*この記事はネタバレを含みます。
終盤の話数に入り,ますます苛烈さを極めていく『メイドインアビス 烈日の黄金郷』。この最終局面で,完全に主役を食う大立ち回りを演じているのが「成れ果ての姫」ファプタである。今回の記事では,この類まれな〈キャラ(クター)〉の魅力を分析してみよう。ポイントは久野美咲の演技である。
なお,本記事における〈キャラ〉と〈キャラクター〉という用語に関しては,以下の記事を参照頂きたい。
〈キャラ〉としてのファプタ
幼女と魔獣
ファプタの造形の基本は幼い少女だ。可愛らしさとしての〈幼女性〉をベースとして,耳や尻尾など,つくしあきひと特有のケモノ要素が加味されている。その意味では,ナナチと同じ"ケモノ系成れ果て"なのだが,ナナチがぬいぐるみのように愛くるしい姿であるのに対し,ファプタは4本の腕,鋭い鉤爪,頭部の3つのギザ歯,頭部の赤いツノなど,どちらかと言えば〈魔獣〉としての要素が強い。いくつかの房に分かれて広がる尻尾から,「九尾の狐」のような妖怪を連想する人もいるだろう。
幼女=可愛らしさと魔獣=恐ろしさの共存。聖と邪,狂気と正気、光と闇など、常に相対立するものを同居させることが多い本作ならではのキャラと言える。ナナチとは違った魅力を持つキャラとしてファンも多く,「〜そす」という独特の言い回しから,「そす子」の愛称で呼ばれることもある。今後,フィギュア等での商品展開が積極的になされていくことが予想される。すでに製作が発表されている商品もいくつかある。
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ねんどろいど ファプタ
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久野美咲:幼女と魔獣のアマルガム
この幼女×魔獣としてのファプタのキャラに命を吹き込んだのが,久野美咲の卓越した声の演技だ。久野と言えば,どちらと言うと"可愛い幼女ボイス"というイメージが強い。しかし実際には彼女の演技の幅はとても広く,ファプタの〈幼女〉面はもちろんのこと,ふだんはあまり聞かない低めの声によって,その〈魔獣〉の面も見事にこなしている。そして後述する第9話において,久野の〈魔獣〉キャラの演技が〈怨嗟〉というキャラクターの演技に転じていく様は,『烈日の黄金郷』においてもっとも見応えのあるシーンと言っても過言ではない。
〈キャラクター〉としてのファプタ
久野美咲:イルミューイの遺伝子
ファプタの造形は,"母"であるイルミューイの褐色の肌や無垢な少女性,「子どもを産みたい」という強い願望,そしてそれを利用し命を搾取した者たちへの"呪い"を受け継いでいる。アニメ版ではイルミューイとファプタをともに久野美咲が演じることにより,その"意志の継承"が原作よりも前面に押し出されているのが大きなポイントだ。
ファプタはイルミューイの意志を継ぎ,彼女の産んだ子を食らった成れ果ての住民を恨み,彼らを殲滅して母を解放したいと願っている。というよりも呪っている。ファプタのキャラクターは,「成れ果ての村」の成立と崩壊を語った『烈日の黄金郷』という物語そのものなのだ。したがって久野のダブルロール・キャスティングは,単に"親子だから同じ声優にした"という以上に,物語と分かち難く結びついた深い演出上の効果を持っている。例えば,第8話「願いの形」でファプタが産まれた直後,成れ果ての者たちを虐殺するシーンのつんざくような叫び声は,第7話「欲望の揺籃」におけるイルミューイの出産時の声を即座に連想させる。
イルミューイの産みの苦しみと,この世に生を受けたばかりのファプタの怨念とを接続した見事な演出だ。そしてこの壮絶な場面のディレクションに応えた久野の力量にも感服する。ちなみに久野は,同クールで放送されている足立慎吾監督『リコリス・リコイル』にも出演しており,"見た目は幼女だが中身は大人"というねじれた役どころを見事に演じている。今期は,久野美咲という役者の存在感を見せつけられたクールでもある。
