アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

2023年 アニメランキング[おすすめアニメ]

*この記事にネタバレはありませんが,各作品について簡単なコメントを付しています。未見の作品を先入観なしで鑑賞されたい方は,下の目次から「ランキング表」へスキップするなどしてご覧ください。

2023年新作アニメの鑑賞数は,TVシリーズが58作品(『スパイ教室』『呪術廻戦』『ダークギャザリング』のように2クールにまたがる作品は1作品としてカウント),劇場版が22作品だった(『劇場版 美少女戦士セーラームーン Cosmos』など前後編に分かれているものは1作品としてカウント。TVアニメの劇場先行上映やOVAに相当する作品も「劇場版」としてカウント)。

以下,「TVアニメランキング(10作品)」「劇場アニメランキング(10作品)」「総合ランキング(20作品)」に分け,当ブログの基準による2023年のランキングをカウントダウン方式で紹介する。視認性を考慮し,TVアニメは青字劇場アニメは赤字にしてある。また各セクションの最後にはコメントなしの「ランキング表」を掲載してある。未視聴の作品がある場合には,「ランキング表」だけをご覧になることをお勧めする。

 

TVアニメランキング

10位〜6位

10位:『Buddy Daddies』(冬)

buddy-animeproject.com

【コメント】
殺し屋バディと4歳児との“擬似家族”物語。世話焼きな一騎と陰気な零という2人の“パパ”の掛け合いに,天真爛漫なミリという“娘”が加わる構成が面白く,あれこれと詰め込みすぎないシンプルな物語も魅力的な秀作だ。オリジナルアニメの1つの在り方を提示したという意味でも評価されるべき作品だろう。

 

9位:『TRIGUN STAMPEDE』(冬)

trigun-anime.com

【コメント】
制作会社オレンジによるハイクオリティのCGアニメーションは,“CGでも可”の時代から“CGならでは”の時代に完全に移行したことを示していた。ピクサーなどとはまったく異なる到達点に達したと言っても過言ではないだろう。すでに続編(完結編)の制作も発表されている。楽しみに待とう。

 

8位:『ミギとダリ』(秋)

migitodali.com

【コメント】
当初は単にアクの強いサスペンスアニメとして楽しんでいたのだが,話が進むにつれミギとダリのキャラクター・アークがはっきり見えてくるようになり,最終話では2人それぞれの自己認識と他者理解で大団円を迎える。サスペンスとしての面白さはもちろんのこと,原作者・佐野菜見が愛情を込めて描いたキャラにこそ本作の本懐があったのではないかと思う。個人的には,今年一番泣いたアニメである。

 

7位:『天国大魔境』(春)

tdm-anime.com

【コメント】
アニメ班の解釈が原作の面白さをいっそう引き出した本作。特に話数担当の演出家の個性を前面に押し出した第10話などは,賛否を分つリスクもあったが,最終的にはコアなアニメファンも満足させる結果となったと言える。一方で,第8話のようにエモーショナルな演出に徹した話数も目を引いた(この話数は「2023年 TVアニメ話数ランキング」で1位として挙げた)。総じて演出の手数が非常に多く,見どころ満載のアニメであった。今のところ続編制作の報はないが,原作が進行(あるいは完結)すれば期待できるはずだ。

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6位:『進撃の巨人 The Final Season 完結編(後編)』(秋)

shingeki.tv

【コメント】
今世紀最大のマンガ原作アニメが,MAPPA渾身のアニメーションによって大団円を迎えた。その一点だけでも評価に値する。それに加えて「完結編(後編)」は,ラストの立体機動シーンの絵コンテ担当にWIT時代のアクション作画監督・今井有文を迎え,本作が紛れもなくWIT×MAPPAの合作であることを改めてファンに示した。アニメオリジナルの演出が見られたのも嬉しい。特にエレンとアルミンの対話シーンにおける台詞の改変などは,原作と比較してみると面白いだろう。

 

