アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

2022年 アニメランキング[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品について簡単なコメントを付しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,下の目次から「ランキング表」へスキップするなどしてご覧ください。

2022年新作アニメの鑑賞数は,TVシリーズが49作品(『SPY×FAMILY』『サマータイムレンダ』など2クール作品は1作品としてカウント),劇場版が27作品だった(『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM』など前後編に分かれているものは1作品としてカウント。OVAに分類される作品でも,劇場で先行公開したものは「劇場版」としてカウント)。

以下,「TVアニメランキング」「劇場アニメランキング」「総合ランキング」に分け,当ブログの基準による2022年のランキングをカウントダウン方式で紹介する。視認性を考慮し,TVアニメは青字劇場アニメは赤字にしてある。また各セクションの最後にはコメントなしの「ランキング表」を掲載してある。未視聴の作品がある場合には,「ランキング表」だけをご覧になることをお勧めする。

 

TVアニメランキング

10位〜6位

10位:『よふかしのうた』(夏)

yofukashi-no-uta.com

【コメント】
吸血鬼の少女と人間の少年との間の,友情とも恋ともつかぬ関係を描いた本作。原作にはない豊かな色彩を用いたことにより,日常と非日常が重なり合う“夜”をいっそう魅力的な舞台として描いている。ナズナコウアキラを始めとするキャラクターも魅力的で,声優陣のキャスティングも的確だ。ぜひとも続編を制作してもらいたい作品だ。

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9位:『SPY×FAMILY』(春・秋)

spy-family.net

【コメント】
スラップスティックな原作をややシリアス寄りに解釈したアニメは,アーニャを始めとするキャラクターの魅力とも相まって,ファミリー層を含めた多くの視聴者にリーチすることに成功している。WIT STUDIO×CloverWorksのアニメーションもクオリティが安定しており,毎話安心して観ることができる秀作である。すでにTVシリーズ続編と劇場版の制作が発表されている。 


www.youtube.com

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8位:『サマータイムレンダ』(春・夏)

summertime-anime.com

【コメント】
“死に戻り(タイムリープ)”というやや古風な設定ながら,スリリングな展開と絶妙な引きで毎話引き込まれた。作画や演出もクオリティが高い上に,第1話から最終話まで一切ダレることがなかった点は特筆に値する。このクオリティ維持という一点だけでも,渡辺歩監督の手腕は高く評価されるべきだろう。2クールという長尺を的確に活用し,最終話では戦いの後の余韻もたっぷりと味わわせてくれた。極めて完成度の高い傑作である。

 

7位:『ぼっち・ざ・ろっく!』(秋)

bocchi.rocks

【コメント】
多彩かつユニークなアニメーション表現によって原作の魅力を引きだすと同時に,繊細な演出によってキャラクターの心情や心の成長を描き出すことに成功している。その意味で,“アニメーションは観ていて楽しいものである”という原点に立ち帰らせてくれた作品でもある。ストーリーそのものには大きな起伏はないものの,日本アニメの伝統とも言える“日常系”の優れた一例として長く楽しまれる作品になるだろう。監督の斎藤圭一郎,キャラクターデザイン・総作監のけろりら,副監督の山本ゆうすけ,そして制作のCloverWorksの代表作となることは間違いないだろう。

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6位:『かぐや様は告らせたい -ウルトラロマンティック-』(春)

kaguya.love

【コメント】
これまでのシリーズ以上に自由な演出と声優陣のパワフルな演技によって,視聴者を驚かせ,笑わせ続けた傑作ラブコメ。これは「アニメジャパン 2022」のイベントを観て思ったことだが,他作品と比べてメイン声優陣の結束力が高い印象がある。この辺りも,独自の間合いや呼吸として作品に表れているように思える。“超エリート校の生徒会の上流お嬢様と下流少年との恋物語”という,ある種のファンタジー的設定でありながら,キャラの多面的なペルソナ(これは後述の劇場版の主要テーマになる)を丁寧に描くことによって,万人の心を捉えるヒューマニズムが生まれている。“令和のロミオとジュリエット”として長く愛される作品となるだろう。

