*この記事は『葬送のフリーレン』第6話「村の英雄」のネタバレを含みます。
今回は山田鐘人原作・アベツカサ作画/斎藤圭一郎監督『葬送のフリーレン』(以下『フリーレン』)各話レビューの第2弾として,第6話「村の英雄」の演出を見ていこう。絵コンテ・演出は,『Fate/Apocrypha』や『天国大魔境』などに参加し,本作でもアクションディレクターを務める岩澤亨。Aパートのダイナミックなアクションに加え,Bパートの日常芝居が光った優れた話数である。
「必要なのは覚悟だけ」:アクション
まず注目したいのはAパートのシーンだ。「どうしようもない臆病者」のシュタルクに,フェルンが初めて魔物と戦った時のことを話して聞かせる。
魔物に追い詰められたフェルンが「覚悟」を決めて振り返ると,自然と体が動いて魔法で魔物を撃ち倒すことに成功する。この時のフェルンの足元のカットが優れている。足の踏み込み,重心の移動,爪先の向きなどが丁寧に表現されている上に,“自然に体が動いた”という体の軽やかさも演出されている。これにより「必要なものは覚悟だけだったのです」というフェルンのセリフもより説得力が増している。
そしてこの話数の目玉は,なんと言ってもシュタルクと竜の戦闘シーンだろう。先のフェルンの言葉に感化された彼は,村を守る「覚悟」を胸に決死の覚悟で竜に挑む。
岩場を疾走し,竜の身体にしがみつき,高く飛翔し,上から叩きつける。原作ではわずか2頁程度のシーンを存分に膨らまし,これまでの静かな展開の連続でアクションに飢えた視聴者たちを大いに唸らせた。「アクションディレクター」岩澤の面目躍如といったシーンだろう。第6話というタイミングで派手なアクションを挿入する構成力もなかなかのものである。
座るフェルン:日常芝居
しかし,上のアクションシーンの出来栄えが見事なのは確かなのだが,やはり僕としてはBパートの日常風景の演出を評価したい。
まずはフェルンがバーの椅子に座るカット。シュタルクの隣に立ち,椅子を引いて衣服をおさえながら座り,椅子を前に引くまでの所作が実に丁寧にアニメートされている。
街で2年以上待つことが嫌だということで意見が一致し,思わずフェルンがシュタルクに詰寄る芝居なども面白い。
原作では「ズイッ」というオノマトペでバーバルに表現されているところを,「そうですよね。嫌ですよね」というセリフに合わせた2段階の動作で表している。
この手の日常所作の作画は,単に“リアル”だからいいというわけではない。こうした芝居をつけることによって,フェルンというキャラクターの生真面目さや細やかさがノンバーバルな形式で伝わる。また,身体の動きと椅子という物体の移動が連動することにより,キャラクターがこの世界の内部に確かに定位していることが視覚的に感得される。ファンタジー作品でありながらアクションシーンが相対的に少ない『フリーレン』のような作品では,こうした丁寧なカットの積み重ねがキャラと世界観を構築していくのだ。
バーのシーンの作画を手掛けたのは,『天国大魔境』(2023年)の傑作回「〈#8〉それぞれの選択」に作画監督として参加した永野裕大(megro (@mash1111111) / X)だ。
葬送のフリーレン6話フェルンがBARに入ってきてからのシーン原画やらせていただきました。
— megro (@mash1111111) 2023年10月13日
すごい人たちに囲まれての仕事、かなり刺激になりました!
ありがとうございました! https://t.co/t8tBm8309y
ちなみに当ブログでは,これまでにもいくつかの“着座カット”に言及してきたが,その中でも永野のカットは特に優れた仕事として記憶に留めておきたいものである。
小さなシュタルクと大きなアイゼン:動と静
バーを出て街で情報収集するフェルンとシュタルク。この辺りの作画・演出も見応えがある。
それまでほぼ無表情だったフェルンが,「悪人顔ですしね」「うるせえ」のやりとりでほんのり口元を綻ばせるカット。2人の距離がほんのわずかに縮まったことを感じさせるいいカットだ。
最後に注目したいのはシュタルクの回想シーンだ。
外壁の上から北側の風景を見渡したシュタルクは,小さい頃,師匠であるアイゼンに同じ場所に連れてこられた時のことをフェルンに語る。シュタルクとフェルンのカットが,シュタルクとアイゼンのカットに切り替わる。
第1話などと同様,ここでも“青の余白”をたっぷりと用いながら,大人になったシュタルクとフェルンの微妙な距離感と,幼少時代のシュタルクとアイゼンとの親密な距離感を対比させている。フリーレンのような悠久の時と比べればミニマムだが,人にとっては確かな厚みを持った歳月が一気に巻き戻される。
幼少時代の小さなシュタルクは,初めて見た北側の風景と,アイゼンの語る「たった十年の冒険」の話に心を躍らせる。今にも飛翔せんばかりに壁から身を乗り出すシュタルクの肩に,アイゼンの手が親密な重石のように置かれている。子どもらしい奔放なエネルギーを,正に“鉄”のように落ち着いたアイゼンが大地に繋留しようとしているかのようにも見える。
幼少時代のシュタルクの作画を手がけたのは,『すずめの戸締り』(2022年)にも原画で参加した宮野紗帆(miyano (@mhj_03) / X)だ。
フリーレン6話ほんの少しだけ原画で参加しております🌱
— miyano (@mhj_03) 2023年10月13日
チビシュタルクを描いたので、大きいシュタルクのアクションシーンがカッコ良すぎて心臓を持ってかれました…
フリーレン愛を強く感じるスタッフの方々とご一緒できて感謝です🤗 https://t.co/JI7WAeYSQl
今回の話数では,個人的には永野と宮野の作画を特に評価したいと思う。今後の2人の仕事にも要注目だ。
そしてこの素晴らしい話数を手がけたすべての制作スタッフに拍手を。
作品データ
*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど
【スタッフ】
原作:山田鐘人(原作)・アベツカサ(作画)/監督:斎藤圭一郎/シリーズ構成:鈴木智尋/キャラクターデザイン・総作画監督:長澤礼子/音楽:Evan Call/コンセプトアート:吉岡誠子/魔物デザイン:原科大樹/アクションディレクター:岩澤亨/デザインワークス:簑島綾香,山﨑絵美,とだま。,長坂慶太,亀澤蘭,松村佳子,高瀬丸/美術監督:高木佐和子/美術設定:杉山晋史/色彩設計:大野春恵/3DCGディレクター:廣住茂徳/撮影監督:伏原あかね/編集:木村佳史子/音響監督:はたしょう二/アニメーション制作:マッドハウス
【キャスト】
フリーレン:種﨑敦美/フェルン:市ノ瀬加那/シュタルク:小林千晃/ヒンメル:岡本信彦/ハイター:東地宏樹/アイゼン:上田燿司
【第1話「冒険の終わり」スタッフ】
脚本:鈴木智尋/絵コンテ・演出:岩澤亨/総作画監督:長澤礼子/作画監督:廣江啓輔,高瀬丸
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