アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

TVアニメ『モブサイコ100』(1期:2016年夏/2期:2019年冬)レビュー:「いい奴」たちの猥雑な世界

 *このレビューはネタバレを含みます。また,原作マンガの内容にも触れていますのでご注意下さい。

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『モブサイコ100Ⅱ』公式HPより引用 ©ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅱ」製作委員会

mobpsycho100.com

スピード感MAXのアクション,目も眩むような色彩,多様な表現技法によって,原作マンガに潜在する魅力を最大限に引き出したアニメ『モブサイコ100』(以下『1期』)と『モブサイコ100Ⅱ』(以下『2期』)。アニメーションの豊かな表現特性を活かした演出に加え,とりわけ『2期』では,人間ドラマを深く掘り下げたストーリーテリングが話題となり,近年のマンガ原作アニメの中でも最も注目された作品となった。今回の記事では,『1期』と『2期』を併せてレビューすることにする。

作品データ(リンクはWikipediaもしくは@wiki)

【スタッフ】

原作:ONE/監督:立川譲/シリーズ構成:瀬古浩司/キャラクターデザイン:亀田祥倫/美術監督:河野羚/色彩設計:中山しほ子/撮影監督:古本真由子/編集:廣瀬清志/音響監督:若林和弘/音楽:川井憲次/アニメーション制作:ボンズ

【キャスト】

影山茂夫:伊藤節生/霊幻新隆:櫻井孝宏/エクボ:大塚明夫/影山律:入野自由/花沢輝気:松岡禎丞/最上啓示:石田彰

【あらすじ】

主人公の影山茂夫(通称「モブ」)は,勉強も運動も苦手で,存在感の薄い中学2年生だ。しかし彼には,規格外の「超能力」が生まれつき備わっていた。彼は自称霊能力者の霊幻新隆を「師匠」と仰ぎ,何の能力も持たない霊幻に代わって悪霊の除霊をするアルバイトをしている。ある日,超能力を使って世界征服を図る組織「爪」の一味により,最愛の弟・律が拐われてしまう。モブは仲間となった超能力者のテルと悪霊のエクボとともに,律を救うべく「爪」の支部へと乗り込んでいく。 

ビビッドな世界へ:猥雑性

まずは『1期』のエンディング・アニメーションの話から始めよう。

佐藤美代の手になるペイント・オン・グラスの独特なタッチの絵柄が,霊幻新隆の平凡な朝を淡々と描き出す。起床し,髭を剃り,タバコを吸い,スーツを着て出かける彼の様子は,モノトーンの描画によってどこか寂しげに描写されている。ところが,ラストシーンで霊幻がモブらしき少年に声をかけるや,たちまち世界は温かく色づくのだ。

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『モブサイコ100』エンディング・アニメーションから引用 ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100」製作委員会

このエンディングのストーリーは,『モブサイコ100』というアニメ誕生にまつわる逸話をなぞっているかのようである。

監督の立川譲は,ONEの原作から「色彩が薄くて,少々ほの暗い感じのダークなイメージ」を感じ取っており,当初は彩度を抑えた色彩のキャラクター造形にしようと考えていたそうだ。確かに,ONEの原作では黒のベタ塗りのパーツが多い上に,主人公のモブが無表情であることが多いため,全体として仄暗い印象を受けるというのもうなずける。ところが,PV制作時にキャラクターデザイン担当の亀田祥倫が鮮やかな色彩を提示してきたため,立川は「シリアスな印象のまま映像化するのではなく,懐が広い作品にしたほうがいいんじゃないか」と思い至ったというのである。*1

低彩度のダークな世界から,ビビッドに色づく世界へ。この転換は『モブサイコ100』という作品にとって決定的な意味を持つ。もちろん,マンガやライトノベル原作のアニメ化において色彩設計が重要であるというのは当然のことであって,それはこの作品に限った話ではない。しかし,『モブサイコ100』が色彩の持つ存在感をことさら強く打ち出していることも確かだ。エンディング・アニメーションとは対照的に,『1期』オープニング・アニメーションは,これでもかというくらいの色彩の情報量でもって観る者を圧倒する。

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『モブサイコ100』オープニング・アニメーションより引用 ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100」製作委員会

僕らはその目眩く色彩に撹乱され,驚き,笑いながら,同時にそこに〈猥雑な多様性〉を見てとる。日本語の〈色〉という言葉には,〈様々な種類〉という意味合いがある。まさしく『モブサイコ100』の色彩は,モブという主人公を中心に,様々なキャラクターの多彩で雑多な存在感を生み出しているのである。 

制作者たちのコラージュ

色彩の多様性に,作画の多様性が加わる。この作品では,通常の描画タッチに加え,ペイント・オン・グラスによる淡いタッチ,劇画風タッチ,8bitゲーム風タッチ,コミック風タッチと,様々な表現のバリエーションが盛り込まれている。