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TOP 5

5位:『リコリス・リコイル』(夏)

lycoris-recoil.com

【コメント】
魅力的なキャラクターと練り込まれた脚本
によって,近年のオリジナル作品としては例外的なほど多くのファンを獲得することに成功した。異様とも言えるほどのネット上の盛り上がりは,2011年の『魔法少女まどか☆マギカ』や『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。』などの状況を彷彿とさせる。SNSやラジオなど,作品外のメディア活用の成功例としても高く評価されるだろう。

しかし本作の成功の最大のポイントは,何と言ってもそのキャラ(クター)造形にある。最強戦士×おちゃらけ×薄幸の美少女という千束の多義的なキャラ(クター),それに寄り添うたきなの直向きなキャラ(クター)。美麗な作画や安済知佳若山詩音の演技とも相まって,アニメ史に名を残す魅力的なバディとなるだろう。

2022年の作品の中でも,オリジナルアニメのポテンシャルを最も強く感じさせてくれた本作。今後も,こうした存在感のあるオリジナル作品が継続的に生まれることを期待したい。

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4位:『モブサイコ100 Ⅲ』(秋)

mobpsycho100.com

【コメント】
原作の風味とテーマをリスペクトしつつも,オリジナルアニメかと思わせるほど自由な演出を施し,「Ⅰ」「Ⅱ」に続いてユニークかつ完成度の高い作品となった。その一方で,「エクボ」「トメ」「霊幻」という脇役を三本柱にしつつ,一貫して「いい奴」たちの姿を描いており,アクションファンタジーでありながら,“日常系”のミニマルな価値観を提示している点も面白い作品だ。

そういう意味では,伍柏諭による「08 通信中②〜未知との遭遇〜」から最終章までの連携がとりわけよくできていたと言えるだろう。「08」で日常と非日常の重なり合いを示した上で,最終章の霊幻の活躍と告白で改めて「いい奴」という価値を打ち出す。『モブサイコ100』という作品のコアメッセージが最もよい形で示されていたと思う。シリーズの完結編として,文句なしの出来栄えだったと言えるだろう。

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3位:『サイバーパンク エッジランナーズ』(秋)

『サイバーパンク エッジランナーズ』公式HPより引用 ©︎2022 CD PROJEKT S.A.

www.cyberpunk.net

【コメント】
「2022 秋アニメランキング」の中で,第1位として挙げた作品である。TRIGGER & 今石洋之監督の作品と言えば、エッジの効いた作画キレのあるアクション“金田パース”を継承した大胆な構図が目を引くが,本作でもその持ち味が遺憾なく発揮されている。FRANZ FERDINAND の楽曲を使用したオープニングアニメーションからして,とにかく“カッコいい”の一言に尽きる。さらに,最終話近辺にはアート作品のような芸術性の高い構図も多く,TRIGGER & 今石のセンスの高さを改めて実感した作品である。

同時に,デイヴィッドとルーシーをめぐるエモーショナルな脚本と演出も光っていた。10話という短尺の中で2人のキャラクターに的確に感情移入を促すことで,最終話のラストカットでしっかりと深い喪失感を抱かせる。技としか言いようがない。Netflix限定配信ということで,ネット上での盛り上がりは今ひとつだったが,間違いなく今年の最高傑作の一つであり,TRIGGER & 今石洋之の代表作である。未見の方にはぜひお勧めしたい。

 

2位:『メイドインアビス 烈日の黄金郷』(夏)

『メイドインアビス 烈日の黄金郷』公式Twitterより引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

miabyss.com

【コメント】
「2022年 夏アニメランキング」の第1位として挙げた作品である。ボンドルドのそれをも上回る,ワズキャンの“カニバリズム”という所業は,すでにアニメ作品の一般的な倫理ラインを超えていると言ってよいが,そもそもこの作品は“倫理”や“法”を超えたところにある「価値」を物語の駆動力にしている。アニメ制作班は,そうした作品のコアを十分に踏まえた上で,それに対して誠実に寄り添った形でーー場合によっては原作よりもブーストした形でーー本作を作り上げた。アニメ化による付加価値の大きい作品と言える。

そして本作は,久野美咲という声優の力量を改めて思い知らされた作品でもある。“幼女キャラ”の印象が強い久野だが,『烈日の黄金郷』では,「成れ果ての村」を呪い破壊し尽くす「ファプタ」というキャラクターを見事演じ切った。本作における彼女の貢献度は計り知れない。

