アニ録ブログ

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TVアニメ『メイドインアビス 烈日の黄金郷』(2022年夏)第10話「拾うものすべて」の演出について[考察・感想]

 *この記事は『メイドインアビス 烈日の黄金郷』第10話「拾うものすべて」のネタバレを含みます。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

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つくしあきひと原作/小島正幸監督『メイドインアビス 烈日の黄金郷』各話レビュー第2弾として,今回は第10話「拾うものすべて」を取り上げてみたい。ミーティに二度目の別れを告げるナナチ,過去の記憶を失ったままファプタの暴走を止めようとするレグ,レグを過去へと連れ戻そうとするファプタ。この三者に共通するのが,〈涙〉の演出である。

当然のことだが,涙のような流体表現は,マンガよりもアニメの方が絵として映える。マンガ原作アニメにおいて,涙の表現はその媒体としてのアドバンテージを明確に示すことのできる要素だと言える。これを『メイドインアビス』アニメ班はどう料理したか。詳しく見ていこう。

 

ナナチの涙

まずはアバンで描かれるナナチの涙から見てみよう。

複製されたミーティへの愛着に抗えず,べラフの元で微睡んでいたナナチは,ファプタ帰還の騒動によって目を覚まし,「成れ果ての村」を去る決意をする。村の境界線を越えるとミーティが消えてしまうことをべラフに告げられながらも,ナナチは自らの「あこがれ」を追い求めることを選択する。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

消失していくミーティに語りかけながら,ナナチは大粒の涙を流して泣きじゃくる。その姿は,レグの「火葬砲」の助けを借りてミーティを葬った,第1期13話「挑む者たち」のシーンを否応なく想起させる。

第1期第13話「挑む者たち」より引用 ©︎2017 つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス製作委員会

ナナチは二度,ミーティを失い,二度,涙を流す。まったくもって度し難い運命である。しかし今回の涙が前回と違うのは,ナナチがミーティへの"葬い"の儀式を他者(レグ)に委ねず,自らの手で行った点だ。

「あこがれも,けがれも,喜びも,悲しみも,私は捨ててしまった」と独白するべラフは,先に進むことなく,成れ果ての村に停滞しながらやがて滅んでいくだろう。そんなべラフとは対照的に,ナナチは「あこがれ」という価値を「拾い」,追い求めていくことを主体的に選ぶ。その代償としてナナチはミーティを失い,涙を流すのである。それと同じ涙を,べラフの空虚な目はもはや流すことができない。ナナチの涙は,ナナチが選んだ「価値」の象徴なのかもしれない

こうして第10話アバンは,この話数が〈涙の物語〉であることを告知しているのだ。

 

ファプタの涙,レグの涙

第10話の演出でもっとも注目すべきは,ファプタとレグの格闘シーンで描かれる二度の落涙である。

一度目は,現在のシーンから過去の回想シーンに切り替わるタイミングだ。

ファプタ VS レグの格闘ーそれはさながら元恋人同士の"修羅場"のようでもあるーにおいて,ファプタは「レグが何をすべきなのか,叩いてでも思い出させてやるそす」と言いながら涙を流す。涙滴が美しく舞い落ちる刹那,ファプタとレグの回想シーンが挿入される。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

現在のファプタが流した涙滴が,過去のファプタが流した涙滴に入れ替わり,リュウサザイとの戦いで故障したカブールンの身体の上に落ちる。その後,ファプタとレグの最初の出会いが語られる。フラッシュバックを涙の同一性でつないだ美しい演出だ。
この回想シーンから明らかになるのは,ファプタがレグに対してほとんど愛情に近い感情を抱いていた(そして今も抱いている)という事実だ。この当時の2人は,恋人同士のような距離感で描かれている。レグがファプタに「友好のしるし」を差し出す様は,まるで彼女に下着をプレゼントする彼氏のようで微笑ましい。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

