アニ録ブログ

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「メイドインアビス展〜挑む者たちの軌跡〜」レポート[感想]:主線と一次的欲求が紡ぐ物語

*このレポートにはネタバレはありませんが,『メイドインアビス』の内容に関する言及があります。先入観のない状態で鑑賞されたい方は,作品を先にご覧になってから本記事をお読みください。

『メイドインアビス』公式Twitterより引用 ©︎つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「烈日の黄金郷」製作委員会

art.parco.jp

現在放送中のつくしあきひと原作/小島正幸監督『メイドインアビス 烈日の黄金郷』。前作に引き続き,原作の過酷な描写を誠実に映像化するアニメスタッフの力量が高く評価されており,2022年夏クールの中でも大きな話題となっている作品の1つだ。「メイドインアビス展〜挑む者たちの軌跡〜」は,そんな『メイドインアビス』の魅力を原画資料やフォトスポットを楽しみながら振り返る展示会である。

 

展示会データ

*チケットやグッズ等については東京会場のもの

【会場・会期】
【東京】PARCO FACTORY(池袋PARCO本館7F):2022年9月2日(金)~9月19日(月)
【名古屋】PARCO GALLERY(名古屋PARCO西館6F):2022年10月1日(土)~10月16日(日)

【チケット】
日時指定制。【前売券】一般:1,200円(税込)ワンポイントナナチ音声ガイド付き:1,700円(税込)【当日券】一般:1,300円(税込)ワンポイントナナチ音声ガイド付き:1,800円(税込)。詳しくはこちら

【グッズ】
図録の販売なし。アクリルスタンド,クリアファイル,タペストリー,マグカップ,アートボード等の販売あり。詳しくはこちら

【その他】
1期と劇場版のセクションではほぼすべての資料が写真撮影可(映像等は撮影不可)。2期(『烈日の黄金郷』のセクションはパネル展示物以外は撮影不可)。「ワンポイントナナチ音声ガイド」あり(利用する場合はスマホとイヤフォンを持参)。鑑賞所要時間の目安は1時間程度。

 

TVアニメ『メイドインアビス』データ

つくしあきひとの同名マンガを原作とするTVシリーズアニメ。「アビス」と呼ばれる巨大な穴に挑む,リコ・レグ・ナナチらの過酷な冒険を描く。丸みを帯びた可愛らしいキャラクターの造形とは裏腹に,アビスの「呪い」がもたらす壮絶な運命が容赦なく描写されており,近年の冒険アニメの中でも独自の存在感を放つ"怪作"である。特に小島正幸率いるアニメスタッフは,原作の持ち味を遺憾なく表現しており,その力量は高く評価されている。2017年夏に第1期がTV放送され,その後,2019年の劇場版総集編と『劇場版メイドインアビス 深き魂の黎明』を経て,現在第3期がTV放送中である。

【スタッフ】
原作:つくしあきひと/監督:小島正幸/副監督:垪和等/シリーズ構成・脚本:倉田英之/キャラクターデザイン:黄瀬和哉(Production I.G)黒田結花/デザインリーダー:高倉武史/プロップデザイン:沙倉拓実/美術監督:増山修関口輝(インスパイアード)/色彩設計:山下宮緒/撮影監督:江間常高(T2 studio)/編集:黒澤雅之/音響監督:山田陽/音響効果:野口透/音楽:Kevin Penkin/音楽プロデューサー:飯島弘光/音楽制作:IRMA LA DOUCE/音楽制作協力:KADOKAWA/アニメーション制作:キネマシトラス

【キャスト】
リコ:富田美憂/レグ:伊瀬茉莉也/ナナチ:井澤詩織/メイニャ:原奈津子/ファプタ:久野美咲/ヴエコ:寺崎裕香/ワズキャン:平田広明/ベラフ:斎賀みつき/マジカジャ:後藤ヒロキ/マアアさん:市ノ瀬加那/ムーギィ:斉藤貴美子/ガブールン:竹内良太/プルシュカ:水瀬いのり/ボンドルド:森川智之

 

展示構成

第1期,劇場版,第2期の順に展示が構成されており,各コーナーに原画,設定資料,映像,フォトスポットなどが展示されている。「ワンポイントナナチ音声ガイド」は必須ではないが,アビスの雰囲気を楽しむためにも利用をおすすめする。

 