原作はまだ完結しておらず,今後長い期間をかけてアニメ化されていくことになると思われるが,最後まで見届ける価値のある,いや見届けるべき作品である。間違いなく,アニメ史に残る傑作,快作,怪作となるだろう。

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1位:『平家物語』(冬)

『平家物語』公式HPより引用 ©︎「平家物語」製作委員会

heike-anime.asmik-ace.co.jp

【コメント】
「2022年 冬アニメランキング」で第1位として挙げた作品である。壮大な軍記物語を11話にまとめあげた吉田玲子の技,京都アニメーションからサイエンスSARUという変数を経てもなお光を放つ山田尚子の作家性,そしてこの2人の才能が照らし出す『平家物語』の新たな魅力。爽やかなオープニングや高野文子による柔らかなキャラクターデザイン,そして牛尾憲輔の手になる大胆な音楽は,『平家物語』に従来とはまったく異なるイメージを与えた。古典作品や歴史物語をアニメ化する際の,新たなフォーマットを提示したとも言える。多くの点で,他作品を圧倒する存在感を持った傑作であることに異論はないだろう。

存在感ということで言えば,2位の『メイドインアビス』も甲乙つけ難く,この2作品の順位には大いに悩んだ。映画『犬王』とNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』との相乗効果もあり,2022年を象徴する作品となったという点で,最終的に『平家物語』を今年の1位に選んだ次第である。2020年代を代表する日本アニメとして,長く語り継がれる作品となるだろう。

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TVアニメランキング表

1位:『平家物語』
2位:『メイドインアビス 烈日の黄金郷』
3位:『サイバーパンク エッジランナーズ』
4位:『モブサイコ100 Ⅲ』
5位:『リコリス・リコイル
6位:『かぐや様は告らせたい -ウルトラロマンティック-』
7位:『ぼっち・ざ・ろっく!』
8位:『サマータイムレンダ』
9位:『SPY×FAMILY』
10位:『よふかしのうた』

● その他の鑑賞済みTVアニメ作品(50音順)
『明日ちゃんのセーラー服』『阿波連さんははかれない』『異世界おじさん』『インセクトランド』『宇崎ちゃんは遊びたい!ω』『うる星やつら』『王様ランキング 第2クール』『エスタブライフ』『Engage Kiss』『からかい上手の高木さん3』『可愛いだけじゃない式守さん』『機動戦士ガンダム 水星の魔女』『鬼滅の刃 遊郭編』『組長娘と世話係』『古見さんは,コミュ症です。2期』『錆喰いビスコ』『シャインポスト』『シャドーハウス 2nd Season』『処刑少女の生きる道』『その着せ替え人形は恋をする』『TIGER & BUNNY 2』『チェンソーマン』『ちみも』『であいもん』『Do It Youself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』『東京24区』『トライブナイン』『パリピ孔明』『ヒーラーガール』『不滅のあなたへ Season 2』『ヒューマンバグ大学 -不死学部不幸学科-』『ブラック★★ロックシューター』『プリマドール』『ポプテピピック2』『ヤマノススメ Next Summit』『ユーレイデコ』『リーマンズクラブ』『RWBY』『羅小黒戦記』

 

劇場アニメランキング

10位〜6位

10位:『すずめの戸締まり』

suzume-tojimari-movie.jp

【コメント】
“震災”というテーマに真正面から取り組んだ,新海誠監督の意欲作。「廃墟を悼む」「日常」「少女の自己発見」というメッセージを中心に据えながら,それらを新海流の美学で映像化した秀作だ。しかし,“エンターテインメントで震災というトラウマを語る”という,新海の英断の是非については賛否が分かれるところだろう。ひょっとしたら,数年後や数十年後に改めて振り返られる作品なのかもしれない。

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9位:『夏へのトンネル,さよならの出口』

natsuton.com

【コメント】
僕らにとって,今のところ“ウラシマ現象”は物語であり物理現象である。だからこそ,それは多くの物語の中で“憧れ”の対象であると同時に,ありうべき“過酷な現実”として描かれてきたのだろう。時間のずれは,人々の生を否応なしに引き裂く。しかし『夏へのトンネル,さよならの出口』という作品は,かように残酷な“ウラシマ”を描きながらも,温かい結末を用意している。“浦島太郎”の系譜の中でも,最も優しい作品かもしれない。

 

