「Febri」の記事がおもしろい。
当ブログの記事をお読みになる方には説明不要かもしれないが,「Febri」は2010年に一迅社より創刊され,当初は紙媒体の雑誌として刊行されていた。クリエーターのインタビューを中心に,原画や絵コンテの分析なども交えた意欲的な雑誌として評価も高かったが,2020年に紙媒体としては休刊し,現在ではWeb媒体のマガジンとして運営されている。
Web に移行してからの「Febri」は,紙媒体時ほど記事のバリエーションはないものの,各方面のクリエーターのインタビューや作品の特集記事などを矢継早に公開し,資料価値の高いメディアとしてこの分野でのプレゼンスを高めつつある。アニメ制作者にフォーカスした媒体としては,小黒祐一郎が編集長を務める「アニメスタイル」と双璧を成すと言ってもいいかもしれない。
今回の記事では,とりわけ興味深い6記事をピックアップして紹介しよう(以下,掲載順はランダム)。
- 雨宮哲(演出家/アニメーター)のインタビュー
- 花田十輝(脚本家)のインタビュー
- 岩浪美和(音響監督)のインタビュー
- 西田亜沙子(アニメーター/キャラクターデザイナー)のインタビュー
- 林明美(演出家/アニメーター)のインタビュー
- 吉成曜(監督/アニメーター)
雨宮哲(演出家/アニメーター)のインタビュー
Trigger所属の雨宮哲がただひたすら"『エヴァ』語り"をする記事。本人は『エヴァンゲリオン』がアニメ業界に入った理由ではないと述べているが,少なくともその熱量が『SSSS.GRIDMAN』(2018年)などに流れ込んでいることは間違いないだろう。『エヴァ』第拾話「マグマダイバー」のグロス受けに関するコメントなども面白い。
花田十輝(脚本家)のインタビュー
花田十輝といえば,『宇宙よりも遠い場所』(2018年)など数々の傑作アニメの脚本を手掛けたことで知られる脚本家だ。その彼が,自身が影響を受けたという3作品についてコメントした記事である。『ガンバの冒険』(1975年)と『宇宙よりも遠い場所』,『戦闘メカ ザブングル』(1982年)と『ラブライブ!』(2013-2014年),『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)と『けいおん!』(2009-2010年)との意外なつながりが面白い。
岩浪美和(音響監督)のインタビュー
数々のアニメ作品の音響を手掛ける岩浪美和監督が,自信が携わった3作品を解説する連載記事。第1弾は岩浪の代表作である『ガールズ&パンツァー劇場版』(2015年)。「クソリアルではないリアル」な音作りをする岩浪の"ルーツ"を伺い知ることのできる良記事だ(第2弾と第3弾は本記事執筆時点で未公開)。
西田亜沙子(アニメーター/キャラクターデザイナー)のインタビュー
『ラブライブ!』や『宝石の国』(2017年)などのキャラクターデザインを手がける西田亜沙子。「つねに『女の子を追求していたい』」と伸べる彼女が,荒木伸吾,いのまたむつみ,結城信輝,平松禎史との出会いから多くの刺激を受け,理想の「少女像」を更新していく様が語られる非常にスリリングな記事だ。『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年)のヒルダを『魔法少女まどか⭐︎マギカ』(2011年)につながる「ダークヒロインの始祖」と見たり,高畑勲監督『かぐや姫の物語』(2013年)のかぐやを「ホルスに出会わなかったヒルダ」と分析したりするなど,作品論としてもたいへん興味深い記事だ。
林明美(演出家/アニメーター)のインタビュー
『フルーツバスケット』(2001年)『同級生』(2016年)などのキャラクターデザインを手がける林明美。彼女も上掲の西田と同じく,荒木伸吾,いのまたむつみ,平松禎史の名前を挙げており,改めてこの三氏の影響力の強さが伺える。「レイアウトを意識するようになった」という『少女革命ウテナ』(1997年)に関するコメントもたいへん興味深い。
吉成曜(監督/アニメーター)
『リトルウィッチアカデミア』(2017年)『BNA ビーエヌエー』(2020年)などの監督を務めたTriggerの吉成曜。このインタビュー記事では,兄・吉成鋼とのエピソードが端々に語られており,兄弟間の相互影響がこの2人のクリエーターを育てたということが伺える。アニメの観過ぎで両親からテレビを取り上げられたというエピソードも微笑ましい(2人にとっては死活問題だったろうが)。また『機動戦士ガンダム』(1979-1980年)と『母をたずねて三千里』(1976年)との共通点を指摘したコメントもたいへん興味深い。
文字だけの読み物としても十分面白いのだが,欲を言えば,紙媒体時のように絵コンテや原画の解説などもあるとさらに読み応えのある記事になるだろう。おそらくWeb媒体としての制約などがあってなかなか難しいのだろうが,その辺りをなんとかクリアすれば,最強のアニメWebマガジンになるかもしれない。
今回は6つの記事を取り上げたが,「Febri」にはこれ以外にも興味深い記事がたくさんある。本記事を第1弾として,今後も折に触れて気になる記事を紹介していこうと思う。参考にしていただければ幸いである。