*この記事は『ワンダーエッグ・プライオリティ』「01 子供の領分」に関するネタバレを含みます。
完全新作オリジナルTVアニメーション「ワンダーエッグ・プライオリティ」放送直後PV
『ワンダーエッグ・プライオリティ』は,『愛という名のもとに』(1992年),『高校教師』(1993年),『聖者の行進』(1998年)など,主にTVドラマにおいて数々の問題作を生み出してきた野島伸司が原案・脚本を手がけるオリジナルアニメだ。野島にとって初めてのアニメ作品でもある。
当ブログでは,「2021年 冬アニメは何を観る?」の記事で本作を“イチオシ”として紹介していたが,蓋を開けてみれば,第1話の印象は予想を遥かに上回ってしまった。作画のレベルに加え,これまで野島が扱ってきた問題群の一部をすでに第1話で提示しており,いくつもの謎を残しながらもネットを大いに賑わせた。
作品データ(リンクはWikipediaもしくは@wiki)
【スタッフ】
原案・脚本:野島伸司/監督:若林信/キャラクターデザイン・総作画監督:高橋沙妃/コンセプトアート:taracod/副監督:山﨑雄太/アクションディレクター:川上雄介/コアアニメーター:小林恵祐/ゲストキャラクターデザイン:久武伊織/プロップデザイン:井上晴日/デザインワークス:大鳥,絵を描くPETER/色彩設計:中島和子/美術監督:船隠雄貴/撮影監督:荻原猛夫/3DCG:Boundary/編集:平木大輔/音響監督:藤田亜紀子/音楽:DÉ DÉ MOUSE,ミト(クラムボン)/音響効果:古谷友二/企画プロデュース:植野浩之(日本テレビ),中山信宏(アニプレックス)/制作:CloverWorks/製作:WEP PROJECT/主題歌:アネモネリア
【キャスト】
大戸アイ:相川奏多/青沼ねいる:楠木ともり/川井リカ:斉藤朱夏/沢木桃恵:矢野妃菜喜/アカ:内田夕夜/裏アカ:高橋広樹/大戸多恵:白石晴香/長瀬小糸:田所あずさ
【「01 子供の領分」スタッフ】
脚本:野島伸司/絵コンテ・演出:若林信/作画監督:髙橋沙妃
ベッドテントから空の飛翔へ:「エッグを割れ」
『ワンダーエッグ・プライオリティ』は,狭小空間をうまく活用したアニメだ。アニメにおける狭小空間については,『星合の空』(2019年 秋)の各話レビューでも言及したことがある。狭隘感のある空間は,カメラワーク,レンズ効果,レイアウトの妙が活かされる舞台設定であると同時に,親密さ,孤独,不安など,様々な感情表現を濃密にする仕掛けである。
www.otalog.jp『ワンダーエッグ・プライオリティ』「01 子供の領分」では,「トイレの個室」「アイの部屋」「アイのベッドテント」などの狭小空間が登場している。とりわけ,アイが外界との関わりを絶って引きこもり,アイと小糸との親密な関係が発生する「ベッドテント」は,この物語のライトモチーフである「エッグ」の殻そのものと言える。
こうした空間の狭隘感ときれいなコントラストを成すのが,くるみを襲う「見て見ぬふり」を倒すことを決意したアイが,校舎の屋上から飛翔するシーンだ。
狭小空間から抜け出し,友だちを救うべく空へと飛翔するこのシーンは,「エッグを割る」という主体的行為と対応している。普通,卵の殻を割るのは,卵の中にいる雛だ。しかしこの物語の“声”は,殻の外にいるアイに「卵を割れ」と言う。ここにイニシアティブの転倒がある。エッグを割るのは,自然発生的な内圧ではなく,意志と決意という外圧なのである。
「ガチャ」という関係発生装置
「ガチャ」というギミックによって,偶然生・運命生が暗示されているのも面白い。今後,アイとエッグ(=他の少女?)の関係は,血縁や友人や知己ではなく,偶然の邂逅によって生まれていくのだろうと予想される。
この点などは,野島が脚本監修を務めたTVドラマ『明日,ママがいない』(2014年)を思わせる。様々な事情から親と暮らせなくなった子どもたちが,「コガモの家」という施設で共に暮らし,愛することと愛されることの真の意味を知っていく物語だ。
『明日,ママがいない』には,子どもたちが里子に出される描写があるが,これなどは,シニカルな見方をすれば「ガチャ」的な関係性の創出そのものだ。しかし,血縁でなくとも,「ガチャ」的な偶然性が真の関係を生み出すこともある。『ワンダーエッグ・プライオリティ』もそのような人間関係を描き出そうとしているのかもしれない。
悪意のビジュアル化
野島伸司は,これまで主にTVドラマという媒体で,暴力,いじめ,自殺といったセンセーショナルなテーマを扱ってきた。その野島が本作に寄せたコメントに興味深い一節がある。
いつからかドラマにも「コンプライアンス」が侵食して,僕のような物書きは翼をもがれた感覚で,より自由度の高い場所を模索していました。今回,アニメの世界を描く場をいただき,本当に久しぶりに楽しかったです。*1
作品の放映が始まったばかりの段階で,このコメントの真意はまだ完全には計りかねるが,仮にこれがセンセーショナルなテーマをTVドラマで扱う際の苦況を訴えた(事実,彼の作品の一部には,視聴者から痛烈なクレームを受けたものもある)ものだとすれば,それを深夜アニメという媒体で形にすることのメリットを彼が感じたということなのかもしれない。「01 子供の領分」で言えば,自殺や暴力などのシーンがかなり遠慮なく描かれており,PVなどから抱く作品の第一印象をよい意味で裏切っている。
またとりわけ,「見て見ぬふり」という“悪意“をキャラクターとして表現したシークエンスも印象的だが,こうした演出は,TVドラマという形式では十分に表現し切れない可能性がある。
悪意を人の身体(実写ドラマ)で表すのではなく,アニメのキャラクターとしてより醜悪に描く。ひょっとしたら,野島がアニメという媒体に見出したメリットの一つがこの辺りにあるのかもしれない。個人的には,野島の問題群がアニメという媒体でこそ十全に表現されるのであれば,今後,彼にはアニメの脚本に関わり続けてもらいたいくらいだ。
さて,個人的な願望や予想を交えた記事になってしまったが,『ワンダーエッグ・プライオリティ』はまだ第1話が始まったばかりだ。今後の展開を楽しみに視聴していくこととしよう。