アニ録ブログ

あるオタクの思考と嗜好をキロクしたブログ。アニメとマンガを中心としたカルチャー雑記。

TVアニメ『響け!ユーフォニアム 3』(2024年春)第5話の演出について[考察・感想]

*この記事は『響け!ユーフォニアム 3』第五回「ふたりでトワイライト」のネタバレを含みます。

第五回「ふたりでトワイライト」より引用 ©︎武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

anime-eupho.com


www.youtube.com

京都アニメーションの代表作として高く評価される,武田綾乃原作/石原立也監督『響け!ユーフォニアム』。シリーズ3作目となる今作では,主人公・黄前久美子らが高校3年生となり,いよいよ物語も終盤を迎えつつある。このいわば物語の時系列の終端において,新たな“異分子”として登場するのが黒江真由というキャラクターだ。今回レビューする第五回「ふたりでトワイライト」では,真由に対する久美子の複雑な心境,および久美子と麗奈の特殊な関係性が巧みなカメラワークと構図で表現されている。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』監督・石立太一の技が冴えた傑作回である。

 

侵犯

Aパート久美子麗奈秀一ら幹部3人は,「大会毎にオーディションを行う」という新体制を部員たちに発表する。この決定にが挙手をして質問するが,「北宇治は完全な実力主義」という麗奈の説明に「そうですね。異論ありません」とあっさり同意する。かつての“異分子”奏は,今や完全に北宇治吹奏楽部の“輪”の中に溶け込んでいる。

第5回「ふたりでトワイライト」より引用 ©︎武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

その奏の姿を打ち消すように,黒江真由の手がおずおずと上がる。カメラは奏の顔から真由の手にピン送りした後,他の部員からの視線を浴びる彼女を正面から捉える。この時,真由はまだ清良女子の制服を身につけており,相変わらず“異分子”としての存在感を纏っている。何気ないカメラワークだが,奏と真由の存在感のコントラストを上手く画に落とし込んでいる。

「そのオーディションて,私もやるんですか?」と問う真由に,久美子は一瞬戸惑いの表情を見せた後,「部員なので,当然そうなります」と答える。目線がオミットされ,口元だけが写された構図だが,カメラは久美子の内心の動揺と共鳴するかのようにわずかに揺れ動く。

私も出ることになったら,一枠埋まるわけでしょ?やっぱり北宇治で長くやっている人が優先で出るべきだと思うんだよね。

パート練習の際にこう語る真由は,間違いなく本心から,既存部員に対する“配慮”の気持ちを示している。しかし久美子にとって真由の存在は「自分が大会に出場できなくなる可能性」そのものであり,真由の“配慮”はその可能性のアイロニカルな言語的予示に他ならない。久美子は,表面上は「真由ちゃんは北宇治の部員でしょ」と言いながら真由を輪の中に取り込む素振りを見せるが,その潜在的脅威を無意識の内に警戒している。

そのことを構図として表現したのが個人練の場面である。

久美子はいつもの校舎の片隅で,いつものように練習を始めようとする。その刹那,黒江真由がーー“クロエ”という名の響きによってキャラのファンタジー性を暗示しつつーーどこからともなく姿を現し,唐突に久美子の「縄張り」を侵犯する。

第5回「ふたりでトワイライト」より引用 ©︎武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

「あがた祭り」について尋ねてくる真由に,久美子はぎこちない笑顔で応対しつつも,その足は堪らぬといった様子で影で構成された“テリトリー”から逃亡してしまう。久美子は真由を影の中の置き去りにしながら,彼女と微妙な距離を取り続ける。その素振りはカジュアルなだけに,却って真由という脅威を警戒する無意識の野生的本能を顕にしているように見える。

第5回「ふたりでトワイライト」より引用 ©︎武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

一緒にあがた祭りに行こうと誘う真由に,久美子は「ごめん…ちょっと他の子と先約があって」と嘘をついて断ってしまう。モチベーションの低かった高1時代から部長になるまで,大きな成長のキャラクターアークを描いてきた久美子の内面に,仄暗い側面が見え隠れする。実に豊かで深みのある心理描写である。

真由は現れた時と同じ唐突さで,久美子にソリの演奏をしないかと誘う。距離を取ろうとする久美子に対し,距離をつめようとする真由。そして彼女はこともあろうに麗奈の“テリトリー”であるトランペットのパートを吹いてしまう。

