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TVアニメ『お兄ちゃんはおしまい!』(2023年冬)第9話のクリスマスシーンの演出について[考察・感想]

 *この記事は『お兄ちゃんはおしまい!』「#09. まひろと年末年始」のネタバレを含みます。

「#09. まひろと年末年始」より引用 ©︎ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

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ねことうふ原作/藤井慎吾監督『お兄ちゃんはおしまい!』(以下『おにまい』)の各話レビュー第3弾として,絵コンテ・黒沢守演出:秋山泰彦による「#9. まひろと年末年始」クリスマスシーンに注目してみたい。クリスマスらしいきらびやかで美しいシーンであると同時に,巧みな構図とスマホカメラによる相互的な視点を導入した,たいへん見応えのあるシーンである。

 

シンメトリー/アシンメトリー:二組の“姉妹”と“カップル”

クリスマスシーンはBGMのみの無声映像で作られており,映像だけでメッセージを伝達することを意図している。それだけに,一つひとつのカットの情報密度はとても高い。

シーン冒頭のイルミネーションを手前に入れ込んだ俯瞰のなめショットでは,最初,イルミネーションのラインがまひろ,みはり,かえで,もみじの4人をシンメトリックに割り込んでいる(図①左)。

図①:「#09. まひろと年末年始」より引用 ©︎ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

かえでがセルフィを撮るためにみはりに近寄ったことにより,このシンメトリーが崩される(図①右)。その後,カメラはアイレベルに下がり,4人を正面から捉える。再びシンメトリックな構図に戻る(図②左)。

図②:「#09. まひろと年末年始」より引用 ©︎ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

手前にまひろ&もみじの“カップル”を,奥にみはり&かえでの“カップル”を配し,前景と後景で異なる映像情報を伝えている。みはり&かえでが無邪気に密着しているのに対し,まひろ&もみじの間にはややぎこちない距離がある。ところがその後,もみじがぴょんぴょんとまひろに近づき,冒頭のみはり&かえでの際と同様,シンメトリックな構図を崩す(図②右)。二層の構図,構図の動的変化,類似所作の反復によって,二組の“姉妹”と“カップル”の関係性を微笑ましく伝えた名シーンだ。

 

見る/見られる=見守る/見守られる

その後,もみじはまひろと撮ったセルフィーをみはり&かえでに見せに行く。するとかえでもスマホを取り出し,2人の姿を背後から写した“隠し撮り”を見せる。みはりも別の角度から撮った“隠し撮り”を見せる。よく見ると(図③左上),みはりがそそくさとスマホを隠している様子が見える。

図③:「#09. まひろと年末年始」より引用 ©︎ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

クリスマスシーンに先行するAパート前半では,まひろ&もみじがみはり&かえでを「尾行」していた。この隠し撮りは,みはり&かえでによる一種の“意趣返し”であり,〈見られる〉側が〈見る〉側に転じたことを示している。しかしここで念頭に置きたいのは彼女(彼)たちの心情だ。そもそも,まひろはーー兄としてーーみはりのデート相手が気になって尾行を始めたのだった。一方で,みはり&かえではーー姉としてーー妹たちの関係を気にかけている。〈見る/見られる〉という視点の交差は,〈見守る/見守られる〉という想いやりの交差を示しているのである。
さらに,かえでが撮った隠し撮り(図③左下)の中に,図②における見えないカメラ=視聴者の視点が含まれているのも面白い。ある意味で,視聴者も隠し撮りされていたと言える。視聴者の視点を“巻き込む”ことによって,“自分も彼女たちと一緒にいる”という一種の没入感のようなものが生まれていると言える。

 

セルフィー:まひろの自己発見

画面は再び,手前にまひろ,奥にみはり,かえで,もみじを配した二層の構図になる。まひろがインカメラを起動すると,みはりがにわかに入り込み,しばし2人の戯れる姿が映し出される(図④)。

図④:「#09. まひろと年末年始」より引用 ©︎ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

映画などでは鏡像を用いたシーンがよく用いられるが,ここでは鏡の代わりにスマホのインカメラ映像が用いられている。こうした演出の意味や意図は様々あるだろうが,〈別視点〉あるいは〈別世界〉の導入というのもその1つだろう。まひろとみはりが“姉妹”として戯れる姿は,現実の“兄妹”とは異なる関係性である。この〈別世界〉(あるいは〈可能世界〉と言ってもいいかもしれない)を,まひろとみはりがどう内面化していくか。それは今後の物語で示されるのだろう。

図⑤:「#09. まひろと年末年始」より引用 ©︎ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

このシーンのラストでは,まひろがスマホのアウトカメラでクリスマスツリーとかえでを捉える。ところが,かえでの「みんなで見れてよかったね!」というセリフの後,まひろはインカメラに切り替え,画面に自分の姿を映し出す(図⑤上)。彼女/彼は,微笑みながら満足気に撮影ボタンを押す。“みんなの中の私”という新たな自己を発見したかのように。

 

 

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作品データ

*リンクはWikipedia,@wiki,企業HPなど

【スタッフ】
原作:ねことうふ/監督:藤井慎吾/シリーズ構成:横手美智子/キャラクターデザイン:今村亮/美術監督:小林雅代/色彩設計:土居真紀子/撮影監督:伏原あかね/編集:岡祐司/音響監督:吉田光平/音響効果:長谷川卓也/音楽:阿知波大輔桶狭間ありさ/プロデュース:EGG FIRM/制作:スタジオバインド

【キャスト】
緒山まひろ:
高野麻里佳/緒山みはり:石原夏織/穂月かえで:金元寿子/穂月もみじ:津田美波/桜花あさひ:優木かな/室崎みよ:日岡なつみ

【「#9. まひろと年末年始」スタッフ】
脚本:
横手美智子絵コンテ:黒沢守/演出:秋山泰彦/総作画監督:今村亮,山﨑匠馬/総作画監督補佐:新海良佑作画監督:内田百香青木駿介くまがばんいち

 

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