TOP 5

5位:『呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変』(夏・秋)

jujutsukaisen.jp

【コメント】
夏アニメランキングの第1位として挙げた作品。“御所園翔太監督とその仲間たち”の類稀な技が炸裂した傑作である。キャラのデフォルメや各話担当に裁量を委ねた演出方針など,第1期よりも技の手数が多く,アニメーション的に見どころの多い作品になった印象がある。ufotableの『鬼滅の刃』が作画を“集中”させてきたのに対し,MAPPAの『呪術廻戦』は“拡散”させた。人気度の点において同じスケール感のジャンプマンガが,対極的な演出方針でアニメ化されたのは大変興味深い現象だ。

五条悟と夏油傑の回想における苦味成分の多い青春ドラマと,渋谷を舞台にした凄惨な殺戮と破壊劇。“陽”の成分が多い「懐玉・玉折」“陰”の成分が多い「渋谷事変」とでコントラストを作り,視聴者を飽きさせないシリーズ構成になっていたのも評価に値する。原作もまだ続いており,長期的なシリーズ展開になる作品だ。これからの続編も楽しみにしたい。

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4位:『お兄ちゃんはおしまい!』(冬)

onimai.jp

 

【コメント】
冬アニメランキングの1位として挙げた作品。TSFという〈受動的変身譚〉をベースに,ガールズトークの賑やかな楽しさとマスコット的な可愛さを伝えた傑作だ。丁寧な日常芝居とファンタジー風味がほどよく両立しており,日本アニメの伝統たる〈日常系〉の代表的作品となったと言える。12話という少ない話数の中で,受動的に受け入れた〈変身〉を最終話で主体的に選択し直し,仲間とのかけがえのない日常を守るというキャラクターアークを実現したことも評価に値する。また,肌色の多い美少女アニメでありながら,露骨なエロさよりもむしろ爽やかさを感じさせる面白い作品である。

レビュー記事ではカフカの『変身』と絡めて考察した。当ブログではアニメ作品と文学・哲学を突き合わせて論じることが多いが,その面白さを改めて実感した作品でもある。

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3位:『PLUTO』(秋)

『PLUTO』公式Twitterより引用 ©︎浦沢直樹/長崎尚志/手塚プロダクション ©︎浦沢直樹/長崎尚志/手塚プロダクション/「PLUTO」製作委員会

pluto-anime.com

【コメント】
手塚治虫の原作を受けた浦沢直樹のリメイク作品が,最新のアニメーション技術によって見事アニメ化された。60年前と20年前と現代の表現技術が融合した傑作である。この作品が提示した“人とロボットの宥和”というテーマは,AI時代に生きる僕らにとってやがてリアリティを持つことになるかもしれない。あるいはそれは“人間は真の他者理解が可能か”という普遍的な問題提起の礎となるかもしれない。いずれにせよ,本作の基底に確かなアクチュアリティがあることは間違いない。

本作は浦沢直樹ワールドを忠実に再現しつつも,優れた作画技術と音響効果によって原作の魅力をアンプリファイしている。特に第1話における「ノース2号」のエピソードでは,孤高の作曲家・ポール・ダンカンのピアノ曲に実際に音がつくことによって,映画のような重厚なドラマが生まれている。総じて,歴代のNetflixアニメの中でも最高傑作と言って過言ではないだろう。

 

2位:『スキップとローファー』(春)

『スキップとローファー』公式HPより引用 ©︎高松美咲・講談社/「スキップとローファー」製作委員会

skip-and-loafer.com

【コメント】
春アニメランキングで1位として挙げた作品。主人公の岩倉みつみは,学園モノとしては少々珍しい地味めのキャラだが,優れたキャラクターデザイン名優・黒沢ともよの演技がきわめて魅力的なキャラ造形を実現している。表面的には素朴なルックだが,その実,非常に計算された作画と演出が施されている。特にスカイブルーを中心とした色彩が美しく,キャラクターの心理描写や人間関係に寄り添った優れた色彩設計である。

レビュー記事ではこの“色彩”の感情価を中心に作品を論じた。オープニングアニメーションの効果も非常に高く,キャラの魅力を伝える重要な媒体として機能している点も見逃せない。

「趣味・嗜好のまったく異なる若者同士の親和力」という素朴なテーマを中心に据えた作品だが,素朴なだけに,それを説得力ある形で伝えるのには高い表現力が必要だ。本作は繊細かつ丁寧な演出技術でそれを達成している。青春学園アニメの1つの理想型としていつまでも評価されることだろう。現時点では続編の報はないが,ぜひとも制作してもらいたい。

