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TVアニメ『スキップとローファー』(2023年春)第1話とOPアニメーションの演出について[考察・感想]

 *この記事は『スキップとローファー』第1話「 ピカピカ」のネタバレを含みます。

『スキップとローファー』ノンクレジットOPより引用
©︎高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会

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高松美咲原作/出合小都美監督『スキップとローファー』は,田舎の中学から東京の高偏差値高校に進学した天然才女・岩倉美津未を中心に繰り広げられる学園コメディである。監督の出合が画コンテ・演出を手がけた第1話「ピカピカ」は,爽やかな画作りと繊細な演出が光るたいへん優れた話数であり,SNS等でもすでに高い評価を得ている。今回の記事では,この第1話と,同じく出合監督が手がけたオープニングアニメーションを詳しく見ていこう。

 

青,青,青。

『スキップとローファー』第1話「ピカピカ」より引用
©︎高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会

空の青。海の青。それらを吸い取ったかのようなブレザーの青。アバンからAパートにかけて,爽やかな〈青〉が視界に染み渡る。入学式を前に胸を踊らせる彼ら/彼女らの〈青〉に,軽やかなピアノ曲が寄り添う。この作品が純度100パーセントの"アオハル"を主成分としていることを色彩で伝えた,たいへん心地よく印象深い導入部だ。アニメ作品における色彩の重要性を改めて実感させてくれる。

『スキップとローファー』第1話「ピカピカ」より引用
©︎高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会

この清涼飲料水のような“アオハル”ムードの中で,“田舎娘と都会娘”“高偏差値高校での成績ランク”“女子生徒間の微妙な距離”といった,スクールライフのリアリティがピリッとしたスパイスとして効いている。このコントラスト感もまた面白い。

リアリティと言えば,本作の日常芝居もたいへん優れている。一例として,みつみとナオが食事をするカットを見てみよう。

『スキップとローファー』第1話「ピカピカ」より引用
©︎高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会

みつみがテーブルにつく時,いったん座面に座ってから椅子を前に引き,いただきますのジェスチャーをする。僕らが日常的に行なっているごく当たり前の動作だが,こうした所作を省略せずに丁寧にアニメーションに落とし込むことで,キャラクターとその世界は僕らの日常にグッと近づいてくる。『お兄ちゃんはおしまい!』(2023年)や『天国大魔境』(2023年)のレビューでも述べたが,アニメにおける日常芝居は,そのキャラクターが作品内の〈日常〉の中に確かに定位していることを示し,僕らがアニメ内のキャラと世界観に親近感を抱きやすくするための重要な要素である。

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みつみの主成分:黒沢ともよ

主人公のみつみは,いわゆる典型的な“アニメ美少女キャラ”としてはデザインされていない。主席をとれるほどの才女だが,顔立ちも髪の色も瞳の色も,すべて“田舎娘”のアベレージを体現するようなキャラだ。“可愛いけど勉強はダメ”というアイドル系キャラ類型の逆を張っている。それにもかかわらず,わずか30分足らずの1話で視聴者をとりこにする魅力をこのキャラクターは持っている。その魅力の秘密は,目標に向かう芯の強さ,少々エキセントリックな天然キャラ,すぐに伊藤潤二ばりのホラー顔を見せてしまう飾り気のなさなど,類型的なルックの造形に頼らない,いわば〈内面成分〉による造形にあると思われる。その意味では,例えば『モブサイコ100』(2016-2022年)の「モブ」や「トメ」などと同じキャラ造形とも言えるだろう。

『スキップとローファー』第1話「ピカピカ」より引用
©︎高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会

そして,みつみというキャラのレシピにおいて,CVの黒沢ともよという成分の存在はとてつもなく大きい。

黒沢と言えば,『響け!ユーフォニアム』(2015年-)の「黄前久美子」,『宝石の国』(2017年)の「フォスフォフィライト」,『アクダマドライブ』(2020年)の「詐欺師/一般人」など数々の代表作を持つ実力派声優だ。“表面的には平凡で平均的に見えるが,特殊な潜在能力を秘めたキャラ”を演じさせれば右に出るものはいないだろう。さらに彼女の独特かつ唯一無二の呼吸,間合い,リズム感は,みつみというキャラの内面構成にとって最適解と言えるだろう。あるいは,黒沢ともよが演じてしまった瞬間,みつみのCVには黒沢ともよ以外あり得なくなってしまった,と言ってもいいかもしれない。

 

