※このレビューはネタバレを含みます。
三田誠原作・加藤誠監督のアニメ『ロード・エルメロイII世の事件簿 ー魔眼蒐集列車 Grace noteー』の放映が始まった。
ふだん僕は各話ごとにレビューを書くことはないのだが,第1話「バビロンと刑死者と王の記憶」の出来栄えが異様なほど良かったので,イレギュラーではあるが簡単にレビューしておきたい。
『Zero』に寄せて
加藤誠監督自身が絵コンテを切り,演出も担当した第1話は,「ロード・エルメロイⅡ世」の誕生秘話という体をとっている。第四次聖杯戦争を描いた『Fate/Zero』(2011-2012年)では,当初ただの泣き虫だったウェイバー・ベルベットがサーヴァント・イスカンダルの壮絶な最期を見届け,「生きる」ことを決意する。その彼が,その後いかにして渋面のロード・エルメロイへと成長していったか。この様を描くにあたり,『Fate/Zero』へのオマージュとも言える演出をふんだんに使っているのだ。
まず印象的だったのはオープニングだ。『Fate/Zero』第23話「最果ての海」におけるイスカンダルとギルガメッシュの決戦シーンを冒頭に用いることで,ウェイバーの心に灯った熱い思いを視聴者に想起させる効果を持っている。
『Zero』ファンならば,わずか数分のこのシーンだけでウェイバーの心情とシンクロナイズできたはずだ。なかなかの演出である。
次に特筆すべきは,ライネス・エルメロイ・アーチゾルテのキャラクターデザインだ。僕は『Fate/Grand Order』をプレイ中なのだが,『事件簿』のコラボイベントの際には,正直このキャラクターにはあまり興味を持たなかった。しかしアニメではその印象が大きく変わった。幼くしてエルメロイの次期当主候補に祭り上げられた彼女の大人びた冷笑は,叔父に当たるケイネスの生き写しといっていい。
やはり幼女の顔はアシンメトリーに限る。
さて,こうした参照符号を読み取れるか否かは,当然『Fate/Zero』を視聴したかどうかによる。万が一まだ『Fate/Zero』をご覧になっていない方がいたら,『事件簿』第1話視聴後でも問題ないので,この機会に是非ご覧になることをお勧めする。
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加藤誠の映像美
本作のもう1つの特徴は,その偏執狂的なまでに描き込まれた美術と光源の演出だ。
バビロンの町並みや牢獄の鉄格子などの経年劣化の描き込みがすさまじく,とんでもない情報量になっていることがわかるだろう。もちろんこれは美術監督の伊藤聖の功績でもあるが,監督の加藤誠と言えば,『やがて君になる』(2018年)でも「生徒会室」や「緑の植生」の独特な描き込みでその映像に対するこだわりを印象づけていたことが記憶に新しい。
事物の経年劣化は単なる装飾ではない。そこには,時間や歴史,侘び寂びといった様々な意味作用がある。加藤誠はその使い方が上手く,画で多くを語ることにこだわる監督と言っていいかもしれない。
さらに加藤は非常に印象的な光源の使い方をしている。
例えばバルザーンの登場シーン。ウェイバーを真正面から写すカメラがすっとスライドすると,逆光を浴びたバルザーンが現れるという演出だ。
この他にも,光の粒子が画面に満ち溢れるような撮影処理が随所にあり,映像作品として楽しめる仕上がりである。
加藤監督自らが絵コンテを手がけた第1話は,このように様々な映像的意匠を凝らし,水準以上の出来栄えとなった。しかしもちろん,シリーズアニメは第1話だけで価値が決まるものではない。第一印象を良くすべく,第1話の絵コンテと演出を監督が手がけ,品質を目一杯最大化するのも珍しいことではない。当然問題は,この品質を今後最終回まできちんとキープ出来るかということだ。第1話で膨らみきった僕らの期待に最後まで応えてもらうことを願いつつ,毎週の視聴を楽しみにすることにしよう。