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1位:『葬送のフリーレン』(秋)

『葬送のフリーレン』公式HPより引用 ©︎ 山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

frieren-anime.jp

【コメント】
秋アニメランキングの1位として挙げた作品。「エルフ」という典型的なファンタジー系キャラクターを主人公としながら,冒険や戦闘よりも,むしろ遠大な時間の流れと穏やかな心情変化人と人との関わりなどを中心に据えた傑作である。閑寂な趣を感じさせるシーンも多く,このジャンルにおいては特異な作品と言えるだろう。種﨑敦美市ノ瀬加那小林千晃岡本信彦東地宏樹上田燿司ら声優人の落ち着いた演技もたいへん耳心地よく,Evan Callの音楽との親和性も高い。

豊富な空間余白,ゆったりとしたテンポ感,丁寧な日常芝居が,そうした内的な世界観を的確に表現している。長閑な雰囲気の作品だが,キャラの芝居などの点で細やかな技術が用いられており,“作画アニメ”としての側面もある。当ブログではアクション芝居よりも日常芝居を評価することが多いが,本作もその点を高く評価し,2023 年TVアニメの1位として挙げた次第である。

2024年の冬から第2クールの放送も決定している。ぜひとも完結編まで制作を継続してもらいたい作品である。

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TVアニメランキング表

1位:『葬送のフリーレン』
2位:『スキップとローファー
3位:『PLUTO』
4位:『お兄ちゃんはおしまい!』
5位:『呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変
6位:『進撃の巨人 The Final Season 完結編(後編)』
7位:『天国大魔境』
8位:『ミギとダリ』
9位:『TRIGUN STAMPEDE』
10位:『Buddy Daddies』

● その他の鑑賞済みTVアニメ作品(50音順)
『アイドルマスター シンデレラガールズ U149』『AIの遺電子』『新しい上司はど天然』『AYAKA ーあやかー』『アルスの巨獣』『アンデッドアンラック』『アンデッドガール・マーダーファルス』『いきものさん』『ウマ娘 プリティーダービー Season3』『ウマ娘 プリティーダービー ROAD TO THE TOP』『うる星やつら』『王様ランキング 勇気の宝箱』『大雪海のカイナ』『【推しの子】』『カミエラビ』『カワイスギクライシス』『機動戦士ガンダム 水星の魔女』『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ TVエディション』『ギヴン』(再放送)『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』『吸血鬼すぐ死ぬ 2』『薬屋のひとりごと』『幻日のヨハネ』『この素晴らしい世界に爆焔を!』『地獄楽』『事情を知らない転校生がグイグイくる。』『シャングリラ・フロンティア』『SYNDUALITY Noir』『スパイ教室』『SPY×FAMILY』『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』『ダークギャザリング』『デキる猫は今日も憂鬱』『とんでもスキルで異世界放浪メシ』『NieR:Automata Ver1.1a』『HIGH CARD』『はめつのおうこく』『不滅のあなたへ  Season 2』『便利屋斎藤さん,異世界に行く』『放課後インソムニア』『僕の心のヤバイやつ』『星屑テレパス』『ホリミヤ -piece-』『無職転生 Ⅱ 〜異世界行ったら本気だす〜』『山田くんとLv999の恋をする』『ライザのアトリエ 〜常闇の女王と秘密の隠れ家〜』『REVENGER』『わたしの幸せな結婚』

 

 

劇場アニメランキング

10位〜6位

10位:『君たちはどう生きるか』

www.ghibli.jp

【コメント】
2023年劇場アニメの中でもっとも賛否相半ばとなった問題作。宮﨑駿監督自らが作り上げた“ジブリ”という型に依拠しながらも,そこから敢えて逸脱しつつ(それは最初の5分のシーンで伺える),巨匠の脳内にある無数のイメージを表出した作品。そこには数多の不協和音が含まれるが,決して不快ではない。不可解でもない。歴代のジブリ作品,いやすべてのアニメ映画の中で,異質な存在感を放つ怪作として語り継がれるであろう。

 

