新年明けましておめでとうございます。
ラーメン屋に行ってラーメンを注文したら,ミラノ風豚骨パスタが出てきた。
などということが仮にあったとして,僕はそういう状況がさほど嫌いではない。というよりも,積極的に評価すらしたい。ましてそれが美味であれば。
昨今,昭和時代のアニメ作品のリメイクが増えている。おそらく理由は単純で,この時代の作品をリアルタイムで楽しんでいた世代の視聴者層が分厚いからだ。しかし過去作品を何らかの形でリサイクルする場合,どうしても付きまとう問題がある。過去作品に忠実であるべきか,それとも新機軸を打ち出すべきか。忠実と新機軸の配分をどうすべきか。
多くの視聴者に注目されるべく,無難な路線を行くのであれば,“忠実”の配分を高く設定すべきだろう。2019年に公開された『劇場版シティーハンター〈新宿プライベート・アイズ〉』は,SNS上でまさしく「ラーメン屋に行ってラーメンを頼んだらラーメンが出てきた」と評された作品である。メイン声優は過去のTVシリーズのキャスティングがほぼ踏襲され,エンディングには「Get Wild」が使われた。往年のファンは大いに喜んだ。もちろん,そういうターゲティングの在り方,そういう作品の楽しみ方はあるだろう。作品のユニークネスの度合いが高ければ高いほど,“忠実”が効いてくる。だが,正直に言えば,僕はこの作品にさほど魅力を感じなかった。新しい刺激を受けなかった。
過去作品に新しい光を当て,新しい輝きを与えるのであれば,“新機軸”を選択すべきだ。昨年の2022年に公開された『THE FIRST SLAM DUNK』はその典型例と言える。声優陣は一新され,主役は変わり,持ち味であるギャグ要素を封印して試合の迫力と回想シーンのドラマ性を追求した。結果,一部のファンからは手厳しい批判を受けることになった。しかし,この作品を単体として見た場合,アニメーション表現の斬新さ,高いドラマ性,効果的な劇伴の使用など,高く評価されて然るべき要素ばかりだ。それは否定のしようがない。間違いなく,『SLAM DUNK』という作品は新しい光で照らし出されたのだ。
アニメ作品の設定,世界観,キャラクター類型が飽和状態になりつつある今,何らかの形で過去の作品を参照することは必定だ。その時,ファンの中で作られたイメージをトレースするだけではなく,むしろそれをどれだけいい意味で裏切れるか。それなりに長くアニメを観てきた人間として,僕は制作者にそうした過酷な課題にチャレンジしてほしいと思う。
井上雄彦は『THE FIRST SLAM DUNK』を「新しいひとつの命」として作ったと述べている(『THE FIRST SLAM DUNK』劇場用パンフレット, p.17)。そう,僕らが観たいのは「新しい命」なのだ。2023年も多くの「新しい命」に出会えることを祈念しつつ,皆様におかれましても,慶びの一年となりますよう。