第5回「ふたりでトワイライト」より引用 ©︎武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

真由の卓越した演奏を聴いた久美子は,その技術力の高さに改めて圧倒される。独り言を言いながらマウスピースを洗う彼女の隣に,真由に劣らぬ唐突さで麗奈が姿を現し,久美子と真由がソリを吹いていたことを追求する。ここで“麗奈vs真由”という対立構図が出来上がる。

 

仮初の“親和”

Bパート,久美子は美知恵先生と二者面談をしている。制服は夏服に変わっており,Aパートからのわずかなーーしかし唐突なーー時の移り変わりを示す。

第5回「ふたりでトワイライト」より引用 ©︎武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

「軍曹先生」という二つ名にふさわしく,背筋をぴんと伸ばした美知恵先生。対して,自信なさげにやや猫背気味の久美子。堅実だがやりがいのある人生を選択した大人と,いまだ人生の選択に迷い続ける若者とのコントラストがよく表されたカットだ。

美知恵先生のセリフの最中,まるでサブリミナルの画像のようにふいに挿入されるカラーマグネット。10個のマグネットが作る輪と,そこからはぐれたように置かれる1つのマグネット。この赤いマグネットが暗示するものは何か。

二者面談を終え,低音パートの練習場に戻る久美子。そこには久美子たちと同じ夏服を着た真由がいる。

第5回「ふたりでトワイライト」より引用 ©︎武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

同じ制服を身につけたことで,真由は部員の輪にすっかり溶け込んでいるーーかのように見える。しかし相変わらず久美子とは微妙な距離感があるようだ。2人は互いに気まずそうな視線を送り合う。この時,真由は趣味だというフィルムカメラを久美子に向ける。この行動は意味深い。

スマホカメラによる撮影の持つ意味は〈共有〉だ。デジタルデータとして,触知可能な物質性を持たないそれは,所有の“重み”がなく,仲間同士でカジュアルに共有できる利点がある。それに対し,フィルムカメラによる撮影の意味は〈所有〉だ。フィルム感光によって得られるネガと,そこから生まれるポジには,物体としての嵩と重みがあり,文字通り撮影者によって〈所有〉される可能性がある。加えて,真由の持つコンパクトカメラのような筐体での撮影は,スマホカメラと比べ,“狙い撃つ”という構えにより近くなる(英語のsnapshotは元々狩猟用語で「銃の速射」という意味である)。

ここで真由は,好意を抱いている久美子を〈所有〉しようとし,それと意識せずにカメラアイという名の不躾な眼差しを向けてしまっているのだ。カメラで他者を対象化することで生まれる,絶対的な“距離感”を彼女は把握できていない。さらには,撮影者自身は決して被写体になり得ないという事実の真の意味も把握できていない。たとえ他の部員たちと同じ夏服を身につけていたとしても,彼女は相変わらず輪の外に位置してしまっている。あの赤いマグネットのように。*1

 

「特別」な2人

あがた祭り当日,約束通り久美子は麗奈の家に行く。麗奈にお祭りに行きたいかと問われた久美子は,「ううん。できたらみんなと違うことしたかったから」と答える。他のみんなとは違う「特別」な2人という構図が生まれる(そしてそこには「真由と顔を合わせたくない」という内心も見え隠れする)。

麗奈の自室での対話シーン,久美子は自分のような「目標のない人間にとっては」「普通の大学に行くのが普通」だと言いつつ,「でもそれはそれで嫌なんだよね。中学の頃の私に戻っちゃいそうで」と複雑な本心を語る。この時,第1期で描かれた中学時代のコンクールシーンが回想として挿入される。

第5回「ふたりでトワイライト」より引用 ©︎武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

「ダメ金」に悔しがる麗奈に「本気で全国行けると思ってたの?」と口走ってしまった中学生の久美子。あの時のあの表情をトレースするかのように,今の久美子の顔がぴたりと重なる。「中学の頃の私に戻っちゃいそうで」という内心の不安をうまく表したカットだ。*2

この後,麗奈は久美子にコンクール自由曲のソリを一緒に吹こうと誘う。「黒江さんと吹けるなら,私とも吹けるでしょ」と不敵な笑みを浮かべる麗奈。彼女の「じゃあ行くよ」を合図に,ソリの演奏が始まる。『アンサンブルコンテスト』でも示されていた「呼吸」のモチーフがリフレインされる。

