アニ録ブログ

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劇場アニメ『白蛇伝』(1958年)[デジタル復元版]レビュー:よみがえるプロトタイプ

 ※このレビューはネタバレを含みます。

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TOEI ANIMATION公式HPより引用

www.toei-anim.co.jp

作品データ

 (リンクはWikipediaの記事)

心優しい少年・許仙(シュウセン)は白蛇を可愛がっていたが,大人達の無理解により引き離されてしまう。十数年後,白蛇は美しい娘に化け,白娘(パイニャン)と名乗り許仙の前に姿を現す。二人はたちまち恋に落ちるが,白娘が妖怪であると知った和尚・法海は二人の恋路を阻もうとする。白娘は法海に破れ,許仙は崖から転落して命を落とす。白娘は龍王に懇願し,自らの永遠の命と引き換えに許仙を生き返らせる。

東映動画(現・東映アニメーション)が制作した,日本初の長編カラーアニメーション映画であり,若き日の大塚康生が第2原画(クレジット上は動画),奥山玲子が動画として参加しているのも注目だ。奥山は現在放送中のNHKの連続テレビ小説『なつぞら』のヒロイン「なつ」のモデルであり,ドラマに登場する『白蛇姫』の原作は,まさしくこの『白蛇伝』である。一種の“朝ドラ効果”として本作に注目が集まっていると言えるだろう。

デジタル復元版について

そんな話題の『白蛇伝』だが,2018年に国立映画アーカイブ,東映株式会社,東映アニメーション株式会社の三社共同で,現存するセル画などに基づいたデジタル復元がなされた。具体的には,色彩の調整,色むら・フリッカー・縦縞・黒コマの除去などが行われている。復元前と復元後の変化については,公式HPで公開されている以下の「検証映像」が参考になる。


10月9日(水)発売「白蛇伝 Blu-ray BOX」 デジタルリマスター 検証映像

僕が鑑賞した限りでは,色彩の調整に関してもノイズの除去に関しても,不自然な部分は見られなかった。何せ「日本初の長編カラーアニメーション映画」である。当時の鮮やかな色調で本作を楽しめるのは大変喜ばしいことだ。

現時点(2019年8月7日)で予定されている劇場上映は,「ユジク阿佐ヶ谷」の8月9日(金)13:50~と「国立映画アーカイブ」の8月20日(火)15:00~のみだが,今後も上映される可能性もあると思われるので,こまめに情報をチェックすることをお勧めする。

www.yujikuasagaya.com

www.nfaj.go.jp

また,8月10(土)と8月24(土)の15:00より,「東映チャンネル」にて「4Kレストア版」として配信が予定されており,「スカパー!」「J:COM」「ひかりTV」で視聴可能だ。

www.toeich.jp

さらに,10月9日(水)にはBlu-ray BOXが発売される。復刻版の台本,絵コンテ,劇場パンフレットなどが特典として付属する。東映公式のオンラインショップの他,Amazonでも購入可能(Amazon.co.jp限定の特典は「セル画風ステッカー」)。もちろん僕は予約済みである。

www.toei-video.co.jp

魅力的なキャラクターの“プロトタイプ”

『白蛇伝』のストーリーは“悲恋物語”とでも言うべきものだが,主人公の恋物語を支えるサブキャラクターたちも実に魅力的だ。白娘のお供をする小青(シャオチン)は,主人と許仙の恋を成就させようと必死に立ち回る。その健気な少女の姿は,現代のアニメファンの心も打つことは間違いないだろう。

とりわけ,パンダ(ジャイアントパンダ)やミミィ(レッサーパンダ)などの動物キャラたちの活躍は目が離せない。虫プロ(1961年設立)が“リミテッドアニメ”を導入する以前の作品ということもあり,かつてのディズニーアニメと同様,いわゆる“ぬるぬる動く”というタイプの作品なのだが,とりわけ動物たちの動きにはかなり力が入れられていると思われる。本作に動画として参加していた大塚康生は,動物の原画を多く担当した森康二の仕事に関し,以下のように述懐している。

『白蛇伝』での私の最大の驚きは,森さんが担当した,愚連隊の豚がハンマーで石頭のパンダを地面に打ち込むシーンのアニメーションでした。よくできた映画には「名演技」と呼ばれるシーンがあるものですが,これなどはその典型でしょう。力の入れ方,抜き方,硬さと柔らかさ,表情など,繊細で力強く,おそらく森さんにとっても,それまでにない名演技ではなかったかと思います。木彫りの龍がパンダたちの遊び道具になって,次第に生きて空中に舞い上がり,失速して墜落するシーンも森さんの名演技です。[中略]私はこれが「キャラクターに命を与える」アニメーターの仕事なのだと,驚嘆にふるえる思いで原画に穴があくほど見ていたものです。*1

これから鑑賞される方は,この「豚とパンダのシーン」と「龍」のシーンに注目されるとよいだろう。大塚の言うとおり,キャラが「命」を持っている。もちろん,現代のアニメのキャラにも「命」は宿っているし,むしろ『白蛇伝』には,当時の技術的限界から未熟な部分も伺える。しかし,限られた技術と人材(原画が2名!!!)であそこまでの動きを表現する作業の熱量には,やはり驚かされるのだ。

現代のアニメ作品でも,“動物キャラ”はいつも人気だ。それはひょっとすると,動物キャラが人間キャラよりも動きが豊かで,“動き=命を与える”というアニメーションの本来的な定義*2 にぴったり合っているからかもしれない。そんな“アニメーションの体現者”である動物キャラのプロトタイプを,『白蛇伝』のパンダやミミィの中に見い出せるのではないか。

1917年における国産アニメーション誕生から100年余り。*3 最新の技術によってよみがえったアニメのプロトタイプたちを観て,日本アニメの歴史を振り返るのに適した時期と言えるかもしれない。

*1:大塚康生『作画汗まみれ』文春ジブリ文庫,2013年,p.69-

*2:英語のanimateは本来「生命を吹き込む」という意味である。

*3:下川凹天『凸坊新畫帖 芋助猪狩の巻』(1917年)が日本初のアニメ作品とされている。