アニ録ブログ

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TVアニメ『姫様“拷問”の時間です』(2024年冬)第1話の演出について[考察・感想]

*この記事は『姫様“拷問”の時間です』「EPISODE #01」のネタバレを含みます。

『姫様“拷問”の時間です』「EPISODE #01」より引用 ©春原ロビンソン・ひらけい/集英社・国王軍第三騎士団

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今期ギャグアニメ枠の中でも特に注目される春原ロビンソン・ひらけい原作/金森陽子監督『姫様“拷問”の時間です』(以下『ひめごう』)。金森監督が絵コンテ・演出を手がけた「EPISODE #01」は作画と演出のクオリティが極めて高く,初手で本作の魅力を印象付けた優れた話数である。

 

凛々しい姫様とユルい姫様

マンガ原作アニメのギャグは難しい。これは『THE FIRST SLAM DUNK』のレビューでも触れたことだが,マンガはコマや吹き出しの大きさや形状の変化,手書き台詞,キャラの描き込みなどで緩急を作り出し,“笑いのポイント”を明確にすることができる。それに対し,アニメは画角も時間の流れも一定だ。ややもすると単調になる。『ひめごう』アニメは原作のエピソード順を再構成し,作画と演出の手数を増やすことによってこれを克服している。

アバンから見てみよう。王女にして国王軍第三騎士団騎士団長でもある姫様が魔王軍と戦うシーンである。

『姫様“拷問”の時間です』「EPISODE #01」より引用 ©春原ロビンソン・ひらけい/集英社・国王軍第三騎士団

突然の魔物の出現に自ら出陣する姫様。軽やかに飛翔し,頭上から魔物を一撃で仕留める。この辺りのアクションもかなり作り込まれており,非常に見応えがある。

『姫様“拷問”の時間です』「EPISODE #01」より引用 ©春原ロビンソン・ひらけい/集英社・国王軍第三騎士団

髪をアップにした姫様。騎士団長としての凛々しさが強調されている。

『姫様“拷問”の時間です』「EPISODE #01」より引用 ©春原ロビンソン・ひらけい/集英社・国王軍第三騎士団

ちなみに姫様出陣の際の足元のカットではオバケが使われている。姫様の凛々しさが演出されるとともに,小気味のよいスピード感も生まれている。さりげないが効果的な演出だ。

実はこの一連のシーンは原作第1巻巻末に「番外編」として掲載されているエピソードなのだが,アニメではアバンにこのシーンを置くことで“凛々しい姫様”を印象付け,この後の拷問シーンの“ユルい姫様”とのコントラストを生み出している。おそらく脚本段階での判断と思われるが,姫様のキャラを立たせることに成功している。効果的な構成だ。

『姫様“拷問”の時間です』「EPISODE #01」より引用 ©春原ロビンソン・ひらけい/集英社・国王軍第三騎士団

アバンラスト,魔物を倒し勝鬨をあげる(本当は痛くなった脇腹を伸ばしただけ)姫様(上図左)と魔王軍に捉えられ「私は沈黙を貫く!」と決意した姫様(上図中)。ここでも姫様は凛々しく描かれている。これに対し,OP開けてAパート冒頭でトーチャーが出したトーストに魅入られ,一気にユルくなる姫様(上図右)。作画の幅が広く楽しい。

『姫様“拷問”の時間です』「EPISODE #01」より引用 ©春原ロビンソン・ひらけい/集英社・国王軍第三騎士団

トーストの魅力を前につい早口になる姫様。作画がいっそうユルくなり,クルクルとよく動く。スピード感のある楽しいカットだ。

『姫様“拷問”の時間です』「EPISODE #01」より引用 ©春原ロビンソン・ひらけい/集英社・国王軍第三騎士団

全体的に拷問シーンは原作よりも作画の引き出しが多い。多様な作画が次々と繰り出されることによって,コマ割りという表現手段がないアニメにも緩急が生まれる。編集もかなり計算されているように見受けられる。結果,ギャグとしての成立度がきわめて高い。この辺り,『かぐや様は告らせたい』のアニメなどにも通じる技術と言える。