9位:『ガールズ&パンツァー最終章 第4話』

girls-und-panzer-finale.jp

【コメント】
戦車の速度の限界を斜面の滑降という状況で“限界突破”するというアイディア。リアリズムをフィクションで進化させるという技。おそらく『ガルパン』史上もっともスピーディでエキサイティングなアクションシーンになったであろう。最終章の公開ペースは遅々としているが,必要な時間と資金と労力を費やした作品は確かな見応えがある。さて次章はどんな技を仕掛けてくるだろうか。

 

8位:『金の国 水の国』

wwws.warnerbros.co.jp

【コメント】
“心の美しさ”と“知恵の強さ”という価値を,コレクトネスやモラルのような押し付けがましさに陥ることなく,シンプルなアニメーションと魅力的なキャラクターで伝えた傑作。表面的には子ども向けだが,大人が観ても十分に楽しめる。主演の浜辺美波賀来賢人も,“おっとりとした王女”と“田舎臭いお調子者”という役どころをきちんと解釈しており,非プロ声優のキャスティングとして成功していると言える。

 

7位:プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第3章

pripri-anime.jp

【コメント】
TVシリーズから劇場公開へと変わった「Crown Handler」3作目となる本作。アーカム公(リチャード)という“力”がいよいよ本性を現し,ノルマンディー公という“壁”が彼ら/彼女らの前に立ちはだかる。己の正義を貫こうとする「白鳩」たちにとって,真の敵は“力”か,それとも“壁”か。「Crown Handler」の意味がはっきりしてくるにつれ,物語はいっそう緊張感を増している。次回はどんな展開が待ち受けているだろうか。

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6位:『北極百貨店のコンシェルジュさん』

hokkyoku-dept.com

【コメント】
表面的には“百貨店には色んな客が来る”という状況を動物の多様性でカリカチュアした作品なだが,安直な適者生存をささやかに批判しつつ,優しさと思いやりをたっぷり込めた寓話になっている。多様な動物を登場させることにより,カメラワーク,構図,アイレベルのバリエーションを生み出しており,アニメーション的にもたいへん面白い。鋭角と曲線を取り合わせたキャラデザと的確なタイミングの動きとで,あらゆるカットを“見せる”絵にした表現力が素晴らしい。コアなアニメファンも唸らせる傑作である。

 

TOP 5

5位:『SAND LAND』

sandland.jp

【コメント】
西部劇的な世界観での相互理解と融和,『ガルパン』的なメカニカルの爽快さ,抜群の3DCG。最新のアニメーション技術によって,鳥山明原作コミックの魅力を最大限に引き出した傑作だ。いわゆる“キッズアニメ”のカテゴリーに入ると思われるが,そのテーマ性の深さや技術レベルの高さなどは,大人が観ても十分に楽しめる水準である。田村睦心山路和弘チョーらの倍音多めの声質もたいへん耳心地良い。キャラにマッチしているだけでなく,1つの“音響効果”として作品全体の世界観を支えている。

そして何より見どころは,愛すべき小さなダークヒーロー・ベルゼブブの活躍だ。個人的には,「アラレちゃん」や「孫悟空」に匹敵するキャラ強度があると感じる。一回のアニメ映画で消費されてしまうには惜しいキャラなので,ぜひとも続編を期待したいところだ。

 

4位:『BLUE GIANT』

bluegiant-movie.jp

【コメント】
「圧倒された」の一言である。“渋い”や“音がいい”ではなく,とにかく“激しい”の一点突破でジャズの魅力を伝えた大傑作。キャラクターとドラマの作りも素晴らしく,完全に映画に引き込まれる。ジャズとアニメーションの組み合わせでここまでできるものかと大いに感服した。CG作画の面でやや物申したいところもあるが,それを差し引いても十分な完成度である。まったく異なるジャンルだが,あの『モブサイコ100』の立川譲監督の作だとはっきりわかるところもファンとしては嬉しい。

いわゆる作画が美麗という意味での“劇場版クオリティ”がインフレを起こしている昨今,ルックの美麗さとは違う面で“劇場版クオリティ”を提示したという点でも大いに評価されるべきだろう。こうした方向性の作品が今後も出てきて欲しいものである。アニメは好きだがジャズには興味ない,という人にこそこの作品は観て欲しい。もちろんこの作品においてジャズという要素は不可欠だが,同時にこの映画は,純粋な“熱量”が主成分なのであり,それはどんな趣味嗜好の人が観ても感取されるべき強い強度がある。

