アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

TVアニメ『かぐや様は告らせたい -ウルトラロマンティック-』(2022年春)第12話・第13話の演出について[考察・感想]

 *この記事は『かぐや様は告らせたい -ウルトラロマンティック-』第12話と第13話のネタバレを含みます。

©赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

kaguya.love


www.youtube.com

『かぐや様は告らせたい-ウルトラロマンティック-』が最終回を迎えた。もともと原作の人気が高く,かつシリーズの3期目ということもあって,当初から注目度の高かった作品だが,蓋を開けてみれば期待を軽々と超える出来栄えだった。おそらく近年の学園ラブコメの中でも抜きん出た傑作となったのではないだろうか。特に1時間スペシャルで放送された第12話「かぐや様は告りたい②」「かぐや様は告りたい②」「『二つの告白』前編」と第13話「『二つの告白』後編」「秀知院は後夜祭」は,これまでのシリーズ披露されてきた様々な演出が散りばめられており,『かぐや様』アニメの集大成とも言える話数となった。

 

かぐや様がいっぱい:〈分散型〉アニメの面白さ

これは『かぐや様』アニメシリーズに一貫して言えることだが,キャラクターデザインや美術などにおいて,表現の統一を図るというよりは,むしろ複数の表現を意図的に織り交ぜる演出方法がとられている。本編とは異なる演出方針で製作されたエンディング・アニメーション(絵コンテ・演出:大野仁愛/作画監督:久貝典史)はもちろんのこと,本編内でも多様な表現が用いられている。〈集中型〉の演出に対し,〈分散型〉の演出と言ってもいいだろう。第12話と第13話でもこうした演出が顕著だった。

©赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

標準の作画をベースに,時にアクションマンガのようなデザイン,時に水彩画のような画風といった風に,多彩なタッチの作画が次々と繰り出される。和紙のようなテクスチャが用いられたカット(上図右)なども面白い。

©赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

このように統一性や一貫性を度外視し,複数の表現に分散させる演出は美術においても顕著だ。例えばかぐやと早坂が白銀への告白方法を画策するシーン(上図)。積み上げられた机の足で空間が切断された構図は,これだけでもたいへん面白い。しかしさらに面白いのは,かぐやのツンデレ告白に対する早坂のダメ出しをきっかけに,突如光源が赤く変わる箇所だ。キャラクターの心情変化を表すというよりは,純粋な"異化効果"のようでもある。

こうした演出は,声優の演技やカット割のテンポのよさともあいまって,独特のリズムとスピード感を生み出す。全体の統一性は確かに損なわれるのだが,すでにキャラと世界観の強度が十分に確保された『かぐや様』において,もはや統一性や一貫性は不要なのかもしれない。

もちろん,こうした多彩な演出は他のギャグアニメにも見られるものだが,『かぐや様』においてはとりわけ実験的な遊びの要素が顕著だと言えるだろう。ちなみに〈分散型〉の演出が意識的に用いられたアニメとしては,『モブサイコ』(2016年-)なども挙げられる。

www.otalog.jp

 

ゆっくりとサザエさんとガンダムと:オマージュの遊び

実験的な遊びと言えば,本作には他作品からのオマージュないし引用が多く見られる。例えば第5話では,クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」のビデオやレッド・ツェッペリンの「アキレス最後の戦い」の楽曲などが引用されていたのがSNSでも話題になった。

©赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

第12話と第13では「ゆっくり風のかぐやと早坂」「劇場版ガンダム風に撃ち抜かれるカレン」「サザエさんとコラボするかぐや」などのオマージュシーンが見られた。これらも先ほどの〈分散型〉演出と同様,表現を複数化し,作品全体のルックを多様にする。それと同時に,SNSなどでの"元ネタ"考察を盛り上げ,二次的な楽しみが増すという効果もある。

 

そして時計台へ

こうした"遊び"の要素も面白いのだが,最終話の中で何よりも魅力的だったのは,時計台でのハート型バルーンのシリアスシーンだろう。

©赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

時計台で二人きりになるかぐやと白銀。カメラは白銀の肩越しにかぐやの泣き顔をとらえた後,後方に舞い上がり,時計台を一周回った後に白銀の当惑する表情を捉える。ドローンカメラの動きを模したものと考えられるが,この後に続く,ハート型バルーンの浮遊シーンの予兆となっているようにも思える。かぐやと白銀の高揚感と不安感に寄り添った,たいへん面白いカメラワークだ。

©赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

その後,白銀がスマホを操作すると,大きなバルーンがキャンプファイヤーに舞い降りる。炎で割れたバルーンの中から,大量のハート型バルーンが舞い上がり,時計台の周りを漂い,かぐやと白銀の周りを漂う。かぐやの表情の作画,視線の芝居,暗転と静寂,声優の演技,ダイナミックなカメラワーク,劇伴,どれをとっても文句なしの演出である。遊ぶところは徹底的に遊びながら,恋愛要素はたっぷりと盛り上げる。ラブコメアニメの模範解答のような最終話演出と言えるだろう。

最終話の放送直後,早くも続編制作の発表があった。波に乗り切った制作スタッフに,さらなるパワーアップを期待したい。

kaguya.love

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:赤坂アカ/監督:畠山守/シリーズ構成:中西やすひろ/キャラクターデザイン:八尋裕子/総作画監督:矢向宏志川上哲也晶貴孝二/プロップデザイン:木藤貴之/美術監督:若林里紗/美術設定:松本浩樹平義樹弥/色彩設計:ホカリカナコ/色彩設計補佐:村上彩夏/CG監督:栗林裕紀/撮影監督:岡﨑正春/編集:松原理恵/音楽:羽岡佳/音響監督:明田川仁/制作:A-1 Pictures

【キャスト】
四宮かぐや:古賀葵/白銀御行:古川慎/藤原千花:小原好美/石上優:鈴木崚汰/伊井野ミコ:富田美憂/早坂愛:花守ゆみり/柏木渚:麻倉もも/大仏こばち:日高里菜/田沼翼:八代拓/四条眞妃:市ノ瀬加那/子安つばめ:福原遥/ナレーション:青山穣

【第12話スタッフ】
脚本:
中西やすひろ/絵コンテ:畠山守/演出:飛田剛菊池貴行/総作画監督:川上哲也晶貴孝二八尋裕子/作画監督:太田慎之介世良コータ川﨑玲奈大久保洸太郎野間聡司石川洋一横山穂乃花水谷雄一郎永野美春

【第13話スタッフ】
脚本:中西やすひろ/絵コンテ:畠山守演出:飛田剛菊池貴行/総作画監督:川上哲也晶貴孝二八尋裕子/作画監督:太田慎之介世良コータ川﨑玲奈大久保洸太郎野間聡司石川洋一横山穂乃花水谷雄一郎永野美春

商品情報