アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメ・マンガ・ゲーム・フィギュアを中心としたカルチャー雑記

高瀬康司編『アニメ制作者たちの方法 21世紀のアニメ表現論入門』(フィルムアート社,2019年)レビュー:〈迷走〉と〈快楽〉のメディア

アニメ制作者たちの方法 21世紀のアニメ表現論入門 (Next Creator Book)

アニメ制作者たちの方法 21世紀のアニメ表現論入門 (Next Creator Book)

  • 作者: 高瀬康司,片渕須直,京極尚彦,井上俊之,押山清高,泉津井陽一,山田豊徳,山下清悟,土上いつき,土居伸彰,久野遥子,藤津亮太,石岡良治,渡邉大輔,泉信行,古谷利裕,吉村浩一,福本達也,原口正宏,吉田隆一,氷川竜介
  • 出版社/メーカー: フィルムアート社
  • 発売日: 2019/02/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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はたしてアニメは“作品”なのだろうか。

作品内の(ほぼ)すべてが〈作者〉という個人の営為に還元されるような,近代的〈作品〉概念(近代絵画,私小説など)を前提とするのであれば,答えは否だ。例えば僕らが『響け!ユーフォニアム』を鑑賞する時,評価しているものの実体は何だろう。脚本か?原作か?作画か?絵コンテか?音楽か?撮影技術か?おそらくはそのすべてであり,それらの背後には別個のクリエーターが存在する。もちろんそれぞれの“作品”には監督が存在するが,その仕事は文字通りdirectであり,複数のクリエーターの指揮を執ることである。それは作品制作の責任主体ではあるが,近代的〈個〉としての創造主体とは程遠い。

アニメを知れば知るほど,僕らはますます多くの制作者に出会い、その「方法」を知ることになる。スタッフクレジットを読むことは,あたかも古代の神話を読むがごとくである。中心を欠き,迷走的であるが故に少々不安を掻き立てるが,だからこそ奥深く豊穣である。様々な権能=「方法」を持つ神々=制作者の技を知ることは,楽しいの一言に尽きるだろう。

『アニメ制作者たちの方法』は,アニメ鑑賞におけるそうした〈迷走性〉と〈快楽〉の両方を象徴する書物である。構成を見てみよう。

Introduction

新しい方法 高瀬康司

Interview 1

自然主義的なアニメーションとそれを語るための言葉たち 片淵須直

Column 1

アニメーションの絵はなぜ動いて見えるのか――心理学から考える 吉村浩一

Discussion 1

作画におけるリアリティとは何か――平成30年間の作画表現史を考える 井上俊之×押山清高

Discussion 2

デジタル時代の作画表現を求めて――タイムライン,ムービー,コンポジット 山下清悟×土上いつき

Expanded Work

アニメーション制作の方法――『古の女神と宝石の射手』アニメーションPVを例に

Column 2

Flashから見るデジタル作画の別の可能性――Web系アニメーターの思想と新しい作画 福本達也

Discussion 3

コンポジットの快楽をめぐって――アニメーション撮影の歴史と表現 泉津井陽一×山田豊徳

Interview 2

アニメ表現のダイバーシティへ向けて――MV, 3DCG, VR 京極尚彦

Situation/Histroy

日本アニメーションの現在地

Critic

横断するアニメーション

Study 1

アニメ制作者たちによる必見作品ガイド

Study 2

メディア横断的にアニメを見るための作品ガイド

Study 3

アニメーションをめぐるブックガイド

「Interview」「Column」「Discussion」などの見出しがランダムに並列されている上,執筆者も,監督,認知心理学者,作画監督,撮影監督など様々だ。この構成そのものが脱中心的であり,僕らのアニメ鑑賞の〈迷走性〉と〈快楽〉を体現しているとも言える。言い換えれば,アニメをまともに楽しもうと思えば,複数の制作者主体の間を迷走し,評価軸と鑑賞眼を増幅させていくしかない――1つの“作品”に関わる制作者の数が膨大になる中,本書が登場したこと自体がこの事実を教えてくれている。

具体的には,認知心理学の観点からコマ打ちの洞察を深めた片渕須直の視点,「撮影/コンポジット」を巡る泉津井陽一と山田豊徳の概観と議論,アニメの媒体特性(「メメディウム・スペシフィシティ」)を「メディアミックス=不純さ」と捉える石岡良治と高瀬康司の視座などが興味深い。とりわけ「撮影/コンポジット」に関しては,アニメ制作のデジタル化により近年ますます注目されつつあるにもかかわらず,一般のアニメファンがその仕事の内実を知る機会が極めて少ない。泉津井と山田による歴史的概観と個々の制作者・作品に対する言及には大きな参照価値がある。

また,巻末の「アニメーションをめぐるブックガイド」は,コンパクトながらも,一般のアニメファンがアニメ鑑賞を深めるための指針として役立つだろう。

 

1つのアニメには複数の制作者が関わり,複数の技術が結合し,複数のメディアが混在している。そんなアニメを鑑賞する僕らは,迷い,戸惑いながら複数の要素を味わうことを楽しみとしている。時に膨大な量の情報に溺れそうになることもあるだろう。『アニメ制作者たちの方法』という書物は,迷走する僕らにとって理想的なガイドではないかもしれない。上述したように,すでに本書のその構成からして,アニメの脱中心的性質を表してしまっているのだから。しかしだからこそ,アニメには無限の楽しみがある。それを認識した人であれば,本書をアニメそのものと同レベルで楽しめるはずだ。

www.otalog.jp