造形だが,そこに様々な成分が加わることにより,豊かで魅力的なキャラに仕上がっている。

ちなみに歴史的に見ると,エルフのイメージは必ずしも一様ではない。その最古の記述は北欧神話に見られるが,そこではある種のアニミズム的な神霊として理解されていたようだ。その後,ヨーロッパ各地に伝承が伝播していく中で,エルフは多様な姿でイメージされるようになり,イングランドの民間伝承などでは妖精と同一視されることもある。

現代のファンタジー作品における“固有種”としてのエルフイメージを確立したのは,J・R・R・トールキン『指輪物語』(1954-1955)と言われている。“美しく聡明で,人類よりも優れた長命の種族”として描かれるエルフは,今日一般的に抱かれるイメージにかなり近いと言える。

さらにフリーレンのトレードマークでもある“長く尖った耳”に関しては,『ロードス島戦記』(1988-1993年)のイラストとして出渕裕がデザインしたディードリットが嚆矢とされている。*1

左:『新装版 ロードス島戦記 灰色の魔女』カバーイラスト ©︎1988, 2013 Ryo Mizuno, Yutaka Izubuchi, Group SNE/右:「#01 冒険の終わり」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

この〈エルフ耳〉に加え,〈白髪〉〈色白〉〈魔法使い〉〈長寿〉など,フリーレンを構成している要素の多くが主に現代日本のファンタジーの想像力の中で徐々に定着していったものだ。その意味で,フリーレンの基本的な造形は典型的なエルフ成分で出来上がっていると言ってよい。これによりフリーレンの特徴が読者・視聴者に瞬時に伝達されるため,主人公キャラへの“導入”としてうまく機能していると言える。

 

〈猫〉成分

一方,フリーレンのキャラに〈猫〉要素が加味されている点も見逃せない。トールキン・エルフの〈長身〉や出渕・エルフの〈痩身〉といったイメージと異なり,フリーレンは他のキャラと比べて低身長で,ややふんわりとした体型で描かれている。

左:原作『葬送のフリーレン①』,p.15,小学館,2020年 ©︎Kanehito Yamada 2020 Tsukasa Abe/右:原作『葬送のフリーレン⑦』,p.161,小学館,2022年 ©︎Kanehito Yamada 2022 Tsukasa Abe

ちなみに当初,原作では比較的キリッとしたデザインで描かれていたが,巻数が進むにつれ顔の輪郭や眼の造形が丸みを帯び,全体的にふわっとした猫風味の印象に変わっている。アニメのフリーレンは後者のデザインに基づいていると推測される。

“二次元美少女”は猫の顔を元にしていると言われるほど,現代の少女キャラ造形と猫のイメージの親和性は高い。他の動物と異なり,猫の両目は前を向いており,頭部が丸く額が大きい。これらの特徴が人間の赤ん坊と類似していることが,人間が猫に特別な愛着を抱くようになった原因だと指摘する説もある(同じことはパンダのような動物にも当てはまる)。 *2 猫の造形をどこまで意識しているかは描き手によるだろうが,二次元描写の歴史において模倣と引用が繰り返される中で,猫そのもの,あるいは少なくとも猫的な愛らしさというものが文化的無意識の中に蓄積していったことは間違いないだろう。

一方,アニメ『フリーレン』では,意識的にフリーレンを〈猫〉的に描ている描写もある。

「#12 本物の勇者」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

「#12 本物の勇者」でフリーレンがフェルンに「服だけ溶かす薬」を自慢するシーン。フリーレンがベッドから飛び降り,“がらくた”の詰まった鞄から薬をとりだす。手や顔の表情や動作は,明らかに猫の軽やかな愛らしさを意識的に取り入れている。

フリーレンはどの人類種よりも年齢を重ねているため,フェルンやシュタルクに対し「お姉さん」的な振る舞い方をしようとする(場合によってはシュタルクに「クソババァ」と言われてしまう)のだが,上記のような〈猫〉的な少女性のために,マスコット的なイメージが常に付きまとってしまう。〈長寿〉という設定と〈猫〉性の按配が絶妙だ。この辺りのキャラ特性は,グッドスマイルカンパニーの「ねんどろいど」シリーズなどとも相性がいい。今後の話数進行に伴い,様々な形でグッズ化が展開されていくと予想される。

 

〈ずぼら〉成分

また〈ずぼら〉というキャラ成分も面白い。特にフェルンとの関係においてそれがはっきりと現れている。フリーレンはフェルンに対し“育ての親”および“魔法の師匠”という立場である一方,そのずぼらな性格のため,母娘関係が逆転する場面が多い。戦闘では常に冷静で他の追随を許さない圧倒的な力を見せつけるが,日常風景ではフェルンにだらしのない生活を嗜められることが多い(そしてそれがフェルンというキャラの構成にも一役買っている)。

「#04 魂の眠る地」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

トールキンの『指輪物語』では人類よりも優れた種族として描かれていたエルフが,今や〈ずぼら〉な〈猫〉少女としてアニメ作品の中に顕現し,他の人物との関係性の中で豊かなキャラとしてその魅力を放っている。キャラ表象の歴史の中でもたいへん興味深い事象と言えるだろう。

 

〈オタク〉成分

フリーレンは魔法を集めるのが趣味である。というより〈魔法オタク〉である。「魔法」と名のつくものなら何でも興味を持ち,たびたびフェルンたちを呆れさせる。周囲のことに無頓着な収集癖キャラというのは,現代のオタク像にとても近い。エルフという架空の存在でありながら,僕らにとって身近でリアルな実像を持った存在としてこちらに迫ってくる感がある。この“近さ”もフリーレンというキャラの魅力だ。