丸みのあるキャラクター:主線が紡ぐ物語

「メイドインアビス展」で特に注目してもらいたいのは,原画資料,しかもその"主線"だ。

『メイドインアビス』のキャラクターは,とにかく丸っこい。一部の大人を除けば,ほぼすべてのキャラクターの輪郭は餅のように柔らかでシンプルなタッチの曲線で描かれている。

京都アニメーションのアニメーターとして活躍した故・木上益治(三好一郎)は,『パジャのスタジオ』(2017年)の制作について,「丸みのあるキャラクター」の難しさを次のように説いている。

当社のスタッフが,バジャのような線数が少なくて丸みのあるキャラクターを描き慣れていないこともあってか,「みんな,苦労しているな」と感じる部分はありました。[…]情報量が少ないキャラクターを描くには,その本質をつかむまでにとても時間がかかるんです。かなり描き込まないと,キャラクターの描き方が見えてきません。*1

「バジャ」や『メイドインアビス』のようなシンプルで丸みのあるキャラクターは,一見,子どもでも描けそうに思えてしまう。しかしシンプルで線数が少なければ,それだけ"ごまかし"が通用しない。丸みのあるなめらかな主線は,油断すると簡単に破綻してしまうだろう。ましてアニメーションとなると,原画と原画の間に中割りを挟むことになるため,わずかなずれがキャラクターの雰囲気を損なう可能性もある。

おそらくリコやレグたちのもちもちした輪郭線には,アニメーターたちの並外れた力量が注ぎ込まれている。色などの情報が付加される前の,線のみで描かれた原画は,そうした制作者たちの手腕をはっきり確認できる格好の資料なのだ。

そして,丸みのあるキャラクターだからこそ,彼ら/彼女らが経験する運命の過酷さ・残酷さが際立つ。『メイドインアビス』という作品は,柔らかい曲線の流れを真っ直ぐな太刀で断ち切るかのような,残忍な「呪い」に満ち溢れている。僕らは,そんな呪いをものともせず,「憧れ」に向かって進み続けるリコたちの姿に感銘を受けるのだ。丸みのあるキャラクターが勝つ。そんな物語を再確認するためにも,ぜひ原画の"主線"に注目してもらいたい。

 

一次的欲求:コラボカフェのススメ

『メイドインアビス』と言えば食事シーンだ。一次欲求を誠実に描くからこそ,「憧れ」という高次の願望が輝く。野田サトル原作の『ゴールデンカムイ』もそうだが,これらの作品のでは食事シーンと物語とが不可分なのだ。

実は,僕はふだんアニメ関連の展示会のコラボカフェを訪れることがほとんどない。単純に待ち時間がもったいないからだ。だが今回の展示では,上で述べたような事情から,時間をとってカフェのメニューをいくつか楽しんでみることにした。

注文したのは「成れ果て食堂限定商品(アラビアータ)〜リコ玉孵り焼き付き〜」「マアアさんのパフェ」「ファプタのクランベリーカルピス」の3つ。

「アラビアータ」はあの「睾丸焼き」をイメージした商品。クレープの皮のようなものを破るとアラビアータが見えてくる。「リコ玉孵り焼き」はタコザンギ。「マアアさんのパフェ」はマアアさん形状のアイスが乗ったごく普通のパフェだが,このマアアさんがすこぶる可愛い。どちらも味は…おそらくコラボカフェのメニューのアベレージといったところだろうか。意外と普通に美味しかったのが「ファプタのクランベリーカルピス」だった。

これ以外にも「クべキャサス(ほうれん草のカレー)」や「水もどきソーダ」など試したいものがたくさんあったのだが,さすがに胃袋にきつい。マフィア梶田さんは全メニューを注文したというから恐れ入る。

最後にちょっとしたサプライズが。カフェを出て会計を済ませようと並んでいると,なんとマジカジャ役の後藤ヒロキさんがやってきて,そそくさと店のポスターにサインを書いて帰って行ったのだ。これにはかなり驚いた。そして後でTwitterの投稿を見てみると,後藤さんも全メニューを頼んだらしい…

 

胃袋に自信のある猛者には,ぜひアビスメニューを制覇してもらいたい。

 

さて,放送中の『烈日の黄金郷』も終盤を迎え,物語も佳境に入っている。「成れ果て村」における,丸みのあるキャラクターたちの運命はどう締めくくられるか。最後まで見届けよう。

 

 

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*1:「私たちの,いま!2019」(『私たちは,いま!!全集2019』,京都アニメーション,2020年に所収),p.139。