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〈左上〉『モブサイコ100』「002 青い春の疑問〜脳感電波部登場〜」〈右上〉『モブサイコ100』「004 馬鹿オンリーイベント〜同類〜 」〈左下〉『モブサイコ100Ⅱ』「001 ビリビリ〜誰かが見ている〜」〈右下〉『モブサイコ100Ⅱ』「006 孤独なホワイティー」より引用 ©ONE・小学館/「モブサイコ100」製作委員会 ©ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅱ」製作委員会

 さらに,制作体制そのものも多様性を反映しているのが興味深い。

『モブサイコ100』は(ほぼ)総作監制を機能させていない。それは,統一よりも〈猥雑,一貫性よりも〈多様性〉,単数性よりも〈複数性〉に重きを置いた制作哲学が根底にあるからだと言える。*2 亀田はこう述べている。「『モブサイコ100』は,作監それぞれの個性が出るかたちにしても,多分,作品として成り立ちそうだなって。その判断は自分でも英断だったと思います」。*3 

これが顕著なのが,『2期』の「005 不和〜選択〜」と「011 指導〜感知能力者〜」である。

「005 不和〜選択〜」は,最上啓示の作ったパラレルワールドの中でモブが翻弄される様を描いている。この回の絵コンテ・演出・作画監督を担当したのは,かつて『Fate/Apocrypha』(2017年夏秋)第22話「再会と別離」の絵コンテ・演出で名を馳せた伍柏諭だ。

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『モブサイコ100Ⅱ』005「不和〜選択〜」より引用 ©︎ONE・小学館/「モブサイコ100」製作委員会

立川と亀田によれば,伍は絵コンテをかなりラフな形で仕上げたそうだ。それを「叩き台」にして,伍の信頼する若手アニメーターたちが自由な発想で作画していった。したがって,絵コンテ段階から逸脱したカットも多数生まれ,全体から浮いた作画があっても,伍は最低限の修正しかしなかったらしい。作画の統一感よりも,各アニメーターの個性的な発想力やエネルギーを重視した采配と言えるだろう。 *4

モブの味方となった元「爪」と「5超」の島崎との戦闘シーンを描いた「011 指導〜感知能力者〜」は,若手アニメーターの土上いつきが絵コンテ・演出を担当している。この話数でも,温泉中也砂小原巧渡辺啓一朗ら実力派若手アニメーターの熱量溢れる作画が炸裂しており,とりわけ『アニメスタイル』の小黒祐一郎は温泉の作画を「いい意味での暴走」と高評価している。*5

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『モブサイコ100Ⅱ』「011 指導〜感知能力者〜」より引用 ©ONE・小学館/「モブサイコ100Ⅱ」製作委員会

僕らは『2期』の「005」や「011」のような回を観せられた時,作品の背後にいるのが単数形の制作主体ではなく,複数の制作主体たちであることに改めて気づかされる。複数のセンスや価値観が雑多に集合したこの制作体制こそ,『モブサイコ100』のキャラクターや世界観の猥雑で多彩な存在感を下支えしているのだ。

霊幻新隆=庶民>>>超能力者 

こうして,〈猥雑な多様性〉は『モブサイコ100』という作品の制作思想からキャラクター造形に至るまで,作品全体を貫いている。

あるいは,同じ超能力を扱った『僕のヒーローアカデミア』(原作:2014年-/アニメ:2016年-)風に「個性」と言ってもいいかもしれない。ただし『モブサイコ100』で示される「個性」の概念は,〈ヒーロー〉や〈正義〉といった崇高な価値観とはほぼ無縁である。

それを端的に示すのが,『1期』「011 師匠〜Leader〜」における霊幻のセリフだ。この回の回想シーンで,霊幻は「霊とか相談所」を初めて訪れたモブの相談に乗りながら,このように言う。

いいか,超能力を持ってるからといって,一人の人間であることに変わりはない。足が速い,勉強ができる,体臭が強いなどと一緒で,超能力も単なる特徴の一つに過ぎない。個性として受け入れて,前向きに生きていくしかないんだ。魅力の本質は人間味だ。いい奴になれ。

『モブサイコ100』の〈個性〉は卑俗で矮小な日常性に根差している。この作品における〈個性〉とは,〈傑出〉ではなく〈差異〉だ。

ここに霊幻新隆というキャラクターの妙味がある。彼は自分に何の力もないことを知っていながら,実にあっけらかんと超能力者たちに立ち向かう。『1期』「モブと霊幻 〜巨大ツチノコ現るの巻〜」では単身「爪」の支部に乗り込み,口八丁手八丁で「傷」たちを丸め込んでしまう。彼は,超能力者の邑機に向かって「庶民だよ!てめえは!」と怒号を浴びせながら説教を始める。『2期』「011 指導 〜感知能力者〜」では,「5超」の島崎相手に「正当防衛ラッシュ」を繰り出し,「012 社会復帰戦〜友情〜」では,こともあろうにラスボス・鈴木に徒手で殴りかかる。

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『モブサイコ100Ⅱ』「012 社会復帰戦〜友情〜」より引用 ©ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅱ」製作委員会