 

3位:『アリスとテレスのまぼろし工場』

『アリスとテレスのまぼろし工場』公式HPより引用 ©︎新見伏製鐵保存会

maboroshi.movie

【コメント】
『君たちはどう生きるか』に次いで賛否両論となった問題作。岡田麿里監督の問題意識をどう捉えるかで評価が分かれるわけだが,秩父三部作(『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』『空の青さを知る人よ』)『さよならの朝に約束の花をかざろう』などの岡田作品を追ってきた当ブログとしては,本作も高く評価せざるを得ない。それくらい“岡田エッセンス”が濃厚に抽出された作品だった。特に「閉塞感」「停滞感」といった要素において秩父三部作との関連が深い。すでに鑑賞済みの方も,改めて比較考察されてみてはいかがだろうか。ちなみに超平和バスターズによる新作『ふれる。』の公開が2024年秋に予定されている。

fureru-movie.com

映画単体として見た場合,確かに荒削りで伝えきれていない部分も多かったのだが,原作小説で補完すると「永遠のデュナミス」「両価的感情」「回帰」といったキーワードが見えてくる。下に掲載したレビュー記事では,これらの観点から作品考察を行なっているのでご覧いただければ幸いである。

いずれ何年かした後,この作品が再評価される時が来ると信じている。

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2位:『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』公式Twitterより引用 ©︎映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会

www.kitaro-tanjo.com

【コメント】
〈村の閉鎖性とその恐怖感〉
という古典的な道具立てを用いつつ,複数の動機と行動によって多層的に物語を駆動した傑作。それにもかかわらず混雑した印象がまったくなく,非常に優れた脚本力である。エンドロールとその後のシーンで原作「鬼太郎の誕生」につなげていく辺り,虚淵玄の『Fate/Zero』にも似た鮮やかさを感じる。アニメーションの面でも,思わず身を乗り出すほど上手い作画が多々見られ,コアなアニメファンも唸らせる。

かなりのホラーと狂気と暴力の要素があるPG-12指定作品で,その部分も見どころなのだが(少なくともキッズ向けに作られる最近の『鬼太郎』アニメシリーズでは盛り込めない要素だ),核にあるのは“愛”である。特に妻と息子・鬼太郎への愛情を唯一の動機として行動する鬼太郎の父のキャラ造形が素晴らしい。その内面的なキャラの強度に加え,「目玉おやじ」とは対照的なスマートなルックと関俊彦によるイケボによってきわめて魅力的なキャラに仕上がっている。女性ファンの獲得にも一役買ったことは間違いないだろう。

過去作品のリサイクルの在り方として,1つの模範解答を提示した傑作と言えよう。

 

1位:『窓ぎわのトットちゃん』

『窓ぎわのトットちゃん』公式HPより引用 ©︎黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会

tottochan-movie.jp

【コメント】
去年の『THE FIRST SLAM DUNK』もそうだったのだが,年の瀬の最後に鑑賞した作品が1位となった。

まず,純粋にアニメーション作品として面白いキャラクターデザインが優れており,PVを観た時に少なからず違和感を覚えた大人メイクのような顔色も,光量が多く明度を高めに設定した背景とマッチしている。あの色彩だからこそ実現した華やかで魅力的なデザインだ。

そのキャラを細やかに心地よく動かし,トットちゃんを中心とした子どもたちの奔放で天真爛漫な動作を的確にアニメートしている。すべてのカット,すべてのシーンが見応えのある作画力で構成されており,最初から最後まで飽きさせない。冒頭,トットちゃんと泰明ちゃんが手を重ね合わせるカットがあるが,そこだけで目頭が熱くなるほど感動する。アニメーションが心を動かすというのはこういうことだと実感した。