第5回「ふたりでトワイライト」より引用 ©︎武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

画面が暗転し,宙を舞う火の粉と共に久美子と麗奈のソリが流れ始める。カメラは2人のもとを離れ,あがた祭りで楽しむ部員たちの姿を写し出す。「みんなと違うことをしたかった」という久美子の言葉通り,2人は他の部員たちの営みから超越した場所で演奏をしている。「祭り」という神事の超越性から“超越”するという二重構造が面白い。そして同時に,久美子と麗奈のソリは祭りの“BGM”として機能することで,他の部員を美しい音色で包み込む包容力のようなものを示している。〈親密〉〈超越〉〈包容〉。3年生になった久美子と麗奈の特殊なキャラクター性をよく表した優れたシーンである。

演奏を終えた2人は,宇治川のほとりを歩いている。麗奈は,別々の大学に行ったら2人が会えなくなるのではないかという不安を抱えている。そんな麗奈に,久美子は「特別」という言葉を差し出す。

麗奈:私が会いたいっていくら思っても,久美子がそうじゃなくなるかもしれないし…学校が別になったら余計に…
久美子:確かにそうかも。でも私は大丈夫だと思ってる。
麗奈:どうして?
久美子:麗奈は,今の私たちって特別だと思う?
麗奈:そりゃ特別でしょ。だから2人でここにいる。
久美子:うん,だから。

第5回「ふたりでトワイライト」より引用 ©︎武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

「特別」というたった1つの言葉が,久美子と麗奈の関係性を揺るぎないものとして再補強する。この時,架空の光源からスポットライトのように光が当たり,普段とは違う髪型と装いの2人を「闇夜」の中に浮かび上がらせている。「特別」な2人の姿が,「特別」な作画と撮影処理によって美しく描き出されている。

 

 

作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HP,Twitterアカウントなど

【スタッフ】
原作:武田綾乃/監督:石原立也/副監督:小川太一/シリーズ構成:花田十輝/キャラクターデザイン:池田晶子池田和美/総作画監督:池田和美/楽器設定:髙橋博行/楽器作画監督:太田稔/美術監督:篠原睦雄/3D美術:鵜ノ口穣二/色彩設計:竹田明代/撮影監督:髙尾一也/3D監督:冨板紀宏/音響監督:鶴岡陽太/音楽:松田彬人/音楽制作:ランティスハートカンパニー/音楽協力:洗足学園音楽大学/演奏協力:プログレッシブ!ウインド・オーケストラ/吹奏楽監修:大和田雅洋/アニメーション制作:京都アニメーション

【キャスト】
黄前久美子:
黒沢ともよ/加藤葉月:朝井彩加/川島緑輝:豊田萌絵/高坂麗奈:安済知佳/黒江真由:戸松遥/塚本秀一:石谷春貴/釜屋つばめ:大橋彩香/久石奏:雨宮天/鈴木美玲:七瀬彩夏/鈴木さつき:久野美咲/月永求:土屋神葉/剣崎梨々花:杉浦しおり/釜屋すずめ:夏川椎菜/上石弥生:松田彩音/針谷佳穂:寺澤百花/義井沙里:陶山恵実里/滝昇:櫻井孝宏

【第五回「ふたりでトワイライト」
脚本:
花田十輝/絵コンテ・演出:石立太一/演出:宮城良/作画監督:徳山珠美

原画:羽根邦広大野由里加疋田彩原島彩帆吉田愛夢舞

 

この他,この素晴らしい話数に参加されたすべての制作者に拍手を。

 

関連記事

www.otalog.jp

www.otalog.jp

www.otalog.jp

www.otalog.jp

www.otalog.jp

 

商品情報

 

 

*1:原作によれば,真由の部屋は「アルバムだらけ」である。つまり友人という被写体を〈所有〉している(武田綾乃『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部,決意の最終楽章 後編』,p.70,宝島社文庫,2019年)。ちなみに彼女は修学旅行の時などはデジカメを使うが,「デジタルより色が好き」という理由でフィルムカメラを好んで使っている(同上,p.69)。

*2:あえて深読みをすれば,作画を接続することで,第1期と第3期の制作メンバーの差異を解消し,“京都アニメーション”としてのアイデンティティを確保しているようにも思える。