ラン・みつみ・ラン:インプリンティングの逆転

さて,この話数の一番の目玉は,何と言ってもみつみと志摩が学校まで走るシーンだ。

『スキップとローファー』第1話「ピカピカ」より引用
©︎高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会

みつみは駅で親切にしてくれた志摩に対して,文字通り雛のインプリンティングのような好意を抱く。その後2人は駅から学校まで走り始めるのだが,どうやら“走る”とは言えないほどの速度らしい。この時みつみは最初の〈親鳥-雛〉のインプリンティング関係をなぞるように,志摩の背中を追いかけながら走る。

しかしその後,みつみはつまづいて転んでしまう。なんとか気合いで立ち上がった彼女は,履いていたローファーと靴下を脱ぎ,裸足で走り始める。なびく髪と,ぎこちないが必死のランニングフォームが丁寧にアニメートされている。

『スキップとローファー』第1話「ピカピカ」より引用
©︎高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会

みつみは精一杯の“全速力"で駆ける。そして今度は志摩がみつみの背中を見ながら追いかける。〈親鳥-雛〉のインプリンティング関係が逆転する。カメラ=志摩の目線が,みつみの汚れた足の裏を捉えるのもいい。そして志摩にみつみの必死さが感染する。おそらく学校まで走ったことなど一度もないマイペースな志摩の中で,何かの変化が起こる。

『スキップとローファー』第1話「ピカピカ」より引用
©︎高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会

みつみが入学式の宣誓を暗唱でやってのける様を見て,志摩は再び心を動かす。驚きと感心と羨望が入り混じったような笑顔が印象的だ。みつみ→志摩の想いと,志摩→みつみの想いを交差させた見事なシークエンスである。

なお,走るシーンから入学式のシーンまでの志摩の心の変化については,アニメ班の解釈が施されていると思われる。アニメと原作を比較してみるのも面白いだろう。

 

オープニングアニメーション:出合小都美の技

本作の監督の第1話の画コンテ・演出を担当する出合小都美(であい ことみ)は,これまで『銀の匙 Silver Spoon』第2期(2014年),『ローリング⭐︎ガールズ』(2015年),『夏目友人帳』第5期(2016年)第6期(2017年)などで監督を務めてきたが,それ以外にも多くのOP・EDアニメーションで手腕を発揮した経歴を持つ。

 

『からかい上手の高木さん 2』(2019年)ノンクレジットOP


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『GREAT PRETENDER』(2020年)ノンクレジットOP


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『かげきしょうじょ!!』(2021年)ノンクレジットOP


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ご覧いただければわかるように,カラフルなテクスチャやオブジェクト,ポップなイラスト調のキャラ,ファンシーな世界観などが最大の特徴だ。本作のOPアニメーションでもその個性が遺憾無く発揮されている。

 

『スキップとローファー』ノンクレジットOP


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特に主題歌のサビとともに始まるみつみと志摩のダンスは非常に動きがよく,極上の多幸感とファンシー感に満ちた素晴らしいアニメーションである。このOPがみつみと志摩のキャラの魅力をいっそう高めていると言っても過言ではない。

『スキップとローファー』ノンクレジットOPより引用
©︎高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会

 

『スキップとローファー』という作品は,派手なアクションや波乱に満ちたエピソードがあるわけではないが,だからこそ繊細な演出が際立つ作品だ。この後の話数も,アニメ班の手腕に期待したい。

 

 

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:高松美咲/監督・シリーズ構成:出合小都美/副監督:阿部ゆり子/キャラクターデザイン・総作画監督:梅下麻奈未/総作画監督:井川麗奈/プロップ設定:樋口聡美/美術監督:E-カエサル/美術監修:東潤一/美術設定:藤井祐太/色彩設計:小針裕子/撮影監督:出水田和人/3D監督:市川元成/編集:髙橋歩/音響監督:山田陽/音楽制作:DMM music/音楽:カッパエンターテインメント若林タカツグ/アニメーション制作:P.A.WORKS

【キャスト】
岩倉美津未:黒沢ともよ/志摩聡介:江越彬紀/江頭ミカ:寺崎裕香/村重結月:内田真礼/久留米誠:潘めぐみ/ナオ:斎賀みつき/迎井司:田中光/山田健斗:村瀬歩/兼近鳴海:木村良平/高嶺十貴子:津田美波

【第1話「ピカピカ」スタッフ】
脚本:
米内山陽子/画コンテ・演出:出合小都美/総作画監督:梅下麻奈未作画監督:井上裕亮

 

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