8位:劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM [前編]君の列車は生存戦略/[後編]僕は君を愛してる

penguindrum-movie.jp

【コメント】
2011年に放送された『輪るピングドラム』を再構成したリメイク版。「桃果」「ピングドラム」「こどもブロイラー」「りんご」。“愛と犠牲”を語るべく用意された神話の形象たちは,具体的な日付と実写映像によって,“今ここにある現実”と重ね合わせられる。“神話”が“現実”と重なることによって,「きっと何者にもなれない」僕たちは,「きっと何者かになれる」僕たちになれたのかもしれない。TV放送時に「難解」と評された本作は,11年経った今でも相変わらず難解なままだが,その普遍的なメッセージの輪郭は明確になったようである。

 

7位:『かがみの孤城』

movies.shochiku.co.jp

【コメント】
辻村深月原作/原恵一監督によるファンタジー作品。ファンタジーとは言え,その世界観は古典的だ。おそらくこの作品の本意は“異世界設定”の読み解きにあるわけではない。ファンタジーという一見“遠い”舞台を経由することで,逆に,身近な生活世界の中で人と人とが縦にも横にも繋がっているという事実を照射する。この(少々大仰に言えば)実存的な“気づき”こそがこの作品の主眼なのだろうと思う。とは言え,やはりこの記事ではネタバレは避けたいところなので,未見の方にはぜひ劇場に足を運んでほしい。

 

6位:『かぐや様は告らせたい -ファーストキッスは終わらない-』

kaguya.love

【コメント】
人は誰しもペルソナを身につけている。このシンプルな真理を,「かぐや」という,アニメ史上最も強固なペルソナを纏ったキャラクターでコミカルかつ真摯に描いた作品。『モブサイコ100 Ⅲ』のラストシーンに共感した人は,いっそう思うところがあるかもしれない。クリスマスイブが舞台であるにもかかわらず,無駄に華美な演出になることなく,かぐやと御行の心に真摯に寄り添った点も高く評価できる。

 

TOP 5

5位:『神々の山嶺』

longride.jp

【コメント】
谷口ジロー原作のマンガをフランスの制作でアニメ化(監督はパトリック・アンベール)。ドキュメンタリー+ミステリー仕立ての物語と,文字通りのサスペンス=宙吊りの状況が時を忘れさせる傑作である。また,原作の画がリスペクトされている一方で,登場人物の所作などからは,“西洋人が表象した日本”であることが明確にうかがえる。こうした多国籍性もなかなかに面白い。

ちなみに『メイドインアビス』の原作者・つくしあきひとは,谷口ジローの原作マンガを強く推している。確かに,『神々の山嶺』における狂気にも近い高みへの“憧れ”は,『メイドインアビス』における奈落への飽くなき“憧れ”と対を成しているようだ。“上昇”と“下降”という別方向のベクトルの根底にある,人の欲動。両者のテーマ性を比較してみるのも面白いだろう。「山嶺」の崇高美を堪能するためにも,劇場で鑑賞することをお勧めしたい。

 

4位:『映画ゆるキャン△』

yurucamp.jp

【コメント】
高校を卒業してから約10年後,社会人になった主人公たちの活躍を描いた劇場版は,一風変わったスピンオフのような位置付けと言える。そこでは,なでしこリン千明あおい恵那の5人が,TVシリーズとは異なる時間感覚や社会意識のもとで“キャンプは楽しい”という価値を伝えていく様子が描かれている。高校の友人同士という極小の輪だったものが,地域のコミュニティという,少しだけ大きな輪へと広がることで,“キャンプ”という価値がより広い公共性を担った〈共通価値〉として意味づけられている。それにもかかわらず,押し付けがましさまったくない。『ゆるキャン△』という作品の最もよいところである。キャンプの楽しさは伝えたい。ただし,あくまでも「ゆる」く。コミュニティの価値が薄れつつある現代日本において,リアルな教訓を持った作品と言えるだろう。

すでに第3期の制作も発表されている。今後も長く楽しめる作品となりそうだ。

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3位:『犬王』

『犬王』公式Twitterより引用 ©︎2021 “INU-OH” Film Partners

inuoh-anime.com

【コメント】
実在した能楽師・犬王と架空の琵琶法師・友魚との数奇な運命を描いた,古川日出男『平家物語 犬王の巻』(2017年)。湯浅政明監督は,時代考証を逸脱した楽曲や,独自の身体表象などを盛り込むことで,この異形と異能の化学反応をよりビビッドに映像化することに成功している。最近盛んに制作されている“ミュージカル・アニメ”のジャンルの中でも,ひときわ異彩を放つ作品である。海外での評価も高く,湯浅監督の力量を改めて知らしめた傑作となった。