久野美咲:怨嗟の声
ファプタという〈キャラ〉を形成していた久野の演技が,文字通り〈キャラクター=物語〉へと一気に転じるのが,第9話「帰還」における〈怨嗟〉のシーンである。
レグの火葬砲が開けた穴から成れ果ての村=母の胎内へと入ったファプタは,自分を熱狂的に見つめる成れ果てたちに向かってこう語りかける。
お前たちを 許さぬ
兄弟を…ファプタを…旨そうに睨め回したお前たちの目を許さぬ
お前たちの口を
母と同じ言葉を使い 祈りを吐く
その口を許さぬ
お前たちの姿を許さぬ
我が身可愛さに母を冒涜し続けた
お前たちの その存え続けた命を許さぬ
お前たちの意思を許さぬ
喜びも 悲しみも 営みも断じて継がせはしない
塵芥の一つに至るまで
お前たちの存在を決して許さぬ
すべて 忘れぬために生まれた
この日を この時を どれほど待ちわびたか
覚悟する間も許さぬ
根絶やしにしてくれる
怨念の塊を詩にしたようなこのセリフを,久野はふだんの演技からは想像もつかないような低ピッチの声で演じている。この声は,ファプタの〈魔獣〉のキャラというよりは,イルミューイから継いだ〈呪いという物語〉のキャラクターから導き出された声ではないだろうか。放送後,久野はTwitterで次のように発言している。
ご視聴いただきありがとうございました。
— 久野美咲 (@kuno_misaki0119) 2022年9月7日
10話は、最後に1人での収録でした。
スタッフさん方のご配慮で、リハーサルはせずに、いきなり本番で録りながらやらせていただきました。
ファプタのように、自分の身を焼き尽くす想いで演じさせていただきました。#メイドインアビス#miabyss
母を想い,成れ果てたちを呪い,身を焼き尽くしながら破壊する。そんなファプタのキャラクターを久野は類稀な演技力で演じきっている。
言うまでもないことだが,マンガやラノベ原作のアニメの〈キャラ(クター)〉の造形において,声優の演技の貢献度はとても大きい。『烈日の黄金郷』キャスティングは,単に“イメージ通り”というだけでなく,原作勢を含めた視聴者をよい意味で裏切ってくる点が面白い。その意味では,今回紹介した久野美咲のファプタ以外にも,平田広明の「ワズキャン」,寺崎裕香の「ヴエコ」,後藤ヒロキの「マジカジャ」,市ノ瀬加那の「マアアさん」などもとても面白い〈キャラ(クター)〉だ。彼ら/彼女らの活躍を最後まで見届けよう。
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作品データ
*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど
【スタッフ】
原作:つくしあきひと/監督:小島正幸/副監督:垪和等/シリーズ構成・脚本:倉田英之/キャラクターデザイン:黄瀬和哉(Production I.G),黒田結花/デザインリーダー:高倉武史/プロップデザイン:沙倉拓実/美術監督:増山修,関口輝(インスパイアード)/色彩設計:山下宮緒/撮影監督:江間常高(T2 studio)/編集:黒澤雅之/音響監督:山田陽/音響効果:野口透/音楽:Kevin Penkin/音楽プロデューサー:飯島弘光/音楽制作:IRMA LA DOUCE/音楽制作協力:KADOKAWA/アニメーション制作:キネマシトラス
【キャスト】
リコ:富田美憂/レグ:伊瀬茉莉也/ナナチ:井澤詩織/メイニャ:原奈津子/ファプタ:久野美咲/ヴエコ:寺崎裕香/ワズキャン:平田広明/ベラフ:斎賀みつき/マジカジャ:後藤ヒロキ/マアアさん:市ノ瀬加那/ムーギィ:斉藤貴美子/ガブールン:竹内良太/プルシュカ:水瀬いのり/ボンドルド:森川
商品情報