 

トーチャーの食事:エロティシズム・オルタナティブ

『ひめごう』の見どころは姫様の作画だけではない。姫様の“敵役”,最高位“拷問”官トーチャーの作画も非常に魅力的だ。特にその食事シーンは本作最大の見どころといって差し支えない。トーストのシーンから見てみよう。

『姫様“拷問”の時間です』「EPISODE #01」より引用 ©春原ロビンソン・ひらけい/集英社・国王軍第三騎士団

姫様目線カメラからトーチャーなめの姫様正面カメラに切り替わり,トーチャーの口元アップとご満悦の表情へ。カメラワークのダイナミズムが小気味いい。

『姫様“拷問”の時間です』「EPISODE #01」より引用 ©春原ロビンソン・ひらけい/集英社・国王軍第三騎士団

一方,こってりラーメンのシーンではカメラをほぼ固定し,ラーメン女子定番の髪を耳にかける仕草滴る汗をじっくり捉えている。『ラーメン大好き小泉さん』にも匹敵する描画力だ。

原作では姫様の反応の仕方などに“エロ寄り”な芝居が多いのだが,アニメではその辺りをオミットし,トーチャーの食事シーンをより艶かしく描いているように思える。小悪魔風のコケティッシュなデザインとも相まって,非常に魅力的なキャラ造形に仕上がっている。

『姫様“拷問”の時間です』「EPISODE #01」より引用 ©春原ロビンソン・ひらけい/集英社・国王軍第三騎士団

ちなみにトーチャーが魔王と電話で話すシーンでは,当ブログでも言及することの多い“着座カット”が挿入されている。ソファの沈み込みなどはオミットされているが,体重移動や手の動きなどが丁寧に作画されている。衣擦れのSEも心地よく,上品なエロティシズムを感じさせるカットだ。

 

金森陽子の技

この話数を手がけた金森陽子監督は,これまで『おそ松さん』『魔法使いの嫁』『進撃の巨人』『王様ランキング』などで絵コンテや演出を担当している。ごく最近では『ミギとダリ』(2023年)の第12話「僕らの復讐」の絵コンテなどが記憶に新しい。

『ミギとダリ』第12話「僕らの復讐」より引用 ©佐野菜見・KADOKAWA/ビーバーズ

監督は『ひめごう』が初だが,今後の活躍が楽しみな作家だ。注目していこう。

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:春原ロビンソンひらけい/監督:金森陽子/シリーズ構成:筆安一幸/キャラクターデザイン:河野敏弥古橋聡/サブキャラクターデザイン:滝山真哲住本悦子/料理・プロップデザイン:田村恭穂近藤明也圭石井しずく/美術監督・美術設定:宮本実生/色彩設計:今野成美/編集:坂本久美子/撮影監督:長谷川麻美/音響監督:明田川仁/音響効果:安藤由衣/音楽:横山克/アニメーション制作:PINE JAM

【キャスト】
姫:
白石晴香/エクス:小林親弘/トーチャー・トルチュール:伊藤静/陽鬼:永瀬アンナ/陰鬼:井上ほの花/クロル:山根綺/ジャイアント:茅野愛衣/マオマオちゃん:日高里菜/ルルン:中原麻衣/ギルガ:千本木彩花/バニラ:富田美憂/カナッジ:福島潤/ジモチ:大塚芳忠/魔王:玄田哲章

【「EPISODE #01」スタッフ】
脚本:
筆安一幸/絵コンテ・演出:金森陽子/総作画監督:河野敏弥/作画監督:片出健太滝山真哲上原史之湯団迫江沙羅河野敏弥/料理創作画監督:田村恭穂

 

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