左:「#01 冒険の終わり」/中・右:「#06 村の英雄」より引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

こうしたフリーレンのオタク的収集癖は,アイゼンに「くだらん」と一蹴されてしまう。しかし後述するように,この〈くだらなさ〉がフリーレンのキャラクターをも構成し,かつ物語のテーマとも深いつながりを持つのである。

 

種﨑敦美の成分

こうした多層的なフリーレンのキャラにさらに命を吹き込んだのが,種﨑敦美である。種﨑は非常に多彩な声優だ。『SPY×FAMILY』では,喜怒哀楽をわかりやすく表出するアーニャというキャラを演じている。アーニャは「人の心を読む」という特殊能力を持っているが故に,そのキャラ構成において「心」は当然理解可能なものとして設定されている。一方,人の感情に無頓着なフリーレンは,「心を読む」ことが苦手だ。当然,自分の感情を表に出すこともあまりない。その意味でアーニャとフリーレンは対極にあるキャラである。そのキャラの両極を種﨑は見事に演じ分けている。

フリーレンは人の感情に無頓着だとは言え,冷酷で無感動なわけではない。特にヒンメルの死後は,人の心を理解しようと様々な人と関わり合い理解しようとする。種﨑は比較的地声に近いと思われるピッチで抑揚を抑え,“マイペース”なフリーレンをキープしつつ,彼女の心の機微や変化を演じている。これには相当のキャラ理解と表現技術が必要だろう。フリーレンというキャラ造形において,種﨑の貢献度は極めて高い。フリーレンが彼女の代表作となることは間違いないだろう。

 

〈キャラクター〉としてのフリーレン

メトロノーム

本作は放送当初から「ゆっくりとした時間が流れている」という感想が散見されたが,それはフリーレンの内的時間感覚と無関係ではない。フリーレンは人類種よりもはるかに長命であるため,日頃の時間感覚も人類よりゆったりとしている。アニメでは,余白を豊富に使った構図やEvan Callの穏やかな劇伴などによって, 彼女の壮大で穏やかな悠久の時を表現している。

左:「#02 別に魔法じゃなくたって…」/中:「#16 長寿友達」/右:エンディングアニメーションより引用 ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

また,しばしば挿入されるゆっくりとした歩行のシーンも特徴的だ。冒険者パーティというより,まるでピクニックに出かける家族のように見えることも多い。ゆったりとした歩行シーンはエンディングアニメーションにも用いられている。それは作品全体の時間リズムを規定し,フリーレンの内的時間と同期しているように思える。

フリーレンはかつてヒンメルの誘いに応じ,人類種とのパーティを組む決意をした。ヒンメルの死後も,ハイターやアイゼンの求めに応じてフェルンやシュタルクらと旅を共にする。ここで〈エルフの時間〉と〈人類の時間〉が触れ合う。決定的に重要なのは,フリーレンを主人公に据えたことにより,人類のパーティの中に長命のフリーレンが例外的に存在しているというよりは,長命のフリーレンの目線で短命な人類を見るという構成になっている点だ。フリーレンは一人のキャラクターであると同時に,この作品の舞台設定の尺度にもなっているのである。

 

くだらないもの

フリーレンの内的時間感覚は作品世界のメトロノームとして機能し,その尺度との差において,短く刹那的な人類の実存が描かれる。しかしフリーレンはそんな短命種の人類を外部から無関心に“観察”するのではない。すでにヒンメルたちとの冒険の旅路の中で,短いがかけがえのない生時間の中で懸命に生きる人々の日常が彼女の目に映っていたはずだ。ヒンメルの死後,フリーレンは人類種の生時間の中に入り込み,そこで人類種と関わり,共にかけがえのない日常を送ることの価値を再認識する。そもそもあの無数の「くだらない」魔法も,彼女が孤独に収集している限りでは何の面白味もないだろう。人類という他者がいるからこそ,その「くだらなさ」を実感し味わうことができるはずなのだ。この作品は〈ファンタジー〉という構えをとっていながら,その本質は〈日常系〉作品に近い。そうした世界観・価値観を規定しているのが,フリーレンというキャラ(クター)なのである。

 

フリーレンというキャラ(クター)を知ることは,『葬送のフリーレン』という作品を解釈することに等しい。本記事を下敷きとして,第1期終了後に正式なレビュー記事を掲載する予定である。

 

 

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:山田鐘人(原作)・アベツカサ(作画)/監督:斎藤圭一郎/シリーズ構成:鈴木智尋/キャラクターデザイン・総作画監督:長澤礼子/音楽:Evan Call/コンセプトアート:吉岡誠子/魔物デザイン:原科大樹/アクションディレクター:岩澤亨/デザインワークス:簑島綾香山﨑絵美とだま。長坂慶太亀澤蘭松村佳子高瀬丸/美術監督:高木佐和子/美術設定:杉山晋史/色彩設計:大野春恵3DCGディレクター:廣住茂徳/撮影監督:伏原あかね/編集:木村佳史子/音響監督:はたしょう二/アニメーション制作:マッドハウス

【キャスト】
フリーレン:
種﨑敦美/フェルン:市ノ瀬加那/シュタルク:小林千晃/ヒンメル:岡本信彦/ハイター:東地宏樹/アイゼン:上田燿司

 

商品情報

【Blu-ray】

 

【原作マンガ】