山田尚子監督『平家物語』の項目でも述べたように,『犬王』『平家物語』『鎌倉殿の13人』という3作品の相乗効果は(半ば偶然とは言え),それぞれの作品の評価にプラスとなったことは間違いないだろう。平家と源氏をめぐる歴史と物語が注目されるきっかけとなったという意味でも,一つのアニメ作品の枠を超えた価値を持つ作品として評価できる。

また『犬王』と『平家物語』に関しては,琵琶法師というキャラクターを掘り下げてみるのも面白いだろう。兵藤裕己『琵琶法師ー〈異界〉を語る人々』(2009年)は,古来,“異能者”として表象された琵琶法師の実像に迫る良書としてお勧めである。下の「アニメと一緒に読んだ本 2022」の記事も参照いただきたい。

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2位:『地球外少年少女 前編/後編』

『地球外少年少女』公式Twitterより引用 ©︎ MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

chikyugai.com

【コメント】
吉浦康裕監督『イヴの時間』(劇場版:2010年),同監督『アイの歌声を聴かせて』(2021年),カズオ・イシグロ『クララとお日さま』(2021年),エザキシンペイ監督『Vivy -Fluorite Eye's Song-』(2021年)など,近年盛んに作られる“AIモノ”の中にあって,磯光雄監督の『地球外少年少女』はある意味で独自路線を歩んだと言えるかもしれない。上記の作品を含め,多くのAIモノが“人の心に近似するAI”を描いているのに対し,『地球外少年少女』は“人の心と異質なAI”を描こうとしたからである。

とりわけユニークなのは,AI「セブン」が種としての「人類」と個としての「人間」を同定できず,主人公の登矢に答えを求める件である。はたして,人の知能を模すはずのAIは人の心を模すことができるのか。人が人を認識するのと同様に,AIは人を認識するのだろうか。あるいはひょっとすると,AIの他者認識の限界を知られることで,“本当に人は人を人として認識しているのか”という究極の問題提起がなされることになるかもしれない。そんなことを考えさせてくれる深みのある傑作だった。同監督の『電脳コイル』(2007年)と合わせて鑑賞することをお勧めする。

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1位:『THE FIRST SLAM DUNK』

『THE FIRST SLAM DUNK』公式Twitterより引用 ©︎I.T.PLANNING,INC. ©︎2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

slamdunk-movie.jp

【コメント】
正直,このセレクトは悩みに悩んだ。実はこの記事を執筆する直前までは,本作は2位の『地球外少年少女』と同列か,あるいはその下という判断をしていた。しかし鑑賞後の余韻に浸る時期を過ぎ,作品の各要素を冷静に分析していく中で,“やはり文句なしに面白い”という結論に至った。緊張感みなぎる試合シーンとエモーショナルな回想シーンの交代,ボールのバウンド音とバッシュのスキール音と劇伴の共演,そして類い稀なるアニメーション表現。それらが混然一体となって観客の心を掻っ攫い,あのラストシュートの瞬間という特異点で“無”を生み出す。持ち味の一つでもあるギャグシーンを削ぎ落としてでも,井上雄彦がやりたかったことがここに示されているのだ。当ブログで重視している「考察」要素は多くないが,この見事なまでの盛り上げ演出は高く評価せざるを得ない。

本作は,TVシリーズ(1993-1996年)からの声優交代騒動に始まり,桜木花道から宮城リョータへの“主役”変更や先述のギャグ要素削減などに関し,コアなファンからの批判も少なからず見られる。しかしこうした事情も,この記事であえて本作を第1位として挙げるきっかけとなった。というのも,ファンの中で作り上げられた作品のイメージを忠実になぞることだけが制作者の使命ではないと考えるからだ。かつて『劇場版シティーハンター 新宿プライベート・アイズ』(2019年)に関して,「ラーメン屋に行ってラーメンを注文したらきちんとラーメンが出てきた」と評されたことがあった。もちろんそうした作品作りの思想もあるだろう。しかし,あえてファンのイメージを壊し,古い作品から新しい価値を引き出す制作思想があってもよい。『THE FIRST SLAM DUNK』という作品はそれに成功している。