必ずしも反戦メッセージが前面に出た作品ではないが,例えばトットちゃんたちが“非暴力”の構えでいじめっ子たちを撃退する様を見て小林先生が涙するシーンなどは,単純に感動的であると同時に,トモエ学園の温かさと戦争の暴力性とのコントラストを暗示しているようでもある。今年は『ゴジラ -1.0』や『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』など,戦時下や戦後を舞台にした作品が目立った年だ。本作も戦時下という時代設定をうまく活かしつつ,説明台詞を極力避け,あの時代の出来事をあくまでもトットちゃんの目に映る映像として伝えることに成功している。文句なしの傑作である。

 

劇場アニメランキング表

1位:『窓ぎわのトットちゃん』
2位:『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
3位:『アリスとテレスのまぼろし工場
4位:『BLUE GIANT』
5位:『SAND LAND』
6位:『北極百貨店のコンシェルジュさん』
7位:『プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第3章
8位:『金の国 水の国』
9位:『ガールズ&パンツァー最終章 第4話』
10位:『君たちはどう生きるか』

● その他の鑑賞済み劇場アニメ作品(50音順)
『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』『グリッドマン ユニバース』『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』『劇場版 シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』『劇場版 SPY×FAMILY CODE:White』『劇場版 美少女戦士セーラームーン Cosmos』《前後編》『駒田蒸留所へようこそ』『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』『ダンジョン飯 Delicious in Dungeon』『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』『屋根裏のラジャー』『らくだい魔女 フウカと闇の魔女』

 

総合ランキング表

最後に,TVシリーズと劇場版を総合したランキングを紹介しよう。

1位:『窓ぎわのトットちゃん』
2位:『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
3位:『葬送のフリーレン』
4位:『スキップとローファー
5位:『アリスとテレスのまぼろし工場
6位:『BLUE GIANT』
7位:『PLUTO』
8位:『お兄ちゃんはおしまい!』
9位:『呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変
10位:『進撃の巨人 The Final Season 完結編(後編)』
11位:『天国大魔境』
12位:『SAND LAND』
13位:『北極百貨店のコンシェルジュさん』
14位:『プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第3章』
15位:『金の国 水の国』
16位:『ガールズ&パンツァー最終章 第4話』
17位:『ミギとダリ』
18位:『TRIGUN STAMPEDE』
19位:『君たちはどう生きるか』
20位:『Buddy Daddies』

 

 

総評

2022年のTVアニメは,『天国大魔境』『呪術廻戦』『進撃の巨人』など,作画面で“見せる”作品が多く,当ブログでも各話レビューの記事数が増えた結果となった。またこれらの作品ほど派手さはないものの,丁寧な日常芝居で作品の世界観を伝えた『お兄ちゃんはおしまい!』『スキップとローファー』『葬送のフリーレン』などの作画技術も目を引いた。しかしこれらの作品は,単にルックの面で優れているというだけでなく,内容面でも深いテーマ性を備えている。要するに,作画技術とテーマ性が一体となった作品が優れた作品になるということに他ならない。

一方の劇場アニメでは,『窓ぎわのトットちゃん』『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の2作品が圧倒的な存在感を放っている。去年の「アニメランキング」のコメントで,これからの“劇場版クオリティ作品”には,表面的な美しさの底に「確実に面白い脚本や確かなテーマ性」があるべきことを指摘したが,この2作品は見事にその水準に達していると言える。劇場アニメの1つの到達点として,今後の作品制作の“モデル”となるのではないだろうか。

その一方で,『君たちはどう生きるか』『アリスとテレスのまぼろし工場』のように,いわゆる“売れ筋路線”から外れた作品があったことも印象的である。多様なテーマと多様な表現技法で多様なアニメが制作可能であることが日本のアニメの最大の強みであり,それは劇場アニメでも変わらない。仮にすべての制作者が興行収入ばかりを気にかけて萎縮し,視聴者大衆の媚を売る作品ばかりを制作するようになってしまえば,この豊穣な作品環境が失われてしまうでだろう。これらのような挑戦的なアニメ作品が今後も制作され続けることを切に願う。

 

この記事を書き終えたところで外を見ると,2023年最後の陽もすっかり落ちてしまった。あと1時間ほどもすれば「NHK紅白歌合戦」が始まる。来年も優れたアニメ作品に出会えることを祈念しつつ。皆さま,よいお年を。