こうした霊幻の振る舞いは,滑稽であると同時に,この物語のコア・メッセージを確かに伝えている。超能力者は「庶民」の一亜種であって,能力は様々な「個性」の1つに過ぎないのだ。

このような価値観と真っ向から対立し,超能力を〈超越〉として捉えていたのが「爪」とその首領・鈴木であることは言うまでもないだろう。『2期』「012 社会復帰戦〜友情〜」で鈴木と対峙したモブは,間違いなく霊幻の哲学を受け継いでいる。

自分が考えてる以上に世の中にはいろんな人がいて,いろんな考え方がある。人の考え方に点数なんて誰も付けられないはずなんだ。

そんな霊幻とモブが大切にしている価値が「人間味」であり,彼らが目指そうとしているのが「いい奴」というステータスに他ならないのである。

「いい奴」

したがって,霊幻新隆のキャラクターを掘り下げた『2期』「006 孤独なホワイティー」「007 追い込み〜正体〜」が『モブサイコ100』シリーズの中でも最も魅力的な話数に仕上がっていることは,故なきことではない。

ネットやメディアで「詐欺師」と叩かれるようになった霊幻が,モブに「お前…知ってる?俺の正体」と問う。モブは,かつて師匠・霊幻に言われた言葉をそのまま贈り返してこう言うのだ。

そんなの知ってましたよ。最初から。僕の師匠の正体は,「いい奴」だ。

劇中,しばしば映し出される「霊とか相談所」の看板。僕らは当初,「〜とか」という“ユルさ“の表徴,ヘタウマな文字,看板の主線の歪み具合などに,霊幻新隆というキャラクターの“胡散臭さ”を読み取っていたはずだ。

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『モブサイコ100Ⅱ』「006 孤独なホワイティー」より引用 ©ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅱ」製作委員会

しかし「006 孤独なホワイティ」「007 追い込み 〜正体〜」以降,それは「今ひとつ真剣にはなりきれないが,悪人にも成りきれない人間味」として僕らの目に映るようになる。いやそれどころか,それは「いい奴」という彼のステータスそのものを表し始めると言っていいだろう。彼はどこまでもいい加減でインチキ臭いが,どこか憎めない「いい奴」なのだ。

『2期』最終話の「013 ボス戦 〜最後の光〜」では,霊幻が新しい事務所に居を構えることになるが,看板の主線は定規で引いたような直線に変わっている。ひょっとしたら,モブと共に成長しようとする霊幻の,精一杯のケジメであり折り目なのかもしれない。

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『モブサイコ100Ⅱ』「013 ボス戦〜最後の光〜」より引用 ©ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅱ」製作委員会

しかしよく見れば,「とか」とヘタウマ文字は変わっていないのだ。外見はいくらかしこまっても,やはり中身はなり切れない。彼はいつまでも「いい加減でいい奴」のままなのである。

立川によれば,原作者ONEの「優しさ」がこの作品の「性善説」的なトーンの源にあるのだという。確かに,ほぼすべてのキャラクターがーーエクボや,「爪」や,あの鈴木までもーーその性根に「優しさ」を垣間見せている。それは,作者その人の「優しさ」があってのことかもしれない。

この物語の世界では,超能力者は凄くもなんともない。凄いのは「いい奴」だ。霊幻の哲学は,そんな〈日常系〉の引力でもって,常に力の暴走と闘い続けるモブを大地に繋留している。だからこの作品は,紛れもない〈日常系〉作品だ。

原作の最終話,「いい奴」こと霊幻新隆が最後に対決するのは,もちろんモブその人である。

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ONE『モブサイコ100』16巻より引用 ©︎One 2018

 作品評価

キャラ モーション 美術・彩色 音響
5 5 5 5
声優 OP/ED ドラマ メッセージ
4 5 4.5 4.5
独自性 普遍性 平均
4 4.5 4.7
・各項目は5点満点で0.5点刻みの配点。
・各項目の詳細についてはこちらを参照。

 

 

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*1:『アニメスタイル015』p.10,スタイル,2019年(ボールドの強調は引用者による)。また,『1期』「012」のオーディオコメンタリでも,原作者のONE,立川,亀田が色彩設計に関する話題に多くの時間を割いているのが興味深い。ONEは,テルの制服,霊幻のネクタイ,エクボなどについて特定の色を想定していなかったが,アニメの色彩設定を見て納得し,高く評価したそうである。『モブサイコ100』「012 モブと霊幻〜巨大ツチノコ現るの巻〜」オーディオコメンタリ[『モブサイコ100』Blu-ray BOX,ワーナー・ブラザーズ ホームエンターテインメント,2018年に所収。

*2:総作監制は,総作監(主にキャラクターデザイナーが担当)が各話数のキャラクターの作画をチェック・修正するシステムである。アニメをDVDやBlu-rayのような“パッケージ”として売り出す際に,統一感を出すために導入されたと言われている。

*3:『アニメスタイル』上掲書,p.27。(ボールドの強調は引用者による)

*4:同上,pp.19-20,31-34。

*5:同上,pp.34-36。