過去作品のリメイクはどうあるべきか。それをどう評価すべきか。今回の本作選出には,そうした問題提起の意味も込めている。

 

劇場アニメランキング表

1位:『THE FIRST SLAM DUNK』
2位:『地球外少年少女 前編/後編』
3位:『犬王
4位:『映画ゆるキャン△』
5位:『神々の山嶺』
6位:『かぐや様は告らせたい -ファーストキッスは終わらない-』
7位:『かがみの孤城』
8位:『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM
9位:『夏へのトンネル,さよならの出口』
10位:『すずめの戸締まり』

● その他の鑑賞済み劇場アニメ作品(50音順)
『雨を告げる漂流団地』『永遠の831』『映画 五等分の花嫁』『オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』『オネアミスの翼』『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』『君を愛したひとりの僕へ』『グッバイ,ドン・グリーズ』『劇場版 からかい上手の高木さん』『鹿の王』『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が,今も響く-』『バブル』『FLEE フリー』『ブルーサーマル』『僕が愛したすべての君へ』『ぼくらのよあけ』『四畳半サマータイムブルース』

 

総合ランキング表

最後に,TVシリーズと劇場版を総合したランキングを紹介しよう。

1位:TVアニメ『平家物語』
2位:TVアニメ『メイドインアビス 烈日の黄金郷』
3位:TVアニメ『サイバーパンク エッジランナーズ
4位:TVアニメ『モブサイコ100 Ⅲ』
5位:劇場アニメ『THE FIRST SLAM DUNK』
6位:劇場アニメ『地球外少年少女 前編/後編』
7位:劇場アニメ『犬王』
8位:TVアニメ『リコリス・リコイル』
9位:劇場アニメ『映画ゆるキャン△』
10位:TVアニメ『かぐや様は告らせたい -ウルトラロマンティック-』
11位:TVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!
12位:劇場アニメ『神々の山嶺』
13位:劇場アニメ『かぐや様は告らせたい -ファーストキッスは終わらない-』
14位:TVアニメ『サマータイムレンダ』
15位:TVアニメ『SPY×FAMILY』
16位:劇場アニメ『かがみの孤城
17位:劇場アニメ『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM』
18位:TVアニメ『よふかしのうた
19位:劇場アニメ『夏へのトンネル,さよならの出口』
20位:劇場アニメ『すずめの戸締まり』

 

総評

2022年のTVアニメは,なんと言っても『平家物語』『メイドインアビス 烈日の黄金郷』『サイバーパンク エッジランナーズ』の存在感が大きかった。これらの作品は,単に“面白い”というだけでなく,視聴者に深い考察を促す作品力がある。そして当ブログではそうした作品を高く評価している。また,完全オリジナルアニメとして予想外の盛り上がりを見せた『リコリス・リコイル』も,ストーリーの面白さやキャラクターの魅力だけでなく,オリジナルアニメのポテンシャルを再認識させてくれたという点で高く評価したい。

一方,昨今のTVアニメのクオリティ向上のせいもあってか,劇場アニメの存在感は相対的に低かったように思える。例年,「総合ランキング」では劇場作品が上位を占めるのだが,今年は上位4作品までがTVアニメとなった。そんな中でも,『THE FIRST SLAM DUNK』は大いに健闘したと言える。先述した通り,“過去作品のリメイクの在り方”に一石を投じたという点でも特筆に値する作品である。

もはや単に美麗な作画や贅沢な楽曲だけでは,“劇場版クオリティ”とは言えないのかもしれない。すでにTVアニメの中で,そうしたものが達成されてしまっているからだ。表面的な美しさの根底に,確実に面白い脚本や確かなテーマ性が据えられていない限り,視聴者の足を劇場に運ばせることはできないのかもしれない。そうした意味では,新海誠のような作家は,今一度“脱皮”をするべき時なのではないかとも思う。いや,新海誠だけではない。すべてのアニメ制作者たちが,“劇場アニメ”というものの価値を省みる時なのではないだろうか。

この記事を書きながら観ている「NHK紅白歌合戦」もすでに後半戦に入っている。まもなく2022年も終わろうとしている。来年も優れたアニメ作品に出会えることを祈念しつつ。皆さま,よいお年を。