その後,レグは地上への旅に出るべく,ファプタに一時の別れを告げる。この時のファプタのセリフは胸に迫るものがある。

ファプタは…姫なので…レグ…もどってきたら…ずっと一緒にいて…それで…それで…こどもも…

彼女は,母であるイルミューイの「子どもを産みたい」という願望を確かに継いでいたのだ。それをレグとの間で成就しようとしていたファプタは,レグと生涯添い遂げる未来を思い描いていたに違いない。つまりファプタのレグに対する思いには,イルミューイの願いも含まれている。それをレグが忘れたとすれば,地獄のような"修羅場"がもたらされるのも宜なるかなである。

 

二度目の涙は,回想シーンから現在のシーンに戻るタイミングだ。

レグが旅立った後のファプタが,レグの思い出として作った石の人形を噛みながら,失意のうちに涙を流す。

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

過去のファプタの目から落ちた涙滴は,現在のファプタの頬に落ちる。しかし実はその涙は,ファプタを組敷くレグが流したものだった。ファプタとレグの涙を入れ替えることで,交わりながらもすれ違う2人の心情を描いた見事な演出だ。

 

この2つの涙のシーンは,どちらも落涙のアニメーションの美しさを活かした,たいへん優れた演出である。淡白で機械的なフラッシュバックにせず,落涙という情緒的な視覚効果を用いることで,ファプタとレグの関係をエモーショナルに増幅している。このような演出があるからこそ,ファプタとレグの"ロマンス"としての関係性がいっそう際立ち,"殺したいほどアイ・ラブ・ユー"ばりのファプタの狂気と殺意も痛いほどに伝わる

第7話「欲望の揺籃」より引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

ラストシーンでレグがファプタを組敷くカットでは,レグが腕をファプタの身体に巻きつかせ,手で頭を押さえつけている。まるでレディースコミックの"濡れ場",あるいは“姫”を手籠めにしようとする“王子”のような構図だ。しかし2人の目にはやはり涙が浮かんでいる。ファプタが「レグはやさしいそすな…」と呟く。その直後,舞い散る緑の葉と転がるレグのヘルメットのスローモーション,そしてファプタの「だが…」というセリフによる“タメ”を挟んだ後,ファプタがレグに襲いかかり,2人の立場は完全に逆転する。ファプタが「だが…おろかそす…」と呟き,画面が暗転する。この一連のシーンのタイミングが実に美しい。

 

さて,レグ王子はこの"修羅場"を切り抜け,ファプタ姫の暴虐を止めることができるのだろうか。物語は佳境に入っている。

 

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:つくしあきひと/監督:小島正幸/副監督:垪和等/シリーズ構成・脚本:倉田英之/キャラクターデザイン:黄瀬和哉Production I.G),黒田結花/デザインリーダー:高倉武史/プロップデザイン:沙倉拓実/美術監督:増山修関口輝インスパイアード/色彩設計:山下宮緒/撮影監督:江間常高T2 studio/編集:黒澤雅之/音響監督:山田陽/音響効果:野口透/音楽:Kevin Penkin/音楽プロデューサー:飯島弘光/音楽制作:IRMA LA DOUCE/音楽制作協力:KADOKAWA/アニメーション制作:キネマシトラス

【キャスト】
リコ:
富田美憂/レグ:伊瀬茉莉也/ナナチ:井澤詩織/メイニャ:原奈津子/ファプタ:久野美咲/ヴエコ:寺崎裕香/ワズキャン:平田広明/ベラフ:斎賀みつき/マジカジャ:後藤ヒロキ/マアアさん:市ノ瀬加那/ムーギィ:斉藤貴美子/ガブールン:竹内良太/プルシュカ:水瀬いのり/ボンドルド:森川智之

【第10話スタッフ】
脚本:
倉田英之/絵コンテ・演出:小出卓史/作画監督:阿部島瑠珠崎本さゆり谷紫織黒田結花

 

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